第134話 野球部優勝

文字数 2,107文字

 土曜日の午後に西野君からLINEが来た。野球部が堺市大会で優勝したらしい。あたしは嬉しくなってすぐにLINEを返す。
「おめでとうございます!! 西野君ならやれるとあたしは信じていたよ。次は大阪大会やね。頑張ってね」
すると即座にLINEが返ってきた。
「ありがとう。鹿渡のおかげや」
「あたし、何もしてないで」
「背番号縫ってくれたやん。あれで俺、凄いやる気が出た」
「それだけで? それくらいならいくらでもするで」
「そうなん? ありがとう鹿渡」
「どういたしまして」と西野君には珍しく会話のやり取りが続いた。いつも用件だけのLINEやのに。ひなちゃんには連絡したのかな? ひなちゃんスマホ持ってないからいち早く連絡するには、ひなちゃんのお母さんへしたのかな? あたしはそんなことを思った。

 次の日の放課後、あたしと佐藤さんは大鳥大社に必勝祈願のお守りを買いに行くことを決めていた。ひなちゃんは「俺は『神は死んだ』と思ってるからお守りなんて買えへんで」とは言うけど、あたしたちにちゃんと付き合ってくれる。そんな天邪鬼なところもかわいいんだよなと思いつつ「わかってるって。ただあたしらに付き合ってくれてるだけやろ」とあたしは笑う。佐藤さんもこっそり笑っていた。
「それなら、新太の新しい通学路から行こうか?」
「そやな」とあたしたちは同意してひなちゃんについて行く。
JR鳳駅からは阪和線と垂直に羽衣線という鳳と東羽衣を1区間だけをつなぐ路線がある。何故そんな路線があるかといえば、南海本線と連絡しているからだ。だから意外に重要な路線だ。そんな線路を越えないと学校から中町、北町には行けない。地上駅の鳳から出発した電車は高架駅の東羽衣に向かって徐々に高架化していく。あたしたちは駅付近の急カーブのところにある地下階段で、線路をくぐり抜ける。するとひなちゃんが聞いてきた。
「なんでここ、踏切やないんやろうな?」
「あ、それ、あたし知ってる。お父ちゃんから聞いた話やねんけど、昔、南小の生徒が電車に轢かれて亡くなったからやって。だから、今みたいに地下階段とスロープになってん」
「詳しいな」
「あたしのとこって家族そろって南小やからね」
階段を上り終えると、そこからは大きくカーブする線路に沿った道を3人でおしゃべりしながら歩く。そしたら見覚えのある道に出た。
「ここって2年参りのときに通った道や」
「そうやな。あのときの道やな」
「あ、あ、あのときは、た、た、楽しかった」
という感じに2年参りのときの話へと自然に話題は変わる。そしてあたしたちの話題は何の脈絡もないままコロコロと変わっていき、気が付けば大鳥大社の大鳥居前に着いていた。あたしたちは中に入りどんどんと本殿の方へ向かって行く。本殿に着くとあたしは思わず声が出た。
「本殿ってこんな立派やったんやー。2年参りのときは全然見えなかったけど」
「あのときは人しか見えんかったもんな」
「く、く、苦し、か、かった」
本殿を食い入るように見ているあたしの左腕をひなちゃんが握り「買うもの買って帰るで。マジで暑いし」とお守りやらおみくじなどを販売している建物に連れていく。あたしと佐藤さんは巫女のお姉さんに「試合に勝つためのお守りありませんか?」と聞く。「こちらですね」とお姉さんはお守りを手に取ってあたしたちに見せてくれた。黒地の布に「勝守」と鳳の図柄が刺繍されたお守りを佐藤さんと半分ずつ出し合って購入した。

 お弁当を食べ終わって堀が出ていくのを確認したあたしと佐藤さんは西野君に改めて「優勝おめでとう」と言い「これからは大阪大会やね」と言った。西野君は「ありがとう」と今更なんでみたいに戸惑う。
「そこでな、これ、あたしと佐藤さんから」とそっとお守りを西野君に手渡した。西野君は凄く驚いて「ありがとうな、鹿渡、佐藤。俺、頑張るわ」と喜んだところに8組の前川君が教室に入ってきた。
「西野ー。上田からの伝言」と間の抜けた声で西野君を呼び出す。すると2年のときと変わらないあたしたちグループを見つけて一目散に駆け寄ってきた。
「佐藤さん、久しぶりやね。元気やった」
「う、うん。た、た、楽しく、や、やっている」
「それなら良かった。なんか困ったことがあれば、いつでも俺に言ってや」
そう言った前川君は西野君の手に握られているお守りを見つける。
「に、に、西野。もしかしてやけど、そのお守り貰ったん?」
「鹿渡と佐藤にな」
「なんでやねん! 俺かって一応レフトのレギュラーなんやで。俺もいっぱい活躍してんから」と大げさに嘆く。そして佐藤さんに言う。
「佐藤さん、俺もホンマ頑張ってるねんで」
「ま、ま、前川君、が、が、頑張ってね。わ、わ、私、お、お、応援してるから」とまるで体育祭のときのひなちゃんのような対応をした。佐藤さんも人のあしらい方、うまくなったなとあたしは思う。その言葉に満足した前川君は西野君に用件も言わずに教室を出て行こうとする。
「待て、前川。俺、上田の伝言聞いてへんぞ」と西野君は席を立つ。
「そんなん、鳳中のホームページで見ろ」と満足げに去っていく前川君の後ろ姿を見ていると、あたしはなんだか可笑しくなった。
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