第１１１話　クラス替え

　決戦の日は月曜だった。あたしは普段通りの時間に学校に向かった。登校中、ひなちゃんと同じクラスでありますようにと何度も祈りながら学校に着く。早速クラス分けの表をチェックしていくとあたしは５組だった。そしてひなちゃんを探すとひなちゃんも５組だった。あたしはもの凄く嬉しくなり、ケサランパサランのおかげやと感謝する。喜びを全身で表現したいけど、あたし以外は割と冷静にクラス分けの表を見てるので、ここはグッと我慢した。すると佐藤さんがやって来て「わ、わ、私も、ご、ご、５組」と言ってきたので「そうなん。ひなちゃんもおるし、めっちゃついてるわ」と答える。
「に、に、西野君も、い、い、いる」
「なにそれ、あたしらめっちゃついてるやん」
「ほ、ほ、本当に、す、す、すごい偶然」
「私もおるで」と声がして振り返ると前田さんがいた。
「前田さんまでおると３年は楽しい学校生活間違いないな」
「それはどうだか？　でも身内では楽しいかもしれんな」と前田さんは言うと佐藤さんの方を向いて「佐藤、よかったな、清水グループと別クラスになって。私も心配してたんやで。なんせ私は清水と同じバレー部やから、情報はいろいろ入ってきたからな」
「あ、あ、ありがとう。ま、ま、前田さん」
「佐藤とは小学校も違うし、同じクラスになるのも初めてか。よろしくな」
「こ、こ、こちらこそ、よ、よ、よろしく」
そう佐藤さんが答えると、ひなちゃんと西野君があたしたちのところにやって来た。
「ひなちゃん、あたしらみんな同じクラスやで！」
「そうなんや。それは良かった」と嬉しそうに微笑むのであたしは思わずひなちゃんに抱きついた。
「ちょっとやめろ。こんなところで」と言ってひなちゃんはあたしを振りほどいたけど、みんなひなちゃんのことは女の子と思ってるから別に抱きしめてもええやんと思った。あたしたち仲がええのは周知の事実やし。実際誰も気にしてないし。
「鹿渡、佐藤、前田、これからもよろしくな。前田とは小３、４年以来か」
「それより西野気を付けや。堀も同じクラスや」
「うあー、それは最悪や」
「堀って誰？」とあたしが前田さんに聞く。
「詳しくは話さんけど、小４のときにひなちゃんとトラブル起こしたやつや。あいつ、虚言癖があるから厄介やねんな」
「うわ、堀も同じクラスなん。最悪やん。せっかく先生もええ仕事したと思ったのに、台無しやん」とひなちゃんが嘆く。
「それだけやないで女子からめっちゃ嫌われてる明神英之(みょうじんひでゆき)もおる。あいつがおったら授業なり立てへんからな～」
「あたし、その明神って知らんわ」
「自己中心的でお調子者で授業中に騒ぐ。おまけにナルシシスト。中学入ってからギター始めて俺の作った曲やって学校でクラスの男子に聞かせてるわ。へったくそな歌を。それに弱い男子にだけは強いねんな」
「聞いただけで女子の嫌いな要素多いな」
「女子には絡んでこえへんのが唯一の長所かな？」
「担任は誰やっけ？」
「大崎」
「大崎先生なら激怒することはないな」とあたしは少しがっかりする。

　その後始業式が始まり、終わるとホームルーム。ホームルームでは高校受験のことばかり話されて、あたしはちょっとうんざりした。その後、春休みの宿題を提出して昼には学校は終わった。いつもの３人で帰り道をおしゃべりしながら歩く。
「それにしても２年からこのメンバーは変わらなくてよかったなぁ。俺もほっとしてるわ」
「そら、ひなちゃん、ケサランパサランの力やで」
「ケ、ケ、ケサラン…？」と佐藤さんが訝しげに聞く。
「まあ幸福を呼ぶお守りみたいなもんや」
「それもあると思うけど、俺は大崎が頑張ったと思うわ。知らんけど」
「で、で、でも、い、い、一緒になれて、よ、よ、よかった」
「そやな、あたしもすごくええ結果やったと思うけど」
「まあ、不安要素はあるのは確かやけど、俺もホンマよかったと思ってるわ」
そう言うと佐藤さんと別れる交差点に来て、佐藤さんは笑顔で手を振って帰って行った。あたしたちは駅方面に歩き出し、おりいぶ公園を目指す。
「鹿渡、ケサランパサランの力もええけど、受験は自分の力やからな。大崎も言ってたやろ」
「わかってるって。あたしの周りがみんな同じこと言ってるし」
「俺、鹿渡と離れた高校には行きたくないねん。俺も頑張るから鹿渡も頑張って欲しいねんな。もし私立とかになったら、鳳からの通学時間で時間もかかって今みたいに簡単に会えなくなるのは嫌やから」
「あたしもや。頑張るわ」とひなちゃんの小さな右手を握りあたしたちは駅前のローターリーを抜けて、でんでん坂を下って行った。