第54話 父の身体

文字数 927文字

 昨日は父の病院の付き添いでした。少し心配なことがありました。

 診察の予約時間は10時半。その2時間前に採血を終えなければならない。実家を7時過ぎ辺りに出ないと間に合わない。だから私はいつも前日入りしている。

「明日は、通勤ラッシュも考えて7時15分に出るからね」

 就寝前の父に告げた。そして翌朝。父は6時に起きてきた。別に遅くはない。朝食は病院の喫茶ルームでモーニングを食べようと決めていた。父も承知だったが朝になって、数ある薬の1つを飲むために家で食事をすると言い出した。時間がなかったわけではないので、そのように。出発の時間まであと5分のところで、車の用意をすると声をかけた。すると

「まだ、トイレに行ってない。ちょっと待って」

 自然現象なのだから仕方がない。でも、問題はそこではない。出発時刻を間違えていた。今までこんなことはなかった。単なる勘違いだったらいいが……

 遅れて出発したが、病院へは予定通りに到着した。いつものように診察で血液検査の結果を聞いた。医師が

「前回よりも数値が上がっていますね。お時間があればCTで病巣が広がっていないか調べたいのですが」

 もちろん、時間はあったので、救急枠でCT室へ。そこには先約がいた。待つ間に父はトイレへ行った。10分以上経っても帰ってこない。倒れてはいないか?迷ってはいないか?と急に不安がよぎった。CT室で父の名前を呼ばれたが、帰っていなかった。トイレは30歩くらいの所にある。もし倒れていたら騒ぎの声が聞こえるだろう。私は、離れた場所のトイレへ走った。いない。CT室に戻ると同時に父も帰ってきた。

「迷っちゃって。CTは覚えていたから、そこを目指して院内の案内見ながら探したけど、景色が違うなぁと思って。だから病院の人に連れてきてもらった」

 今まで、こんなことはなかった。とりあえず諸々終え、結果は次回の診察でということになった。急を要する結果なら連絡があるだろう。病気の進行も気になるが、父の記憶力に(かげ)りが差してきたかもしれないという不安の方が大きくなった。

 父の母親の終末は認知症だったと伯父から聞いています。まさかとは思いますが、今後の父の動向、私の心無い言動には気をつけなければと思っています。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み