第41話 真彩と前田、付き合ってる?

文字数 2,391文字

【ハーモニー社・エレベーター前】

真彩、エレベーターに乗る為にボタンを押して待っている。
手には、自分のマイバッグと、大きめの紙袋を握り締めている。

真彩、頭を少し左右に振り、こめかみを抑える。
そこに、前田がやって来る。

前田「おはようございます!」

真彩「あぁ、おはようございます……」

前田「社長、二日酔いですか???」

真彩、ドキッとする。

真彩「えっ、何で分かるの???」

前田「昨夜、俺もRoute72に居たんですよ?!」

真彩「えぇ?……全然、気付かなかった……」

前田「俺が店に入った時、社長、カウンター席で酔って寝てましたもん……」

真彩「あぁ……見られたか……」

前田「起きてからもまた飲んで、清算終った後、若い男に話し掛けられてたでしょ? ニコラ・テスラの事、語り合いたいって……」

真彩「あぁ、聞いてたんだ……あの人、物理好きでさぁー。前に話し掛けられた時、私、ニコラ・テスラさんに興味あるから、気が合っちゃって……」

前田「あの人、社長の事、狙ってますよ、気を付けて下さいね!」

真彩「えぇ? そう???」

前田「でも、珍しいですね、社長が酔うなんて……」

真彩「あぁ、そうだね……昨夜は酔いたい気分だったから……」

前田「……」

前田、思わず真彩の顔を見る。

エレベーターの表示灯のランプが点き、扉が開く。
真彩と前田、エレベーターに乗る。
その後、数人の社員達も乗って来る。

社員達「おはようございます!」
と、それぞれに、真彩に会釈する社員達。

真彩「おはようございます」
   
真彩も社員達に会釈する。

真彩と前田エレベーターの奥に行く。

前田「身体、大事にして下さいよ! もうあんなに飲んじゃーダメですよ!」
と、前田、真彩の耳元で小さな声で言う。

耳元に弱い真彩は、少し肩を上げくすぐったがる。

真彩「あぁ、うん。分かった……気を付ける。有難う」

前田と真彩の会話は、小さな声で言ったつもりでも、静かなエレベーター内では、しっかり皆に聞こえている。

ピンポーンとエレベーターの着音がなり、殆どの者がその階で降りる。
皆、真彩に会釈して降りる。

真彩も皆に会釈する。
前田も、その階で降りる為、真彩に会釈する。

すると、真彩、ハッとして、咄嗟にエレベーターを降り、
真彩「前田さん!」
と言って、前田を呼び止める。

前田と他の社員達、声の主である真彩を見る。

前田「あ、はい……」
   
前田、振り返って真彩を見る。

真彩、持っている袋を前田に差し出す。

真彩「服、どうも有難う!」
   
真彩、前田に頭を下げる。

前田「あぁ、いえいえ……」
   
前田、袋の中を見ると、明らかにクリーニングに出したと分かるビニールが被さってある。

前田「えっ? まさかクリーニングに出したんですか???」

真彩「うん」

前田「えぇー、そのまま返してくれて良かったのに……そっちの方が嬉しかったのになぁ……」
   
背が高い前田、真彩の目線までかがんで、真彩の反応を見て楽しむかの様に言う。

真彩「?……」
   
前田、真彩に感化されたお蔭で、人の反応を伺い、楽しむ様になっていた。

真彩「そういう訳にいかないよ。私の汗とか皮脂が付いたんだから……」
   
ちょっと恥ずかし気に言う真彩。

周りから見ると、カップルに成りたての二人に見える。

前田「いや、返ってすいません……」

真彩「いえいえ、こちらこそです。タッパも有難うね。カレー、前田さんの顔、思い浮かべて、味わって食べた。めっちゃ美味しかった」

前田「あぁ、また食べたくなった時は、いつでも作りますんで、言って下さいね!」

真彩「ホント? 嬉しい。有難う。あっ、あと、チョコ味のプロテインと、私が大好きなイタリアのチョコ、入れてあるから、良かったら食べてね」

前田「えぇー? 何か……すいません……嬉しいです。味わって頂きます。有難うございます」
  
前田、とっても嬉しそうな顔。

真彩、笑顔で、
真彩「じゃー、今日も頑張ろうね!」
と、前田に向かってファイティングポーズをする。

前田も真彩の真似をして、同じ様にポーズを取る。

否が応でも二人の会話が聞こえる社員達、想像を膨らませ、ニタニタしている。

二人が付き合っているという噂は、その日の内に、あっという間に会社中に知れ渡る。



【社長室】

真彩、社長室で資料作りに没頭していると、誰かが社長室のドアをノックする音が……

真彩「はーい、どうぞー」
と、真彩が言うと、
前田「失礼します」
と言って、前田が社長室に入って来る。

前田「社長、さっき、言い忘れました。昨日はすいませんでした。俺のせいでスパイの濡れ衣着せられたり、清水専務との関係疑われたりで……」

真彩「あぁ、そんなの全然、平気。むしろ面白かったよ。大丈夫だから気にしないでね! 逆に私って信頼無いって分かったし……」
と言って、笑う真彩。

前田「すいません……」
   
前田、頭を下げる。

真彩「で? お母様の方は???」

前田「あぁ、それ、報告しに来たんです。この前、清水社長、実家に来て下さったんですけど、もうラブラブで母、乙女でした。甲斐甲斐しく清水社長の世話して、もう何十年も連れ添った夫婦みたいな感じで、自然体で仲良いんです」

真彩「えぇー、もうそんな仲になってるの?  良く気が付くお母様だからね。何か、展開、早いね。熟年層は恋愛進行早いんだ……」

前田「よっぽど気が合ったんでしょうね。本当に母、喜んでいます。妹もとっても喜んでます。社長のお蔭です。社長がおられないと、こんな出逢いは無いですから。もう、本当に感謝です。母も、社長に足向けて寝れないって言ってます。あぁ、だから、お礼をちゃんと言っといて欲しいって頼まれて……」

真彩「そんなお礼なんて良いのに……お母様ご苦労されたから、これからは幸せになって欲しいね」

前田「はい。本当に。幸せになって欲しいです……有難うございます……全て社長のお蔭です」
   
前田、笑顔で真彩に深く頭を下げる。
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