第79話 ライバル蹴落とす

文字数 4,116文字

【MZC社・エントランス】

真彩、夕方、MZC社の建物に入り、エントランスを歩く。
   
就業時間外なので、受付社員はもう帰って、誰もいない。
   
真彩、色付きの眼鏡を掛け、マスクをし、帽子を被り、変装している。

エレベーターに乗り、社長室に向かう真彩。


しばらくしてから、MZC社の社長であり、真彩の父親でもある智之と一緒に、エレベーターを降り、談笑しながらエントランスを歩いている真彩。
   
彩、智之と腕を組み、楽しそうに笑っている。

真彩「でさぁー、ママ、身体鍛えたいって言ってたから、スポーツウェアとかどうかな?……って思ってさぁー……」

智之「ほう、良いんじゃないか? あぁ、じゃー、パパもお揃いの、買おうかな?」

真彩「あぁ、良いんじゃない?! 一緒にウォーキングから始めたら?」

智之「ウォーキングか……休みの日、歩こうかな? でも、お揃いだと、ママ、嫌がるかなぁ?」
   
智之の言葉に、真彩「ふふっ……」と笑う。

智之、可愛い娘である真彩に腕を組まれ、顔がデレデレしている。

真彩との会話を楽しむ智之。

   
そこに、悠斗、池本、太田が、外回りから帰って来て鉢合わせとなる。

太田「あっ……」

池本「?……」

悠斗「……」

真彩、咄嗟に、智之と腕を組んでいた手を引っ込める。

太田、社長である智之に挨拶する。

太田「お疲れ様です!」
と言って、頭を下げる。

悠斗、池本も、「お疲れ様です」と言って、智之に頭を下げる。

智之と真彩は、悠斗、池本、太田に会釈して、MZC社の建物から出て行く。

すると、また、智之と自然な感じで腕を組む真彩。

そして、談笑しながら歩いて行く姿を、強化ガラス越しに見ている悠斗、池本、太田の三人。

傍からすると、ちょっと年が離れた仲の良いカップルに見える。

太田が、悠斗と池本に、
太田「あの女性って、変装してるけど、俺が狙ってる子です」
と、言い出す。

悠斗「?……」

池本「?……」

太田「えぇ? どういう事? 何で社長と?」
と言って、困惑顔の太田。

すると悠斗が、
悠斗「あぁー、社長が奥さん以外に愛してる人だからなぁ……」
と言って、不敵な笑みを浮かべ、営業部に向かって歩き出す悠斗。

太田「えっ? 奥さん以外って……愛人って事ですか? ウソッ?! 嘘でしょ? えぇー?」
太田、ショックを受けている。

そして、悠斗の後を追う様に、池本と太田、歩き出す。

池本(心の声)「愛人じゃーねぇよ。社長の娘だよ。でも、これでマーちゃんのこと諦めるだろから、まっ、良いか」

悠斗と池本、太田に分からない様に、アイコンタクトして笑いを堪える。

悠斗(心の声)「ふふっ……今から買物か。母さんの誕生日プレゼント、今年は何にするんだろう?」

太田「いやいや、何かの間違いだ。あんな純真無垢で清楚な子が。あの子に限ってそんな事はない! でも、腕組んで親し気でしたよね? それに、年の離れた仲良いカップルに見えたし」

池本「あぁ……仲良いからなぁー」

太田「えっ?……池本さんもご存知だったんですか?」

池本「あぁ……でも、秘密だからなぁー。シーだぞ!」
と言って、自分の唇に人差し指を立てて、内緒のジェスチャーをする池本。

太田「えぇー、ショックなんですけど。社長って、あの子のパトロンって事?」

悠斗「パトロンかー。あぁ、愛情受けて、金銭援助して貰ってるからなぁー。この前は高級腕時計、プレゼントされてたなぁー……」
と、平然と言う悠斗。

太田「えっ? まさか、援助交際? あの子、体売ってる?」
と、真顔で言う太田。

池本、必死で笑いを堪えている。

池本(心の声)「つーか、こいつ、マーちゃんがハーモニー社の社長である事すら、分かってないんだ。最近、メディアに取り出たされてるのに。まぁ、マーちゃん、いつもマスクしてるから分からんか……」

