第127話 前田からの結婚祝い

文字数 4,144文字

【ハーモニー社・営業部1課】

杉山が、前田に小声で話し掛ける。

杉山「なぁ、社長の指、見たか?」

前田「えっ? あぁ、光ってましたね。俺の目には眩しかったです」

杉山「左薬指って事はだな、婚約指輪か結婚指輪だよな?」

前田「社長の親友曰く、結婚したそうです」

杉山「えぇー、やっぱりそうなのか……残念過ぎる」

前田「残念ですけど、でも、雲の上の存在だったから、幸せになって欲しいです」

杉山「あぁーあ、俺の推しが……」



【カフェバー「Route72」】

夜、真彩と優衣、そして店主の松本が、テーブル席で談笑している。

そこに、前田、百貨店の大きな紙袋を持ち、一人で店に入って来る。

真彩「あっ、前田さんだ」
真彩が前田に気付く。

すると前田、笑顔で、真彩達が座るテーブル席の方にやって来る。
そして、真彩、優衣、松本に会釈する。

真彩「ここ座ったら?」
と、前田に笑顔で言う真彩。

前田「あぁ、すいません。お邪魔します」

松本「何飲みます?」

前田「あぁ、じゃー、生中を……」

松本「はい。かしこまりました」
と言って、席を立つ松本。

前田、突然、
前田「あのー……」
と言って、百貨店の大きな紙袋を真彩に渡す前田。

前田「あの、タッくんから、社長がご結婚されたって聞いて……」

真彩「あぁ、そうなんだよね。私、遂に人妻になっちゃいましたー」
と言って、面白可笑しく言う真彩。

前田「なので、結婚祝いです。おめでとうございます!」

真彩「えぇ? いやいや、大丈夫。気を使わせちゃってゴメン。気持ちだけ受け取るから」
と言って、受け取りを拒む真彩。

前田「いやいや、受け取って下さい」

真彩「結婚は、公にしてないし。二人だけで仏前で誓っただけだから」
と言って、遠慮する真彩。

前田「いや、社長には本当にお世話になりっぱなしで、俺の人生も、家族も、良い風に変えて頂いて、こんなんじゃ感謝の気持ち、全然、足りなくて恥ずかしいですけど、でも、今の俺には精一杯の気持ちです。受け取って頂けると嬉しいです」 
 
