第114話 杉山と前田、紳士を目指す

文字数 8,209文字

【カフェバー「Route72」】

真彩は、Route72の店主・松本と、楽しそうに話をしながら、松本の手伝いをしている。

料理を運び、ウェイトレス的な事をしている真彩。
瓶ビールを持ち、悠斗の同級生達にお酌をして、時々、会話に加わっている。

真彩も皆んなにビールを勧められ、勧められるまま飲んでいる。

真彩、悠斗が座る席の後ろに行き、後ろから悠斗の肩に抱き着いたまま、悠斗の同級生と話をしている。

すると、悠斗が真彩に耳元で囁く。

悠斗「あの二人に挨拶して来るよ」

真彩「うん……」

悠斗が席を立ち、代わりに真彩が悠斗の席に座る。

   
悠斗、瓶ビールを持ち、杉山と前田が座っているテーブル席に行く。

悠斗「真彩がいつもお世話になってます」
と言って、悠斗、杉山と前田に頭を下げる。

そして、空いてる席に座る悠斗。

杉山「いえいえ、とんでもないです。お世話になってるのは我々の方で、本当に社長にはお世話になってます」
  
悠斗、杉山が持つグラスに、瓶ビールのビールを注ぐ。

杉山「あぁ、すいません……」
と、軽く頭を下げる杉山。

悠斗「真彩から、ご実家が被災されたこと聞きましたけど、お母様はお元気ですか?」

杉山「あぁ、はい、お蔭様で元気になりました。母は社長に優しくして頂いたんで、『またマヤちゃんに会いたい』って、よく言ってます」

悠斗「そうなんですか。じゃー、またお母様に会いに行く様に言いますね」

杉山「あぁ、いやいやとんでも無いです。社長、お忙しいんですから、言わないで下さい。お願いします。母に会う時間を睡眠時間に回して貰いたいので……」

悠斗「そう……ですか? 真彩の身体の事、気遣って下さり有難うございます」
と言って、頭を下げる悠斗。

杉山「いえいえ……」
杉山、首を振る。

悠斗、今度は前田に、
「どうぞ」
と言って、前田のグラスにビールを注ごうとする。

前田、直ぐにグラス持つ。

前田「あぁ、すいません……」
と言って、少し頭を下げる前田。

悠斗にビールを注いで貰い、恐縮する前田。

悠斗「あの、どこかでお会いしましたね?」

前田「えっ? 初めてだと思いますけど……?」
と言って、前田、首をかしげる。

悠斗「あぁ、財界のパーティーあった時、おられましたね?」

悠斗(心の声)「俺の可愛い真彩ちゃんの足、揉んでたよな」
悠斗、嫉妬心が生じる。

しかし、心とは裏腹に、悠斗、微笑んでいる。

前田「あぁ、はい。あの時、社長の運転手兼、雑用係で連れてって貰ったんです」

悠斗「はいはい。という事は、あの大ヒットのカレーフェスタの立役者さんですか?」

前田「えっ?……何でご存知なんですか?」

悠斗「お二人の事は、真彩からよく聞かされるんでね」
と言って微笑む。

杉山「えぇ? それは嬉しいなぁー」

前田「わぁ……光栄です……」

杉山と前田、嬉しそうな顔をする。

杉山「ご兄妹、仲良いんですね。俺なんか、妹となんて滅多に話さないですから。話題も無いですし……」

悠斗「そうなんですか?」

杉山「昔は喧嘩ばっかりしてましたし……生意気な事ばっかり言うもんで……」

前田「俺も妹いるけど、そんなに話はしないです。あの、昔から妹さんと、そんなに会話あったんですか?」

悠斗「あぁ、そうですね……真彩が赤ちゃんの時から話し掛けてたし、真彩が言葉を話せる様になってから、いつも私の脚の上にちょこんと乗って来て、お喋りするんですよ。それが習慣になってて。昔から可愛くてね……五歳離れてるんで、今も可愛くて……」

悠斗(心の声)「あっ、本当のこと言っちゃった。これって、惚気(のろけ)? まっ、良いか」

杉山「いやー、俺、妹のくだらない話を聞くなんて、無理です。絶対、ストレス溜まりますもん……」

悠斗「あぁ、でも、私も一日の出来事を真彩に話すんで……」

杉山「えぇ?……そうなんですか?」

悠斗「はい。結構、良いアドバイスくれるんですよ。一緒になって考えてくれて、喜ばせてくれるし。だから、真彩と話した後は、また明日頑張ろう!……っていう気持ちになって、活力貰えて有難いんです」

