第71話 おつけものや宗久

文字数 1,426文字

 一緒にお弁当を食べている佐藤さんがあたしのお弁当を見て「か、か、鹿渡さんの、お、お、弁当の…つ、つ、漬物。…おい、おい、美味しそう」と言った。あたしは「そうかなー。普通に売ってる漬物やで」と答えた。するとひなちゃんは「鹿渡のことやから家で漬けてるとかありえそうやもんな」と言った。
「それはないで、ホンマに普通に売ってるべったら漬けや」
「鹿渡やったら、マジでありそうやわ」と西野君が笑って言った。
「あたしって、いったいどんなイメージなんよ」
「うーん、お母さん?」
「なにそれ、あたしかってまだ中2やで」
「悪い。大人の女性」
「ちょっとマシになったかな。でもやっぱりそんなイメージなんや」
「いや、ほんと、悪いイメージじゃなくて、いいイメージなんやで。めっちゃ褒めてるんやから」と西野君が慌てたので、少し可笑しくなって笑った。するとひなちゃんも佐藤さんも笑う。西野君はなんか照れている。西野君のこういう表情は初めて見たかも。
「実際、どこで買ってるん? ダイエー?」とひなちゃんが聞いてきたので、あたしは「ウイングスのおつけものや」と答えたら、ひなちゃんが「宗久か」と言った。
「そや、宗久や。ダイエーの漬物も買うことあるけど、基本宗久やな」
「うちも宗久が多いわ。新太が好きなつぼ漬け昆布も宗久やし」
「そうなんや、あたしら同じ漬物屋さん使っていたんや」
「わ、わ、私はぎょ、ぎょ、業務スーパーか、ラ、ラ、ライフ」
「業務スーパーって北町の業務スーパーなん?」と西野君が佐藤さんに聞く。
「…は、羽衣(はごろも)の。お、お、お母さん、そ、そこでレジのパ、パ、パートしているから」
「そうなんや。俺は北町の業務スーパーが近いからそっちを使うな」
すると隣で話を聞いていた山崎が「みんな、どんな漬けもん好きなん? 私はベタに梅干し」と話に割り込んできた。すると佐竹が「私はたくあん」と言い、松本はあたしの予想通りに「昆布」と言った。あたしは高菜やろって思いながらも、とことん西野君に合わせてくるねぇ、松本は。ホントブレがないわ。
「…わ、わ、私はべ、べ、べったら漬け」
「俺もべったら漬けやな」とひなちゃんが言うと西野君は「昆布」と答える。
「あたしもべったら漬け好きかなー。あーでも水なすのぬか漬けも美味しいで」
「水なすか。泉州名物やからな。でもあれ高いやろ」とひなちゃん。
「確かに高いけど、たまにうち用に1個買ったりするねんな。みずみずしくて甘くておいしいねん」
すると「水なすって何?」と西野君が聞いてきたので、ひなちゃんが「新太はうちで食べたことあるやろ」と答える。
「なすの漬物は食べたことあるけど、水なすってわからんわ」
「ほら、夏場に大きめに割いて、しょうゆかけて食べたやろ」
「ああ、あれが水なすか。確かに普通のなすより甘かった気がするわ」
ひなちゃんは小さな両手でボールくらいの大きさの形を作り、西野君に説明する。
「これくらいの丸いなすで、名前の通り水分が多いねん。それで果物みたいに甘いなすや。泉州名物やで。しっかり覚えておきや」
「そうなんか、全然意識してなかったわ」
「これからは意識しや。結構高いねんから」
「わかったわ。水なすな」と西野君はこくりと頷いた。その様子を見ていたあたしは帰りに宗久によって漬物を見るのもありかなって思った。水なすは時期が外れているけど、他にもおいしそうな漬物はたくさんあるし。何よりもひなちゃんと一緒に見るのは楽しいだろうなって思えて放課後が楽しみになった。
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