第105話 恋愛詐欺、解決へ

文字数 4,941文字

【走っている車の中】

悠斗、自分の車を運転している。
助手席には真彩が座っている。

後部座席に山下翔太が座り、書類を見て唖然としている山下。

真彩「調査結果見てビックリだわ。優しそうな旦那さんと子ども二人いるなんて……」

山下「はぁ……信じられません。高校時代、俺なんか近付く事も出来なかったマドンナが……何でこんな事になっちゃったんだろう?……何かの間違いであって欲しいです」

真彩「残念だけど、調査結果は事実だから。で、結局、いくら渡したの?」

山下「えーっと、初めは財布に入ってたのを渡して、その次は二万円で、次に会った時にまた二万円渡して、その次は三万円で、その次も……で最後は俺の家の近くに住みたいって事で、引っ越し代三十万円渡して、食事も高いレストラン利用してるから、結局、合わせると、五十万円近く、彼女の為に使いました」

真彩「はぁ、そんな大金を……肉体関係も無いのに。ねぇ、悠斗、どう思う?」

悠斗「あぁ……辛いですね。本当に結婚出来るのなら別に問題ないけど、人妻に子持ちなんて、あんまりですね。完璧な詐欺ですね」

山下、悠斗の言葉に、騙されていた自分を恥じ、しょんぼりする。

真彩「ねぇ、振込口座書いたの、持って来たよね?」

山下「あっ、はい。社長に言われた通り、ちゃんと書いて来ました」
と言って、山下、書いた紙を真彩に渡す。

真彩「お金、取り返さないとね!」

山下「はい。もし可能なら……」

真彩「何言ってんの! 汗水流して働いたお金でしょ?! 絶対に返して貰わないと! 相手の為にもならないから」



【滋賀県・新興住宅街】

約一時間半、車を走らせると、ナビで行き先設定した場所に着いた。

その住所の家は、立派な庭付きの豪邸で、今風の洒落な感じの造りだ。

立派な門の所に、田口と彫られた大きな表札を見る真彩、悠斗、そして山下。

そこは新興住宅地で、周りの家も豪邸が立ち並んでいる。
   
真彩「凄いね、豪邸ジャン!」

悠斗「マドンナさん、滋賀に住んでるから、大阪と滋賀の間とって京都でデートしてたんですね……」

山下「はい……」

真彩「でも、子ども二人居るのに、何て言って家空けてたのかなぁー?」

悠斗「うーん、友達と女子会とか?」

真彩「あぁ、女子会、良いね。日頃の子育てと主婦業頑張ってたら、旦那さんも行かせてくれるよね。私もその手、使おーっと……」
と言って、微笑む真彩。

悠斗、思わず、
悠斗「おいっ!」
と言って、真彩をジロッと見る。

真彩、悠斗に可愛い顔して笑う。

悠斗、山下の顔を見て、
悠斗「さぁ、山下さん、頑張りましょうか!」
と言って、戦闘モードになる。

悠斗、自分に気合を入れる為、空手の挨拶、『押忍(おす)』と言って、ポーズする。

そして悠斗に続いて真彩も、困難に立ち向かう覚悟を込め、『押忍』と言ってポーズする。

悠斗と真彩とは対照的に、
山下「あぁ……嫌だなぁー……」
と、下を向き、憂鬱な顔をしている山下。



【田口家】

家のインターフォンスイッチを押す山下。
インターフォン画面には、セールスと思って警戒されない様に、真彩が立つ。

田口(声)「はい」

真彩「すみません。私、中村と申します。美咲さんはおられますでしょうか?」

田口(声)「あぁ、今、買物に出掛けてますが……ご用件は?」

真彩「では、ご主人様とお話したいのですがお時間、宜しいでしょうか?」

田口(声)「えーっと、どういった内容でしょうか?」

真彩「あの、人に聞かれるとそちらが困ると思うのですが……美咲さんの事についてです」

田口(声)「えっ? あぁ、じゃー、門、開けますので……」
   

田口、玄関から出て来て、門のドアを開けに来る。


真彩、悠斗、山下、田口に会釈する。

そして田口も会釈する。

田口「美咲のどういった件でしょうか?」
と言って、真彩、悠斗、山下を敷地内に招き入れる。


真彩「改めまして、中村と申します」
と言って、田口に挨拶する真彩。

田口は、何故、この三人が家に来たのか、意味不明状態。