前田「あぁ、それ、分かります。社長と喋った後って、何かヒント貰えたり、パワー貰います。凄い遣る気が出るんです」

杉山「あぁ、言われるとそうやな。遣る気になるわな。パワー貰ってるなぁー」

悠斗「それに、真彩は好奇心旺盛だから、面白いんですよ。私の知らない世界や、私には思いつかない発想するんで、勉強になります。えっ、そんな考え方もあるんだ、とか、その角度から見るの?……って感じで、視野を広めて考えたら解決したりして、ヒント貰えて有難いです。真彩に自分の心の器を広げて貰ってます」

杉山「いやー、でも、それは社長だからですよ。俺、自分の妹の戯言なんて、聞けないですよ。勉強にもならないし、愚痴を聞かされるだけだからストレス溜まりますもん。時間の無駄だから、俺には無理です」

前田「あぁ……俺も無理です……って言うか、その前に、一日の出来事なんで話してくれないですよ。聞いたらウザがられて、『キモッ』って絶対言われますもん。『何でお兄ちゃんに話さないとダメなの?!』って言われるのがオチですから……」

悠斗「そうなんだ……」

杉山「お兄さんは、社長の彼氏さん以上ですよね」

悠斗「えっ?……」

杉山「彼氏でも中々、そんな彼女の戯言、聞いてらんないですもん」 
 
悠斗「あぁ、多分、私だから甘えてるんだと思います。彼氏には戯言は言わないと思います」
   
杉山「でも、妹さんが、お兄さんを越える彼氏を見付けるのは、至難の業ですね。ちゃんと話を聞いてくれて、優しくて包容力があるお兄さんと、彼氏さんと、絶対に比べるだろうし……」

前田「あぁ、ホントですね。夜、疲れて帰って来て、彼女さんの一日の出来事を聞ける人って、中々いないですもん。未だ、恋愛中の時は聞けても、結婚して生活に追われるとねぇー……」

