二十一 女王、抱っこする?
文字数 2,114文字
木々から伸びる枝葉の隙間を、器用きように縫ぬうようにして、ナノマが森の中に入り、地面に向かって降りて行った。
ナノマが地面に降り立つと、シズクはナノマにお礼を言ってから、ナノマから降り、烏からすの顔を見る。
「烏ちゃん。もう、ンテルと、人類と、喧嘩しちゃ駄目だからね」
言ってしゃがみ込み、烏を持っている手を開くと、シズクの手と烏を覆っていたナノマが音もなく消え、烏が翼をばたつかせながら、シズクの手から離れ、地面の上に降りた。
烏に何かを言っても、何かをしても、きっと駄目だよね。帰ったらンテルに、もう烏とは喧嘩をしないようにって、よく言っておこう。シズクは、その場から動かずに、きょろきょろと周囲を見回している、烏を見つめてそう思う。
「シズク。帰るナノマ?」
「ごめん。もうちょっと。この子が飛び立って行くまで、ここにいさせて」
烏が、シズクの姿を、数秒間、じっと、見つめてから、シズクから離れるようにして、とことこと歩いて行き、不意に翼を広げると、地面の上から、空中に、軽やかに飛び上がった。
「飛んだ飛んだ」
シズクは思わず、喜びの声を上げる。
烏の姿が、木々の枝葉の中に消えるまで、烏を見送ったシズクは、ゆっくりと立ち上がった。
「あーあ。行っちゃった。なんだか、ちょっと、寂しいかな」
「寂しいナノマ?」
ナノマの言葉を聞いたシズクは、変な事言っちゃったかな。ナノマが気を使っちゃうかも。と思うと、ナノマの方に顔を向けた。
「なんとなく、言っちゃっただけ。平気平気。ナノマもいるし。全然寂しくない」
シズクは言ってから、ナノマに触れたくなって、ナノマの傍に行こうとしたが、木々の上から、何やら喧嘩をしているような、烏達の鳴き声が聞こえて来たので、顔を上に向けた。
「どうしたんだろ?」
「この辺りにもナノマシン達がいるナノマ。そのナノマシン達と連絡を取って、何が起きてるか聞いてみるナノマ」
ナノマが言って、しばらくしてから、鳴き声がしなくなった。
「静かになった」
「シズク。あの烏が、仲間達から攻撃を受けてたみたいナノマ」
「どういう事?」
シズクはナノマの方を見る。
「どういう事なのかは、分からないナノマ」
「あの子は無事なの?」
「無事ナノマ。連絡を取ったナノマシン達が保護してくれたナノマ」
ナノマが言って顔を上に向ける。シズクもナノマにつられるようにして顔を上に向けた。
緑の色の雲のような物が、シズク達の方に向かってゆっくりと飛んで来ていて、そのまま、シズク達の傍まで来ると、地面に降りてから、空気中に溶けるようにして、消えて行き、その中から、シズク達が連れて来た烏が現れた。
「烏ちゃん。どうした?」
シズクは、烏の横にしゃがみ込む。
「烏の習性などについて、データベースに聞いてみるナノマ」
一体何があったのかな? どうしてこの子が攻撃なんてされたんだろう? と考えていたシズクは、うん。お願い。と言葉を返す。
シズクとナノマの会話が途切れると、森の中に、静寂が訪れた。
「シズク。これは、AIや人類にはどうしょうもない事みたいナノマ。烏達の間の問題だから、このままにしておくしかないみたいナノマ。しょうがないナノマ。だから、そんなに落ち込まないでナノマ」
ナノマが、少しの間を空けてから、そう言った。
「ナノマ。……。ありがとう。そう、だよね。烏同士の事だもんね。私が何か言っても分からないだろうし、何かしらの行動をするっていっても、何をすればいいのかが分からない」
シズクは、顔を上げ、ナノマの顔を見て言ってから、烏の頭を撫でようと思うと、烏に向かって手を伸ばした。
烏が、円らな瞳で、シズクの顔を見てから、首を傾げつつ、シズクの手に目を向ける。
「シズク。危ないナノマ。突つつかれるナノマ」
「え? ああ、うん」
ナノマに言われ、言葉を出しながら、そうだ。ちょっと前に突かれそうになったばっかりだった。と思い、慌てて手を引こうとすると、烏が、ぴょんっと、小さく跳んで、シズクの伸ばしたままになっている、手に向かって寄って来て、自らシズクの掌に、自分の頭を軽く押し当てた。
「烏ちゃん」
シズクは、手をゆっくりと動かし、そっと烏を撫でてみる。烏が気持ちのよさそうな顔をして、シズクの手に体をぎゅっと押し付けて来た。
「抱っこ、していい?」
シズクは撫でていた手を止めて言い、もう片方の手も烏に向かって伸ばす。
烏が首を傾げて、シズクの顔をじっと見つめた。
「大丈夫。抱っこするだけだから」
烏が、シズクの両手を、顔を交互に動かして見た。
シズクの両手が烏の羽に触れる。烏の体が、ぴくりと、一瞬、震える。
「よいしょっと」
シズクは両手で烏の体を持ち上げると、自分の方に持って来て、優しく抱いた。
「シズク。烏と仲良くなったナノマ?」
「うん」
シズクは、烏同士の事だなんて言ってちゃ駄目だ。こんなふうに抱っこさせてくれたんだもん。これは、もう、この烏の事、女王の持っている力を全部使ってでも、絶対になんとかしてあげなきゃ。と強く思った。
