第131話 悠斗の後悔

文字数 3,040文字

【ハーモニー社・社長室】

朝一に優衣が、昨夜、悠斗との遣り取りを録音したのを真彩に聴かせている。

全て聴かせ終わって、
優衣「という事ですわ」
と言って、スマホの電源スイッチを切る優衣。

真彩「有難う。でもさー、『面倒でじゃじゃ馬なマーちゃん』で悪かったね」
と言って、頬っぺたを膨らます真彩。

優衣「あらっ、そこ引っ掛かる?」

真彩「まぁ、その通りなんで……」
と言って、真彩、ひょうきんな顔をする。

優衣「悠ちゃんって、やっぱりマーちゃんがいないとダメみたいね。昨日の悠ちゃん、腑抜け男に見えたわ」

真彩「まぁ、でも、ちょっと反省して貰わないとね。今後の為にもね。一生寄り添う訳だから」

優衣「そうだよね。始めが肝心だよね」



【ハーモニー社・高槻店カフェ】

夕方、テーブル席に、スーツ姿の悠斗と、同じ営業部の後輩女性が座っている。

悠斗と後輩女性は、取引先に行った帰りに、この店に立ち寄ったのだった。

悠斗は、ひょっとして、真彩に会えるかもしれないという期待と願望があった。

コーヒーを飲みながら、悠斗と後輩女性は、親し気に話している。

時には笑いありで、後輩女性は悠斗との会話を楽しんでいる様子。

悠斗と後輩女性、コーヒーを飲み終えて、
悠斗「さてと、行こうか……」
と、後輩女性に言う悠斗。

そして、席を立とうとした時、店の従業員達が、ざわざわし出す。

「ヤッター!」という、喜びの声が聞こえる。

嬉しそうな顔をしている従業員達。

従業員達の目の先に、入口から入って来た真彩の姿があった。

従業員達、ニコニコしながら「お疲れ様です!」と、各々に、真彩に挨拶をする。

真彩「お疲れ様です」
と、言って、真彩も店の従業員達に笑顔で会釈する。

悠斗、真彩の声に瞬時に反応し、真彩を見る。

悠斗(心の声)「真彩ちゃーん……会えた……嬉しい……」
悠斗、真彩に見惚れ、真彩にLOVEの念を送る。

悠斗(心の声)「あぁー、真彩に話し掛けたいよー。ハグしたいよー。それにしても、真彩のオーラ、半端ないなぁー。キラッキラ輝いて、すーんごい魅力的。凄いわ。流石、真彩ちゃん」

しかし悠斗、真彩に見惚れてる場合ではない。
会社に帰って、未だやるべき仕事が残っている。

悠斗、飲み終えた自分のコーヒーカップと、後輩のコーヒーカップをトレーに乗せ、返却口に持って行く。

近くに居た店員に、
悠斗「御馳走様」
と言うと、
店員「有難うございます!」
と、悠斗に笑顔で返す。

そして、
後輩女性「御馳走様でした!」
と、悠斗にコーヒーを奢って貰った礼を言う。

悠斗「いえいえ」
と、真彩の事を気にしながら言う悠斗。

スタッフと話をしている真彩を横目に、店を出る悠斗と後輩女性。

真彩、悠斗の後ろ姿をちらっと見る。
   
悠斗、後ろ髪を引かれながら、歩いて行く。

悠斗(心の声)「真彩と話したかったなぁー。ちょっとで良いから、肌、触れたかったなぁー。あーあ、俺、何やってんだ? 大事な、大切な真彩を怒らせて。早く帰って来てくれよ、真彩ちゃーん」
  


