第132話 引き寄せの法則

文字数 6,312文字

【ハーモニー社・社長室】

朝、優衣が珈琲を飲みながら、真彩に話し掛ける。

優衣「ねぇ、そろそろ帰ってあげたら?」

真彩「うーん……」

優衣「昨日、Route72 に悠ちゃん来たらしいけど、顔色悪くて、げっそりしてたらしいよ。ずっと食欲無いみたい……」

真彩「えぇー?」 

優衣「タッくんが気を利かせてマーちゃん用の裏メニューの余り出したら、味わって食べてたって言ってた。食べながらマーちゃんの待ち受け画面見てたって(笑)」

真彩「そうなんだ……」

優衣「これ以上長引くと、悠ちゃん、精神にも異常をきたすんじゃない? また、脳に腫瘍出来るかもよ?」
と言って、真彩に、家に帰る様に促す優衣。

真彩「そうだね……じゃー、そろそろ帰ろうかな?」



【カフェバー「Route72」】

夜、真彩の初めての彼氏である中井翔平が、カフェバー「Route72」に来ている。

カウンター席に一人で座っている。

しばらくしてから、真彩が店に入って来る。

中井、直ぐに店の出入口ドアを見る。
そして、真彩の姿を見ると笑顔になり、手招きする中井。

真彩も、中井を見て微笑む。

真彩「ごめん、待った?」

中井「ううん。急に呼び出してゴメンな!」

真彩「今日は仕事、早く片付いたから大丈夫だよ」

中井「良かった。マーちゃんの顔が無性に見たくなってさぁー」

そこに、店主の松本が現れる。

松本「いらっしゃいませ!」
と言って、真彩に微笑む松本。

真彩も松本に微笑み、
真彩「あっ、髪の毛、切った?」
と聞く。

松本「えぇー、よく分かったね。前髪、ほんのちょっと切っただけなのに……流石っす」

真彩「ふふっ……分かるよ」
と笑う真彩。

真彩「翔平君、何飲んだの?」
と言って、中井の目の前の、あと一口で飲み干すだろうグラスを見ている真彩。

中井「アイスコーヒー。マーちゃん来てからアルコール飲もうと思って……」

真彩「じゃー、何にする? 私は生中」

中井「じゃー、俺も生中で」

真彩「あと、何食べる?」

中井「あぁ、何しょう? 俺、こういうの、中々、決められないんだよな」

真彩と中井、メニューを見て考えている。

真彩「じゃー、私のお決まりの、マルゲリータピザとたらこパスタ、半分こして食べない?」

中井「あぁ、良いねぇー」

真彩「じゃー、それ宜しく!」
と、松本に笑顔で言う真彩。

松本「はい、かしこまりました」
と言った後、厨房に向かう松本。

中井、真彩の左薬指にしている指輪が目に入る。

中井「あっ、指輪してる……本当に結婚したんだ」
と、真面目な顔で言う中井。

真彩「えぇ? 嘘だと思ったの?」
と言って、中井の顔を見る真彩。

中井「うん。だって、LINEで結婚したって書いてあったけど、信じ難かったから」

真彩「あぁ、私もビックリなんだよね。この前、翔平君に会った時は、まさかこうなるなんて思ってもみなかったから」

中井「えぇ? そうなの? じゃー、もっと早くマーちゃんを探してたら、俺にもチャンスあった?」

真彩「さぁ、どうかな? でも、今、旦那と喧嘩中でさぁー、家出してる最中」
と言って笑う真彩。

中井「えぇ? 家出? 結婚したばかりで? 家出する位、凄い喧嘩したの? 」

真彩「うーん……凄くは無いんだけどね。事の発端は、私だから。私の頭が朦朧としてた時に、旦那に向かって、別の男性の名前言っちゃったもんでね」

中井「えぇー?! それは喧嘩になるわ。えっ? まさか、浮気したの?」

真彩「まさか! 仏前で、一生添い遂げるって誓い合ったのに、そんな事、する訳ないジャン」

中井「……」

真彩「亡くなった兄が旦那にそっくりで、間違えただけ」

中井「えっ? お兄さん、亡くなったの? あんなにアクティブで、スポーツ万能のカッコイイお兄さんが?」

真彩「?……あぁ……うん」

真彩(心の声)「あぁ、何かややっこしなぁー。翔平君にしたら、私の兄って言ったら、悠斗の事になっちゃうか。悠斗を勝手に殺しちゃった?(笑) でも、翔ちゃんがママのお腹に居る時に亡くなって、ご霊界で成長した翔ちゃんと旦那がそっくりで間違えたって言っても、信じる訳ないよね。普通の人は……」

