第86話 プロポーズ

文字数 3,926文字

【高槻レオマンション・806号室】

夜、真彩、ベッドに寝転んで本を読んでいる。

スマホに、メッセージが届いたという着信音が鳴る。

直ぐにスマホを手に取り、チェックする真彩。

真彩(心の声)「あっ……優衣ちゃん……」

<明日、 タッくんの店で、昼食兼ねた新メニューの試食会があるから、強制参加だって! 行けそう?>

優衣からのメッセージだった。

真彩(心の声)「試食会???」

真彩、直ぐに優衣に返信する。

<うん。大丈夫>

すると、直ぐに優衣から、
<良かった。ねぇ、その前にショッピングに付き合って? OKなら、十時にいつもの所で待ち合わせで!>
と、メッセージが届く。

真彩、直ぐに、
<了解>
と返信する。



【阪急高槻店】

真彩と優衣、二人でショッピングを楽しんでいる。

靴売り場に立ち寄り、ウォーキングシューズを探している優衣。
真彩も一緒に、優衣のお気に入りのメーカーシューズを探している。

優衣「ねぇ、これどう思う?」

真彩「あれっ? デザイン、ちょっと変わった?」

優衣「えぇ? そうかな? 変わってないと思うけど……」

真彩「あぁ、そう。良いと思う。優衣ちゃんに似合ってる」

優衣「そう? じゃーこれ履いてみよっと」
と言って、靴を履いてみる優衣。

     ×  ×  ×

その後も、雑貨店で面白い物探しをする真彩と優衣。
変わった商品を見るのが大好きな二人。
特に、新商品には興味がある。

真彩「お腹空いて来ちゃった……」

優衣「えっ? 朝食、抜いたの?」

真彩「あぁ、コーヒー飲んだだけ。悠斗の朝食はちゃんと作ったんだけど、顔合わせたくなかったから、飲んで直ぐ、家、出た……」

優衣「そうなんだ……」

真彩「あっ……でも、そう言えばイートインのパン屋さんで黒ゴマ入りチーズパン食べたんだった。あぁ……大丈夫か? 私……」

優衣「?……」
心配そうな顔で、真彩を見る優衣。

真彩、何かを考えている様子。


(回想始まり 真彩の夢)

高槻レオマンションの、建物の前に居る悠斗と真彩。

悠斗が真彩に背を向ける。

真彩「悠斗、行かないで?!」
   
真彩、泣きながら悠斗を引き留める。

真彩のお腹は大きい。
悠斗との、新しい生命が宿っている。

しかし、悠斗、後ろを振り向かない。
真彩の言葉に無反応。

そこに、綺麗な女性が微笑みながら、悠斗の目の前にやって来る。

そして、女性が悠斗に手を差し出す。

悠斗、その女性の手を握り、真彩に背を向けたまま、その女性と一緒に歩いて去って行く。

真彩「悠斗、行かないで! お願い!」

真彩、その場に泣き崩れ、号泣する。

(回想終わり)


