二十 女王、邪魔をする?
文字数 3,166文字
手の中にいる烏の体から、微かすかに力が抜けたような気がして、シズクは、烏の顔に目を向けた。
烏の漆黒しっこくの羽よりも黒い瞳と、シズクの目が合う。
烏が一度瞬まばたきをすると、ぐっと、烏の体に力がこもったので、シズクは、キッテが言っていた通り、このままだと、きっと、この子にはよくない。と思い、今度はキッテの顔に目を向けた。
「キッテ。悪いけど、ここは、また、女王の好きにやるから」
シズクは言って、空を見て顔を巡らせ、ナノマ達、オウギワシ達の姿を探す。
「ナノマ。こっちに来て。私と、この手の中にいる烏を乗せて欲しい」
いつの間にか散ってしまっていて、もうほとんど残っていない、烏の残党を、一羽一羽丁寧に追っ払うようにして、飛び回っていた、オウギワシ達に聞こえるようにと、シズクは大きな声で言った。
「了解ナノマ」
どのオウギワシが答えたのかは分からなかったが、言葉が返って来て、一羽のオウギワシが、シズクの方に向かって、飛んで来る。
「女王よす。待つのだす。その烏と余は戦わなければならないのだす」
ンテルが声を上げた。
「また、そんな事言って。この子はそんな事を望んでないかも知れないじゃない。烏の気持ちが分かるの?」
シズクは、言ってから、ねー。烏ちゃん。っと、烏に向かって声をかける。
「分かるす。その烏は、わざわざ、仲間を連れて戻って来たのだす。それが、その烏の意志を物語っているす」
「この人間は何を言っているの烏? 烏はそんな事思ってない烏。勝手に烏の考えを決めるな烏」
シズクは、烏のキャラを、こんな子かな? と想像し、そのキャラになりきって言ってみた。
「女王。今のは、なんだす?」
ンテルが不思議そうな顔をする。
「あんたがさっき言ったんじゃない。なんか、色々想像してみろって」
シズクは、凄く恥ずかしくなったので、それをごまかす為に、唇を尖らせながら、責めるような口調で言った。
「シズク。戦わせたくないという気持ちは分かるが、ンテルの気持ちの事も考えてやってくれ」
キッテが優しく言う。
「キッテ。女王に逆らうの?」
「いや、それは、だが、この状況だからな」
「キッテは、女王の言う事を聞くって言ってなかったっけ?」
「いや、でも、そう言われてもな。やっぱり、ほら、この状況、だからな」
キッテが、これは、困ったぞ。というような顔をして、同じような言葉を繰り返す。
「ンテルも、さっき、私を見ていると、昔の自分を見ているみたいだ。みたいな事を言っていたよね? だったら、今の私の気持ちも分かるよね?」
シズクは、キッテとンテルの顔を交互に見た。
「シズク。お待たせナノマ。それで、どこに行けばいいナノマ?」
ナノマが、シズクの乗っているキッテの傍に降り立ってから、そう言った。
「逃げて行っちゃった他の烏達は、どこに行ったか分かる?」
「分かるナノマ」
「じゃあそれを追いかけて」
「追いかけてどうするナノマ?」
「皆がいる所で、この子を逃す」
「分かったナノマ。ナノマの背中に乗ってナノマ」
「キッテ。行って来る」
シズクは言うと、キッテの背中から降りて、ナノマの背中に跨またがった。
「シズク」
「女王よす。行っては駄目だす」
ナノマが飛び立ち、シズクの足元の方から、キッテとンテルの声が聞こえて来る。
「キッテ。すぐに帰って来るから。ンテル。悪いけど我慢して」
シズクは、キッテとンテルのいる方向に、顔を向けて、そう言葉を返した。
「シズク。怖くはないナノマ?」
ナノマが言って、高度を上げるのやめると、水平飛行を始める。
「うん。平気。ナノマ。さっきは、ありがとう」
シズクは、うわー。結構高くまで来た。それにしても、こんなふうに、鳥に乗って飛んでいるなんて、なんか、夢でも見ているみたい。と思いながら言った。
