二十六 分裂
文字数 2,969文字
ナノマがシズクを追い抜き、シズクはナノマに追い付くために、ナノマシンが形作っている翼に、さらなる加速を要求する。
ナノマとシズクの速度は、いつの間にか、相当な速度になっていて、眼下に広がる森の美しい景観も、シズクの目には、もう映らず、ただ、流れ去るだけの物となっていた。
不意に、ナノマの速度が落ちたので、シズクは、ナノマを追い抜いた。
「やった。これで森を抜ければ」
「シズク。烏の数が増えてるナノマ」
シズクの横に並ぶようにして、飛び始めたナノマが、シズクの言葉を遮さえぎるようにしてそう言った。
「え? 何それ?」
言ってから、手を開き、止まれ。と言って、その場で止まると、地面に対して平行になっていたシズクの体が、地面に足を向けている、空中で立っているような姿勢に戻る。
シズクは、飛んでいる速度によって、姿勢が変わるんだ。と思いながら、振り向いた。
「本当だ。一、二、三、十羽くらい、いるのかな」
「十羽くらいいるナノマ。でも、喧嘩とかはしてないナノマ」
「うん。というか、どの子が、私達と一緒にいた烏ちゃんか、もう分からないんだけど」
「ナノマにも、もう分からないナノマ」
シズクとナノマは顔を見合わせた。
「どうするのこれ?」
「こっちに来てるみたいナノマ。ここで来るのを待って、烏達の様子を、近くから観察してみるというのはどうナノマ?」
シズクは、うん。そうしよっか。と言い、飛んで来ている烏達の方に顔の向きを戻す。
うーん。競争なんてしていたから、全然状況が分からなくなっている。もう。私って、どうして、こんなに駄目なんだろう。シズクは、飛んで来ている烏達を見つめながら、そう思った。
烏達がシズク達に追い付くと、シズク達の周りを回るようにして飛び始める。
「かあかあかあかあかあ」
一羽の烏が、シズクに何かを伝えようとするかのように、シズクの方に顔を向けて鳴いた。
「今鳴いたのが、私達と一緒にいた烏ちゃんだ」
自分の方に向かって鳴いて来た事で、この子があの烏ちゃんだ。と気が付いたシズクは声を上げた。
「これは、烏達の群れが、分裂したという事ナノマ?」
「実は、烏ちゃんと仲のいい子達がいて、さっきは怖くて出て来られなかったけど、烏ちゃんがいなくなっちゃったから、追いかけて来てくれたとか?」
シズクは、きっとそういう事だよね。烏ちゃんの友達が来てくれたって事でいいんだよね。と言いながら思った。
「でも、そうなると、元々の群れの方はどうなってるナノマ? 追いかけて来たりはしてないナノマ?」
ナノマが言い終えると、顔を、今まで自分達が飛んで来ていた方向に向けた。
「まだ、かなりの距離があるけど、追いかけて来てるナノマ。」
「あっちの子達も、一緒に来たいのかな?」
「これは、どう判断すればいいのか、分からないナノマ」
シズク達の周りを飛んでいた烏達が、追いかけて来ている、烏達の群れの方に向かって飛んで行き始める。
「シズク。どうするナノマ?」
「ナノマ。もしも、あの子達とあっちの子達が、喧嘩とかを始めたら、あの子達を守れそう?」
「大丈夫ナノマ。ナノマに任せるナノマ」
「じゃあ、また、さっきと同じように、様子を見てみよう。もしも、喧嘩とかになるようだったら、あの子達を追って来たあっちの子達を、私が、がつんと、やってやる」
「がつんとって、何をする気ナノマ?」
「私が行って、ぶん殴る、あ、ああ、怪我とさせちゃったら嫌だから、驚かす?」
「分かったナノマ。その時はシズクに任せるナノマ。頭の輪っかと背中の翼になってるナノマ達が、シズクを守ってるナノマ。だからシズク。安心して大暴れして来るナノマ」
「ナノマ。何から何までありがとう」
「シズク。そんなふうにお礼を言われると、なんだか、凄く、嬉しくなるナノマ。では、ナノマは、念の為に、あの子達の近くに行って、待機するナノマ。張り切って行って来るナノマ」
「うん。お願い」
ナノマが、翼を羽ばたかせると、ぎゅんっと、加速して、シズク達と一緒にいた、あの子達の群れ、――烏ちゃん達の群れに、追い付いた。
追いかけて来ていた烏達の群れと、烏ちゃん達の群れとの距離が、近くなるにつれて、二つの群れの烏達が鳴き声を上げ始める。
シズクはその鳴き声を聞いて、これは、仲のいい子達の挨拶じゃないみたいだ。と思うと、拳を握った手を烏ちゃん達のいる方に向け、急いであそこまで行け。と言った。
シズクの背中の一対の翼が大きく羽ばたき、凄まじい速度でシズクの体は進み、あっという間に、シズクは烏ちゃん達の群れの傍まで行く。
「ナノマ。この様子だと、喧嘩になると思う」