太田、ショックを隠せない。悲壮な表情になる。

太田「はぁ……ショック過ぎる。俺、本気だったのに……」

池本「もう、彼女の事、諦めろ。社長の愛する人なんだから。所詮、高嶺の花だし。それに、俺、昔、彼女に交際申し込もうと思ったら、彼女の兄貴に『殺すぞ!』って言われて、ボコボコにされそうになったから……」

悠斗(心の声)「おいおい、池本よ、それはちょっと盛ってないか? まぁ、確かに『殺すぞ!』とは言ったけど……(笑)」

太田「えっ?……彼女のお兄さんって、ヤバイ人なんですか?」

池本「あぁ、かなりヤバイよ。まぁ、殺すまでは行かないまでも、半殺しの刑に遭うのは間違いないって思ったから。あの人、武道家だから、一瞬で人を倒すからね」
と言うと、池本、ちらっと悠斗を見て、ニヤッとする。

悠斗、太田がどんな顔をしているのか、ちらっと見る。

太田「あぁ……何か、今、悪夢見た感じです。俺の理想の人だったのに……運命の人だと思ったのに……今度会った時、交際申し込もうと思ってたのに……」
   
太田、肩を落とす。

悠斗(心の声)「おぉー、危ねぇー、本気だったんだ。ふぅ……俺のライバル、一人、蹴落とした。ヨッシャ!」

悠斗、顔がにやけない様に努力しているが、時々、笑みが漏れる。
   
池本も、笑わない様に努力しているが、悠斗を見て、にやける。



【高槻レオマンション・806号室・玄関】
   
玄関ドアが開く音。

真彩が玄関に入る。

玄関には悠斗の靴が揃えて置いてある。

リビングに居た悠斗、真彩を玄関に迎えに行く。

真彩、靴を脱ぎながら、
真彩「只今―!」
とちょっと大きめの声で言う。

悠斗「お帰り!」
   
悠斗、優しい笑顔で真彩を出迎える。

悠斗と真彩、自然に挨拶のキスをする。

真彩「疲れた……」
と言って、鞄を床に降ろし、そして、両手を広げ、
真彩「下僕さん、おんぶ」
と言って、悠斗に甘える真彩。

すると悠斗、直ぐに中腰になり、真彩が背中に掴まり易い様な姿勢をする。

悠斗「はいはい、どうぞ、姫様」
   
真彩、悠斗におんぶして貰う。

悠斗「良いの見つかった?」
   
悠斗、真彩をおんぶしながらリビングに向かう。

真彩「うん、良いのあったよ!」



【リビング】

リビングに着き、真彩をソファに座らす悠斗。

そして悠斗、台所に行き、冷蔵庫を開ける。

悠斗「水、飲む?」
と、真彩に聞く悠斗。

真彩「あぁ、ちょっと飲みたい……」

悠斗、グラスにミネラルウォーターを注ぐ。

真彩、その間、手洗い、うがいをする為に洗面所に行く。

そして、自分の部屋に行き、部屋着に着替え、再びリビングの応接ソファに座る真彩。

悠斗「はい、どうぞ!」
と言って、ミネラルウォーターが入っているグラスを、真彩の目の前のテーブルに置く悠斗。

真彩「有難う」
と礼を言ってから、ミネラルウォーターを飲む真彩。

悠斗、真彩の横に座り、真彩の髪の毛を触り、前髪を、悠斗の手櫛で後ろに流す。

悠斗「母さんの誕生日プレゼント、何にしたの?」

真彩「悩んだ結局、スポーツウェア色々買った」

悠斗「へーぇ」

真彩「ママ、ジムに行きたいって言ってたから……」

悠斗「へーぇ、そうなんだ。でも、そんな時間あるのかな?」

真彩「ママ、忙しいからねー。だから、ウォーキングからかな?」