「なんの事ナノマ?」
「この子に手を突つつかれそうになった時、助けてくれたでしょ?」
「ナノマはどんな時でもシズクを守るナノマ。当然の事をしただけナノマ」
シズクは、なんだか、凄く嬉しくなって、ナノマの体に触れたくなって、ナノマの背中に、体を預けるようにして、上半身を横たえた。
「この背中の感触って、ナノマが今なっている鳥の感触なの? それとも、ナノマがこういう触り心地なの? 手の部分を、今も覆ってくれているナノマの方は、なんの感触も感じないんだけど、こっちと違うのはなんで?」
「手の方は、拘束によるストレスを緩和かんわする為に、わざとそういうふうにしてるナノマ。シズクが乗ってる体の方は、かなり高い精度で、オウギワシの体を再現してるはずナノマ。だから、この体の感触は、オウギワシの物だと思っていいナノマ」
シズクは、この感触は、ナノマの感触じゃなかったんだ。でも、柔らかくって、温かくって気持ちいい。それに、この空を飛んでいるっていう浮遊感。なんだか、眠くなって来ちゃったかも。と思う。
「シズク。手足の体温が上がって来てるナノマ。眠くなって来てるナノマ? このまま行くと、あと十分くらいで着いちゃうナノマ。けど、その前に、どこかで休んで行くのもいいと思うナノマ」
「ナノマ。ありがとう。でも、大丈夫。この子を早く放してあげたいから」
シズクは言い、危ない危ない。このままだと、眠いっていう気持ちに負けちゃいそう。と思うと、上半身を起こす。
「シズク。烏をナノマに渡してナノマ。ナノマが持って行くナノマ」
「ありがとう。でも、この子は私が最後まで持って行く。私が言い出した事だから。これくらいは、私にやらせて」
「では、すぐに到着するように、もっと速度を上げるナノマ」
ナノマが言って、ナノマの形状が変わり始めた。
「ナノマ? 何をやっているの?」
「この姿よりも、もっと速く飛べるようにするナノマ」
変形していくナノマの体によってシズクの体が包み込まれ、いつの間にか、シズクは、操縦席のような所の中にいて、椅子のような物に座っているような格好になる。
「これは、AI大戦中に使用されてた一番速い戦闘機で、大気中の光の速度に、最も近い速度が出せると言われてた物ナノマ」
「光の速度に近いって、そんなに速く飛べるの?」
シズクは、ナノマの体によって形作られた、操縦席の中を見回した。
「データベースにはそうあったナノマ。どれくらい速いのか試すナノマ」
ナノマが言った次の瞬間、機体全体が青白く光り、シズクは眩暈めまいのような感覚を覚えた。
「到着ナノマ」
「え? ちょっと、何が起こったのか分からないんだけど? なんか、ナノマの体が光っていたし。というか、あと十分って、言っていたのに」
「光ったのはチェレンコフ光こうナノマ。ナノマが再現した戦闘機は、人類が開発した物よりも高い性能を持っていて、大気中の光の速度を超えてしまったナノマ。それで、チェレンコフ光が出たナノマ」
「ちぇ、ちぇれ、子?」
シズクは、なんか、よく分からないけど、光の速度って超えられるんだ。と思い、唖然あぜんとしながら言った。
「シズク。そんな事より、烏の事ナノマ。この下に、烏達が隠れてるナノマ」
戦闘機の姿のまま、空中で静止していたナノマが、鳥の姿に戻り、ゆっくりと旋回を始める。
「ああ、うん」
シズクは、返事をしてから、そうだそうだ。驚いている場合じゃなかった。折角ナノマが速く移動してくれたんだし、この子をすぐに放さなきゃ。と思うと、顔を下に向けた。
シズクの視界の中に、緑豊かな木々が鬱蒼うっそうと茂っている、森の姿が入って来る。
「下に降りるナノマ?」