シズクは、自分の横に並んで来たナノマに向かって言った。
「ナノマもそう思うナノマ。どうするナノマ?」
「ナノマは、烏ちゃん達の傍にいて、何かあったら烏ちゃん達を守って。私はあっちの子達を、追い払いに行く」
「分かったナノマ。シズク。気を付けてナノマ」
「うん」
シズクは返事をしてから、烏ちゃん達の群れを追い抜き、追って来ていた烏達の群れの前まで行くと、そこで、止まれ。と言って、手を開き、空中で静止した。
烏ちゃん達の群れと、追って来ていた烏達の群れとが、シズクを境目さかいめにするようにして、反転し、その場で旋回を始める。
「あんた達。この子達に何かしたら、私が許さないんだからね」
シズクは、腕を組んで、空中で仁王立ちをすると、追って来ていた烏達の群れを睨にらみ、大きな声で言った。
追って来ていた群れの烏達が、シズクの言葉に、まるで、反論でもしているかのように、一斉に鳴き声を上げる。
「何よ? やる気なの?」
「シズク。ここは、やっぱりナノマがやるナノマ」
ナノマがシズクの傍に来て言う。
「ナノマ。ありがとう。でも、気持ちだけもらっとく。糞ふんの事もあるし、烏ちゃん達を守らなきゃいけないっていう事もある。だから、あっちの子達に、ここで舐められるわけにはいかない」
「シズク」
「行って来る」
シズクは言ってから、このまま真っ直ぐに、烏の群れに突っ込め。と言って、拳を握った手を、追いかけて来ていた烏達の群れに向けた。
自分達の方に突っ込んで来るシズクを見て、烏達の群れが、シズクを避けるように、いくつかの塊となって、散り散りになる。シズクはいくつかの塊に分かれた烏達を、追いかけるようにして、飛び始める。
追いかけて来るシズクに対して、攻撃を仕掛けて来る烏は一羽もいなかった。シズクの勢いに気圧けおされたのか、体の大きさの差異さいに、恐れをなしたのか、追って来ていた群れの烏達は、シズクに追いかけ回されながら、徐々に、元来た方向に向かって、戻って行くように、飛ぶようになって、やがて、逃走を始めた。
「ふふふふ。もう。許してあげよう」
シズクは、烏達を追うのをやめて、その場にとどまると、追いかけて来ていた烏達が飛び去って行く、後ろ姿を見つめながら、そう言った。
「シズク。格好良かっこうよかったナノマ」
ナノマがシズクの傍に来る。
「もう。ナノマったら、またそんな事言って」
シズクは恥ずかしくなったので、顔をぷいっと横に向けた。
ナノマとシズクの速度は、いつの間にか、相当な速度になっていて、眼下に広がる森の美しい景観も、シズクの目には、もう映らず、ただ、流れ去るだけの物となっていた。
不意に、ナノマの速度が落ちたので、シズクは、ナノマを追い抜いた。
「やった。これで森を抜ければ」
「シズク。烏の数が増えてるナノマ」
シズクの横に並ぶようにして、飛び始めたナノマが、シズクの言葉を遮さえぎるようにしてそう言った。
「え? 何それ?」
言ってから、手を開き、止まれ。と言って、その場で止まると、地面に対して平行になっていたシズクの体が、地面に足を向けている、空中で立っているような姿勢に戻る。
シズクは、飛んでいる速度によって、姿勢が変わるんだ。と思いながら、振り向いた。
「本当だ。一、二、三、十羽くらい、いるのかな」
「十羽くらいいるナノマ。でも、喧嘩とかはしてないナノマ」
「うん。というか、どの子が、私達と一緒にいた烏ちゃんか、もう分からないんだけど」
「ナノマにも、もう分からないナノマ」
シズクとナノマは顔を見合わせた。
「どうするのこれ?」
「こっちに来てるみたいナノマ。ここで来るのを待って、烏達の様子を、近くから観察してみるというのはどうナノマ?」
シズクは、うん。そうしよっか。と言い、飛んで来ている烏達の方に顔の向きを戻す。
うーん。競争なんてしていたから、全然状況が分からなくなっている。もう。私って、どうして、こんなに駄目なんだろう。シズクは、飛んで来ている烏達を見つめながら、そう思った。
烏達がシズク達に追い付くと、シズク達の周りを回るようにして飛び始める。
「かあかあかあかあかあ」
一羽の烏が、シズクに何かを伝えようとするかのように、シズクの方に顔を向けて鳴いた。
「今鳴いたのが、私達と一緒にいた烏ちゃんだ」
自分の方に向かって鳴いて来た事で、この子があの烏ちゃんだ。と気が付いたシズクは声を上げた。
「これは、烏達の群れが、分裂したという事ナノマ?」
「実は、烏ちゃんと仲のいい子達がいて、さっきは怖くて出て来られなかったけど、烏ちゃんがいなくなっちゃったから、追いかけて来てくれたとか?」
シズクは、きっとそういう事だよね。烏ちゃんの友達が来てくれたって事でいいんだよね。と言いながら思った。