中井「あの元気なお兄さんが亡くなってたなんて、ビックリ」
と中井、真面目な顔で言う。

真彩、口を噤み、困った顔をしている。

そして、
真彩「あぁ、いやいや、あの、一番上の兄だから」
と、中井に言う。

中井「えっ? お兄さん、もう一人いたの? 二人兄妹って言ってなかったっけ?」

真彩「あぁ、うん。実は、事情があって、別々に暮らしてたから……」

中井「そうだったんだ……」

真彩「うん」
と言うと、真彩、上手く誤魔化せてホッとした表情。

中井「でも良かった、マーちゃん、そんな間違った事をする人じゃないと思ってるから」

真彩「いやいや、間違った事、沢山してる人間ですけど」
と言って、笑う真彩。

中井「正義感で一杯のマーちゃんが?!」
と言って、中井も笑う。

真彩「でも、私が浮気する事は絶対と言っていい位、無いよ。旦那、私にぞっこんだから、私、旦那からの愛で満たされてるもん」

中井「えぇ? でも、今、喧嘩中でしょ?」

真彩「うん。でも、今も彼の熱烈なラブコール、感じてる。あの人、私が居ないと生きて行けないって言う人なの」

中井「へーぇ、喧嘩してるのに、ラブラブなんだね」

真彩「うん。大体、浮気するって、愛情表現不足で寂しかったり、相手に満足してなかったり、束縛されて嫌になったりだけど……あっ、私、束縛されてるか?」
と言って、首を傾げる真彩。

真彩「私も束縛してるかも。でも、ウチの場合の束縛は、嬉しい束縛だからなぁー」

中井「えぇ? 束縛されて嬉しいの?」

真彩「うん。ジェラシー持たれるの、嬉しいよ。愛されてるって証拠だから。あぁ、でも、それは、お互いが好き同士だからだよね。嫌いになった人からの束縛なんて、絶対嫌だもんね」

中井「ふーん。そんなもんかね? 女心はよー分からんわ」

真彩「ふふっ。でも、愛されてるって、ホント、幸せだよ。心が満たされてるから、元気出るしね。パワー貰えるからチャレンジ精神がUPするんだよね。あぁ、私の場合は、だけどね。だから、有難いよ。翔平君は、付き合ってる人いないの?」

中井「あぁ、今はいない」

真彩「そっか。こればっかりは縁だからね」

中井「でも、結婚したいって人、現れるかなぁ? マーちゃん、結婚しちゃったしなぁー」

真彩「あのー、昔、アメリカ人の法律家で、引き寄せの法則を提唱した人がいるけど、ポジティブに考えたら良い事が起きて、ネガティブに考えると悪い事が起きるって」

中井「あぁ、言ってる事は分かるけど、でも、実際に、思考で現実が変わるか?」

真彩「うーん。でも、夢とか目標を設定してたら、ゴールに到達出来なくても、目標に近付くと思うけど?」

中井「まぁ、それは分かるけど……」

真彩「良縁は、やって来るのを待っているだけじゃー、ダメだと思う。自分自身で良縁っていうのを引き寄せないとね。あと、運命的な出会いって言うけど、あれも、引き寄せだから。前世から繋がってるから」

中井「ふーん」

真彩「翔平君が、人に喜ばれる様な良い行いをして行ったら、良い人達が寄ってきて、良いご縁、頂けるよ。きっと」

中井「じゃー、良い行い、していかないとなぁー」

真彩「うん」
と言って、微笑む真彩。

松本が、グラスに入ったビールと、おしぼりを持って来る。

真彩「有難う!」
と真彩が言うと、
松本「早く仲直りしてよね!」
と言って、首を傾げて、真彩の顔を見る松本。

真彩「はーい」
と言って、ちょっと口を尖らす真彩。

松本、微笑む。
そして、別の客の所に、接客に行く松本。

真彩と中井「乾杯ー!」
と言ってグラスを合わせ、そして飲む。

真彩「あぁー、美味しいー!」

中井「あぁー、冷えてて、うまっ」

真彩「あぁ、ねぇ、今、お母様の顔が浮かんだんだけど、お元気?」

中井「えっ? 俺のおかんの顔、覚えてるの?」

真彩「うん。だって、翔平君そっくりだったから」
と言って笑う真彩。

中井「まぁ、似てるってよく言われたからなぁー。あぁ、でも、ウチのおかん、半年前位からずっと体調悪くてさぁー、ちょっと用事しては横になっての繰り返し。ここんとこ、ほぼ、寝たきり状態だって親父が言ってた」