「うん。降りてからこの子を逃がそう」
「了解ナノマ」
ナノマが言って、降下を始めた。
烏の漆黒しっこくの羽よりも黒い瞳と、シズクの目が合う。
烏が一度瞬まばたきをすると、ぐっと、烏の体に力がこもったので、シズクは、キッテが言っていた通り、このままだと、きっと、この子にはよくない。と思い、今度はキッテの顔に目を向けた。
「キッテ。悪いけど、ここは、また、女王の好きにやるから」
シズクは言って、空を見て顔を巡らせ、ナノマ達、オウギワシ達の姿を探す。
「ナノマ。こっちに来て。私と、この手の中にいる烏を乗せて欲しい」
いつの間にか散ってしまっていて、もうほとんど残っていない、烏の残党を、一羽一羽丁寧に追っ払うようにして、飛び回っていた、オウギワシ達に聞こえるようにと、シズクは大きな声で言った。
「了解ナノマ」
どのオウギワシが答えたのかは分からなかったが、言葉が返って来て、一羽のオウギワシが、シズクの方に向かって、飛んで来る。
「女王よす。待つのだす。その烏と余は戦わなければならないのだす」
ンテルが声を上げた。
「また、そんな事言って。この子はそんな事を望んでないかも知れないじゃない。烏の気持ちが分かるの?」
シズクは、言ってから、ねー。烏ちゃん。っと、烏に向かって声をかける。
「分かるす。その烏は、わざわざ、仲間を連れて戻って来たのだす。それが、その烏の意志を物語っているす」
「この人間は何を言っているの烏? 烏はそんな事思ってない烏。勝手に烏の考えを決めるな烏」
シズクは、烏のキャラを、こんな子かな? と想像し、そのキャラになりきって言ってみた。
「女王。今のは、なんだす?」
ンテルが不思議そうな顔をする。
「あんたがさっき言ったんじゃない。なんか、色々想像してみろって」
シズクは、凄く恥ずかしくなったので、それをごまかす為に、唇を尖らせながら、責めるような口調で言った。
「シズク。戦わせたくないという気持ちは分かるが、ンテルの気持ちの事も考えてやってくれ」
キッテが優しく言う。
「キッテ。女王に逆らうの?」
「いや、それは、だが、この状況だからな」
「キッテは、女王の言う事を聞くって言ってなかったっけ?」
「いや、でも、そう言われてもな。やっぱり、ほら、この状況、だからな」
キッテが、これは、困ったぞ。というような顔をして、同じような言葉を繰り返す。
「ンテルも、さっき、私を見ていると、昔の自分を見ているみたいだ。みたいな事を言っていたよね? だったら、今の私の気持ちも分かるよね?」
シズクは、キッテとンテルの顔を交互に見た。
「シズク。お待たせナノマ。それで、どこに行けばいいナノマ?」
ナノマが、シズクの乗っているキッテの傍に降り立ってから、そう言った。
「逃げて行っちゃった他の烏達は、どこに行ったか分かる?」
「分かるナノマ」
「じゃあそれを追いかけて」
「追いかけてどうするナノマ?」
「皆がいる所で、この子を逃す」
「分かったナノマ。ナノマの背中に乗ってナノマ」
「キッテ。行って来る」
シズクは言うと、キッテの背中から降りて、ナノマの背中に跨またがった。
「シズク」
「女王よす。行っては駄目だす」
ナノマが飛び立ち、シズクの足元の方から、キッテとンテルの声が聞こえて来る。
「キッテ。すぐに帰って来るから。ンテル。悪いけど我慢して」
シズクは、キッテとンテルのいる方向に、顔を向けて、そう言葉を返した。
「シズク。怖くはないナノマ?」
ナノマが言って、高度を上げるのやめると、水平飛行を始める。
「うん。平気。ナノマ。さっきは、ありがとう」
シズクは、うわー。結構高くまで来た。それにしても、こんなふうに、鳥に乗って飛んでいるなんて、なんか、夢でも見ているみたい。と思いながら言った。
