十五 烏
文字数 2,310文字
歩き去って行こうとする、シズクの耳に、キッテ様。どうするむ? という、チュチュの泣きそうな声が聞こえて来る。
「まさか、こんな事に、なるとは。どうすればいいのか、俺にも分からない」
キッテが、チュチュにそう言葉を返す。
「じょ、女王様。分かりましため。後は、このチュチュオネイがやっておきますめ」
チュチュオネイが、最初こそ、少し戸惑っているような、様子で言っていたが、「後は」と言った辺りからは、その戸惑いをかき消すかのような、大きな声で言った。
「お願い」
シズクは振り向かず、足も止めずに、返事だけをする。
「余は、なんとなくだが、あの巨人、いや、女王の今の気持ちが、分かるような気がするす」
ンテルが、どこか、昔を懐かしんでいるような声音で言う。
「お前には何も聞いてないめ。もう、話は終わりだめ。早々に立ち去るがいいめ」
チュチュオネイが、今までよりも、さらにきつく、責めるような口調で言った。
「そう言われてもなす。このまま、諦めて帰るわけにはいかないす」
「分かっため。お前達は、そこにいればいいめ。キッテ様。このまま、この者達には、ここにいてもらいましょうめ。こちらから、立ち去りましょうめ。皆も、もう、戻るめ」
チュチュオネイが言い、猫ちゃん達の歩く足音がしはじめた。
「なんて言えばいいのか。俺は、よかれと思ってやったんだが、シズクの気持ちを、ちゃんと考えてやれてなかったようだ。第六帝国のンテル。こんな事になって、すまない。俺が、シズクの判断に任せると言ったんだ。そのシズクに後を任された、チュチュオネイの言葉に、俺は、従わないといけない」
キッテがしょんぼりとした声で言う。
「お前の話は聞いているす。前にこの国を訪れた者が、キッテという名の話の分かる巨大なトラ型のAIがいると言っていたす。そのお前が、そう言うのならば、そういう事なのだろうす」
「ンテル様。ンテル様。こうしていても埒らちが明かないですさ。ここは、一度、国に戻りましょうさ。そして、今度来る時は、国民の代表達も連れて来ましょうさ」
マシーネンゴットソルダットに乗っている者の声がした。
「それは。それは、いいアイディアだす。そうしようす。早速帰って、次の来訪の算段をしようす」
ンテルの希望に満ちた声がし、ンテルの言葉に、答えるように、ンテル様。そうと決まれば長居は無用ですさ。早く、マシ、あ、いえ、このロボットに乗って下さいさ。と、マシーネンゴットソルダットに乗っている者が言った。
「女王様。女王様。もう、あいつらは、行ってしまうむ。機嫌を直すむ。こっちに戻って来るむぅぅ」
チュチュが大きな声を出す。
「シズク。俺が悪かった。もう、変な事は言わないから。戻って来てくれ」
キッテもチュチュのように大きな声で言う。
何よ、もう。これじゃ私が完全に悪者じゃない。まあ、そう、キッテの気持ちは、本当は、なんとなくは、分かるけど。だから、私が、悪いとは、思うけど、でも、キッテだって、悪いんだ。私が困るような事、わざとさせて。それで、全然助けてくれないし。シズクは、そんな事を思うと、体を捻ひねるようにして、ちらりっと、キッテ達のいる方に顔を向けた。
「ん? 何、あれ?」
視界の端の上の方、本来なら、空が見えている辺りに、何か、大きな黒い塊かたまりのような物があり、シズクは、思わずそう呟いた。チュチュが、シズクの呟きに答えるように、すぐに、女王様。どうしたむ? と言う。
シズクは黒い塊のような物を見ようと、体の向きを変えた。
「ほら。あれ。何かな?」
シズクは、空の中に浮かんでいる黒い塊のような物を、指で差し示した。
「女王様。どうしたのですかめ?」
チュチュオネイが、猫ちゃんの足を止めて言う。
「あれは、烏だ。烏の大群だ」
キッテが言い、すぐに、周囲を確認するかのように、顔を動かした。
「烏? あの黒い塊が、全部烏なの?」
シズクは黒い塊のような物をじっと見つめる。
「チュチュオネイ。チュチュ。急いで国民の皆をシズクの部屋がある場所に避難させてくれ。あそこなら、烏が何羽襲って来ても耐えられる」
「キッテ様はどうするのですめ?」
「俺は、あいつらを追っ払いに行く」
キッテが、黒い塊のような物の方に顔を向けた。
「待って。キッテ。私も行く」
「シズク。危ないから、シズクも、チュチュオネイ達と一緒に避難しててくれ」
「嫌だ。今の私は強いんでしょ? だったら、その力を、皆を守る為に使う」
「チュチュも女王様と行くむ」
チュチュが言って、手に持っていた服を投げ捨てた。
「チュチュ。ありがとう。……。でも、ごめん。それはおかしいから。なんで今服を捨てた?」
「はうむぅ。女王様。チュチュにも分からないむぅぅ。なんだか、急に、そういう気持ちになってしまったむぅぅ」
チュチュが言い、服を拾い上げる。
「女王様。キッテ様。このチュチュオネイもお供しますめ」
「チュチュオネイ。チュチュに、シズクも。その気持ちだけもらっておく。頼むから、三人は、皆を連れて避難してくれ」
「でもむぅ。キッテ様の事も心配むぅ」
チュチュが両手で持っていた服をぐりぐりと捩ねじる。
「心配してくれてありがとう。俺なら大丈夫だから、三人とも、早く行ってくれ」
キッテが、優しい声音になって言った。
「チュチュ。チュチュオネイ。女王命令。早く皆を連れて避難して。キッテ。キッテも女王の言う事を聞いて。私はキッテと一緒に行く」
