第22話 会話したけど

文字数 983文字

 夫がお遍路から帰ったその舌の根も乾かないような今日、悟るどころか、久しぶりにバトりました。いわゆる、夫婦喧嘩です。

 夫が会社勤めをしていたころ、年に数回海外出張があった。期間は2週間から3週間。当時は子どもたちも居て、よく『鬼の居ぬ間に洗濯』と羽を伸ばしたものだった。子どもには申し訳なかったが、食事は簡単にできるメニューばかり。必ずやっていたことは部屋の整理だった。夫は部屋が散らかっていることを嫌う。まあ、一般的には皆そうだが、ここでいうのは作業途中のままにしておくことを言う。部屋の整理には時間がかかる。考えながら進めるので余計に時間がかかる。だから作業を途中でやめて翌日に回すことができる出張を使うのが常だった。

 だが、定年を迎えた今は毎日夫が居る。今回のお遍路は私にとって大事な時間でもあった。子どもたちが独立した後の部屋の有効活用と使い勝手を目指して家全体の断捨離や整理をしていた。『アレをココへ置いて、コレはこのくらいにして』と考えながら物を移動させていた。夫の帰宅後にはもちろん一見何事もなかったように設えて。だが夕食の時に夫からこう切り出された。

「子どもの部屋に積み上げら得てる物は、もともと何処にあった物なの?なんで置いてあるの?」

もう少し整理してから言おうとしたのだが、大量の荷物の移動に、しかも子どもたちの部屋が物置きのようになっている光景に、その口調は明らかに怒っていた。私なりの計画を言うと今度は

「ariayu(私)の物ばかりが癌細胞のようにどんどん増殖しているようだ。どうするの?その荷物?自分が死んだときに子どもにどうするか言ってあるの?」

 子どもに部屋に仮置きしている物は、私の物だけではない。でも、そんな細かいことを言ったところで、一方的に決めつけて言う奴に何を言っても受け入れは不可能。それよりも癌細胞に例えるとは何事だ。私はリアルに癌を患って、今も経過観察である身なのに。あんまりな物言いではないか。私はこの表現に抗議した。普段会話のない夫のたまの発言がコレでは話しかける気になれないのがお分かりか?だから私は日常、敢えて話そうとしないのだ。夫はまた一歩私を遠ざけてしまった。

 今日は淀んだ空気の話です。それでも、この歳まで来るとお互い一緒に暮らす方が楽だと思っているのです。いびつな夫婦ですよね。それも分かっているのです。
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