第67話 潤先輩と真彩

文字数 3,052文字

【海鮮料理の店】

テーブル席に向かい合って座っている、真彩と佐伯潤(26歳)。
ジョッキをくっつけ、二人、笑顔で乾杯する。

佐伯と真彩「乾杯―!」

真彩「お帰りなさい」

佐伯「只今!」

佐伯「マーちゃんはホント、変わらず可愛いよね……」

真彩「またー! 潤先輩のリップサービス、久々、聞きました」
と言って、笑う真彩。

佐伯「えぇー、リップサービスなんかじゃないよ。本当にそう思ってるから言ったんだよ?!」

真彩「はいはい。じゃー、有難うございます!」
と言って、笑顔の真彩。

佐伯「あぁ、ねぇ、阿部から聞いたんだけど、マーちゃん、今、ハーモニー社の社長やってんだって?」

真彩「あー、そうなんですよ。三年連続赤字の会社の社長やってまーす」
と、面白可笑しく言う真彩。

佐伯「何でそんなん引き受けたん? 敢えて負債背負った様なもんジャン。俺なら絶対断るけど……」

真彩「ですよねー」

佐伯「自分で自分の首、締めてる様なもんだよ?」

真彩「ですよね……でも、伯父に懇願されて、仕方なかったんです……」

佐伯「ふーん。やっぱマーちゃんは凄いわ」

真彩「いやいや、先輩の方が凄いじゃないですか! 大手の商社に入って、直ぐにドイツ赴任なんて、エリート街道まっしぐらですね!」

佐伯「うーん、でもねー。マーちゃんに会えないから寂しかったよ……」

真彩「またまたー。先輩、相変わらずお上手!」

佐伯「いやホントだよ!」

真彩「赴任先って、デュッセルドルフでしたよね?」

佐伯「うん、デュッセルドルフだったけど、その後、ハンブルク」

真彩「デュッセルドルフ、良いなぁー。ドイツは未だ行ってないから、仕事が落ち着いたら遊びに行きたいと思ってるんです」

佐伯「デュッセルドルフも良いけど、ハンブルクも中々、良いよ?」

真彩「そうなんですか? 益々行きたくなっちゃいました」

佐伯「行く時、俺、案内するよ?」

真彩「いやいや、先輩、もう東京勤務じゃないですか!」

佐伯「マーちゃんの為なら長期休暇願い出すから、行く時、言ってよね」

真彩「いやいや、大丈夫です。多分、従姉と行くと思いますから……」

佐伯「従姉さんと仲良いの?」

真彩「はい。今、秘書してくれてます」

佐伯「そうなんだ」

真彩「あっ、会社では赤の他人の振りしてますけどね……」
と言うと、真彩、微笑む。

真彩「旅行に一緒に行くなら、従姉と行くのが一番楽なんで。気を使わなくて良いし、従姉の方がマメで、私の事、本当の妹だと思ってくれてるんです。昔から私の世話するの好きなんで、甘えてます」

佐伯「へーぇ、良いね。俺にはそんな従兄、いないから羨ましいよ」

真彩「私の周りの人達、皆んな良い人なんで有難いです」

佐伯「それはさー、マーちゃんが良い人だからだよ。どんな人にも平等に接して、相手を思いやって、いつも優しいもんね」
   
すると真彩、佐伯の言葉にクスッと笑う。

真彩「いやいや、それは過大評価と言うもんです。私、ある人にはゴンタとか小悪魔、魔性の女って言われてますから。全然、自己中で我が儘な人間ですよ?!」

佐伯「いやいや、俺はちゃんと分かってる。困った人が居たら直ぐに手を差し伸べて優しい言葉掛けるし、自分を犠牲にしてでも他人の為に尽くしてるし、俺はちゃんと知ってるから。だから好きになったんだから……」

