第99話 老女、石田

文字数 1,593文字

【真言密教寺院・真正寺】

真正寺の門前辺りで、白い杖を持ち、杖で地面を軽く叩きながら歩いている石田幸(82歳)。

幸は、本堂に行く為の階段の場所を探している。

真正寺の駐車場に、二人乗りのバイクが停車する。
悠斗が運転するバイクの後ろに、真彩が乗っている。

真彩、駐輪場に着くや否や、ヘルメットを脱ぎ、
真彩「石田さんのアテンドするから、先に行ってて?!」
と言って、ヘルメットを悠斗に渡す。

悠斗「あいよ!」
と、笑顔の悠斗。

悠斗は、バイクで本堂まで行ける細い道を行く。

真彩、ダッシュで幸の所に行く。

真彩「石田さーん!」

幸、直ぐに真彩の声だと分かり、声が聞こえる方向を見る。

真彩、ダッシュしたので、「はぁはぁ」言いながら幸の目の前にやって来る。

真彩「石田さん、おはようございます!」

幸「あぁ、真彩様、おはようございます! お会い出来て嬉しいです」

真彩、直ぐに、慣れた手つきで幸の手を取り、真彩の腕に掴ませる。

そして、白い杖を真彩が持ち、石田のもう片方の手を階段手摺に誘導する真彩。
一緒に、ゆっくり階段を上る真彩と幸。

真彩「石田さん、前にも言ったけど、真彩様じゃなくて、真彩で良いんだから、『様』付けは止めて貰えないですか? 人生の大先輩である石田さんに『真彩様』って言われるのって、恐れ多いし、恥ずかし過ぎるんで……」
と、優しい口調で言う真彩。

幸「いえいえ、『真彩様』ですよ! 真彩様は人間のお姿をしたみ仏様ですから」

真彩「いやいや、そんな畏れ多い。とんでもないです。私、業が深くて罪深い、最悪の人間ですから!」
と言って、真彩、力強く否定する。

幸「私の目は悪いですけど、真彩様の後ろにはちゃんと後光が射していて、いつも輝いておられます。真彩様は特別な方です」

真彩「もうー……本当に、私、石田さんが思う様な素晴らしい人間じゃないですから」
と、言うと、幸、微笑んでいる。

真彩「あぁ、石田さん今日はお護摩申し込まれたんですね?」
と言って、石田の顔を見る真彩。

幸「はい。私の心を浄めて頂く為に。それに、お護摩で、眼が見えなくなるスピードを遅くして頂いてるんで……」

真彩「あぁ、網膜色素変性症ですよね。遺伝子のキズによって発症したんでしたよね。有効な薬が一分一秒でも早く開発されると良いですね」

幸「はい。そう願ってます。でも、お護摩でこれ以上悪くならない様にして頂いてるんで、有難いです」


幸と真彩、楽しく会話している内に、本堂前に着いた。


幸「真彩様、どうも有難うございました。もう、後は勝手知ったるで、大丈夫ですので、亜希様のお手伝いに行って下さいね!」
と言って、幸、真彩に頭を下げる。

真彩「じゃー、また何か困った事があれば、声出して、呼んで下さいね!」
と言うと、真彩、持っていた幸の白い杖を、幸の手に持たす。

幸「有難うございます」
と言って、微笑みながら真彩に頭を下げ、本堂に向かう幸。


賢人が、真彩の姿を見るや否や、
賢人「まやせんせ―!」
と大きな声で叫び、真彩の所に走って来る。

すると真彩、両手を広げ、賢人を抱き上げる。

真彩「おはよう、賢ちゃん!」

賢人「おはよう、まやせんせー」
   
賢人の母親・井上沙耶が、真彩の所にやって来る。

沙耶「おはようございます。すいません。賢人、重いのに……」

真彩「大丈夫ですよ!」

沙耶「もうー、賢人、真彩さんの事、お友達と思ってるみたいで……」

真彩「あぁ、この前、真正寺幼稚園でボランティアした時、賢ちゃんと沢山遊んだから……」

賢人「うん。あそんだ」
と言って、賢人、頷く。

真彩「お友達なんだよねー!」
と言って、真彩、賢人に微笑む。

賢人「うん。おともだち」
と言って、賢人、また、嬉しそうに頷く。

沙耶「賢人、真彩さんの事が大好きで、家でもよく、真彩さんと一緒に遊んだ時の話をするんですよ」

真彩「そうなんだー、嬉しいなぁー。賢ちゃん、また一緒に遊ぼうね!」

賢人「うん!」

笑顔の真彩と賢人。
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