真彩「えぇー、何か、悪いね。じゃー、すいません、遠慮なく頂きますね。有難うございます」
と言って、前田に頭を下げる真彩。

前田「良かった……」
真彩が受け取ってくれて、ホッとした表情の前田。

真彩「見て良い?」
と言って、受け取った紙袋を見る真彩。

前田「はい、勿論」

真彩「何だろう?」
と言って、取り出し、品物の包装紙に付いているテープを綺麗に剥がして、丁寧に開けようとしている真彩。
   
そこに、松本が、前田の為に生中のビールを持って来る。

松本「どうぞ!」
と言って、ビールが入っているグラスを、前田の前のテーブルに置く松本。

前田「有難うございます」

そして松本、さっき座っていた席にまた座る。

真彩「タッくん、前田さんが結婚祝い下さった」

松本「へーぇ、何?」
と言って、お祝いの品に目を遣る松本。

すると、
真彩「あぁー、ポーターの鞄だ」
と言って、真彩、その鞄を眺める。

前田「社長、ブランド品には興味ないけど、吉田鞄のポーターはいつも持っておられるので、使って頂けるかな?……って思って」

真彩「うんうん、使う使う。嬉しい。有難う!」
と言って、笑顔の真彩。

優衣「マーちゃん好みのデザインだね」
と言って、微笑む優衣。

松本「ホントだ」
松本も微笑んでいる。

紙袋の中に、未だ品物が入っているので、
真彩「未だ何かあるの?」  
と言って、真彩、浅い箱に入った物を取り出し、開ける。

真彩「わぁ、スカーフ。素敵だね」

前田「社長、寒がりだし、皮膚弱いから、敏感肌の人に対応のスカーフです。色も、社長の好きな青と淡い紫だから、結構、どんな服にも合うかと思って……」

真彩「前田さん、私の彼氏か? 私の事、よくご存じで」
と言って笑う真彩。
   
そして、早速、スカーフを首に巻く真彩。

真彩「わぁ、ホントだ。肌に優しくて気持ち良いわ。ちゃんと考えてくれて、有難う」
と言って、ゆっくりと頭を下げる真彩。

前田「どう致しまして」

優衣「よく似合ってるわ」

松本「うん。ホント、よく似合ってる」
 
真彩、紙袋を見る。

真彩「未だ何かあるんだけど、何だろう?」

真彩、可愛い袋に入っている物を取り出す。

真彩「えっ?」
真彩、驚いた顔をする。

前田「あぁ、それ、Falconっていう、俺の推しバンドのCDと、ゆるキャラぬいぐるみです」
と、笑顔で言う前田。
   
真彩、思わず、優衣と松本をチラ見する。

前田「ここ数年、活動休止してたんですけど、最近、活動再開して、新曲出したんです。関西の伝説のバンドなんで、社長、知らないと思うんですけど、良い曲が多いんです」

真彩「あぁ、よく知ってるよ。私もファンだから」

前田「えっ? ホントですか?! 嬉しいなぁー。あぁ、このゆるキャラ、可愛いでしょ?!」
前田、どや顔で嬉しそうに言う。

真彩(心の声)「このゆるキャラ、私が考えたんですけど(笑)」

真彩「うん。めーちゃ可愛いー!」
と、大げさに言う真彩。

真彩(心の声)「自画自賛か?(笑)」   

そして、真彩、優衣と松本を見て、
真彩「優衣ちゃんも、タッくんも、Falcon のファンだよね?!」
と言って、フェイントを掛ける。

すると優衣、ちょっと戸惑いながら、
優衣「そりゃーもう、大ファンですよ。関西から誕生したんですもんね。地元のバンドを応援ないとね!」
と言って、ニッコリする。

すると、
松本「僕も大ファン!」
と言って、ニッコリする松本。

優衣と松本、真彩を見て微笑む。

真彩「何か、沢山、ゴメンね。お金使わせちゃって申し訳ないわ。本当に有難うね。嬉しいよ」

前田「いえいえ、喜んで頂けたら、俺も嬉しいです」
と言って、微笑む前田。

前田を見て微笑む真彩、優衣、松本。

     ×  ×  ×
   
前田、酔っぱらっている。
真っ赤な顔で、ウトウトして、瞼が閉じかけている前田。

真彩、前田を見て、
真彩「あっちゃー、ちょっと飲ませ過ぎちゃったか。ジントニック、前田さんにはちょっと早かったか……」

松本「あっ、寝た……前田さんの家って、この近くだったよね?」

真彩「うん。直ぐそこ」

松本「さてさて、どうやって家に送り届けるかだな?」

真彩「あぁ、多分、一時間程で酔い醒めるから大丈夫だよ」


店のドアが開く音。