ナノマが地面に降り立つと、シズクはナノマにお礼を言ってから、ナノマから降り、烏からすの顔を見る。
「烏ちゃん。もう、ンテルと、人類と、喧嘩しちゃ駄目だからね」
言ってしゃがみ込み、烏を持っている手を開くと、シズクの手と烏を覆っていたナノマが音もなく消え、烏が翼をばたつかせながら、シズクの手から離れ、地面の上に降りた。
烏に何かを言っても、何かをしても、きっと駄目だよね。帰ったらンテルに、もう烏とは喧嘩をしないようにって、よく言っておこう。シズクは、その場から動かずに、きょろきょろと周囲を見回している、烏を見つめてそう思う。
「シズク。帰るナノマ?」
「ごめん。もうちょっと。この子が飛び立って行くまで、ここにいさせて」
烏が、シズクの姿を、数秒間、じっと、見つめてから、シズクから離れるようにして、とことこと歩いて行き、不意に翼を広げると、地面の上から、空中に、軽やかに飛び上がった。
「飛んだ飛んだ」
シズクは思わず、喜びの声を上げる。
烏の姿が、木々の枝葉の中に消えるまで、烏を見送ったシズクは、ゆっくりと立ち上がった。
「あーあ。行っちゃった。なんだか、ちょっと、寂しいかな」
「寂しいナノマ?」
ナノマの言葉を聞いたシズクは、変な事言っちゃったかな。ナノマが気を使っちゃうかも。と思うと、ナノマの方に顔を向けた。
「なんとなく、言っちゃっただけ。平気平気。ナノマもいるし。全然寂しくない」
シズクは言ってから、ナノマに触れたくなって、ナノマの傍に行こうとしたが、木々の上から、何やら喧嘩をしているような、烏達の鳴き声が聞こえて来たので、顔を上に向けた。
「どうしたんだろ?」
「この辺りにもナノマシン達がいるナノマ。そのナノマシン達と連絡を取って、何が起きてるか聞いてみるナノマ」
ナノマが言って、しばらくしてから、鳴き声がしなくなった。
「静かになった」
「シズク。あの烏が、仲間達から攻撃を受けてたみたいナノマ」
「どういう事?」
シズクはナノマの方を見る。
「どういう事なのかは、分からないナノマ」
「あの子は無事なの?」
「無事ナノマ。連絡を取ったナノマシン達が保護してくれたナノマ」
ナノマが言って顔を上に向ける。シズクもナノマにつられるようにして顔を上に向けた。
緑の色の雲のような物が、シズク達の方に向かってゆっくりと飛んで来ていて、そのまま、シズク達の傍まで来ると、地面に降りてから、空気中に溶けるようにして、消えて行き、その中から、シズク達が連れて来た烏が現れた。
「烏ちゃん。どうした?」
シズクは、烏の横にしゃがみ込む。
「烏の習性などについて、データベースに聞いてみるナノマ」
一体何があったのかな? どうしてこの子が攻撃なんてされたんだろう? と考えていたシズクは、うん。お願い。と言葉を返す。
シズクとナノマの会話が途切れると、森の中に、静寂が訪れた。
「シズク。これは、AIや人類にはどうしょうもない事みたいナノマ。烏達の間の問題だから、このままにしておくしかないみたいナノマ。しょうがないナノマ。だから、そんなに落ち込まないでナノマ」
ナノマが、少しの間を空けてから、そう言った。
「ナノマ。……。ありがとう。そう、だよね。烏同士の事だもんね。私が何か言っても分からないだろうし、何かしらの行動をするっていっても、何をすればいいのかが分からない」
シズクは、顔を上げ、ナノマの顔を見て言ってから、烏の頭を撫でようと思うと、烏に向かって手を伸ばした。
烏が、円らな瞳で、シズクの顔を見てから、首を傾げつつ、シズクの手に目を向ける。
「シズク。危ないナノマ。突つつかれるナノマ」
「え? ああ、うん」
ナノマに言われ、言葉を出しながら、そうだ。ちょっと前に突かれそうになったばっかりだった。と思い、慌てて手を引こうとすると、烏が、ぴょんっと、小さく跳んで、シズクの伸ばしたままになっている、手に向かって寄って来て、自らシズクの掌に、自分の頭を軽く押し当てた。
「烏ちゃん」
シズクは、手をゆっくりと動かし、そっと烏を撫でてみる。烏が気持ちのよさそうな顔をして、シズクの手に体をぎゅっと押し付けて来た。
「抱っこ、していい?」
シズクは撫でていた手を止めて言い、もう片方の手も烏に向かって伸ばす。
烏が首を傾げて、シズクの顔をじっと見つめた。
「大丈夫。抱っこするだけだから」
烏が、シズクの両手を、顔を交互に動かして見た。
シズクの両手が烏の羽に触れる。烏の体が、ぴくりと、一瞬、震える。
「よいしょっと」
シズクは両手で烏の体を持ち上げると、自分の方に持って来て、優しく抱いた。
「シズク。烏と仲良くなったナノマ?」
「うん」
シズクは、烏同士の事だなんて言ってちゃ駄目だ。こんなふうに抱っこさせてくれたんだもん。これは、もう、この烏の事、女王の持っている力を全部使ってでも、絶対になんとかしてあげなきゃ。と強く思った。