真彩「先輩、持ち上げ過ぎです。何も出ませんよ?!」
と言うと、真彩、ニコッと笑い、ビールをグイッと飲む。

真彩「でも先輩は相変わらずですね……」

佐伯「何? 相変わらずって……」

真彩「大学の時からそうやって相手を喜ばせて、女性を落とすの上手だったから。いっつも両手に花でしたもんね……」

佐伯「えっ、そんな風に思ってたの???」

真彩「違うんですか? 私も落とされましたけど?……」
   
真彩、佐伯の顔を見てクスッと笑う。

真彩「モテモテでしたもんね。口調が優しいし、日本人には珍しく紳士ですもんね」

佐伯「あぁ、それは、俺もマーちゃんと同じ帰国子女だからね。マーちゃんはシカゴだったけど、俺はロスだったから。欧米に住んでると自然と紳士になるよね。レディーファーストが当然だから……」

真彩「単なる文化の違いだけど、日本人の女性にしたら、自分が特別に扱われてる様で嬉しくなって、勘違いしちゃいますもんね」

佐伯「あぁ、こっちは普通の習慣なのにね。だから大学時代は勘違いされる事、多かったなぁ」

真彩「私、先輩と付き合ってた時、周りの女子に妬まれましたもん。あぁ、そうそう、先輩、直ぐ、誰とでもハグするから、皆んな勘違いしてましたよ?! 好意ある人からのスキンシップって、女性は弱いですからね……」

佐伯「えぇー?……」

真彩「アメリカではハグなんて只の挨拶なのに、日本ではねー……勘違いされますよ。だからプレイボーイって言われるんですよ。先輩のもて方、半端なかったですからね。大学でナンバーワンだったんじゃないですか?」

佐伯「あのねー、それを言うならマーちゃんもでしょ?! 誰とでもハグしてたから、俺、いつも嫉妬してたもん……」

真彩「えぇ?……」

佐伯「器の小っちゃい男と思われたくなかったからさー、何にも言わずに我慢してたんだよ。でも、内心、はらわた煮えくり返ってた」
  
そう言って笑う佐伯。

真彩「そうだったんだ……あっ、急に機嫌悪くなった時って……そうだったんだ……」
  
佐伯、真彩の顔をじっと見る。

佐伯「モテた事は自覚してるけど、でも俺が本当に好きだったのはマーちゃんだけだよ。マーちゃんとの時間は最高だったよ。何か、癒されるんだよな。だからずっと一緒に居たいと思ってプロポーズしたんだよ。でも、まぁ、振られたけどね」

真彩「あぁ……まだ結婚なんて、大分先の事だと思ってたから……」

佐伯「じゃー、今は? また俺と付き合ってくれない?」

真彩「あぁ……私、もう恋愛、面倒になっちゃって……結婚願望も無いですし、子どもも欲しいと思わないですし……一人が楽だし……」

佐伯「えぇー? 何か、もうアラサー、アラフォー世代的な考えになっちゃったんだね。何があったの???」

真彩「さぁ、何があったんでしょうね?」

佐伯「何か、俺、二回振られたって事?」

真彩「あぁ、そんな振ったとかじゃないですから。唯、私が恋愛に憶病になったというか、面倒になったというか……」

佐伯「えぇー……?」

真彩「兎に角、私はいつも平常心でいたいんです。心動かされるのがしんどくなったんです。ほら、恋愛って、束縛したり、嫉妬したり、相手を自分の所有物みたいに思って、何かあったら相手を責めて……ってなること多いから……」

佐伯「うーん、じゃー、未だ、マーちゃんの心に入り込む隙間はあるって事だね?」

真彩「えっ? 何でそんな発想になるんですか?! 今、言った事、理解して貰ってないですよね?」

真彩、ビールをまたグイっと飲む。 
 
真彩「先輩、東京の人口は今、約千四百万人なんです。都心の人は綺麗で可愛くておしゃれな人が沢山いる訳です。先輩に合った素敵な人が、その内、現れますから! なので、私の存在は消して下さい。お願いします」

真彩、佐伯に頭を下げる。

真彩、顔が赤くなり、目がトロンとしている。

佐伯「マーちゃん、どうしても駄目? 俺と付き合うの……」

真彩「すいません。兎に角、今は、赤字の会社を黒字に立て直す事しか頭に無くて、それ以外は排除してるんで……」

佐伯「そっかー。こんなに好きなのになぁー。でも、分かったよ。今日は取り敢えず、分かった。でも、次会った時、またアプローチするから。俺、諦めないから!……」

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み