悠斗「ウォーキングならいつでも出来るからな」

真彩「パパもお揃いの買ったんだよ?! 荷物沢山になっちゃったから、しょうがないから当日配達にして貰った」

悠斗「へーぇ、お揃いのを買ったんだ。母さん、嫌がらないかな? 前、恥ずかしがったからさぁー」

真彩「ふふっ……私も、ママの嫌がる顔、想像しちゃったから笑いそうになったけど、でも、パパ、ママの事が大好きだからねぇ……」

悠斗「……だね」
悠斗、微笑む。

真彩「パパとママには長生きして欲しいから、筋力付けて、体力、維持して貰わないとね!」

悠斗「うん。で、何食べたの?」

真彩「やっさんの所でお寿司」

悠斗「わぁ、良いなぁー……」

真彩「悠斗も後で来れば良かったのに」

悠斗「行きたかったんだけど、あの後、樋口先輩の相談に乗ってたから。俺もさっき帰ったとこ」

真彩「そうなんだ……」

悠斗「あぁ、そうそう、父さんと真彩に会った時さぁー、オモロかったよ?!」

真彩「えぇ? 何で?」
   
真彩、ミネラルウォ―ターをまた口に含み、飲んだ後、悠斗の膝に頭を乗せ、ソファに横たわる真彩。
   
悠斗、真彩の前髪を、後頭部の方へ手櫛する。

悠斗「真彩、父さんと腕組んでただろ?」

真彩「うん……」

悠斗「だから、太田がさぁー、真彩の事、父さんの愛人だって思ったからさぁー……」

真彩「愛人?!」

悠斗、思い出し笑いする。

真彩「あぁ、あの人、太田さんって言うんだ。タッくんのお店で何度か話し掛けられたけど、名前、知らなかった。て言うか、私の変装、見破られてた?」

悠斗「あぁ、直ぐに見破ったよ……」

真彩「そっか……で、私がパパの愛人だって思ったんだ……」

悠斗「うん……」

真彩「えっ? 腕組んでただけで愛人って思う? 普通……」

悠斗「あぁ……えーっと……」

真彩、悠斗の顔を見る。

真彩「あぁ、成程ね。太田さんに何か吹き込んだね?!」

悠斗「いやっ、ホントの事、言っただけだよ?!」

真彩「ホントの事?」

悠斗「うん……」

真彩「何て言ったの?」

悠斗「んん……社長が奥さん以外に愛してる人。愛情受けて金銭援助して貰ってて、この前、高級腕時計、プレゼントされてた……って、ホントの事、言っただけだよ?!」

真彩「呆れた。そんな言葉並べたら、誰だって愛人と思っちゃうわ」

悠斗「へへっ……」   
屈託のない笑顔の悠斗。

真彩「人って、簡単に騙されちゃうんだね……でも、オモロイね。じゃぁー、今度は、パパに抱き着いて頬っぺたにキスしてる所でも見せよっか?」
と言って、笑う真彩。

しかし、悠斗、
悠斗「ダメダメ! お前、ホントに小悪魔だなぁ……」
と言って、口を尖らす悠斗。

真彩「そう? 面白いジャン!」

悠斗「そういうとこだぞ! 軽いノリで人の心を揺さぶるんだから……」

真彩「えぇー、心理学の勉強ジャン。ダメ?」

悠斗「ダメ! 絶対ダメ!」

真彩「チェッ……面白いのになぁー」

悠斗「あのさー、いくら父さんでもダメだからな! 俺、父さんに嫉妬したくないもん……」

真彩「ふっ‥‥‥(笑)」
   
悠斗、真彩の頬を、手の掌でなでる。
そして、その手が真彩の胸に伸び、胸を揉む悠斗。

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