第51話 殺傷事件

文字数 3,093文字

【原宿】 

真彩と優衣、東京に出張で来ている。

ハーモニー社の東京の店舗を視察し、改善点を探し、販売促進に向けて、従業員達とコミュニケーション取る目的の為に来ている。

リモート会議で従業員達とは顔馴染みだが、実際に会うと親近感が増す。

心理学を勉強した真彩にとって、直接会って、相手の顔を見ながら話を聞くというのは、要不可欠と考えている。

頭痛持ちで身体が弱い真彩だが、率先して行動に移している。

立川店での仕事を終え、最後の視察となる原宿店に向かって歩く真彩と優衣。

優衣「あのさぁー、黙っておこうと思ったんだけど、ずっとモヤモヤしてるから、言って良い?」

真彩「んん? どうしたの? 優衣ちゃんのモヤモヤは気付いてたけど……」

優衣「やっぱり……」

真彩「言いたくないんだって思ったから、聞かなかっただけ……」

優衣「あのさー、一週間前の事だけど……」

真彩「一週間前?……その頃からずっとモヤモヤを我慢してたの?」

優衣「うん。マーちゃんに言ったら気分悪くすると思って……」

真彩「?……一週間前というと、悠斗に関係する事?」

優衣「うん。そう……」

真彩「んん? 病院に悠斗の容態見に行って、優衣ちゃんと会った時?」

優衣「その後……」

真彩「んん? その後、何かあったの?」

優衣「私が悠ちゃんの顔見に病室に行って、出た後、紗季さんが悠ちゃんの部屋に入って行ったんよ」

真彩「そうなんだ……紗季さんに連絡行ったんだ……パパが連絡したのかな?」

優衣「叔母さんは家の用事で一端、家に帰ったから……」

真彩「うん……」

優衣「何か、悔しい!」

真彩「えっ?……何で悔しいの?」

優衣「だあってー、悠ちゃんが目覚めた時、目の前に紗季さんが居るんだよ?! マーちゃんじゃなくて! 当然、悠ちゃんは、紗季さんがずっと傍に居て看病してくれてたと思うじゃない、マーちゃんが命救ったにも拘わらず!」
   
