第27話 円安とお肉

文字数 1,517文字

 あたしとひなちゃんは学校の帰りにウイングスによって2階のスガキヤでソフトクリームを買って、いつもの公園のベンチで一緒に食べていた。
「鹿渡と一緒やったらつい甘いものを買い食いしてまうから、すぐお小遣いなくなるわ~」とひなちゃんがやってしまったみたいにぼやく。「それはあたしも同じや」と答えてあたしは最近ずっと思っていることをひなちゃんに聞いてみた。
「なあ、ひなちゃん。最近物価が上がってるやん? お肉とか高いもん。戦争のせいはあたしでもわかるねん。だけど円安の影響も大きいってニュースとかで聞くねん。今1ドル140円くらいやんか? 円って高くないん? なんで円安なん」
「あ、それね。日本にいたらいつも円で払っているから円安の意味がわかりにくいよな。でもな世界基準やとお金はドルやねん。だからドル目線で考えんなあかん。円で考えたら混乱するから注意やで。そやな、例えば1ドル200円の場合と100円の場合で考えてみようか。鹿渡が今1ドル持っていてセリアで買い物すると1ドル200円やったら2つ商品買える。100円やったら1個しか買われへん。どっちがお得?」
「そら~200円の方や」
「そやろ。同じ1ドルが100円のときの2倍の価値を持つからな。じゃあ逆に1ドルの商品を100円で買うのと200円で買うのはどっちがお得になる?」
「100円やな」
「そうやな。同じ商品買っても通貨で価値が変わって来るねん。ドル目線で考えたら1ドル200円って安いやろ。なんせセリアで2個買えるんやから。だから円安ってなるんや。でも1ドル100円は高いやろ。1個しか買われへん。だから円高。つまりドルから見た円の価値の問題やな」
「なんとなくわかったような気がするわ」とあたしは答えた。でも頭の中はドル? 円? と混乱していた。
「さっき、鹿渡はお肉が高いって言ったやろ。単純に言えばあれは外国で1ドルの肉が日本では200円になるってことや。つまり円安のときは輸入品が円では高くなるねん。すごく簡単にまとめると日本が損して外国が得しているって感じかな。円高のときはこの逆のことが起きるねん」
「そうなんや。さすがひなちゃんやな何でも知っているなぁ」とあたしは理解と同時にひなちゃんに感心もした。
「そんなことないで。俺、鹿渡みたいに肉の値段なんて知らへんし、こま切れ肉と切り落とし肉の違いとかもわからへんもん」
「それならあたし知ってる」とひなちゃんが知らないことを知っていてあたしはちょっとだけ得意げになった。
「こま切れは肉の部位の指定がなくて切れ端を集めたもので、切り落としは特定の部位の切れ端を集めたものなんやで」
「そうやったんや。鹿渡はよく知っているな」と今度はひなちゃんがあたしに感心する。
「あたし勉強はダメやけどこういうことは結構知ってるねん」
そう言うとあたしは溶けかかってきたソフトクリームを舐めた。制服にたれたらしみになるので食べるペースを上げた。するとひなちゃんも焦ってソフトクリームを食べ始めた。ひなちゃんの小さな口がかわいいなとあたしは思う。本当にひなちゃんを見ていると幸せな気持ちになれるなぁと実感してあたしはソフトクリームを食べ終えた。
「ソフトクリームは美味しいけど、時間との勝負やね」とひなちゃんに笑いかけると、ひなちゃんは「ホンマやな」と言って体操服のズボンにクリームをたらしながら笑った。
「俺、食べるの遅いから今度からはソフトクリームはなしや」
あたしはハンカチを出してひなちゃんによりかかるようになって汚れた体操服を拭いた。すると「ありがとうな」とひなちゃんが微笑んでくれたので、あたしはすごく嬉しくなって「ソフトクリームありやな」と思った。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み