十三 女王、仲裁する?

文字数 2,603文字

 絶叫した後、そのまま、呆然と立ち尽くしている、ンテルを置き去りにして、マシーネンゴットソルダットに向かって行っていたチュチュオネイの、乗っている猫ちゃんが、マシーネンゴットソルダットの間近まで行くと、足を止める。



「チュチュ家伝来の剣の一撃を食らうがいいめ」



 チュチュオネイが言って、持っている剣を大きく振りかぶった。



「キッテ。キッテ。戦いが始まっちゃった。これ、このままでいいの?」



「ん? うーん。そうだな。おっと。ここは、シズクの判断に任せようか。女王として、シズクは、どうしたいんだ?」



「どうすればいいのかなんて、分かんないよ。とにかく、チュチュオネイ達も、相手の方も、怪我とかしたら困る」



「シズク。今のシズクには、ナノマシンと、その大きな体っていう、凄い力がある。その力を使えば、悪い事だってやり放題だし、いい事だって、やり放題だ。シズクの思った通りに、その力を使ってみるといい」



 シズクはキッテを睨むように見る。



「なんで、急にそんな意地悪言うの?」



「え? ちょっ、意地悪なんて、そんな事はないぞ。これは、シズクの為を思ってだな。こういう言い方は、よくないかも知れないが、こういう場面だから、シズクの判断力を養うというか、そういうチャンスだと思ったというか、なんというか」



 キッテが困ったような顔をして、弁解を始めた。



「何それ? よく分かんない。判断力なんて養いたくない」



 シズクは、これでもかと、不満を表す為に、唇を尖らせる。



「いやいやいや。そう言われても。シズクだって、これから大人になって行くんだ。ここには、ほら、あれだ、学校とかが、ない、だろ? シズクの教育の事もあるから。こういう事もやっておかないと、いけないかなって」



 キッテが、うわー。やっちまった。というような、なんとも情けない顔になる。



 なんで、ここで、そんな事言うのかな。キッテって、時々、絶対思い付きで行動している。本当に、意味分かんない。チュチュオネイと、あの相手のンテルにも、何かがあってからじゃ遅いのに。シズクは、そう思うと、もういい。分かった。と、キッテに向かってぶっきら棒に言ってから、チュチュオネイに向かって手を伸ばす。



「ストーップ。ストップストップ。駄目。戦いは禁止」



 シズクは、声を上げながら、そっと優しく、潰さないようにと気を使いつつ、親指と人差し指で、チュチュオネイの左右の脇腹の辺りを、挟むようにして持つと、チュチュオネイの体を持ち上げた。



「なんだめ。この、なんとも言えない、感覚はめ」



 突然の事に驚き、あーっめ。と叫んでから、少しだけ間を空け、チュチュオネイが、そんな事を言う。



「ごめんね。急に持ち上げたりして。でも、戦いは禁止」



 シズクは、チュチュオネイの体の正面を、自分の方に向けて、チュチュオネイの目を見て言い、チュチュオネイを猫ちゃんの上に戻す。



「あんたも、戦いを続けるっていうのなら、私が相手になるから」



 シズクは、言ってから、マシーネンゴットソルダットの、山のような所の上に出ていて、見えている頭の部分を、指で軽く突つついた。



「ぐおおおおおおさ。す、凄い、パワーださっ。くうぅぅぅぅさ。無理ださ。持ちこたえられないさ。ンテル様。マシ、あ~、もう長くって言うのが面倒だから、ロボットでいいやさ。ロボットが倒れますさ」



 ロボットに乗っているであろう人物が、途中で、少しだけ小声を交えて叫び、マシーネンゴットソルダットが、後ろに向かって倒れて行こうとする。



「ああ、ごめん」



 シズクは慌てて、手を伸ばすと、マシーネンゴットソルダットの頭を掴み、倒れないようにと支えた。



「ぶおおおおおさ。これは、駄目ですさ。ンテル様。ンテル様。これは無理ですさ。こんな、こんなポンコツでは、巨人には、勝てないですさ」



 ロボットに乗っているであろう人物の声を聞きながら、ンテルが、ぺたりと、その場に座り込む。



「わざわざ、ここまで来たのにす。こんな事になるなんてす。国民達になんと説明すればいいんだす」



 ンテルががっくりと頭を垂れる。



「なんだか、ちょっと、かわいそうになって来た。ねえ、チュチュオネイ。猫ちゃんはどうしてもあげられないの?」



 今飼っている子達が無理だったら、新しく生まれた子猫ちゃんなんかでも駄目なのかな。いつだったか、たくさん増えたら、あげる事もあるって、聞いた事あるし。まあ、でも、やっぱりあげたくないものなのかな。そういう気持ちは、猫ちゃんとかワンちゃんとかを、飼った事がないから、私には、分からないのかな。けど、生まれた子猫ちゃん達だってかわいいもんね。そうだよね。私だって、あげたくないって考えちゃうか。シズクは言ってから、そう思う。



「無理ですめ。第六帝国は人類至上主義を掲げて、国内にいた自分達よりも大きな生き物を、すべて国の中から追い出したという過去を持つ国なのですめ」



「何それ?」



 シズクは、ンテルに目を向ける。



「それは、確かにそういう事もやったす。でも、今は違うす。国民の誰も彼もが、猫を欲しがっているす。だから、どうしても、欲しいのだす」



 ンテルが小さな声で言い、ゆっくりと、顔を上げる。



「この国にいる猫の中にも、第六帝国から逃げて来た子達の子孫がいるむ。チュチュは、そういうのは、絶対に許せないと思うむ」



 山のようなになっている所の上の、チュチュオネイ達がいる場所に到着したチュチュが、裸のままでとても真面目な顔で言った。



「そう、なんだ。昔の事とか言われると、なんか、私が、簡単に、口を出しちゃいけないような、難しい話のような、気がして来た。でも、チュチュ。いくら真面目な顔しても、それはもういいから。いい加減に服を着ろ」



 シズクは言って、キッテの方に顔を向けた。キッテが声を出さずに、シズク。頑張れ。と言うように、口だけを動かす。



 さっきからなんなの。本当に。映像集の事もあるし、後で、本当にぶん殴ってやろうかな。シズクは、そう思うと、キッテの顔から視線を外す。



「そうだす。いい事を思い付いたす。よかったら、余の国に来てみて欲しいす。もう、昔とは違うす。どんな国かを見てもらえば、きっと、猫をあげる気にもなると思うす」

 

 ンテルが、何かを思い付いたような顔をしてから、口を開いて、そう言った。
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