第150話 勉強会(佐藤の家)

文字数 2,065文字

 今日、私の家にひなちゃんと鹿渡さんが来る。その話を以前、家族にしたら、みんな驚き「聖子がうちに友達連れてくるって初めてやんか」とお母さんは喜ぶ。お兄ちゃんも「聖子にもそんな仲のええ友達で来たんか」と泣きそうな顔をしている。するとお父ちゃんは「聖子の部屋で勉強会やるには3人で一緒に出来る机がないやろ。お父さんとお母さんの和室を使い。ちゃんと掃除はしておくから」とすごく嬉しそうやった。なんか飲み物買ってくるわとお母さんが言うので、私は「ひ、ひ、ひなちゃんも、か、か、鹿渡さんも、ジャ、ジャ、ジャスミンティーが好き」と答えた。するとお母さんは「そんなのうちのスーパーにあったかな?」と言うので「ご、ご、午後の、こ、こ、紅茶の、む、無糖も、す、す、好きみたい」と答えると「それなら買ってくる」ってやっぱり嬉しそうだ。
「わ、わ、私、ク、ク、クッキーを、や、焼くから」
「材料はあるの?」
「も、も、問題ない。こ、こ、凝った、ク、クッキーは、む、無理だけど、ふ、ふ、普通のなら、ざ、ざ、材料はある」
「俺、聖子が学校でいじめられてへんか心配で心配で。でも聖子が今は学校が楽しいって言っていたのはホントやったんや」とお兄ちゃんはとうとう泣いてしまった。お兄ちゃんには色々助けられたけど、ちょっとシスコン気味なところは妹としては考えものである。私かって成長するんやでと思った。
泰弘(やすひろ)、聖子かっていつまでも子供とは違うんやで」とお父さんがお兄ちゃんを注意したけど、お兄ちゃんは一向に涙が止まらない。
「わかってるんやけどな」と涙を拭いて私に言う「聖子、俺、その2人に挨拶してもええか?」と嫌なことを言ってくる。「ダ、ダ、ダメ」って私は答えるがお兄ちゃんは「部活休んでも1度くらいは挨拶させて」と懇願してくるので私は今までお兄ちゃんに助けられていた分、無下に断ることも出来なかった。

 当日、ひなちゃんと鹿渡さんは一緒にうちに来た。私はオートロックを開けて部屋まで来てもらう。部屋のインターフォンがなり、私はドアを開けた。
「あ、あ、暑かったでしょ。ク、ク、クーラー入れてるから、は、は、入って」
「ありがとうな、佐藤」とひなちゃんが言い、鹿渡さんもありがとうって言う。二人は手の消毒をしてうちに上がる。私は2人を両親の和室に案内する。
「ご、ご、ごめんなさい。わ、わ、私の部屋、こ、こ、この机を、お、お、置ける場所がなくて」
「そんなん気にせんでええよ」と鹿渡さんは笑い、ひなちゃんも頷く。私がお茶やクッキーを取りに行こうとすると、お兄ちゃんがとなりの部屋から出てきて「挨拶だけさせて」と言ってきたので、嫌やけど仕方なくお兄ちゃんに任せることにした。お兄ちゃんは開いているふすまの廊下側に正座して「聖子の兄です。いつも聖子がお世話になっています。本当にありがとうございます」と頭を下げて挨拶した。その丁寧な態度にひなちゃんも鹿渡さんも驚き姿勢を正して「こちらこそお世話になっています」と返している。私はもうどうでもいいやと思いながら台所に紅茶のペットボトルを取りに行く。遠くからお兄ちゃんの声で「これからも聖子をよろしくお願いします」って言ってるのがちょっと聴こえた。

 私はひなちゃんと鹿渡さんの前に午後の紅茶を置いて、昨日焼いたクッキーを置く。すると鹿渡さんが「うちのお父ちゃんから聞いたけど、佐藤さんのお兄ちゃん、すごく佐藤さん思いのええお兄ちゃんやな」とお兄ちゃんを褒める。ひなちゃんも「わたしも思ったけど、すごく素敵なお兄ちゃんやね」と賛同する。私はそのひなちゃんのいつもの「俺」ではなくて「わたし」って言い方が気になった。ひなちゃんが大人の人や知らない人にだけ言う「わたし」って主語。私はなんか嫌いなんだよね。だってひなちゃんは私の好きな正真正銘の男の子なんだから。そんなかわいい見た目に合わせることないよと思う。
「このクッキー、佐藤さんが作ったの? わたし、食べていいかな?」とひなちゃんは言うが私はやはりいつもの「俺」のひなちゃんが好きだ。私はお口に合えばと答えながら、ひなちゃんに注目する。ひなちゃんは美味しいと褒めてくれたけど、私にはお菓子しかない。鹿渡さんはひなちゃんが大好きな美味しいご飯をいくつでも作れるのにと思ったら、何だか惨めな気持ちになった。鹿渡さんもクッキーを美味しいって食べてくれたけど、なんか複雑な気分になる。

 勉強会は前回同様ひなちゃんの私たちに対する個人指導って形で終わった。私も集中していて、ひなちゃんの腕時計のアラームが鳴るまで時間は気にならなかった。やっぱりひなちゃんは人に教えるのがすごくうまい。学校の先生とかになれば、すごいのにと心から思う。勉強会もお開きになったときにはお母さんがパートから帰って来ていて、2人に挨拶して「また来てね」と言っていたけど、私はそれを無視して自転車置き場まで2人を見送る。2人が仲良く一緒に帰る姿を見ていると「やっぱり、私ではかなわないのかな」って気分になって、かなり落ち込んだ。
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