真彩「えぇ? そうなんだ……」

中井「親父、おかんの精神状態も心配してる」

真彩「えぇ、どういう風に体調悪いの?」

中井「あぁ、常に身体がだるい状態で、頭痛あったり、筋肉痛もだし、食欲無いし、あと、肺の方も悪いんじゃないかな? 呼吸し難くなったりするって言ってた。あぁ、あと、時々、手足が痺れるって。お腹の調子も悪いみたい。だから、大分、痩せた」

真彩「わぁ、それはお気の毒だね……辛いよね」

中井「うん。体調悪くなって直ぐに近くの内科に行って、風邪から来たものじゃないかって事で、処方箋の薬飲んでたんだけど、全然、治らなくて。しょうがないから、セカンドオピニオン必要だと思って別の病院に行ったんだけど、やっぱり風邪のウィルスじゃないかって事で、処方箋出してくれて、でも、薬、効かなくて」

真彩「そうなんだ……」

中井「あと、頭痛も治らないから脳神経外科に行って、脳波調べたり、CTスキャン撮ったんだけど、異常ないし、原因不明。なもんで、近くの接骨院行って、血流よくする為に足、揉んで貰ったりしてるけど、全然、良くならなくてね。この前、もし、このまま寝たきりになるんだったら、死にたいって言い出して、ちょっとヤバイ状態」

真彩「それは深刻じゃん……」

中井「実はさぁー、おかんがベッドで横になってスマホよく見てるから、何見てんだろうって親父が気になって、こっそりおかんのスマホ見たら、グーグルの検索履歴、安楽死とか死ぬ権利とか、自殺とか、そういう類、調べてたらしい」

真彩「わぁ……」

中井「親父、それ見て泣いたって。弱音を吐いた事ない親父なのに、そんな事、俺に言うなんてよっぽだなって……」

真彩「ご本人もだけど、周りも辛いよね……でも、そこまで深刻だったんだ……」

中井「うん。親父、畑の作業あるし、家事ってあんまりやった事ないから、悪戦苦闘してるわ。だから俺、休みの日は行く様にして、手伝いしてるんよ」

真彩「そっかー。あのさー、もし良かったら、お母様がそうなる前の生活習慣と、そうなってからの生活習慣、教えてくれる? 朝から寝るまでの行動を」

中井「あぁ……」

真彩に、母親の朝から夜、寝るまでの行動を、思い出しながら言う中井。

真彩、真剣な顔で、聞き逃しの無い様に、しっかり聞いている。

     ×  ×  ×

真彩「じゃー、ご両親は、半年前に静岡に引っ越して、広い土地で畑仕事を遣り出したんだ」

中井「うん。長年の夢だったみたい。親父もおかんも、昔から自給自足の生活に憧れてたから。なのに、夢が叶ったらこれだからなぁ……」

真彩「そうなんだ。あのさー、総合診療科は受診した?」

中井「総合診療科? いや、そういう所は行ってない」

真彩「病院にもよるだろうけど、総合診療科のスーパードクターレベルなら、患者さんの日常生活を細かく聞き出して、体調が悪くなった原因を紐解いて下さるよ。解明して下さったら、処方箋のお薬も違って来るから、早く良くなると思うんだけど」

