第103話 騙され易い人

文字数 1,406文字

【高槻レオマンション・806号室】

悠斗、キッチンに立ち、エプロン姿で鍋の中のシチューを木べらで混ぜている。

リビングには、ちょっと大きめの音量で、洋楽が流れている。

真彩、靴を脱ぎ、リビングに入って来る。
真彩に笑顔はない。

真彩「只今ー!」
真彩、疲れた感じで言う。

悠斗「おぉ、お帰りー!」

悠斗、直ぐにCDレコーダーのリモコンを持ち、音量を下げる。

真彩、洗面所に行き、手を洗い、うがいをする。
そしてリビングに戻り、鞄を持ち、自分の部屋に行く。

部屋着に着替え、リビングに戻って来た真彩。

真彩、直ぐに悠斗の所に行き、只今のキスをする。
そして、悠斗の背後から抱き着く。

悠斗「今日はシチューだよ。真彩の好きな帆立、結構入れた。それと、真彩が好きなカニクリームコロッケ、買って来た」

真彩「有難う……」

真彩、食器を出し、悠斗と一緒に食事の準備をする。

真彩、その後、何も喋らず、黙々とテーブルを拭き、ランチョンマットを置く。
そして、スプーン、箸を並べる。

悠斗、真彩の様子が変なので、ちらちらと真彩を見る。

     ×  ×  ×

食べ終わり、真彩と悠斗、一緒に合掌する。

悠斗「御馳走様でした!」

真彩「御馳走様でした! めちゃ美味しかった」
と言って、悠斗に微笑む。

真彩、食器をシンクに持って行き、洗い始める。

すると悠斗、真彩をバックハグする。

悠斗「ねぇ、どうしたの?」

真彩「えっ?」

悠斗「何かあった?」

真彩「ううん、何もないよ」

すると悠斗、真彩の後頭部に自分のおでこを当てる。

悠斗「また一人で考え込んで……」

真彩「?……」

悠斗「嬉しい時ってさー、一緒に喜ぶから、喜びが倍になるだろ? でも、辛い時や悲しい時ってさー、二人で分けあったら半分になるよ?」

真彩「あぁ……部下の事だから……悠斗に迷惑掛けたくないし……」

悠斗「ほらー、またそうやって一人で考えて込んで、悩んで、一人で解決しようと頑張ってしんどい目するんだから……前にそれ、止めろって言っただろ?」

真彩「……」

悠斗「ねぇ、何があったか、話して? 真彩の力になりたい」
と言って、真彩の横の髪の毛を、真彩の耳に掛けて、首筋にキスをする悠斗。

真彩「実はね……」
と、真彩、今日、山下から聞いた事を悠斗に話す。

食器を全て洗い終わり、タオルで手を拭く真彩。

悠斗、真彩と手を繋ぎ、ソファーに座る二人。

悠斗「山下さん、完璧に騙されてるな」

真彩「だよね? 本人は認めたくないみたいだけど……」

悠斗「そりゃーそうだろ。誰でも認めたくないだろ。自分が騙されてるなんて、信じたくないよな」

真彩「山下さん、女兄妹がいないから、女性が泣いたらどうして良いのか分からないって言ってた。恋愛経験も少ないみたいだから、男性を勘違いさせる様な思わせぶりな言葉とか、ボディータッチも弱いみたい」

悠斗「そうなんだ……」

真彩「悠斗とは真逆だわ」

悠斗「んん? どういう意味?」

真彩「あぁ、何でもない。元へ」
真彩、ひょうきんな顔をする。

悠斗「?!……」

真彩「兎に角、山下さんは、優しくて、女性の経験が少なくて、正義感が強いから騙されちゃったんだよね。それに、憧れの元マドンナが思わせぶりな態度とって来るから、自分が何とかしてあげたいって、ええかっこした訳で……」

悠斗「まぁ、ええかっこしたくなるよな。憧れのマドンナに言われたら……」

真彩「自分は絶対に騙されないって思ってる人の方が騙され易いって言うから、私も気を付けよっと……」
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