優衣、その時の事を思い出し、腹が立っている。

真彩「なぁーんだ、そんな事?!」
と言って笑う真彩。

優衣「なぁーんだ……って……」

真彩「あのねー、それで良いの。悠斗と紗季さんの絆が深まって、良いジャン!」

優衣「嫌だ。納得いかない!」

真彩「それで良いの!」

優衣「もうー、何でよー?!」

真彩「悠斗と私は、距離を空けてないとダメなんだから」

優衣「ふーん……」
   
優衣、納得いかないとばかりに、不満気な顔をする。

その後、真彩、口数少なく、眉間に皺を寄せ歩いている。

優衣「最後は原宿店。予定通りですね!」

真彩「うーん……予定通りになって欲しいけど……嫌な予感がします。何か、殺気を感じます。空気が悪くなりそうです……何か悪い事が起こりそうです……気配、感じない?」

優衣「えぇ???」
   
優衣、真彩の言葉に驚き、真彩を見る。

しばらく歩くと、真彩が感じた通り、原宿交差点近くになると、不穏な空気が漂っている。
辺りが騒然となっている。

女性「誰か助けてー!」

あちこちから悲鳴が聞こえ出す。
人が何人か血を出して倒れている。

男性「誰か警察、救急車呼んで!」  
   
倒れている人の面倒をみている男性が、大声で周りに叫ぶ。
     
佐藤健(28歳)が、ブツブツ言いながら、サバイバル用のアーミーナイフを振り回している。

佐藤「悪い奴らが地球にやって来る。また連れ去られる……もう終わりだ……」
と、訳の分からない言葉を口走っている。 
  
微かに、パトカー、救急車のサイレン音が遠くから聞こえ出す。

騒然とする中、スマホで撮影している人達もいる。

真彩、佐藤をじっと見ている。

真彩(心の声)「そっかー……この人、人生、狂わされたんだ……」

真彩、佐藤の心の中に入り込んでいる。

優衣、じっと佐藤を見ている真彩に、
優衣「逃げましょ?! ここに居たら危ないです!」
と言って、真彩の手を取り、一緒に逃げようとする優衣。  
 
しかし、真彩、動じない。
逃げようとはせず、じっと佐藤を見続けている。

すると、佐藤、真彩の視線を感じる。

佐藤、方向転換し、真彩の方に向かって、アーミーナイフを振り翳し、まっしぐらに走って来る。

優衣「何してるの?! 早く逃げないと!」
   
優衣、危険を感じ、強引に真彩の腕を引っ張る。

しかし、真彩、微動だにせず、佐藤を注視し続けている。

優衣「もう! 真彩!」
   
優衣、怒鳴る様に真彩に言う。

言う事を聞かない真彩に対して、怒りの優衣。

仕方ないので、優衣、咄嗟に真彩の前に立つ。

そして、両手を広げ、刺される覚悟を決め、目を閉じ、真彩を守ろうとする優衣。

すると、真彩、優衣を後ろに押しのけて、優衣を自分から遠ざける。

佐藤「何見てんじゃー! おぉー!」
と言って、佐藤、ナイフを真彩に振りかざす。

真彩、スッと体を翻し、ナイフを持つ手首を掴み、佐藤に関節技をかける。

地面に落ちたナイフを足で蹴り、遠ざける。

そして素早く体を回転させ、佐藤を地面に押し倒し、瞬殺。

近くに居た人達は、真彩に大拍手を送る。

そこに警察官が来て、佐藤を取り押さえる。

警察官「大丈夫ですか?」
と、真彩に言ったつもりの警察官、真彩の姿が無いので、キョロキョロ辺りを見回し、真彩を探す。

人混みから解放された真彩と優衣。

前を歩く真彩に話し掛ける優衣。

優衣「あー怖かったー。夢見てるみたい。もー何で逃げなかったの?! ホント困ったもんだ」
   
真彩「……」
   
真彩、口を噤んだまま、喋ろうとしない。

真彩、片方の手で、もう片方の手をハンカチ当てて押さえている。

優衣、真彩が何も言わないので、不審に思い、真彩の横に行き、真彩を見る。

優衣「えっ?……何で? 血出てるじゃない!」

真彩「あぁ、ちょっとかすっちゃった」
と言って、苦笑いの真彩。

優衣「いやいや、ちょっとじゃないよ、その血の量は……救急車、呼ぶね!」

真彩「大丈夫。店、もう直ぐだから。傷、深く無いから、着いたら救急箱借りるよ」

優衣「えぇー……?!」  



【ハーモニー社・原宿店カフェ】 

原宿店カフェに着くと、一目散に奥の事務所に向かう真彩と優衣。

不審者が事務所に勝手に入ったと思ったパートの伊藤加奈(32歳)が、
加奈「お客様そこはスタッフ専用なので……」
と言い掛けたが、真彩の血を見て、直ぐに別のスタッフに自分が抜ける事を伝え、事務所へと急ぐ。

そして、加奈、急いで救急箱を用意する。

伊藤加奈は、結婚前は看護師をしていた。
子どもが出来、時間の融通が利くこのカフェに、パートとして働き始めたばかりだった。

真彩が、まさかここの社長だとは露知らず、一生懸命、真彩の手当てをしている。

真彩「ご迷惑かけてすいません……」

加奈「いいえ、とんでもないです……」

加奈、真彩の傷口を消毒し、止血して包帯を巻いている。
慣れた手つきで、素早く包帯を巻く加奈に、驚く真彩と優衣。

そこに、店長の立石直人(39歳)がやって来る。

立石「すいません接客してて……」

テーブルには、血の付いた真彩のハンカチがあり、真彩が加奈に包帯を巻いて貰っている姿を見て、何事かと驚く立石。

立石「えっ、どうしたんですか? 何があったんですか???」

真彩「あぁ、ちょっとナイフが当たっちゃって……」

するとそこに、社員の、加藤哲也(28歳)がやって来る。

加藤「店長、さっきの凄いサイレン、何でか分かりました。そこで殺傷事件があったみたいで、何人か刺されたみたいです!」

興奮気味に、立石の顔を見て言った加藤だが、包帯を巻いて貰っている真彩に直ぐに目が行く。

加藤「あっ……社長……えっ?……えぇー!」
   
加藤、目の前の光景を見て、何が何だか訳が分からず、驚いている。
開いた口が塞がらない加藤。
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