「シズク」
キッテが、シズクの方に顔を向け、驚いたように言った。
「まさか、こんな事に、なるとは。どうすればいいのか、俺にも分からない」
キッテが、チュチュにそう言葉を返す。
「じょ、女王様。分かりましため。後は、このチュチュオネイがやっておきますめ」
チュチュオネイが、最初こそ、少し戸惑っているような、様子で言っていたが、「後は」と言った辺りからは、その戸惑いをかき消すかのような、大きな声で言った。
「お願い」
シズクは振り向かず、足も止めずに、返事だけをする。
「余は、なんとなくだが、あの巨人、いや、女王の今の気持ちが、分かるような気がするす」
ンテルが、どこか、昔を懐かしんでいるような声音で言う。
「お前には何も聞いてないめ。もう、話は終わりだめ。早々に立ち去るがいいめ」
チュチュオネイが、今までよりも、さらにきつく、責めるような口調で言った。
「そう言われてもなす。このまま、諦めて帰るわけにはいかないす」
「分かっため。お前達は、そこにいればいいめ。キッテ様。このまま、この者達には、ここにいてもらいましょうめ。こちらから、立ち去りましょうめ。皆も、もう、戻るめ」
チュチュオネイが言い、猫ちゃん達の歩く足音がしはじめた。
「なんて言えばいいのか。俺は、よかれと思ってやったんだが、シズクの気持ちを、ちゃんと考えてやれてなかったようだ。第六帝国のンテル。こんな事になって、すまない。俺が、シズクの判断に任せると言ったんだ。そのシズクに後を任された、チュチュオネイの言葉に、俺は、従わないといけない」
キッテがしょんぼりとした声で言う。
「お前の話は聞いているす。前にこの国を訪れた者が、キッテという名の話の分かる巨大なトラ型のAIがいると言っていたす。そのお前が、そう言うのならば、そういう事なのだろうす」
「ンテル様。ンテル様。こうしていても埒らちが明かないですさ。ここは、一度、国に戻りましょうさ。そして、今度来る時は、国民の代表達も連れて来ましょうさ」
マシーネンゴットソルダットに乗っている者の声がした。
「それは。それは、いいアイディアだす。そうしようす。早速帰って、次の来訪の算段をしようす」
ンテルの希望に満ちた声がし、ンテルの言葉に、答えるように、ンテル様。そうと決まれば長居は無用ですさ。早く、マシ、あ、いえ、このロボットに乗って下さいさ。と、マシーネンゴットソルダットに乗っている者が言った。
「女王様。女王様。もう、あいつらは、行ってしまうむ。機嫌を直すむ。こっちに戻って来るむぅぅ」
チュチュが大きな声を出す。
「シズク。俺が悪かった。もう、変な事は言わないから。戻って来てくれ」
キッテもチュチュのように大きな声で言う。
何よ、もう。これじゃ私が完全に悪者じゃない。まあ、そう、キッテの気持ちは、本当は、なんとなくは、分かるけど。だから、私が、悪いとは、思うけど、でも、キッテだって、悪いんだ。私が困るような事、わざとさせて。それで、全然助けてくれないし。シズクは、そんな事を思うと、体を捻ひねるようにして、ちらりっと、キッテ達のいる方に顔を向けた。
「ん? 何、あれ?」
視界の端の上の方、本来なら、空が見えている辺りに、何か、大きな黒い塊かたまりのような物があり、シズクは、思わずそう呟いた。チュチュが、シズクの呟きに答えるように、すぐに、女王様。どうしたむ? と言う。
シズクは黒い塊のような物を見ようと、体の向きを変えた。
「ほら。あれ。何かな?」
シズクは、空の中に浮かんでいる黒い塊のような物を、指で差し示した。
「女王様。どうしたのですかめ?」
チュチュオネイが、猫ちゃんの足を止めて言う。
「あれは、烏だ。烏の大群だ」
キッテが言い、すぐに、周囲を確認するかのように、顔を動かした。
「烏? あの黒い塊が、全部烏なの?」
シズクは黒い塊のような物をじっと見つめる。
「チュチュオネイ。チュチュ。急いで国民の皆をシズクの部屋がある場所に避難させてくれ。あそこなら、烏が何羽襲って来ても耐えられる」
「キッテ様はどうするのですめ?」
「俺は、あいつらを追っ払いに行く」
キッテが、黒い塊のような物の方に顔を向けた。
「待って。キッテ。私も行く」
「シズク。危ないから、シズクも、チュチュオネイ達と一緒に避難しててくれ」
「嫌だ。今の私は強いんでしょ? だったら、その力を、皆を守る為に使う」
「チュチュも女王様と行くむ」
チュチュが言って、手に持っていた服を投げ捨てた。
「チュチュ。ありがとう。……。でも、ごめん。それはおかしいから。なんで今服を捨てた?」
「はうむぅ。女王様。チュチュにも分からないむぅぅ。なんだか、急に、そういう気持ちになってしまったむぅぅ」
チュチュが言い、服を拾い上げる。
「女王様。キッテ様。このチュチュオネイもお供しますめ」
「チュチュオネイ。チュチュに、シズクも。その気持ちだけもらっておく。頼むから、三人は、皆を連れて避難してくれ」
「でもむぅ。キッテ様の事も心配むぅ」
チュチュが両手で持っていた服をぐりぐりと捩ねじる。
「心配してくれてありがとう。俺なら大丈夫だから、三人とも、早く行ってくれ」
キッテが、優しい声音になって言った。
「チュチュ。チュチュオネイ。女王命令。早く皆を連れて避難して。キッテ。キッテも女王の言う事を聞いて。私はキッテと一緒に行く」
「シズク」
キッテが、シズクの方に顔を向け、驚いたように言った。