第19話 ノートとルーズリーフ

文字数 1,492文字

 学校のみんな黒板を写すためにノートを使っているけど、ひなちゃんだけはルーズリーフを使っている。しかも罫線が入っていない無地の紙をホルダーから1枚外してそれをノートとして使っている。ひなちゃんに「使いにくくないん?」と聞くと「使いやすいで」といつも答える。だけどあたしにはどう見ても使いにくそうに見えるけど。そんなひなちゃんは黒板に書かれているのをまるまる写すことは絶対にしない。まるで簡単なメモのようにたまに使っている。あたしなんかシャーペンとカラーのボールペンを使って丁寧に黙々と写していっているのに、ひなちゃんより圧倒的に頭が悪いのが納得できない。だから休み時間にひなちゃんに聞いた。
「なあ、ひなちゃん。黒板ほとんど写してないのになんでひなちゃんは頭がええん?」
「ポイントだけ残しているからかな」
「あたしなんてきれいに黒板写してるのに、全然成績が伸びへんわ」
「それは目的と手段を間違えてるんじゃない? 鹿渡はきれいに写すことが目的になってないか?」
「そんなん言われてもノートの提出もあるし、きれいに写したほうが得やん」
「俺は気にせえへんけどな。それ見て自分が理解できた方が頭に入るやんか」
「それはひなちゃんが元から頭いいからや。あたしみたいなアホの子はノートをきれいに取って少しでも点数上げたいねん」
「まあ、人それぞれやからな。新太もしっかりノート取るタイプやし」
「西野君も結構頭いいよね。あたしは西野君の真似をするわ。ひなちゃんのは無理や」
そんな会話をしていたら西野君があたしのところにやって来た。ひなちゃんのルーズリーフのこととあたしに聞いてきた。あたしは「そう、ひなちゃんはメモみたいなのしかしてないのに成績がええんやで。一生懸命ノート取っているあたしがアホなのって理不尽やわ~」と答える。西野君は「ひなちゃんは家でも勉強してるからな~」って言って「鹿渡はしてるの?」と聞いてきた。
「宿題はちゃんとしてるよ」
「ひなちゃんはそれだけやないから」
「だってあたし、そんな暇ないもん。西野君はどうなん?」
「俺か? まあそれなりには頑張っているよ」と答えて「でも鹿渡は家事もやってるんやろ? それはそれですごいことやけど」
「あー、あたしってホントに高校いけるのかな~」
「それは3年になってから考えや。今は学生生活を楽しんだ方がいいよ」
「そやな、今あたし毎日がすごい楽しいし」と答えたところでチャイムが鳴った。
するとひなちゃんが「俺も楽しいで」と言ったので、あたしはなんだか嬉しくなった。

 その日の学校の帰りにあたしはひなちゃんに聞く。
「ルーズリーフってダイエーの文具の街で買ってるん?」
「ちゃうよ。ネットで買ってる。シャーペンとかは文具の街使うけど」
「そうなんや、ネットってやっぱ安いん?」
「うん。うちの両親がちょっと変わった仕事やから、文房具とかはたのめーるってサイトから大量買いしてるわ」
「そうやったね。うちの両親は文房具なんて使わん仕事しているから、あたしはいつも文具の街」そう言いながら、あたしは踏切を越えた交差点を左に曲がりウイングス方面に進む。
「なあ、ひなちゃん。今日は文具の街見ていけへん? なんか掘り出し物あるかもしれんよ」
「そうやな、掘り出し物を探すのは実店舗での醍醐味やからな」
「それじゃ、決まり」とあたしは空に向かって勢いよく右手を突き上げる。
こうやってひなちゃんとあれかわいいねとかこれ便利だねっておしゃべりするのがあたしにとって1番楽しい時間。これからも続くんだろうなと思うと、あたしは弾むような気持になり駅からウイングスに向かう坂を足取り軽く下って行く。
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