第2話 母とラジオ波

文字数 981文字

 母の診察に付き添いました。実家から車で30分ほどの距離にある公共の総合病院です。この日は診察の他にMRI検査がありました。

 半年に一度、MRIやCTの画像検査を受けている。造影剤を注射で血管に入れながらの検査。もう何度目のことなのか覚えていないが、検査の手順は当日の担当看護士よりも、母の方が分かっているかもしれない。今日の看護士は経験が浅いのか、注射針を何度か挿し直した。その度に母は

「痛いです。痛っ、痛たたたた……」

 検査室に入り15分ほどで終了。その後、待合室で30分ほど、診察は10分足らず。担当医は画像診断に時間がかかるので「何かあれば後日連絡をする」と言った。

『何か』それは肝臓癌の再発を意味する。ここ数年の間に2回発症し、ラジオ波の手術を受けた。前回は去年。ラジオ波は開腹をしない手術。内臓に照射して癌を取り除く。見た目はわからないが、内臓は傷ついているので、術後の痛みはある。前回は退院した夜に、強烈な痛みに襲われ、本人はもちろん周りの者も右往左往した。

「痛い、痛い、痛い……横になることもできない。起きていても痛い。もう次はやらない」

そう母に叫ばれ、隣で寝ている父は、ほとんど寝られず、一晩中痛がる母を支えてはトイレの介助をした。私も実家に居たのだが、父が看るというので、その夜は任せた。朝になっても痛みは引かず、痛み止めを出してほしいと病院に連絡すると「本人を連れて来ないと処方できない」と言われた。死ぬ思いをしている母を車に乗せ病院へ。

 病院の車椅子に乗せたら、母はおとなしくなった。あんなに痛がっていたのに……気丈に座っていた。何なのコレ?いつも体裁を気にしている母は、こんな時でもソレを貫いていた。

「我慢、できるじゃん……」

思わず声に出しそうなところを呑み込んだのは言うまでもない。
こんな経緯(いきさつ)があったにもかかわらず、今回癌が見つかったらどうするか聞いた。

「うーん、先生に相談して、手術できそうなら……」

私は前回の騒動をつい昨日のように覚えているのに、母のこの返事に驚いた。喉元過ぎれば……そんな問題じゃない。母は前回の苦しみを忘れていることが問題なのだ。何が最善なんだろう。介護の悩みは尽きない。

 今はその日限りの介護しかしていませんが、もう少し先のステージになったとき、どうしていけばいいのかを私なりに考えていきたいと思っています。



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