悠斗と樋口博也(30歳)が店に入って来る。
   
樋口、優衣を見て笑顔になる。

優衣、樋口に手を振る。
   
悠斗と樋口が、真彩達のテーブル席にやって来る。

悠斗「マーヤちゃん! あっ……」
   
悠斗、真っ赤な顔で酔っぱらって寝ている前田を見る。

悠斗「前田さん、だよね?」

真彩「うん、前田さん。お酒弱いのに、ビール飲んだ後、ジントニック飲ませちゃった。あっ、これ……」
と言って、前田からの結婚祝いの品を悠斗に見せる真彩。

真彩「前田さんから、結婚祝い頂いた」

悠斗「それはそれは……有難うございます!」
と言って、悠斗、寝ている前田に礼を言う。

そして、悠斗、真彩の横の席に座る。

樋口は優衣の隣に、くっつく様に座る。

優衣、嬉し恥ずかしそうする。

真彩「でさぁ、これ……」
と言って、悠斗に Falcon のCDと、ゆるキャラぬいぐるみを見せる真彩。

悠斗「えっ? どういう事?」
悠斗、驚いた顔をする。
   
真彩、悠斗の耳元で、
真彩「前田さん、Falconのファンだったみたい。新曲出たから買ってくれたって」
と、小声で言う。

悠斗「へーぇ、ビックリ」

真彩「もう何年前だっけ? wakuwaku のライブハウスでライブやった時、友達に誘われて来てくれたんだって。それからファンになったって言ってた」

悠斗「えぇ? あの時、いたんだ。そんな前に、前田さんと出会ってたなんて……」

真彩「不思議だね。ライブ会場、照明暗かったから、ファンの人達の顔、しっかり見えてなかったからね……」

悠斗「初めまして、じゃなかったんだ。不思議な縁だね」

真彩「うん。ホント、不思議な縁だよ。会社の廊下で初めてすれ違った時、この人と何かあるな?……って直感したんだけど、こういう事だったんだね。その内、遠い親戚になるだろうし、やっぱ、縁を感じる」
   
悠斗と真彩、前田の顔を眺めている。

悠斗、前田に向かって、
悠斗「前田さーん、良い人ですねー。あーざーっす!」
と言って、笑顔の悠斗。

悠斗の声で、前田、顔を上げる。 
 
前田「あぁ、社長のお兄さん……今晩は。あの、この度は、妹さんのご結婚、おめでとうございます」

悠斗「あ、あぁ、有難うございます。お祝い頂いて、すいません」

前田「俺、社長の事が好きだったんっすよ! なのに誰か知らない奴と結婚するなんて、俺、悲しいッス。社長は雲の上の存在って分かってるけど……俺、それでも□×◎¥!〇△$%&?△ですよ」
   
前田、そのまま意識を失うかの様に、コテッと、又、寝てしまう。

悠斗「あーあ、誰だ? こんなに飲ませたのは?!」

真彩「えへっ……」
真彩、頭を掻いて苦笑いする。
   


【道路沿いの歩道】

悠斗、ちょっとフラフラしている前田を支えながら、歩道を歩いている。
真彩は、その後ろを歩いている。

前田のマンション前に到着する。

前田「すいません、有難うございました」

悠斗「大丈夫ですか?」

前田「はい。もう大丈夫です。お世話になりました」
   
前田、大分、酔いが醒め、悠斗と真彩に頭を下げる。

真彩「じゃー、お休みなさい!」

悠斗「お休みなさい」

前田「お休みなさい。すいませんでした」
   
真彩と悠斗に頭を下げ、マンションに入って行く前田。

悠斗と真彩、前田を見届ける。
そして、悠斗と真彩、微笑み合う。

帰路に就く悠斗と真彩。

しばらくしてから手を繋ぐ。
そして、恋人繋ぎをする。

悠斗「やっぱり前田さんって、真彩の事、好きだったんだね」

真彩「えっ? あぁ……うん」

悠斗「俺のライバルだったんだ……」
と言うと、悠斗、繋いだ手に、ちょっと力が入る。

真彩「?……」

悠斗(心の声)「という事は、真彩が前田さんの家でシーフードカレー御馳走になったあの夜、やっぱり危なかったんだ。優衣ちゃんに頼んで阻止して貰って良かったー」

悠斗が沈黙しているので、悠斗の顔を見る真彩。

真彩「ねぇ、何考えてるの?」

悠斗「別にー」
と言って、真彩に微笑む。

そして、
悠斗「マーヤちゃん、大好き!」
と言って、ひょうきん笑顔で真彩を見る。

真彩、悠斗に微笑む。


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