「なんの事ナノマ?」
「この子に手を突つつかれそうになった時、助けてくれたでしょ?」
「ナノマはどんな時でもシズクを守るナノマ。当然の事をしただけナノマ」
シズクは、なんだか、凄く嬉しくなって、ナノマの体に触れたくなって、ナノマの背中に、体を預けるようにして、上半身を横たえた。
「この背中の感触って、ナノマが今なっている鳥の感触なの? それとも、ナノマがこういう触り心地なの? 手の部分を、今も覆ってくれているナノマの方は、なんの感触も感じないんだけど、こっちと違うのはなんで?」
「手の方は、拘束によるストレスを緩和かんわする為に、わざとそういうふうにしてるナノマ。シズクが乗ってる体の方は、かなり高い精度で、オウギワシの体を再現してるはずナノマ。だから、この体の感触は、オウギワシの物だと思っていいナノマ」
シズクは、この感触は、ナノマの感触じゃなかったんだ。でも、柔らかくって、温かくって気持ちいい。それに、この空を飛んでいるっていう浮遊感。なんだか、眠くなって来ちゃったかも。と思う。
「シズク。手足の体温が上がって来てるナノマ。眠くなって来てるナノマ? このまま行くと、あと十分くらいで着いちゃうナノマ。けど、その前に、どこかで休んで行くのもいいと思うナノマ」
「ナノマ。ありがとう。でも、大丈夫。この子を早く放してあげたいから」
シズクは言い、危ない危ない。このままだと、眠いっていう気持ちに負けちゃいそう。と思うと、上半身を起こす。
「シズク。烏をナノマに渡してナノマ。ナノマが持って行くナノマ」
「ありがとう。でも、この子は私が最後まで持って行く。私が言い出した事だから。これくらいは、私にやらせて」
「では、すぐに到着するように、もっと速度を上げるナノマ」
ナノマが言って、ナノマの形状が変わり始めた。
「ナノマ? 何をやっているの?」
「この姿よりも、もっと速く飛べるようにするナノマ」
変形していくナノマの体によってシズクの体が包み込まれ、いつの間にか、シズクは、操縦席のような所の中にいて、椅子のような物に座っているような格好になる。
「これは、AI大戦中に使用されてた一番速い戦闘機で、大気中の光の速度に、最も近い速度が出せると言われてた物ナノマ」
「光の速度に近いって、そんなに速く飛べるの?」
シズクは、ナノマの体によって形作られた、操縦席の中を見回した。
「データベースにはそうあったナノマ。どれくらい速いのか試すナノマ」
ナノマが言った次の瞬間、機体全体が青白く光り、シズクは眩暈めまいのような感覚を覚えた。
「到着ナノマ」
「え? ちょっと、何が起こったのか分からないんだけど? なんか、ナノマの体が光っていたし。というか、あと十分って、言っていたのに」
「光ったのはチェレンコフ光こうナノマ。ナノマが再現した戦闘機は、人類が開発した物よりも高い性能を持っていて、大気中の光の速度を超えてしまったナノマ。それで、チェレンコフ光が出たナノマ」
「ちぇ、ちぇれ、子?」
シズクは、なんか、よく分からないけど、光の速度って超えられるんだ。と思い、唖然あぜんとしながら言った。
「シズク。そんな事より、烏の事ナノマ。この下に、烏達が隠れてるナノマ」
戦闘機の姿のまま、空中で静止していたナノマが、鳥の姿に戻り、ゆっくりと旋回を始める。
「ああ、うん」
シズクは、返事をしてから、そうだそうだ。驚いている場合じゃなかった。折角ナノマが速く移動してくれたんだし、この子をすぐに放さなきゃ。と思うと、顔を下に向けた。
シズクの視界の中に、緑豊かな木々が鬱蒼うっそうと茂っている、森の姿が入って来る。
「下に降りるナノマ?」
「うん。降りてからこの子を逃がそう」
「了解ナノマ」
ナノマが言って、降下を始めた。