第114話 身体測定

文字数 1,920文字

 今日は身体測定健康診断の日だ。あたしはまた身長が伸びてないかと嫌な気持ちになる。自分の感覚ではなくて客観的に数字を見せつけられたら、より凹むよね。それに内科検診も嫌だ。いくら体操服の中からでも胸を触診されるのは抵抗がある。でも、健康のためだから仕方ないとあきらめている。内科検診にはそんな女子が多いのではないかな。

 上だけ夏用の体操服に着替えて下は冬用のズボンって格好で教室で待機していると、明神が森下に「女子を覗きにいかへん?」と言っていた。森下は「いいね! 覗きに行こう」と女子にも聞こえる声で話していた。こいつら言うだけで、実際女子には何もしてこえへんねんという前田さんの言葉を思い出して、鬱陶しいけど相手にせんでおこうと思った。こいつらとは関わりたくない。そんなことを思っているとあたしらのクラスが呼ばれた。移動する廊下でひなちゃんとおしゃべりする。
「ひなちゃんは男子の方へ行くんや」
「当たり前やろ、俺、男なんやから。女子の方に行けばそれこそ大問題や」
「ひなちゃんやったら女子の方に来ても問題ないで」
「そんなん思ってるのは鹿渡だけや」
「私もひなちゃんが女子の方に来ても問題ないけどな~」と後ろを歩いていた里中が話しかけてくる。
「何言ってるねん、俺は男やって」
「そない言ってもひなちゃん、かわいすぎるから男子が目のやり場に困るやろ」
すると「里中、ひなちゃんをからかうな」と西野君が里中を軽く怒る。
「まあ、事実を言っただけやから」
「それより鹿渡。俺、中2で鹿渡の身長を抜いたと思ってるねんな。それだけは教えてくれんかな」
「あたしも抜かれたと思ってるわ。西野君、急に身長伸びたもんな」
「それなら私にバストサイズを教えてや」と里中が横槍を入れる。
「なんで、あたしが里中にバストサイズを教えんなアカンねん」
「ええやん、減るものやないし」と言う里中の頭をはたき、南が呆れて言う。
「鹿渡、ごめんな。こいつおっぱいマニアやねん。ブラバンでも人のおっぱい触ったりしてるからな」
「触らんどってや」
「それはわからんわ」と里中が不敵に笑ったところで男女別の部屋へと入って行った。

 すべてを終え、教室に戻ったあたしは夏の体操服の上着の上に冬の体操服を着た。少し暑いなと思った。そういえば今年の夏も猛暑になると天気予報で言っていたっけ。それからぞろぞろと身体測定を終えた生徒が教室に帰ってくる。そんな中で西野君があたしのもとにやって来て「鹿渡、なんcmやった?」と聞くので、あたしは素直に答える。
「1cm伸びて174やったわ」
「そうか、俺は177やったわ。1年間で10cm以上伸びたわ」
「ほ~。それは自慢か~」とひなちゃんがやってくる。
「俺も一応伸びたんやけどな」と似合わない(やから)みたいな絡み方をしてきて少し可笑しかった。
「それでひなちゃんはなんcm伸びたん?」と西野君が聞くと、ひなちゃんは急にしゅんとして「0.3cm」と答えた。
「それって」とあたしが言いかけると「俺の成長期は中1で終わったんや」と今度は泣きそうな顔をする。
「ひなちゃん、俺の野球部の先輩で高校に入ってからグンと伸びた人もいるから」
「慰めはいらんねん。この身長が俺の個性やからな」と今度は一転強気になる。あたしたちの前だけではコロコロ表情の変わるひなちゃんがめっちゃかわいいなと思いながら、あたしは思わず笑顔になる。すると里中と南がやって来て「鹿渡、バストいくらあった?」と里中が大きな声で言う。一瞬クラスの男子があたしを見た気がした。
「そんなん言えるわけないやろ」とあたしは顔を赤くして答える。
「じゃあ、秘密にしておくから、耳元でこっそり教えてよ」と里中はしつこく迫ってくるので、あたしは耳元で呟いた。
「えっー、それならG?」と大声で言う里中の口を両手でふさぎ、あたしは教室内を見渡す。明らかに注目を受けているので恥ずかしくなった。とりあえず里中におとなしくなってもらうために、再び耳元で本当のカップ数を言う。
「それって、グラビアモデルやん。鹿渡は大人っぽいからありやで」と興奮冷めやらない。南はひたすらあたしに頭を下げて言う。
「こいつ、自宅にグラビアモデルの写真集を集めるくらいの変態やねん。鹿渡、許してあげて」
「変態って言うな。私はただ美しいものを美しいって言ってるだけや」
クラスの男子や西野君はドン引きしてる。あたしはどう対応していいかわからない。そんなときにひなちゃんがいきなりこう言った。
「鹿渡は俺のもんや。誰にも渡さへんで!」
あたしは一瞬意味がわからず固まるけど、ひなちゃんがそこまであたしのことが好きなんだと理解するとものすごく嬉しくなり、思わずひなちゃんを抱きしめていた。
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