第122話 修学旅行

文字数 2,307文字

 沖縄の海の青さにあたしは驚いた。大阪の海とは全然違う色。同じ海なのかとあたしは自分の持っている色鉛筆だったら何色と何色になるんだろうか? とぼんやり考えていた。
「鹿渡、なにボーッとしてるねん?」と前田さんが急にあたしに話しかけてきた。
「海がな、大阪の海とは全然違うな~って思ってた」
「そらそうやん。沖縄なんやから。でもそれだけやないやろ」
「そやな、となりにひなちゃんがいないのがさみしいわ」
「やっぱり鹿渡はいつでもひなちゃんなんやな」
「そうやな。いつもあたしの横にいるから、それが当たり前の感覚になってるわ」
平和祈念資料館からホテルに移動するバスのあたしの左側には佐藤さんが座っている。それがとても不思議な感覚でこの場に本当にひなちゃんがいないことを実感する。本来ひなちゃんがいる場所やのに。だけど佐藤さんは黙って窓の外の流れる景色を見つめていた。ひなちゃんがいなくてさびしいのは佐藤さんも同じかなとあたしは思い、あたしたちにとってひなちゃんがどれだけ大事な人なのかと思わざるを得なかった。ホテルに着いて部屋に荷物を置いてくつろいでいると、夕食の時間になった。大広間での食事はバーベキューだった。あたしは思わず佐藤さんに言う。
「ソーキそばが食べたかったなー」
「わ、わ、私も。ひ、ひ、ひなちゃんと、に、西野君が、お、お、美味しいって、い、い、言ってたし」
「バーベキューなんて大阪でもできるやん」
「まあ、そんなこと言わずに。せっかくの旅行なんやから楽しもうや」と前田さんがあたしたちを宥めた。でもあたしたちのいまいち気持ちは晴れない。ひなちゃんがいないだけでこんなに気持ちが違うんかと重い空気になる。
 食事のあとレクリエーションがあり、クイズ大会やダンス、カラオケがあり、明神が「本当はギターで弾き語りしたいんですけど」と言いへったくそな歌を自信満々に歌って、あたしと佐藤さんは沖縄に来て初めて大笑いした。
「これが、ひなちゃんが無理やり聞かされたへったくそな歌か~。なかなか精神力持って行くなぁ」
佐藤さんは笑いながらコクコクと頷く。すると前田さんと里中と南が「何のこと」って聞いて来るから、あたしはこの前あったことを話す。3人は笑って「アイツ、マジのナルシシストやからな~」と前田さんが言うと里中と南が更に笑った。
 レクリエーションが終わると入浴の時間だ。大浴場に行くと里中があたしの身体をじろじろ見つめてくる。
「やめてや、里中」とあたしは言うが、里中は「やはり私の目に狂いはなかったわ。鹿渡はめちゃくちゃええおっぱいしてるな。生で見るとはっきりわかるわ」と言ってくる。
「気持ち悪いねん、里中」と返すと南が里中の頭を思いっきりはたいて「だから止めろってちゅうねん」と怒った。それでも里中は「鹿渡すこしだけ触らしてくれへんか?」と食い下がるので、あたしは佐藤さんのもとに逃げて入浴を終えた。就寝前に部屋で少し女子トークしたら、やっぱり西野君は女子に人気があるなと思い1日目は終わった。

 2日目はマリンスポーツ班と美ら海水族館班に分かれての行動になった。あたしは運動音痴なのでもちろん美ら海水族館班。佐藤さんも一緒だった。水族館なんて大阪にも海遊館があるけど。それでもあたしたちは美ら海水族館のスケールの大きさに驚いた。特にジンベイザメ。海遊館にもいるけど実際に見るとその大きさには2人して驚いた。
 ホテルに戻ると夕食はバイキングだった。何だか沖縄らしい料理を食べられずにあたしと佐藤さんはがっかりする。食後はエイサーの鑑賞会があり、終わると入浴だ。お風呂に行くと里中が「なあ、鹿渡。触るのがアカンかったら、せめて写真撮らせて。誰にも見せへんからさー」と言ってきたので、あたしは「そっちの方が余計アカンわ」と怒ったところに南がやって来て里中を連れて行った。そして夜になるとまた部屋で女子トークが始まる。でも今日は昨日と違って嫌いな男子の話やった。明神の嫌われぷっりが逆に立派やと思えた。だけどあたしはそんなことはどうでもよくて、ひなちゃんに早く会いたいと思っていた。

 最終日の3日目は小雨の降るあいにくの天気だった。この日は個別の班での個別行動だ。あたしたちの班は琉球村での珊瑚のフォトフレーム作り体験。あたしがひなちゃんと一緒の写真をうちに飾りたくて無理やり琉球村を選んだ。あたしのフォトフレームは「さすが美術部」と言われるくらいに綺麗にできた。あたし自身もその出来に満足していた。午後からは学年全員そろって国際通りに行った。あたしと佐藤さんは国際通りのローソンでスパムおにぎりを買って食べる。初めての沖縄らしい料理だ。
「これ、美味しいな、佐藤さん」
「う、うん、お、お、美味しい」
「コンビニでこのレベルやなんて、やまねこのおにぎりはどんなけ美味しんやろうな」
「は、は、早く、み、みんなで、食べに、い、い、行きたい」
「そやな。楽しみやな」とあたしは佐藤さんに微笑む。佐藤さんもなんか嬉しそうやった。そのあとお土産屋に入ってひなちゃんへのお土産を買う。お父ちゃんはオリオンビール買ってきてくれって言ってたけど、あたし未成年やで。買えるわけないやんと無視する。その話をすると佐藤さんも「う、う、うちの、お、お、お父さんも、お、沖縄と言えば、オ、オリ、オリオンビールって、い、い、言ってた」と答えるので2人して笑いあった。その後、沖縄空港に着いたあたしたちは飛行機に乗って大阪に帰る。ひなちゃんがいたらめちゃくちゃ楽しかっただろう修学旅行。でも、明日にはひなちゃんと会えると思うとあたしは早く大阪に戻ることに思いを馳せていた。
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