真彩、現実とも思える夢を思い出し、ボーッとしている。
   
真彩の様子を見て、
優衣「マーちゃん、大丈夫?」
と心配そうに言う優衣。

優衣は、真彩が熱性けいれんで意識を失った後の様子と似ていたので、脳に支障がないか心配だった。
   
真彩は、頭の中で過去回想し、昔の事が走馬灯の様に前頭葉に映っていた。

真彩、ふと我に返り、
真彩「えっ? あぁ、大丈夫だよ」
と、愛想笑いする。

優衣「……」
優衣、真彩の顔をじっと見る。

真彩「で? タッくんの店に何時って?」
と、優衣に尋ねる。

優衣「あぁ、一時頃って言ってた」

真彩「新メニューの試食会って、今迄やった事ないよね。初めてだね」

優衣「あぁ、そうね。後でアンケートあるらしいから、味わって食べないとね!」



【カフェバー「Route72」】

店に、真彩と優衣がドアを開け、入って来る。

松本「いらっしゃい!」
と、松本、笑顔で二人を出迎える。

真彩「表に貸し切りって書いてあったけど、こんなの初めてだね」

松本「へへーっ、そうなんだよね。あぁ、座って、座って?!」

すると、厨房から、髙橋勇也が出て来た。
勇也、料理が乗った大皿を、両手で持っている。

真彩「あぁ、勇也も来てたんだ……」
と言って、勇也を見ている真彩。

勇也「あぁ、うん。タッくんからHELPのLINEが来たから……」
と言って、ちょっとひょうきんな顔をする勇也。

勇也(心の声)「姉ちゃんの言った通りだ。マーちゃんの目、死んでる。いつもの元気はどこ行った?」

松本、セッティングしてある椅子に真彩を座らせ、真彩の肩を揉む。

松本「あぁ、マーちゃん、肩凝ってるね……」

真彩「うん。右肩が特にね……」

優衣は、テーブルに並べられている料理を見に行く。

優衣「わぁー、凄い! みんな美味しそう!」

真彩「試食会って一時からだよね?」
と、松本に尋ねる真彩。

松本「そうだよ」

真彩「もう過ぎてるけど……えっ?‥‥‥試食会って私達だけ?」

松本「うん。そうだよ!」
   
松本、真彩の肩を揉みながら、微笑んでいる。

真彩「えぇー?……じゃー、責任重大だね。私、今日、味覚大丈夫かなぁー? 頭、ボーッとしてるから。店の売上が掛かってる訳だもんね……」

松本「そんな、仕事モードにならなくて良いから。気楽に食べて?!」
と言って、笑顔の松本。

勇也「これで悠ちゃんがいたら、Falcon全員集合だね!」
と、勇也、大きな声で言う。

すると、
悠斗「悠斗、いるよー!」
と言って、ひょうきんな感じで、厨房から笑顔で皆の所にやって来る。

悠斗、スーツ姿でビシッとカッコ良く決めている。

真彩の肩を揉んでいた松本、悠斗の姿を見ると、直ぐに真彩の肩から手を離し、真彩から少し距離を空ける。

真彩「えっ?……」
   
真彩、悠斗の姿を見て、一人、驚く。

優衣、松本、勇也は、計画通りに進み、微笑んでいる。

   
悠斗、真彩の目の前に来る。
そして、片膝つき、椅子に座っている真彩を見詰める。

真彩「……んん、何???」

真彩、戸惑い、体をのけぞる。
状況が分からず、何が何だか理解出来ていない真彩。

悠斗、上着ポケットから指輪が入っている小さい箱を取り出し、それを開けて、真彩に見える様にする。

悠斗「真彩さん、私は、真彩さんの事が大好きです。愛しています。結婚して下さい。お願いします!」
と、悠斗、ストレートに、真彩の顔を見て言う。

指輪の、大きなダイアモンドがキラキラと輝いている。

真彩「あぁ……だからそれは……断った」
と、真彩が言い掛けると、その言葉を塞ぐ様に、
悠斗「俺は、死ぬまで真彩しか愛さないし、愛せないから。浮気なんて絶対にしないから。子どもが出来ても、俺はちゃんと一緒に育児するし、家事もするから」

真彩「?……」

悠斗「それに、育児で困ったら、母さん、お祖母ちゃんが救けてくれるよ。Falconの皆んなも助けてくれるって言ってくれてるし……」

優衣「そうだよ、マーちゃんは独りじゃないんだからね!」

勇也「俺も子守りするし……」

松本「僕も料理作ったり、マーちゃんの手伝いするから!」

悠斗「周りの皆んなが助けてくれるよ?! だから心配しなくて大丈夫だよ」

優衣、松本、勇也、頷いている。

真彩「でも……」
と、ぼそっと言う真彩。

真彩、困惑顔で、下を向いている。
悠斗の目を見ようとしない。

悠斗「真彩は、父さん、母さん、お祖父ちゃん、お祖母ちゃん、そして俺から沢山の愛情、一杯受けてるの、解かるだろ? だから真彩は、人一倍、愛情深くて、誰に対しても平等で優しくて、慈悲深い人じゃないか」

真彩「……」

悠斗「だから、子どもが出来たら、たっぷりの愛情、その子に注げるはずだよ。何にも心配要らないよ。俺が真彩を全力で支えるから。俺、命賭けて真彩を守るから!」

真彩「……」
下を向いてる真彩の目から、涙が零れ落ちる。

悠斗「それに、俺、長生きするから! 真彩の事、守る為に長生きするから! だから、真彩、俺と結婚して下さい。お願いします」
と、悠斗、真剣に言う。

真彩、泣いて何も言えず。
そんな真彩に、ティシュを渡す優衣。

悠斗、真彩が言葉を発するのをじっと待っている。

優衣、松本、勇也も、固唾を呑んで真彩を見ている。

― しばらく沈黙の時間 ―

真彩、顔を上げ、やっと口を開く。

真彩「本当に私なんかで良いの?」
と言って、悠斗を見る。

すると悠斗、
悠斗「真彩でないとダメなの!」
と優しい口調で真彩に言う。

真彩、瞬きすると、目に溜まっていた涙が頬を伝わり、零れ落ちる。

悠斗、真彩の手を握り、
悠斗「真彩でなきゃ、俺はダメなんだよ。ずーっと、死ぬまで俺の傍にいて欲しい」
と懇願する。

真彩「……私を捨てて、綺麗な女の人とどこかに行かない?」
と、ちょっと口を尖らせて言う真彩。

悠斗「絶対にそんなことしないし、する訳ないだろ?!」
と、優しく、諭すかの様に言う悠斗。

真彩「ホント?」
と言って、悠斗の目を見る真彩。

小さい頃の様に、悠斗に甘えて、拗ねた子どもの様な言い方になっている真彩。

悠斗「あぁ、ホントだよ。神様、仏様に誓って、ホントだよ!」
と悠斗、微笑みながら、優しい口調で言う。

悠斗「真彩、結婚してくれる?」
と、悠斗、ちょっと首をかしげて、真彩の目を見る。

すると真彩、悠斗の目を見て、
真彩「……はい……」
と言い、頷く。

その瞬間、優衣、松本、勇也が歓喜の声を上げる。

「ヤッター! おめでとうー!」
「良かったー! おめでとう!」
「おめでとう! 良かった……」

めでたい言葉が飛び交う。

それぞれに喜びのジェスチャーをし、真彩と悠斗に拍手を送り、踊り出す。

悠斗、ホッとした表情。

そして悠斗、ダイヤの指輪を手に取り、真彩の左薬指にはめる。

悠斗、立ち上がり、両手を広げて真彩を見る。

真彩、立ち上がり、悠斗の広げた腕の中に入る。

そして悠斗、真彩の唇に優しくキスをする。

優衣、松本、勇也、
「ヒューヒュー」
「ヒュー!」
と、指笛を鳴らしたりして喜び合う。

その後、店内ではどんちゃん騒ぎとなる。

ビジュアル系バンド、Falcon の音楽が流れ、皆んな踊り出し、盛り上がる。

笑顔ではしゃぐ、悠斗、真彩、優衣、勇也、松本。

皆、楽しく、幸せな時間を味わっている。
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