第128話 悠斗の嫉妬

文字数 3,618文字

【ハーモニー社・高槻店カフェ】

社長である中村真彩が、新商品の販売の為、従業員と共に、外で声出しして、販促を率先して行っている。

真彩「只今、新商品のフロマージュを特別価格で販売しております。ダージリンティーとセットでワンコインの五百円、如何でしょうか?」

真彩が店頭に立つや否や、直ぐに人が集まり、列が出来き、大忙しの従業員達。

客「あの、社長さんの Youtubeチャンネル、登録して見てます。面白いですね」

真彩「わぁ、見て下さってるんですか? どうも有難うございます。嬉しいです」
と言って、頭を下げる真彩。

客「あの、一緒に写真撮って貰えませんか?」
と言って、手に持っているスマホを真彩に見せる。

真彩「はい。喜んで!」
   
客、スマホをかざし、真彩と一緒に写真を撮る。

客「ヤッター、有難うございます!」
客は、嬉しそうな顔をしている。

真彩「いえ、こちらこそ有難うございます」
真彩、客に微笑む。

次に並んでいた客も、同じ様に真彩と一緒に写真撮りたいと言い出し、その後も、次から次へと客の要望に応える真彩。



【ハーモニー社・茨木店カフェ】

真彩、昨日の高槻店カフェ同様に、今日も新商品の販売促進の為、茨木店カフェに朝から来ている。

山下店長始め、従業員達と共に、外で声出ししている。

真彩(心の声)「山下店長、立ち直って良かったー。恋愛詐欺で騙し取られたお金も返って来たし、これから良い出逢いがあります様に!」
と、心の中で祈っている真彩。

真彩、ちらっと山下を見る。

山下、笑顔で接客している。
   
高槻店カフェ同様に、多くの客が列を作っている。



【ハーモニー社・豊中店カフェ】

新商品の販売三日目、豊中店・店長の秋田と共に、率先して販売活動をしている真彩。

従業員達も、外で元気よく、笑顔で声出ししている。

店長の秋田が、笑顔で楽しそうに接客している姿を見て、嬉しく思っている真彩。

真彩(心の声)「秋田さんを店長にして良かった。やっぱり適材適所だよなぁー。社長は、活殺自在だな」
   
多くの客が列を作っている。

販売活動が功を奏し、売り上げがUPしている。



【ハーモニー社・社長室】

昼休憩、コーヒーカップを片手に、窓から外を見ている真彩。

そこに優衣がやって来る。

優衣「ねぇ、どうかした?」

真彩「えっ?」

優衣「いや、何か、朝から元気ない様に感じたから……」

真彩「そう? 元気だよ」

優衣「なら、良いけど……」

真彩(心の声)「優衣ちゃん、やっぱり敏感だなぁ」
   
真彩、PCに向かって仕事をし始めようとする優衣を、ちらっと見る。

真彩も自分のデスクに行き、PCを立ち上げる。

優衣の視線を感じる真彩。

真彩「あのー、ここんとこ、まともに悠斗と口利いてないんだよね。何か、避けられてる感じ」

優衣「えっ? マーちゃんが避けられてるって、そんな事、あるんだ。あんなにマーちゃん一筋の悠ちゃんがねぇー。どうしちゃったんだろう?」

真彩「まぁ、向こうが出張だったり、私も接待とかですれ違ってるから仕方ないけど。でも、一緒に居て空気悪いんだよね」

優衣「えぇー」
   
真彩、ため息をつく。

優衣、心配顔で真彩を見ている。



【中村家・リビング】

亜希が真彩の為に、マスカットの香りがする紅茶を用意している。

真彩、キッチンカウンターの所の椅子に座り、焼き菓子を菓子皿に入れ、ケーキをケーキ皿に置きならが、最近の悠斗の態度が変なので、亜希に相談している。

亜希「ふーん。でも、何か原因あるはずでしょ? 悠斗は賢い子だから、訳も分からずに怒るなんて有り得ないし……あっ、それか、ひょっとして前に倒れた時の後遺症とか?」

真彩「ううん、違うと思う」 

首を横に振る真彩。

真彩「私には、心に留めてないで何でも話せって言うくせに、自分は言わないんだから」 
  
亜希「でも、絶対、何か原因あるはずだから時間遡って思い出してみたら?」

真彩「うん……ずっと考えてるんだけど、分からないんだよね」

亜希「分からなかったら直接聞いたら?」

真彩「あぁ、無理。絶対に『何でもない』って、言うよ」

亜希「じゃー、やっぱり心当たりないか考えるしかないね」

真彩「でも、私、悠斗を怒らす様な事、した覚えがないんだけどなぁー」

亜希「……」
真彩が思い出す様に、心の中で祈っている亜希。

真彩「あれっ? いや、まさか……えぇ? ひょっとして?」

亜希「思い当たる様な事、あったの?」

真彩「この前、悠斗、接待で遅くなるって言ってたから、一人でお風呂に入ったの。で、お酒飲んだ後だったから、また、お風呂でまた寝ちゃったんだよね……」

亜希「……」

真彩「で、また翔ちゃんが起こしてくれて、『翔ちゃん来てくれたんだ嬉しい。翔ちゃん、大―好き!』とか何か言ったかも? 私、朦朧としてたから、あんまり覚えてなくて……」