真彩「実は……」
と、山下と田口の妻の今迄の出来事を話し始める真彩。

すると田口、真彩の話の途中で、
田口「ちょっ、ちょっと待って下さい。ここじゃー何ですから、家の中にどうぞ」
と言って、リビングに通される真彩、悠斗、山下。



【田口家・リビング】

広いリビングの、応接セットのソファに座る真彩、悠斗、山下。

テーブルを挟んだ向かい側に田口が座る。

真彩、山下と田口の妻の今迄の出来事を全て話し終わる。

田口「信じられません……何で妻はそんな事、したんだろう……」

真彩「あのー、失礼ですけど、お若いのによくこんな立派なお家を建てれましたね」

田口「あぁ、家は立派でないとって、両親も周りの親戚も言うもんで、無理したんです。この辺の田舎は、みんな大きな家なんで……身分不相応な買物って分かっていたんですけど……」

真彩「家計は、実は火の車だったんじゃないですか?」

田口「あぁ……家計は全て妻に任せてたので、分ってなかったです……」

真彩「見栄を張るからこうなったのではないですか?」
   
真彩の言葉に肩を落とす田口。

田口「そうですね……お恥ずかしいです……」

田口、山下の顔を見る。

田口「山下さん、すいませんでした……」
と、田口、突然、土下座して山下に謝る。

すると、玄関のドアが開く音がする。

買物から帰って来た美咲(35歳)と、二人の子ども達の賑やかな声がする。

何にも知らず、リビングのドアを開ける笑顔の美咲。

美咲「只今―!」
   
美咲、田口が山下に土下座して謝ってる姿を見て驚く。

そして、美咲の笑顔は一瞬にして消え、神妙な面持ちになる。

田口「ちょっとすいません……」
と言って、田口、子ども達を二階の子ども部屋に連れて行く。

真彩「美咲さん、こちらにお座り下さい」
と言って、美咲をソファーに座らせる。

美咲、下を向いたまま何も言えず、沈黙の時間が流れる。

要約、田口が一人でリビングに戻って来る。

そして、
田口「ちゃんと、山下さんに謝れ!」
と言って、美咲に指図する田口。

美咲「……ごめんなさい……」

山下、美咲を見て、何も言えず。

すると、山下に代わって真彩が、
真彩「あのー、ごめんなさいで済まされないですよ?! これって犯罪ですよ?! 詐欺罪ですよ?! 十年以下の懲役刑が科せられる重罪ですよ?!」
と、美咲を見て言う。

美咲「……すいません……」

美咲、真彩の言葉に泣き出す。

真彩「山下を騙した様に、泣く演技は止めて下さい」

美咲「……」

真彩「山下が、どれだけ貴女の事を心配したか! 自殺するんじゃないかって、仕事も手に着かない状態だったんですよ?! 人の心をもて遊んで、お金騙し取って、楽しかったですか?」

美咲「……すいませんでした……」

美咲、思わず土下座して謝る。
そして、田口も同じ様に土下座する。

田口「あの、お金、必ずお返しします」

真彩「当たり前でしょ?! 返さなかったら直ぐに警察に被害届出して、この事を公にしますから!」

田口「あぁ、どうか、それはご勘弁ください。必ず、お金、お返ししますので」

真彩「祥太、どうなの? 何か言ったら?」

山下「あぁ、もう良いです。お金返してくれたら警察にも被害届、出しませんから……」

田口「有難うございます……」
と言って、頭を下げる田口。

美咲「……有難うございます……」
美咲も山下に頭を下げる。

真彩「じゃー、これ、彼の銀行口座番号です。ここに一週間以内に入金して下さい。渡した現金と、高級レストラン等で支払ったデート代、合わせて五十万円」

田口「分かりました。早急に、銀行に行って振り込みます」

真彩「祥太、もう何か言う事ない?」

山下「あぁ……大丈夫です」

真彩「では、おいとまします」
と言って、真彩、立ち上がる。

悠斗と山下も立ち上がる。

真彩、美咲を見る。

真彩「美咲さん、山下の心を傷つけた事、一生かけて懺悔して下さいね。貴女にとっては大げさに思うかもしれませんが、山下が受けた心の傷は、一生消えません! その事、忘れないで下さい」

