第81話 遠回り

文字数 1,473文字

 今日は風が強くて寒い。そんな帰り道で佐藤さんがあたしたちに聞いてきた。
「…ひ、ひ、ひなちゃんと、か、か、鹿渡さんの家は…ち、ち、近いの?」
「近いというか徒歩15分くらいやな、鹿渡?」
「そうやな、それくらいかな」
「い、い、いつも…い、一緒に、か、か、帰ってて、う、う、羨ましい」
「そうは言われても佐藤の家は俺たちと反対側やん」
「そやな、佐藤さんがあたしたちと一緒に来たら来た道を一人で帰らんなあかんやんか」
「そ、そ、それでも、わ、わ、私、ふ、ふ、2人と…も、もっと、お、お、おしゃべりしたい」
「うーん、そう言われてもウイングスまで行かんなベンチがあってゆっくり話できる公園ってないしな」
「あたしも思いつかんわ。おりいぶ公園はとなりにダイエーとかあるからなんか買い食いしてとかも出来るしな」
「…す、す、少しくらいと、と、遠回りに、な、な、なってもいい」
「そう言ってもウイングスからアリオって結構距離あるで。それを往復ってしんどくない?」
「た、た、確かに…し、し、しんどいし、お、お、お母さんも、し、し、心配する」
「俺たちも本格的に寒くなったら、公園で話できへんようになるからなぁ」
「そやな、どっかええ場所ないかなってあたしも考えてるわ」
「そ、そ、それなら、ほ、ほ、放課後…すこしきょ、きょ、教室に、の、の、残ったら」
「それええかも。でも学校やったらお菓子は食べられへんな」
「ひ、ひ、ひなちゃん、お、お、お菓子…す、す、好きなんや?」
「甘いものが好きやねん。特に生クリームな」
「ひなちゃんは苦い野菜が好きやのに、スイーツも好きやねんな」
そうなんだと嬉しそうにうつむく佐藤さんに何だか嫉妬心みないなものをあたしは感じた。すると自然に「ひなちゃんはみかんが好きやねん。あたしとアイスクリーム食べるときとかクレープ食べるときとかいつもみかんやねんな」ととっさに口にしていた。反射的とはいえあたしは佐藤さんにマウントを取ってしまい、自分でもなにやってるやろうと思った。ひなちゃんはあたしのものやという独占欲? 嫉妬心? 山崎や佐竹には1度も感じたことのない気持ちが一気にあふれた。どうしたのあたし?
「佐藤はお菓子好きなん?」
「…わ、わ、私、お、お、お菓子作るの、しゅ、しゅ、趣味」
「すごいな、佐藤。でも鹿渡も作られるやろ?」
「……」
「どうしたん、鹿渡?」
「えっ、なにが? ごめん、少しボーとしてたわ」
「どうしたん? 鹿渡らしくない。鹿渡はお菓子作れるやろ? って聞いてん」
「ああ、あたし、お菓子は作ったことないわ」
「そうなんや。鹿渡なら何でもできそうやなのにな~」
「ごめん」
「なんで謝るん?」
「ひなちゃんの期待に沿えなくて」と自分への自信が持てなくなる。ひなちゃんはいつもあたしの期待に応えてくれるのに…。
「俺こそごめん。俺、鹿渡のこと何でもできる女の子と勝手に思い込んでいたわ。自分勝手なイメージの押し付けなんて一種のハラスメントやったわ。今後気を付ける」
「いいよ、ひなちゃん。佐藤さんも今度なんか作ったらあたしたちにも食べさせてな」
「わ、わ、わかった」と言い踏切を越えた十字路で佐藤さんと別れた。
「ひなちゃん、今日は風もきついし寒いし、おりいぶ公園でおしゃべりは無理と思うねんけど」
「そやな~。今日は無理かもしれへんわ」
「それならあたしもここで」
「じゃあな、明日学校で」と言うひなちゃんに手を振りながら別れた。一人になったあたしはさっき佐藤さんに感じた気持ちはなんやったんやろうって思いながら帰路についたが、あたしにはその気持ちが何なのかわからなかった。
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