亜希「あぁ、きっとそれだわ。翔だと思って言ったら、悠斗だったんだ。まぁ、良く似てるから仕方ないね……」

真彩「あぁ……そりゃ、怒るよね」
溜息をつく真彩。

真彩「もし逆の立場なら、私も口利きたくなくなるもんね。私の顔見て嬉しそうに知らない女の名前出して、大好きなんて言ったら絶対、めちゃくちゃ腹立つもんね」

亜希「そうよね、そりゃー嫉妬するわ……って言うか、人間不信になるわ」

真彩「愛を誓い合った相手が、別の男と出来てるかも?……ってなるとね。ママ、やっぱり私、結婚に向いてないかも?」

亜希「えっ? 何でそうなる?」

真彩「こういうのが面倒だから、一人が良いって思ってたから。家の中で空気悪くて重たいのって、耐えられないもん。気の流れが停滞して、家が澱む感じ。風通し悪い家、嫌だもん。私、家の中では、いつも平安、平穏、平常心でいたいもん……」

亜希、真彩の目の前に、ヨーロッパの高級カップに入った紅茶を置く。

そして、真彩の横の椅子に座る亜希。

真彩、紅茶の匂いを嗅ぐ。

真彩「わぁ……良い香り……癒されるー」

亜希「ホント、良い香りだよねー」

真彩「このケーキね、新商品なんだよ」

亜希「へーぇ、あの生クリームが美味しいお店でしょ?」

真彩「そうそう」

真彩と亜希、紅茶を飲み、ケーキを食べる。

亜希「Mmm, delicious!」

真彩、亜希の嬉しそうな顔を見て微笑む。

すると亜希、突然、真面目な顔をして真彩を見る。

亜希「真彩、これも修行だよ! 人生は修行なの。修行する為に生まれて来たんだから、どんな困難にも立ち向かわないとね。面倒だからって、楽な道を選んだら修行にならないでしょ?」

真彩「修行ねー。分かっちゃいるけど、そうだね、死ぬまで修行だもんね。苦手な事を克服して、どんな困難も乗り越えないとね」

亜希「そうそう。立ち向かえ、我が娘よ!」
と言うと、亜希、握り拳の手を上に挙げ、真彩の顔を見てニコッとする。

真彩「いやママ、ジャンヌダルクか?!」
と、突っ込み入れる真彩。

真彩(心の声)「私、ママに似たのか……(笑)」

真彩と亜希、顔を見合わせ、笑い合う。

亜希「でも、悠斗は、本当に真彩の事が好きで好きでしょうがないんだね」

真彩「えぇ?」

亜希「真彩を初めて見た時に一目惚れしちゃったからね」

真彩「あぁ、悠斗、そんな様な事、言ってたなぁー。でも、赤ちゃんに一目惚れなんて」
と言って、笑う真彩。

亜希「本当だよ?! 初対面の時、あの子、一日じーっと真彩を見て、可愛い、可愛いの連呼だよ。幼稚園にも行こうとしないんだもん。真彩と離れたくないって毎日泣かれてさぁー、ホント、困ったよ」

真彩「へーぇ、そうだったんだ……」

亜希「家に帰って来てからも、ずーっと真彩を見てるんだよ?! 取り憑かれた様に見てたよ。(笑)真彩と離そうとすると泣き叫ぶし、ホント、大変だったんだから」

真彩「そうなんだ……」

亜希「それでさー、おむつ変え、自分がやりたいって言い出して、ミルクも離乳食もママがあげようとしたら、悠斗がするって、言い出したらきかないし、お風呂も絶対、真彩と一緒に入って身体洗ってあげてたし、ホント、自分のオモチャと勘違いしてたのかもね」

真彩「いや、オモチャと言うより、生きてるからペットだよ」
真彩と亜希、笑う。

亜希「そうねー、ペットだったよね」

真彩「私、ペットだったら犬かな? 服従するから」

亜希「小学校に上がっても、学校から帰って来たら直ぐ真彩を探して、一緒に遊んであげてたし、お昼寝の時は、自分のお腹に真彩を乗せてヨシヨシしながら一緒に寝てたし、まぁ、ペットっちゃー、ペットだね」

真彩「私、覚えて無いけど……」

亜希「そりゃそうだよ。あぁ、でも、大きくなっても真彩を連れ回してたよね。真彩もずっと悠斗の後を追いかけて……懐かしいなぁ……二人共可愛かったなぁー」

真彩「あぁ……悠斗が傍に居ないと不安になったからね……」

亜希「悠斗、大人になったら真彩と結婚するって、ずっと言ってたもんね……」

真彩「うん、言ってたね」

亜希「紆余曲折しながらも、本当によくここまで辿り着いたと思うよ」

真彩「そうだね……」


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