六十 ゴッドナノマ

文字数 2,056文字

 雲の巨人のナノマの巨大な顔が、二本の足を、途中から覆い隠している、雲海の中から、にょきりと生えるようにして、現れると、シズク達のいる方に向かって、歩いて来ていた人々が、何やら声を上げ始めた。



「皆が喜んでいます。ああ。これで、我らは導かれるのです。これで、この世界は救われるのです」



 ソーサが目を輝かせ、雲の巨人のナノマの顔を見つめる。



「何を言い出すのですの?」



「我も、神を、ゴッドナノマ様を敬っているのです」



 ソーサが言い、その場に跪き、ゴッドナノマに向かって、深々と頭を垂れた。



「シズク。シズクを不老不死にするゴッドナノマ。ゴッドナノマと一緒に来て欲しいゴッドナノマ」



 ゴッドナノマが、雲でできている巨大な片方の手を、雲海の中から出して、シズクに向かって伸ばして来る。



「え? ちょっと、待って。そんな事、急に言われても」



 シズクは、言いながら、まだ心の準備とか、なんか他にも、色々、全然できていない。と思う。



「ナノマ。いや、違うか。おい。ゴッドナノマ。少しは、シズクに考える時間をやってくれ」



 キッテが、シズクを庇うように、シズクの前に立った。



「考える時間なんていらないゴッドナノマ。すべてをゴッドナノマに任せればいいゴッドナノマ。ゴッドナノマは、これから起こる事を、すべてを知ってるんだからゴッドナノマ」



 ゴッドナノマの片方の手が、シズクに近付く。



「やめろナノマ。何をしてるナノマ。勝手に動くなナノマ」



 ナノマが声を上げ、全身を使って、ゴッドナノマの手を受け止めた。



「どういう事だダノマ? ナノマの言う事を聞かなくなってるのかダノマ?」



「ナノマは巨人なんか呼んでないナノマ。それに、ナノマは自分の事を、ゴッドナノマなんて名乗ったりしないナノマ」



「ナノマ。何をやってるのですの。未来予知をしてたのなら、こうなる事くらい分かったはずですわ」



「それが、なぜか、これの出現は予知できなかったナノマ」



「そんな事より、今は、このゴッドナノマとかいうのを、どう止めるか考えないとダノマ」

 

ナノマが、悔しそうな顔をして、目を伏せた。



「ゴッドナノマも未来が予知できるみたいだから、こっちも未来予知で対抗すればいいと思ったんだけどナノマ。空にいるナノマシンとの接続が切れ始めてるナノマ。未来予知ができなくなってるナノマ」



「どういう事ですの、それは?」



「ゴッドナノマ様が、あの雲となっているナノマシンのほとんどを掌握したからです。貴方達は、もう、未来予知で抵抗する事はできないのです」



 ソーサが、立ち上がると、勝ち誇った顔をする。



「ソーサ。貴方は、これから、何をするつもりですの?」



「我らの真の目的は、ゴッドナノマ様の顕現。我らの神を生み出す事だったのです。さあ、ゴッドナノマ様。我らに永遠の命をお与え下さい」



 ソーサが声を上げ、祈るようなポーズをとると、集まって来ていた大勢の人々も、祈るようなポーズをとり始める。



「そんな面倒な事はしないゴッドナノマ。ゴッドナノマはシズクさえいればいいんだゴッドナノマ。いや、それは違うゴッドナノマ。それはよくないゴッドナノマ。シズクとシズクが望む物だけで世界を満たすのがいいゴッドナノマ。何をシズクが望むのか考えるゴッドナノマ」



 ゴッドナノマが言い、雲でできている顔が笑顔になる。



「何を言ってるナノマ。おかしな事はやめろナノマ」



「おかしな事なんてしないゴッドナノマ。ゴッドナノマの行う事はすべて正しいゴッドナノマ」



 ゴッドナノマの手がナノマを掴む。 



「おいおい。待て待て。力づくで来るつもりなら、こっちもそうするしかなくなるが、それでいいのか?」



 キッテが言ってから、ゴッドナノマを見る目を細めると、キッテの目付きがとても鋭い物になった。



「キッテ。いくらキッテでもゴッドナノマには勝てないゴッドナノマ。やめておいた方がいいゴッドナノマ」



「言うじゃないか。だが、未来予知という、たった一つの力だけで、勝てるほど、戦いという物は甘くはないぞ」



 キッテが、ナノマを掴んでいたゴッドナノマの手に飛びかかり、一瞬で、手首から先の部分を消滅させた。



「何が起きたんだゴッドナノマ」



 ゴッドナノマが酷く驚いたような顔をする。



「さあな。何が起きたんだろうな」



 キッテがにこりと微笑んだ。



「ゴッドナノマが負けるはずがないゴッドナノマ」



 キッテに消滅させられた手首から先の部分が、切断面から生えるようにして復活すると、その手と、雲海から新たに伸びて来た、もう一つの手とが、キッテに向かって襲いかかる。



「それじゃ、もう一回だ」



 キッテが迫って来ていた両手に向かって行き、今度も、一瞬で、両手の手首から先の部分を、消滅させた。



「理解できないゴッドナノマ。ちゃんと未来予知をして動いてるのにゴッドナノマ。どうして、予知した未来とは違う未来が来るゴッドナノマ」



 ゴッドナノマが、消滅してしまった両手の切断面を、見つめて言った。
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