悠斗「成程……」

悠斗(心の声)「俺は、何時間でも真彩と話していたいタイプだから、そんな奴は珍しい訳だ」

悠斗「じゃー、真彩は結婚出来ないか、しても離婚かな?」
と言って笑う悠斗。

悠斗(心の声)「俺、真彩の夫ですけど(笑)」

前田「あぁ、そんな事ないと思います。社長は相手の心を感じ取る人だから。前に、『相手の機根に応じて話をしてる』って仰ったので、大丈夫だと思います」

悠斗「大丈夫ですか? 良かったです」
と言って、微笑む悠斗。

悠斗「あぁ、そうそう、前田さんのお母様はお元気ですか?」
と、前田に聞く悠斗。

前田「えっ? 社長、母の事も話したんですか?」

悠斗「あぁ、実は、BES社の清水社長は、遠い親戚に当たるもんでね」
と言って、悠斗、前田に微笑む。

杉山と前田、悠斗の言葉に驚く。

前田「えぇー?! そうなんですか?……という事は、もし母が再婚したら、お兄さんと社長とは遠い親戚関係になるって事ですね?」
と言って、前田、目を輝かせる。

前田「ヤッター! ヨッシャ!」
前田、嬉しくてガッツポーズをする。

前田「超嬉しいです!」
と言って、悠斗に笑顔で言う。

杉山「えぇー、えぇなぁー」
前田を羨ましそうに見る杉山。

杉山「えっ……でも、BES社って、ウチの会社を乗っ取ろうと企んでたんですよね?」

悠斗「あぁ、あれは、周りの役員達が水面下で企んでただけですよ。ウチと清水社長が遠い親戚だなんて、誰も知らなかったですし……」

杉山「そうだったんですか……」
事実を知り、驚いた様子の杉山。
   
悠斗「さて、戻りますね。今日はしっかり食べて、飲んで、楽しんで下さいね!」
と言って、杉山と前田に会釈し、席を立つ悠斗。

杉山「はい。有難うございます」

前田「有難うございます」

杉山と前田、悠斗に会釈する。

悠斗、杉山と前田のテーブル席から離れる。


真彩は、悠斗の同級生達と楽しく会話している。

悠斗が同級生達の所に戻ると、今度は真彩が、杉山と前田のテーブル席にやって来る。


真彩「飲んでる?」

杉山「はい、頂いてます」

真彩「いやー、ホント、ゴメンね。あんな連中に向かって行くなんて、よっぽど勇気要ったと思うから……」

前田「そうですよ。もう、命縮みましたよ」
と、ふてた感じで言う前田。 
  
真彩「確かに。命縮むわ。本当にごめんなさい」
  
真彩、杉山と前田に頭を下げる。

前田「いや、でも、とんだ勘違いで、恥ずかしいんですけど……」

真彩「とんでもない。私を助けようと、一心に来てくれて……嬉しかったし、感謝してる」

前田「まぁ、そう言って頂けると……救われます」

真彩「あぁ、でも、本当に変な連中だったら酷い目に遭わされてたと思うから、あんな時は警察呼んでね!」

前田「あぁ、そうですね。あの時、咄嗟に助けないと!……って事しか頭になくて、無我夢中で、身体が先に動いちゃいました」

真彩、前田の顔を見て微笑み、
真彩「有難うー」
と言う。

そして、
真彩「さぁ、どうぞ」
と言って、テーブルに置いてある瓶ビールを持ち、杉山のグラスにビールを注ごうとする真彩。

杉山「あぁ、有難うございます」
と言って、杉山、グラスを持つ。

そこにビールを注ぐ真彩。

杉山「うわっ、あの、行った事ないですけど、社長が銀座のママに見えます」

真彩「銀座のママ?」

杉山「あぁ、ママって言ったら、社長は未だ若過ぎるか。ホステスと言うべきか? 高級クラブのホステス。あぁ、そこも行った事ないですけど……」

真彩「ホステスねぇー……」

杉山「ビールの注ぎ方、プロですよ。色気ありますもん」

真彩「うーん、じゃー、ホステスになりきろうかな?」
と言って、杉山に近付き、足を斜めにして、銀座のホステスを演じる真彩。

真彩「ねーぇ、剛史ー……お店にずっと来てくれなかったから、私、寂しかった。休みの日、何してたの?」

杉山、『剛史』と呼ばれ、ドキッとする。
嬉しくて、にやつく杉山。

杉山「えぇーっと……何してたかなぁー?」

真彩「あぁー、彼女さんの家に行ってたでしょ?!」

杉山「えっ……あぁ……バレた?」
   
杉山も、真彩の話に合わす。

真彩「私、寂しい。この頃、剛史、冷たいんだもん。全然誘ってくれないから……」
   
真彩、ウルウルした目で杉山を見て、可愛い女を演じている。

すると、
前田「ダメダメ! ダメです。ストップ!」
と言って、前田、両手をクロスさせ、バツのジェスチャーをして、真彩の演技をストップさせる。

前田「ダメですよ、社長! 社長は憑依しちゃうから、ダメです! ホントにもうー……」
と、前田、ちょっと怒った感じで真彩に言う。

真彩「大丈夫だよ。冗談なんだから。遊びでやってんだから……ねっ、剛史!」
と言って、真彩、可愛く首を傾げ、杉山に笑顔を振舞う。

すると杉山、
杉山「前田、何で止めるんや!」
と、ちょっと拗ねた感じで言う杉山。

杉山「今、良いとこやったのに……もっと銀座のホステスやって欲しいのに……そんな所、行く事なんて無いんやから」

前田「あぁ……」
前田、苦笑する。

前田「あの、社長、結構、酔ってますね?」

真彩「ふふっ、今日は楽しくてさぁー。良い仲間と一緒に飲めるって、幸せだよね」

前田「でも、男を手玉に取るのは止めてくださいよ! 悪い癖ですよ!」

真彩「えぇー、悪い癖? そうなの? 徹人……」

前田、自分の下の名前を呼ばれ、ドキッとする。

前田「はい、そうですよ! 悪い癖です。相手をその気にさせる天才なんですから、社長は」

杉山「お前って、社長の事、よく分かってるんやな。社長の二番目の兄貴か?!」

前田「あぁ、社長とここでよく話すから、社長の事、結構、分かってるつもりです。実は、俺も、お兄さん同様に、社長の話、聞くのが好きなもんで……」

杉山「えぇ?……そうやったんか……」

前田「社長の二番目の兄貴になりたい位です。あぁ、でも、そうなったら、きっと、妹の事が心配し過ぎて、過保護になる事、間違いなしです。社長、突然、破天荒な行動起こすから、ハラハラドキドキさせられるんで……」