【ハーモニー社・茨木店カフェ】

朝一から、真彩、店のスタッフと一緒に、新商品のスコーンの販売を手伝っている。

真彩「いらっしゃいませ! 紅茶のスコーンは如何ですか? ダージリンの紅茶と一緒に食べるのがお勧めです」

真彩が声掛けし出すと、直ぐに行列が出来、又、真彩と一緒に写真を撮りたいという客の要望が入る。

すると、
真彩「喜んで!」
と言って、客サービスに徹する真彩。

この様子は、直ぐにSNSにアップされる。



【MZC社・営業部】

悠斗、自分のデスクで、椅子に座ってスマホを見ている。

SNSで、真彩が沢山の客と一緒に撮った写真がUPされている。

悠斗(心の声)「良いなぁー……チエッ……」

すると、同僚の池本が、悠斗の所に忍び寄り、悠斗が見ている画面を覗き見する。

池本「早く仲直りしろよ!」
と言って、悠斗の肩を揉む池本。

悠斗、池本の急な行為にドキッとする。

悠斗「あぁ……仲直りしたいんだけど、電話に出てくれない。LINE送っても既読にはなるけど、返信ないし……かなり怒ってるから……」
と、しょげる悠斗。

池本「ホント、困った奴だなぁー」

二人の様子を、同じMZC社・営業部の清水千里がじっと見ている。

千里は、悠斗の口から彼女がいるという事を聞いても、相変わらず、悠斗の事が大好きなのだ。

悠斗と結婚して、悠斗との子どもが欲しいと、切に願っている千里。

千里、まるで獲物を狙うかの様に、虎視眈々と、チャンスを伺っている。

池本は、千里が悠斗にアプローチして来たという事を悠斗から聞いていたので、さり気なく千里を見る。

池本(心の声)「清水さん、悠斗の事、未だ諦めて無いんだ……」



【ハーモニー社・社長室】
   
真彩と優衣、PCの電源を落とす。

真彩、ブルーライトカットの眼鏡を外し、目薬を点す。

真彩「お腹空いた!」
と、子どもが母親に言う様な感じで、優衣に言う真彩。

優衣「お腹空いたね。今日は何食べようかなー?」
   
鞄を持ち、社長室を出る真彩と優衣。



【社長室前の廊下】
   
優衣が真彩に話し掛ける。

優衣「ねぇ、マーちゃんが家出して三日経ったけど、未だ帰る気ないの?」

真彩「あぁ、一応、一週間って決めたから」

優衣「ふーん。そっか……」



【高槻駅近くにあるスターバックス】

夕方、真彩と、若くて品のある男性が、二人で楽しそうに談笑している。

ガラス張りの店は、外からでも客の顔がはっきり見える。

悠斗、MZC社・営業部の同僚男性と、その横を通り過ぎる。

悠斗(心の声)「えっ、真彩じゃん。誰だあいつ? はぁ……俺、もう力が出ない……」



【カフェバー「Route72」】

悠斗、一人で店に入って来る。

カウンター席に座る悠斗。

松本「いらっしゃい! あれっ、悠さん、顔色悪いね。ちょっと痩せたんじゃない?」

悠斗「あぁ、ずっと食欲無くて……」

松本「あっ、じゃー、ちょっと待ってて!」
と言うと、松本、直ぐに厨房に行く。

悠斗「……」

悠斗、スマホを出して操作する。

待ち受け画面の、笑顔の真彩を眺めている悠斗。

松本、微笑みながら悠斗の所にやって来る。

松本「はい、シーフードグラタン」
と言って、悠斗の目の前にシーフードグラタンを出す松本。

悠斗「えっ? 新メニュー?」

松本「これ、マーちゃんの為の裏メニュー。前もって来るって連絡くれた時だけ、用意してるんだよ」

悠斗「えっ? という事は、今日来るの?」

松本「あぁ、もうとっくに来て、どっかに行ったよ。今から大事な人と会うって言ってた」
と言った後、口を滑らせた事に後悔する松本。

松本(心の声)「あぁ……ヤべー、余計なこと言っちゃった」

悠斗「そうなんだ……大事な人……か……」
   
寂しそうな顔をする悠斗。

松本「あぁ、で、余ったのをいつも僕が食べてるって訳」

悠斗「あぁ、じゃー、これ、タッくんのジャン」

松本「あぁ、厨房に食べる物、沢山あるから良いの良いの。悠さん、食べて?!」

悠斗「あぁ……じゃー、頂きます」

松本「マーちゃんもこれ食べたって思ったら、嬉しいでしょ?」
と言って、微笑む松本。

悠斗「えっ?……あぁ、嬉しい」

松本(心の声)「素直な悠さん……(笑)」

松本「もうー、早く仲直りしてよね!」

悠斗「仲直りしたいけど、帰って来てくれないから話も出来ないし、真彩、何考えてるか分かんないし」

松本「えぇ? 特殊能力ある悠さんでも分かんないの?」

悠斗「分かんないよ……」
と、ふてた感じで言う悠斗。

悠斗、スマホ待ち受け画面の真彩の写真をじっと見る。

悠斗(心の声)「真彩ちゃん……大好きだよ」


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