美咲「……はい……すいません……」
と言って、美咲、頭を下げる。

山下、美咲の姿をじっと目に焼き付けている。

美咲、山下の顔を見る事が出来ず、下を向いたまま。

すると、
山下「もう、同窓会で会えないね……残念だよ」
と、ひとこと言って、リビングを出る。
   


【走っている車の中】
   
悠斗、運転しながら、助手席の真彩に話し掛ける。

悠斗「いやーそれにしても、真彩ちゃん、カッコ良かったなぁー。親分って感じだった」

真彩「あのねー、家族同然のウチの社員が被害に遭ったんだよ?! 腹立つジャン。本当は、あの女をぶん殴ってやりたかったよ。この期に及んで噓泣きするし……」

悠斗「えっ? あれって、ホントに噓泣きだったの?」

真彩「男は女の泪に弱いから、泣いたら可哀想に思って貰えて、あわよくば許して貰おうっていう作戦だよ。マドンナって言われて、男にちやほやされて来たんだろうから、御手の物だよ」

悠斗「成程……勉強になります。もし真彩ちゃんが居なかったら、また騙されるとこだったんだ……」

真彩「悠斗も、女に騙され続けて来たからねー」

悠斗「えっ? 俺、そんなに騙されてた?」

真彩「うん。上手く転がされて来たから」
と言って、笑う真彩。

真彩(心の声)「私にだよ!」

山下「すいません。俺が頼りなくて……」

真彩「ホントだよ。もう騙されないでよね、祥太!」

悠斗「おいおい、山下さん、真彩より年上だぞ?!」

真彩「あっ……そうだった。山下さん、ゴメンなさい」
と言って、真彩、後部座席の山下を見て謝る。 

山下「あぁ、いえいえ、とんでもないです。社長は俺の親分に間違いないですから」

真彩「親分は止めてくれる? ヤバイ人間って思われるから」

山下「あぁ、それに、社長に友達扱いされるの、嬉しいんで。祥太って言われたら、嬉しいんで……」

真彩「じゃー、これからも祥太って呼ぼうかな? 祥太は私の子分!」

山下「はい、親分!」
真彩と山下、笑う。

悠斗「おいおい!」
悠斗に笑顔はない。

山下「あの、お兄さんにもご迷惑をお掛けして、本当にすみませんでした。折角のお休みなのに、俺の為に時間を割いて頂いて……それに運転もして頂いて……」

悠斗「あぁ、いえいえ、お役に立てて良かったです。無事に解決して良かったですね!」

山下「はい。社長とお兄さんのお蔭です。俺一人だったら、きっと今もウジウジして、彼女の事を心配し続けて、無駄な時間を過ごしてました。

真彩「困った事があれば、一人で悩まずに、周りの信頼出来る人に相談した方が良いよ!」

山下「はい。そうします。有難うございます」
と言って、頭を下げる山下。

山下「社長は、優しいお兄さんがいて、幸せですね」

真彩「あぁー、うん。優しい兄がいてくれて、幸せだよ」
と言って、真彩、悠斗の顔を覗き見る。

悠斗、微笑む。

真彩「あぁ、今後の為に厳しい事言うけど……騙す側は当然悪いよ。でも、騙される側も何らかの落ち度はあったはずだよ? 思い当たるでしょ? 親切心の中にあわよくばっていう下心あった訳だから……」

山下「……はい……」

真彩「まぁ、辛かったけど、これも勉強だよね。試練を乗り越えた訳だから、また前向いて進もう! 人生色々あるけど、全て勉強、修行だよ!」

山下「はい! 何か、スッキリしました。心が楽になりました。社長とお兄さんのお蔭です。本当に有難うございました!」
山下、また、真彩と悠斗に頭を下げる。

悠斗「でも……山下さんの最後の捨て台詞、めちゃズキッと来ましたよ」

山下「えっ? 何か言いましたっけ???」

真彩「あぁ、『もう、同窓会で会えないね、残念だよ』って言ったジャン!」

山下「あぁ……はい、言いましたね。もう、同窓会には彼女、来れないだろうな?……って思ったんで、何か、可哀想になって、つい、口に出ちゃいました」

真彩「えぇ、そうなんだ、あの言葉って、皮肉で言ったのかと思ったよ。ねぇ、悠斗」

悠斗「あぁ……俺は何とも。唯、山下さんの、寂しい、残念っていう正直な気持ちがあの言葉だったんだと思って……心に響きました」

真彩「祥太は、やっぱり、素直で優しい人なんだね……」
と言うと、後部座席に座っている山下を見て、微笑む真彩。

山下「あぁ、いえいえ……」
山下、真彩に褒められ、恥ずかしそうにする。
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