第4話 母の本音

文字数 999文字

 おはようございます。昨日の続きになります。第3話から読んでいただけると内容がスルリと入るかと。

 母はあまり本心を言わない。その為、周りの者は振り回され、意に沿わないことをしてしまうことがある。また都合が悪くなると

「私は、そうじゃないと思っていた」

と自分を正当化する。私も父も同居する弟夫婦も、この妙な正当化で何度気不味い思いをしたことか。だから、母と会話するときに私はいつしか「本当にコレでいいんだね?」と念を押すようになってしまった。そんな母だから、本音を聞くのは難しい。普段から口にする「生きるが為」の意味。先日、とうとう本音らしき言葉を聞くことができた。それは身体を回復させてからやってみたいとの前置きがあった。

「これから何がしたいの?」と私。

、買物に行きたい。自分の物にお金を使う買物がしたい。行きたい所へ行きたい。だから、まず歩けるようにしなくちゃ」

 私は、ものすごく切なくなった。切ない。本当に切ない。今も思い出して涙が止まらない。私にしてみれば、ごく普通のこと。母は認知症ではない。身体は不自由になりつつあるが、頭はしっかりしている……筈だと思っていた。いや、しっかりはしている。だが、現実を受け止められていない。

 今、母の外出先と言えば病院と家の周りだけだ。病院へは玄関を出たら直ぐに車へ、着いたら車椅子に乗る。家の周りは杖をついての歩行だが、何歩も歩いてなく毎日じゃない。こんな状況なのに前述の言葉が出ている。母82歳、肝臓癌を発症して数年。回復を信じている。

 母の願いを聞いた私は酷く後悔した。知ってしまった以上、今後、母の希望に近づけてやりたいと思わずにはいられない。どうすることが、最善なのか?現実を受け止めろと言うべきか?そんなこととても言えない。なぜなら……

 母は私が子供のころから、ほとんど旅行に行ったことのない人だった。反面父は会社絡みで、私が幼いころに海外へも行っている。外出に関して夫婦間の格差があった。母が、この事実を苦々しく腹の奥底へ溜め込んでいたことは容易に想像できる。だから、是が非でも生きたいと。絶対に行きたいと。ここまで来てしまってからの本音トーク。『遅いよ』そんなことは、言えない。

 MRIの画像診断の連絡はまだ来ていません。1週間くらい経って何も無ければ、母の希望に少しでも添える計画を立てたいと思っています。これからいい季節ですから。
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