中井「そうなんだ……じゃー、行く様に言うわ」

真彩「うん。もし、静岡にスーパードクターレベルの先生がいなければ、大阪におられるから、その時はこっちに連れて来たら?」

中井「うん。そうする。わぁ、何か、暗いトンネルから、光が見えて来た感じ」

真彩「あのさー、今、お母様が土いじりしてる姿が頭に浮かんだんだけど……」

中井「えぇ? あぁ、引っ越してから、畑の土作りに精出してたからな……」

真彩「あのー、土の中にも菌がいるからね! 菌に感染する事ってあると思う」

中井「えぇ?! そんなの、聞いた事ないけど……」

中井、真彩の言葉に驚く。

真彩「細菌感染の可能性もあるから、土いじりしてたっていう事も、お医者さんに言った方が良いよ!」

中井「えぇー、そうなんだ、有難う。凄い情報だわ。あぁ、でも、そうかもしれない。だって、引っ越して、畑遣り出してから体調悪くなったから」

真彩「いや、それが直接の原因かどうかは、分からないけどね」

中井「いや、何かそんな気がして来た。絶対それだよ! 何か、突破口が見えて来た。有難うマーちゃん!」
と、まるで水を得た魚の様な感じになる中井。

まだ原因が定かでないにも拘わらず、小躍りする様に喜んでいる中井。

そして中井、嬉しくて、真彩の肩をポンポンしたり、揺さぶったりして、真彩とスキンシップを取って、喜び全開の中井。

真彩(心の声)「お母さんの事、凄い心配してたんだな……やっぱり翔平君は、昔と変わらず優しいなぁー」

真彩と中井は、意気投合し、会話を楽しみ、喜んでいる。

そして、松本が運んで来た料理を半分ずつ分け合い、「美味しい」と言いながら笑顔で食べている二人。

そこに、悠斗と池本の姿があった。

店に入って来た途端、真彩と中井の仲良い姿を見せ付けられた悠斗。

悠斗、しょげる。

池本(心の声)「ヤバッ……悠斗、大丈夫か?」

悠斗と池本、カウンター席に座るつもりだったが、テーブル席の方に行く。

仲良く、楽しそうに喋っている真彩と中井を見て、数日前に、真彩に冷たい態度を取った自分を、大いに反省し、懺悔している悠斗。

悠斗「何でこうなっちゃったんだ? 俺、何やってんだろう……」

悲しそうな顔をする悠斗。

池本、そんな悠斗を見て、益々、悠斗の事が心配になる。

池本(心の声)「これは、マジ、ヤバイな……」

     ×  ×  ×

真彩と中井は、食事を了え、椅子から立ち上がり、会計レジの所に行く。

そして、中井がスマホ決済で支払う。

真彩、財布から現金を出し、自分が食べた分の料金を中井に渡そうとする。

すると、
中井「いや、奢らせてよ」
と言って、真彩が差し出した現金を受け取らない中井。

真彩「いや、割り勘にして?!」

中井「俺が急に呼び出したんだし、それに、貴重な情報、教えてくれたお礼。と言っても、こんな安いお礼じゃー、申し訳ないけど……」
と言って微笑む中井。

真彩「じゃー、ゴチになります!」
と言って微笑む真彩。

悠斗、茫然と、二人の遣り取りを見ている。

悠斗「はぁ……」

腑抜け状態の悠斗。

真彩と中井、微笑みながら店を出て行く。

池本、悠斗を見る。

そして、
池本(心の声)「大丈夫か? こいつ……」
と、益々、心配になる。



【紀香のマンション】

夜、真彩の親友・佐々木紀香のマンションのリビングで、話をしている真彩と紀香。

真彩「明日、帰るわ」

紀香「えっ? そうなん?」

真彩「うん。これ以上、離れて暮らすと、悠斗、病気になっちゃうから」

紀香「ふふっ。お仕置き、終了か」

真彩「有難うね。助かったよ」

紀香「いいえ。また何かあったらいつでもおいでや!」
と言って、微笑む紀香。

真彩、鞄から紀香のマンションのスペアキーを取り出し、紀香に返す。

紀香「それにしても、赤ちゃんの時からずーっと真彩の事を愛し続けてくれてるなんて、有り得ないわ。あんなにカッコイイお兄さんだから、誘惑、沢山あっただろうに……真彩はホント、幸せやな」

真彩「うん。ホント、そう思う」

紀香「まぁー、でも、真彩はそれだけ人間できてて、魅力的やって事やな。ずっと愛し続けてくれるんは、当然なんやろうね。ホント、二人はお似合いだわ。お兄さん、大事にしーや! あっ、旦那様やった」
と言って笑う紀香。

真彩「私はそんな、人間できてないよ……買い被りだよ」

紀香「真彩はホント、謙虚やなぁー。まっ、兎に角、喧嘩せんように、仲ようやりや!」

真彩「うん。有難う」
と言って、紀香に微笑む真彩。


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