その言葉に、真彩、前田の顔を見て、
真彩「ふふっ……」
と、笑う。

真彩「あぁ、ちょっと失礼」
と言って、真彩、席を立ち、トイレに向かう。

悠斗も同じ様に、トイレに行く為に席を立つ。
トイレの場所は、悠斗の席の方が近い。



【トイレ前】

トイレは、客席から見えない場所にある。

男女トイレ前にはスペースがある。

そこに真彩が行った時、腕を誰かに掴まれ、壁ドンされる。

壁ドンしたのは悠斗だった。

真彩「えっ?……」
   
真彩、悠斗がそこにいるとは思わなかったので、驚く。
   
悠斗、直ぐに真彩にキスをする。

そして、悠斗、笑顔で男子トイレに入って行く。

真彩(心の声)「もうー、誰かに見られたらどうすんの?!」
と思いつつ、嬉しそうな顔をする真彩。



【杉山と前田が座っているテーブル席】

真彩、松本に作って貰ったジントニックを片手に、杉山と前田が座るテーブルに戻って来る。

前田「それ、何ですか?」

真彩「ジントニック」

前田「ジントニックって、きつくないですか?」

真彩「飲んでみる?」
と言って、前田にジントニックの入ったグラスを差し出す。

前田「あぁ、いやいや、大丈夫です」

真彩「口つけてないから大丈夫だよ?」

前田「あぁ、いや、そんなんじゃなくて……ジンとか、俺にはハードル高くて無理なんで。飲んだらまた寝ちゃいそうで……」

真彩「あぁ、そっか……」

前田「よくそんなきつそうなの、飲めますね?」

真彩「あぁ、これ、前に兄が私の為に作ってくれて、それから好きになっちゃったの」

前田「へーぇ……じゃー、俺もその内、挑戦してみます」

真彩「うん。タッくんが作ってくれるのも美味しいよ。お店によって違うから、合う合わないあるけど、ここのは美味しいよ。ジントニックって、ジンにトニックウォーター合わせるだけなんだけどね。あぁ、あと、ライムと氷があればより美味しく感じるかな?」

前田「へーぇ……」

真彩「ジンとトニックウォーターだけなんだけど、割合って、人によって好みが違うし、あと、ジンの種類、メーカーにもよるからね。

前田「へーぇ」

真彩「兄が初めに作ってくれたのが、イギリスのBEEFEATER。ドライ・ジンで、スタンダードなジンなの」

前田「そう言えば、ジンって何で作られてるんですかね? 原材料、何だろう?」

真彩「大麦、ライ麦、じゃがいもとかのはずだけど。元は、薬用酒として造られたみたいだよ」

前田「薬用酒ですか……」

杉山「ちなみに、ウォッカは穀物で、トウモロコシに、大麦、小麦、ライ麦とかだから、何か、似てますよね。飲み比べした事ないから、違いが分からんけど……」

前田「あぁ、じゃー、ウィスキーは?」

真彩「ウィスキーは、トウモロコシ、ライ麦、小麦……あっ、一緒やん! あぁ、でも、確か、フルーツも入ってたんじゃない? あと、樽に入れるから、樽の香りが加わるよね」

前田「まぁ、兎に角、米と米麹から作られる日本酒とは、味が全然違うという事ですね?」

真彩「まっ、そういう事だね……」
真彩と前田、微笑み合う。

前田「それにしても、皆さん、仲良いんですね。大人になってもずっと同級生と付き合えるって、良いですね。俺、そんな友達は、居ないに等しいから……」

真彩「あぁ、そうだね。あの連中は強い絆で結ばれてるからね」

前田「強い絆ですか……」

真彩「皆んな、色々問題あった連中だから……」

前田「えぇ?」

真彩「一人は、気が弱くて、友達にいじめられてたのを兄が助けて、一人は小学生の時、父親から暴力振るわれてたから、兄が助けに行って……」

前田「えっ? 小学生が大人に立ち向かったんですか?」

真彩「あぁ、兄は私を守る為に空手始めて、合気道、ボクシングもかじってたから、ちょろいもんよ」

杉山「ちょろいもん?!」

前田「スゴッ……」

真彩「もう一人は両親が離婚して、母親の再婚相手と上手く行かなくて家出したり、悪い連中とつるんでシンナー吸ったりで、警察にも厄介になる様になって……で、兄が根気強く向き合って更生させたの」

前田「へーぇ……」

真彩「だから皆んな、兄の事、好いてくれてるの。あぁ、三人共この事、口外しても良いって言ってくれてるから、話してるんだよ」

前田「流石、社長のお兄さんですね……」

杉山「凄いなぁ……俺には絶対無理だわ。自分の事しか考えてないもんなぁ。逆に俺は、面倒な奴は切り捨てるタイプですから……」

真彩「人って、一人じゃ生きて行けないからねー。誰かに支えられ、誰かを支えて、そうやって信頼関係築いて行くから。だから強い絆になって行くんだよね。困った時は無条件に助け合えるし」

