第４０話　ひなたのお届けもの

　ひなちゃんが遊びに来た土曜日、あたしがひなちゃんを途中まで送って帰ってくるとお父ちゃんがパソコンを使って早速ひなちゃんとの写真をプリントアウトしていた。キモいなぁと思ったけど、いつもあたしがやっていることだから文句は言えなかった。日曜日にお父ちゃんはウイングスのセリアでフォトフレームを買ってきて、リビングのキャビネットの上に飾って満足そうな顔で写真を見つめている。おかあちゃんはさすがに一言を言ったけど、あたしも同じようなことしているなぁと思えて何も言えなかった。もしかしてあたしもお父ちゃんと同様にキモいのかな？

　月曜日の朝にお父ちゃんの弁当を作って、おかあちゃんはパンとインスタントコーヒーを飲んで一足先に作業服を着て自転車でパートに行く。なんせ始業時間が8時20分からだから出かけるのも早い。お父ちゃんは9時だから少し余裕がある。「なあ、弘子。ひなちゃん、またうちに呼んでや～」とか言っている。「お父ちゃんがおらへんときにな」とあたしは軽くあしらう。
「そんなこと言わんとってや～。ひなちゃんみたいなかわいい子は父ちゃんの癒しやねん」
「そんなんアイドルに求め！　ひなちゃんはあたしの友達やねんから。キモいねん。それよりお父ちゃん、もう仕事行く時間ちゃう」
「もう、こんな時間か。それじゃあ行ってくるわ」とお父ちゃんも仕事に行ってしまった。あたしは食器などを洗って片付けて、今度は部屋の掃除を始めた。掃除が終わると冷蔵庫の中をチェックする。今日は味噌そぼろ丼とマカロニサラダとわかめのみそ汁にしようと決めて、シンク下のスライドトレーを見るとマカロニがなかった。夕方にでもダイエーに行くかと思い、時計を見ると10時半を過ぎていた。さすがにひなちゃんも起きてるかなとあたしはパソコンを開いて、Skypeを起動するとひなちゃんはログイン中だったので電話してみた。ひなちゃんは思ったより早く電話に出て「おはよう、鹿渡」と言う。あたしも「おはよう」と言うけど、ひなちゃん一体いつまで寝てたん？　ってなった。
「土曜はありがとな、楽しかったで」
「あたしも楽しかったよ。でもうちのお父ちゃんがごめんな」
「ええって。それより鹿渡のお父さん、鹿渡とよく似てるな～」
「えー、どこが？」
「俺と写真撮りたがるとこ」
「やめてよ」とあたしは笑う。「なあ、あのとき言ってた美術の本渡したいねんけど、今日は出かける予定とかある？」とひなちゃんが聞いてきたので、あたしは予定していることを答えた。
「夕方にダイエーに行こうと思ってるけど」
「なら、その前に俺が鹿渡のうちまで届けるわ」
「そんな、いいよ。買い物行くついでに公園で会おうよ」
「でも、暑いし。食品痛めへん？」
「大丈夫。今日はマカロニしか買う予定ないから」
「乾物やったらええか、何時に待ち合わせする？」
「3時半かな？　暑いけど」
「わかった。3時半やな。必ず行くわ」とひなちゃんが力強く言った。それからはいつものたわいもない話をして電話を切ったら、時間は12時を過ぎていた。

　ダイエーで買い物をしておりいぶ公園に着くとひなちゃんがいつものベンチに座っていた。あたしは「ごめん、待った？」と走ってひなちゃんのもとに急いでひなちゃんの右側に座る。「そんなに待ってないで。ほらこれ、水分補給。まだ冷たいやろ」とひなちゃんがジャスミンティーのペットボトルをあたしに渡した。そして「俺は先に飲んでしまったけどな」と少し飲んだ別のペットボトルを見せた。
「これ、土曜日のお礼やから」とひなちゃんはちょっと照れた顔をしたのがとてもかわいかった。こんなふと見せるひなちゃんの表情も写真に残したいと思うのはやっぱりあたしはお父ちゃんと似ているのかな。なんか複雑な気持ちになりつつ、あたしは「ありがとう」とひなちゃんにお礼を言った。
「それにしてもこの時間やともろに太陽当たるな。でも木陰やからって空想ファンシー動物に座るのもな。なんか恥ずかしいし」と言ったひなちゃんは手提げカバンから本を取り出して「コレ、約束の本な」とあたしに本を渡した。あたしは「ありがとう」とマイバックに入れてもらったペットボトルの蓋を開ける。
「なあ、あそこ更地にしてるんやけどなんか立つんかな」とひなちゃんは公園横の工事現場を指さす。
「そやな、結構広いもんな。前はタイムズの駐車場で、その前がウイングスの駐輪所やったな」と言ったあたしはジャスミンティを一口飲んで、なんか騒がしい商業施設が出来たらこんな静かな隠れ家的なこの公園もひなちゃんとゆったりおしゃべり出来なくなるのかなって思った。