第73話 佐藤と自信

文字数 1,683文字

 月曜日の休み時間にいつものメンバーと佐藤さんでしゃべっていたら、ひなちゃんがよってきた。
「吹奏楽部、全国大会で入賞したんやって、おめでとう」
「そやねん、ありがとうひなちゃん。私らかってまさか全国大会で入賞できるとは思ってなかったわ」と山崎が答える。
「初めは緊張したけど実際演奏し出したら、意外に楽しかったわ」と佐竹が続く。
「でも東京のお土産はないで。そんな時間なかったから」
「俺はそんなん期待してへんわ!」
「えっー、鹿渡は真っ先にお土産って言ったのになー」
「そんなんわざわざ言わんでええやん。あたしかって場を和ませるために言っただけやから」と答えるとその場が笑いに包まれた。
「…み、み、みんな、す、すごい。わ、わ、私なんて、なに、何もできない」
「そんなことないで、私らかって周りのみんながすごいから全国大会に行けたんやからな、なぁ、佐竹」
「そやな、私ソロでは絶対無理やったわ」
「…でも、わ、わ、私、ど、どもるし、な、な、なんの取り柄もない」
「あのな、佐藤。俺、思うんやけど、佐藤はもっと自分に自信持った方がええで。そんなネガティブ思考やとせっかくのチャンスも掴みきられへん。佐藤は佐藤にしかないものがある。ただ単純にそれだけでええんちゃうか?」
「…そ、そ、そう言われても、ほ、ほ、本当にわ、わ、私何もないから」
「そんなことはないで。あたしは佐藤さんのこと好きやし。だけどそんな言い方してたらひなちゃんの言った通り好きなもんも嫌いになるで」
「ご、ご、ごめんなさい。で、でも、わ、わ、私、ほ、本当に…」
「でもやない。そんなんばっかり言ってたら俺も佐藤のこと嫌いになるで」
「そやで、私らもそう思うわ。自分から嫌われにいってるみたいや、なあ、佐竹」
「そやな。佐藤さんはひなちゃんが言うみたいにもっと自分に自信持った方がええわ。そんな卑屈になられたら私らかってなんか対等な友達って思われへんもん」
「わ、わ、私、…み、みんなと、と、と、友達で、い、い、いたい」
「なら、少しずつその自信のなさを変えていくことやな。急に変えろっとか言わへんからさ」とひなちゃんが言ったところでチャイムが鳴った。

 その日の放課後、あたしたちは一緒に帰って楽しくおしゃべりした。途中で佐藤さんとはお互い笑顔で別れたけど、おりいぶ公園に着くまでひなちゃんとたわいのないおしゃべりをしながらあたしは佐藤さんがどうしたらもっと自分に自信を持てるようになるのだろうかなと考えていた。だけど結論は出なかった。そこでベンチに座ったひなちゃんに聞いてみた。
「なあ、ひなちゃん。どうしたら佐藤さんに自信を持てさせることができると思う?」
「うーん、正直言って難しいな。根本はやっぱり吃音やろうしな」
「なら、あたしたちに何ができるん?」
「別に今まで通りでええんちゃうか? 鹿渡も知ってると思うけど、新太は家庭の事情があってそれに引け目を感じていたみたいで、最初はあんな感じやったし」
「えっ、西野君が?」
「そやで、新太もなんか父子家庭ってことですごい自信なさげにおどおどしててな。俺、それ見てどうしてもほっておけずに積極的に声をかけて一緒に遊ぶようにしてん」
「そうなんや。あの西野君がそんな感じやったなんて信じられへんわ」
「だから、俺たちも佐藤に積極的に接していくしかないん違うかな? あとは佐藤自身の問題や。自分で乗り越えられるか、今のままでええわってなるか? 俺たちができるのはあくまでサポートのみやな」
「そやな、あまりあれしろこれしろ的なことを言っても逆効果の場合もあるもんな。それにそんなことばっかり言ってたら友達じゃないしな」
「そやで、強制はアカン。時間かかっても普通に接していくのがええんちゃうかな?」
「わかったわ。ひなちゃんの言うようにあたしも今まで通り普通に話かけるわ」とあたしは答えて、佐藤さんがたとえあたしや友達とぶつかっても自分で自分の考えとかはっきり言ってくれる日がいつか来るのかなって思った。そんな日が早く来てくれるといいなとあたしは期待している。ありふれた言葉だけど、頑張って佐藤さんと思った。
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