前田「一本の細い糸も何本も束ねると太くなって、強くなりますもんね……」

杉山「おぉ、お前、良い事言うなぁー……」

前田「いや、これ、以前、社長が言ってたんです」
と言って、微笑む前田。

しかし、前田、突然、
前田「杉山さん!」
と言って、真顔になる。

すると、杉山、思わず、
杉山「はい」
と、返事をする。

前田「営業部も、俺達で、強くて太い糸にして行きましょう!」
と、前田、力強く杉山に言う。

杉山「おう、そうだな。言葉だけじゃなく、実践しないとな!」
  
前田、杉山の目を見て頷く。

杉山「しかし、社長のお兄さん、カッコイイですね。見た目もだけど、何か、紳士って感じで、品が良くて……」

前田「俺もそう思います。紳士ですよね。優しくて包容力って、素敵なお兄さんですね」

真彩「あぁ、きっと父の影響だと思う。父が紳士だから……」

前田「へーぇ、そうなんですか。やっぱり違いますねー、社長のお家は……」

真彩「あのねー、欧米で生活したら皆んな紳士になるよ?! レディーファースト当たり前だし」
と言って、真彩、微笑む。

杉山「いやいや、それだけじゃないですよ。だって、お兄さん、品がありますもん! それに、妹の一日の出来事を聞くなんて、どんだけ包容力あるんやって感じですよ」

真彩「あぁ、そう言われるとそうね……歳が離れてるから、私の事、可愛くて仕方ないみたい。見てるだけで幸せなんだって言うし」

真彩(心の声)「あっ、惚気(のろけ)てしまった……」

真彩「でも、兄は昔から、私の事、自分のペットと思ってるんだよね……」

杉山と前田「ペット?」

驚いた顔をする杉山と前田。

真彩、二人の驚いた顔を見て、笑う。

真彩「まぁ、私の事を従順な犬だと思ってるか、気ままな猫だと思ってるか、どっちか知らないけど」

直ぐに、同級生達と楽しそうに会話している悠斗を見る杉山と前田。

そして、真彩も悠斗を見る。

悠斗が、真彩、杉山、前田の視線を感じ、熱い視線の先を見る。
そして、笑顔で真彩に手を振る悠斗。

真彩(心の声)「悠斗、私には、メチャ、甘えん坊なんだよね。あれっ? 実は、悠斗の方が私のペットだったりして?(笑)」
   
真彩、笑顔で悠斗に手を振る。

真彩「私がわざとワガママ言っても、めったに怒った事ないんだよね……」

杉山と前田「へーぇ……」

真彩「だって、ペットだから。ペットに怒ってもしょうがないでしょ?」
と言って笑う真彩。

前田「でも、ペットだったら、ちゃんと躾しないとダメですけど?」
と、真彩の話に合わせて冗談ぽく言う前田。

真彩「あぁー、前田さん、ひどーい。私が躾けられてないって?」
   
真彩の言葉に笑う前田。

前田「冗談ですよ、冗談」

真彩「もうー……」
と言って、頬っぺたをちょっと膨らます真彩。

真彩「父の仕事がずっと忙しくて、帰るの遅かったから、兄がずっと父親代わりで、私を躾てくれたんよ。その結果がこれですわ」
と言って、自虐ネタを言って笑う真彩。

前田「いや、ホントに躾たんだ……」

真彩「ペットだから……」
杉山「ペットだから?」

真彩と杉山、同時に言う。

真彩の自虐ネタに、杉山と前田、爆笑する。

楽しい会話に、皆、心地良い気分を味わっている。

杉山「お兄さん、女性にもてそうですね」

真彩「あぁ、モテるね。昔から、めっちゃ……」

前田「男性にも、もてそうですよね」

真彩「あぁ、そうね。人気あったからね……」

前田「俺もあんな風に社交的で、誰にでも優しく接する事が出来る人間になりたいです」

真彩「大丈夫だよ。前田さんなら直ぐなれるよ。お母さんと妹さんに優しいんだから。その優しさを知らない人にも振り向けたら良いだけだよ」

前田「あぁ、そうか……」
と言うと、前田、少し考える。

すると、
前田「やってみます。お兄さんを見習って!」
と、笑顔で言う前田。

杉山「俺も、紳士目指そぉーっと……」
   
真彩、杉山と前田を見て微笑む。
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