第79話 インフルエンザ

文字数 2,229文字

 三木君が2日連続学校を休んだ。ひなちゃんは西野君に「新太は三木の連絡先知ってるやろ、連絡してや」と頼んでいた。「風邪やろ」とそっけない西野君にひなちゃんは「ひかりちゃんが心配やねん」と粘る。すると西野君が「弁当食べ終わってからな」と答えた。電話をかけた西野君は「三木もひかりちゃんもインフルエンザやって。母親は仕事休まれへんから家で2人寝てるって」と言ったのでひなちゃんは西野君からスマホを奪い「学校終わったら救援物資持ってすぐ行く」と大きな声で言った。思わず「あたしも行く」と言うとひなちゃんは「鹿渡も来てくれるそうや。安心して休んどき」と優しく言うと電話を切った。
「鹿渡、学校終わったら速攻帰ってローソンで待ち合わせや」
「三木君って南町なん?」
「アリオの方にまっすぐ行って、11cutの裏のアパートやで」
「あのへんなんや、知らんかったわ」と答えるとひなちゃんは「自転車で行くで」と言い「ひなちゃん自転車持ってないやん」と返すと「母さんの借りる」とひなちゃんは言いきった。そのまま授業が終わるとあたしたちは急いで帰った。

 ローソンの前で待ち合わせしたあたしたちは30号線を南下して三木君のアパートに着いた。相当古いアパートやった。自転車を停めたあたしたちはマスクをして三木君の部屋の呼び鈴を押す。ひなちゃんは「三木君、わたし、ひなた」と叫ぶと相当苦しそうなマスク姿の三木君が出てきた。「ごめんな、ひなちゃん、鹿渡さん」と言うので「そんなの気にしないで」とひなちゃんが答えて、あたしたちは早速手を消毒して部屋の中に入れてもらった。何もない部屋というのがあたしの印象だった。「ごめんな、お風呂も入られへんから臭くて」と言う三木君に「そんなことは問題じゃないよ」とひなちゃんが答えてあたしも頷く。案内された部屋には布団が2枚引かれており、この女の子がひかりちゃんかとあたしは思った。「ひかり、ひなお姉ちゃんたち来てくれたよ」と三木君がひかりちゃんに話しかけるとひかりちゃんはこっちを見て「ひなお姉ちゃん、しんどいよ」と言った。するとひなちゃんはすぐにひかりちゃんの枕元に座り「大丈夫だよ。栄養取ってたくさん寝てお薬飲んだら良くなるから」と優しく話しかける。ホントにお姉ちゃんやなぁと思っていたら、三木君が立っているのにあたしは気が付き「三木君もしんどいやろ、あとはあたしらに任せて寝とき」と言うと「ごめん、そうさせてもらうわ」と布団にもぐった。
「三木君、あたしお米と梅干持ってきたからお粥作りたいねんけど、台所借りていい?」
「ありがとう、鹿渡さん。好きに使って」と言ったので台所に向かおうとしたらひなちゃんが三木君に言った。
「三木君、わたしもカロリーメイトとinゼリーとみかんの缶詰持ってきたから、しっかり食べてね。ひかりちゃんも」
「こんなにたくさん、いいの?」と聞く三木君にひなちゃんは「締め切り前の母さんの非常食をもらってきたよ。しっかり栄養付けてね」と優しく言っていた。あたしが台所に行くと「ひなお姉ちゃん、手を握って」とひかりちゃんが甘えていたので、ひなちゃんホントに懐かれているなぁって思った。

 台所でお米を洗うボールを探してお米を洗って水にさらしているとしんどいと言っていたのにひかりちゃんが必死にひなちゃんにおしゃべりしている。あたしにもお姉ちゃんがいたらこんな感じだったのかなと何だかほほえましくなる。ひなちゃん、しっかりお姉ちゃんやれてるやんと思いながら30分ほど待って、大きめの雪平鍋にお米と水を入れて炊いていく。その間に梅干しを潰して種を取り出す。そして隠し味に持ってきた使い捨てのミルに入った岩塩を少しおかゆに入れる。あまり入れ過ぎたらひかりちゃんにはしょっぱいかなと思ったのでひかえめにして後から塩分を補充できるように小皿に岩塩を挽きラップで蓋をする。炊きあがったら10分ほど蒸らして、梅干しを入れた。かき混ぜながら三木君のものとひかりちゃんのものと思われる茶碗にお粥をよそおい、スプーンを出して「ひなちゃん出来たよ、運ぶの手伝って」とひなちゃんを呼んだ。ひなちゃんが台所に来てひかりちゃんの分を枕元まで持って行く。あたしは三木君のもとへ持って行く。
「ありがとうな、鹿渡さん」
「お口に合うかわからへんけど、しっかり食べてや。あとこれ味がないなって思ったときの塩。岩塩を挽いたやつやから美味しいで」
「ホンマありがとう」
「気にせんとってや。病気なんやから」と言うあたしに三木君は上半身を起こしてお粥を食べる。
「すごく美味しいよ、このお粥。さすがいつもひなちゃんが褒めるだけはあるわ」
「お鍋にまだ残ってるから、足りなかったらお代わりしてな」と言いながらあたしは照れる。一方、ひなちゃんはフーフーして冷ましながらひかりちゃんに食べさせていた。するとひかりちゃんがあたしを見て「お姉ちゃん、すっごく美味しいよ」と笑いかけてきたので「いっぱい食べてね」と言いつつ照れた。2人はお粥を食べ終えて薬を飲んだ。しばらくするとひかりちゃんは眠ってしまった。あたしたちが「これで帰るね」と三木君に言ったら、三木君は布団から起き上がり玄関まであたしたちを送ってくれた。ありがとうと言う三木君にひなちゃんは「何かあったら連絡してな」と言い「帰ろうか」とあたしに微笑んだ。すっかり暗くなった道を2人自転車で走りながら、あたしは姉妹がいるのもいいなって思っていた。
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