「でも、そうなると、元々の群れの方はどうなってるナノマ? 追いかけて来たりはしてないナノマ?」
ナノマが言い終えると、顔を、今まで自分達が飛んで来ていた方向に向けた。
「まだ、かなりの距離があるけど、追いかけて来てるナノマ。」
「あっちの子達も、一緒に来たいのかな?」
「これは、どう判断すればいいのか、分からないナノマ」
シズク達の周りを飛んでいた烏達が、追いかけて来ている、烏達の群れの方に向かって飛んで行き始める。
「シズク。どうするナノマ?」
「ナノマ。もしも、あの子達とあっちの子達が、喧嘩とかを始めたら、あの子達を守れそう?」
「大丈夫ナノマ。ナノマに任せるナノマ」
「じゃあ、また、さっきと同じように、様子を見てみよう。もしも、喧嘩とかになるようだったら、あの子達を追って来たあっちの子達を、私が、がつんと、やってやる」
「がつんとって、何をする気ナノマ?」
「私が行って、ぶん殴る、あ、ああ、怪我とさせちゃったら嫌だから、驚かす?」
「分かったナノマ。その時はシズクに任せるナノマ。頭の輪っかと背中の翼になってるナノマ達が、シズクを守ってるナノマ。だからシズク。安心して大暴れして来るナノマ」
「ナノマ。何から何までありがとう」
「シズク。そんなふうにお礼を言われると、なんだか、凄く、嬉しくなるナノマ。では、ナノマは、念の為に、あの子達の近くに行って、待機するナノマ。張り切って行って来るナノマ」
「うん。お願い」
ナノマが、翼を羽ばたかせると、ぎゅんっと、加速して、シズク達と一緒にいた、あの子達の群れ、――烏ちゃん達の群れに、追い付いた。
追いかけて来ていた烏達の群れと、烏ちゃん達の群れとの距離が、近くなるにつれて、二つの群れの烏達が鳴き声を上げ始める。
シズクはその鳴き声を聞いて、これは、仲のいい子達の挨拶じゃないみたいだ。と思うと、拳を握った手を烏ちゃん達のいる方に向け、急いであそこまで行け。と言った。
シズクの背中の一対の翼が大きく羽ばたき、凄まじい速度でシズクの体は進み、あっという間に、シズクは烏ちゃん達の群れの傍まで行く。
「ナノマ。この様子だと、喧嘩になると思う」
シズクは、自分の横に並んで来たナノマに向かって言った。
「ナノマもそう思うナノマ。どうするナノマ?」
「ナノマは、烏ちゃん達の傍にいて、何かあったら烏ちゃん達を守って。私はあっちの子達を、追い払いに行く」
「分かったナノマ。シズク。気を付けてナノマ」
「うん」
シズクは返事をしてから、烏ちゃん達の群れを追い抜き、追って来ていた烏達の群れの前まで行くと、そこで、止まれ。と言って、手を開き、空中で静止した。
烏ちゃん達の群れと、追って来ていた烏達の群れとが、シズクを境目さかいめにするようにして、反転し、その場で旋回を始める。
「あんた達。この子達に何かしたら、私が許さないんだからね」
シズクは、腕を組んで、空中で仁王立ちをすると、追って来ていた烏達の群れを睨にらみ、大きな声で言った。
追って来ていた群れの烏達が、シズクの言葉に、まるで、反論でもしているかのように、一斉に鳴き声を上げる。
「何よ? やる気なの?」
「シズク。ここは、やっぱりナノマがやるナノマ」
ナノマがシズクの傍に来て言う。
「ナノマ。ありがとう。でも、気持ちだけもらっとく。糞ふんの事もあるし、烏ちゃん達を守らなきゃいけないっていう事もある。だから、あっちの子達に、ここで舐められるわけにはいかない」
「シズク」
「行って来る」
シズクは言ってから、このまま真っ直ぐに、烏の群れに突っ込め。と言って、拳を握った手を、追いかけて来ていた烏達の群れに向けた。
自分達の方に突っ込んで来るシズクを見て、烏達の群れが、シズクを避けるように、いくつかの塊となって、散り散りになる。シズクはいくつかの塊に分かれた烏達を、追いかけるようにして、飛び始める。
追いかけて来るシズクに対して、攻撃を仕掛けて来る烏は一羽もいなかった。シズクの勢いに気圧けおされたのか、体の大きさの差異さいに、恐れをなしたのか、追って来ていた群れの烏達は、シズクに追いかけ回されながら、徐々に、元来た方向に向かって、戻って行くように、飛ぶようになって、やがて、逃走を始めた。
「ふふふふ。もう。許してあげよう」
シズクは、烏達を追うのをやめて、その場にとどまると、追いかけて来ていた烏達が飛び去って行く、後ろ姿を見つめながら、そう言った。
「シズク。格好良かっこうよかったナノマ」
ナノマがシズクの傍に来る。
「もう。ナノマったら、またそんな事言って」
シズクは恥ずかしくなったので、顔をぷいっと横に向けた。