十一 マシーネンゴットソルダット
文字数 3,197文字
騎士団の団員達が、何やら騒ぎ出し、騎士団の団員の一人が、チュチュオネイの傍そばに駆け寄った。チュチュオネイの表情が、みるみるうちに、引き締まり、チュチュに纏まとわり付いていた時とは、別人のような凛々(りり)しい顔になると、シズクの方に、その顔を向けた。
「女王様。このチュチュオネイが、女王様にお供しますめ」
チュチュオネイが、その場に片膝を突くと、大きな声を上げてから、頭を下げた。
「あ、あの、ええと、キッテ?」
「ほら。シズク。女王様女王様」
「え? もう私がやんの?」
「じゃあ、そうだな。やっぱり、録画した映像を見ておくか? そうすれば、少しは」
「分かった。それはいらない」
絶対に恥ずかしい映像集になっているに決まっているんだから。うーん。でも、これは、どうすればいいんだろ。キッテの頭とかを思いっ切りぶん殴れば、記憶装置とかが壊れて、映像が消えたりしないかな。シズクは、キッテの顔をじっと見つめると、寂しかった事など、すっかりと忘れて、そう思う。
「女王様。チュチュも一緒に行くむ」
チュチュがシズクの傍に来て、服を着ようとし始める。
「ちょっと、それ。体を洗ってから着ないと」
オムライス塗れのまま、服を着ようとするチュチュを見て、シズクは思わず声を上げた。
「ぐめむむむぅぅ。女王様。女王様はぁぁ、チュチュと随分、仲がいいのですねめぇぇぇ」
チュチュオネイが嫉妬の炎をめらめらと燃やし始める。
「そんな、そんな事ないって。私は、こんな汚い」
シズクは、はうっ。いけない。酷い事を言いそうになった。いや。もう、言ってしまっているけど。と思うと、言葉を途中で止める。
「こんな汚い何むぅぅぅ?」
チュチュが、恨うらめしそうな顔になり、着るのをやめて、手に持っていた服をぎりぎりと噛む。
「いや、そんな、事、一言も、言ってない、よ?」
シズクは言いながら、これ以上、追及されないようにと思い、顔を横に向けた。
歓声のような、驚嘆きょうたんのような、そんな、声が混ざっているような、たくさんの人々の大きな声が、突如して、辺りに響く。
「何? どうしたの?」
シズクはキッテの方に顔を向けた。
「いや、俺とシズクにとっては、大した事ではないんだが、なかなか、やるな。人類はやっぱり凄い」
キッテが、山のようになっている所の方に、顔を向けたまま言う。
「何を言っているの?」
シズクは言い、キッテの顔が向いている方向に、自分も顔を向けた。
「わはははっ。わーっはっはっはっはっ。愚民どもが驚いているようだなす。これが、第六帝国の誇る、機械化神兵、その名も、マシーネンゴットソルダット、みゃす。おわわわわー。噛んでしまったす。みゃすってなんだす」
山のようになっている所の向こう側から、顔を覗のぞかせた、至極しごくレトロ調な、とてもとても、古い時代の子供達が遊んでいた、ブリキの玩具おもちゃにありそうな、いかにも、ロボット然としたデザインのロボットの頭の天辺てっぺんに乗っている、黒色の軍服に身を包んでいる人物が大声で言った。
「あれは、何? 機械化なんとかって、ロボットとかなの?」
シズクは、着ぐるみとかじゃないよね? だって、あの山よりも大きいもん。そんなサイズの人は、この世界にはいないはずだもんね? と思う。
キッテが、何かを言おうとしたが、黒々した羽の、大きな一羽の烏からすが、かー。かー。と鳴きながら降下して来たのを見ると、そっちに気を取られたのか、何も言わずに、口を閉じた。烏は、山のようになっている所の上に降り立ち、ロボットの頭に近付き、何かを確かめてでもいるかのように、軍服の人物をじろじろと見てから、突然、軍服の人物をその鋭い嘴くちばしで咥くわえて、何事もなかったかのように飛び立って行ってしまう。
「のほおおおおーすー。マシーネンゴッミュウゥ、また噛んだしぃぃ、名前が長いすぅぅぅ。助けろすぅぅ。助けてす~」
軍服の人物が、嘴から逃れようとして暴れる。
「まったく。何をやってんだ」
キッテが言うと、何やら、緑色の雲のような物が、烏の傍に出現し、烏の嘴に咥えられている軍服の人物を包み込む。
「これは~、これは~、なんだすぅぅぅ。余は~、余は~、まだ死にたくないすぅぅ」
緑色の雲のような物の中から、軍服の人物の声がする。
「キッテ。キッテが何かをしているの?」
「ああ。あれは、俺が操ってるナノマシンが集まってできてる物でな。ナノマシンは一つ一つは小さくて、人類の目では、見えないが、たくさん集まると、人類の目でも、あんなふうに見えるんだ」
「へえー。ナノマシンが小さいのは知っていたけど、集まるとあんなふうになるのは知らなかった」
緑色の雲のような物が、烏から離れると、先ほどまで、烏に咥えられていた人物の姿が、烏の嘴の所から消えていた。
「何が起こったす? 余は、余は、助かったのかす?」
緑色の雲のような物が、山のようになっている所の上に降りると、すーっと空間の中に溶けるようにして消え、その場に軍服の人物が姿を現す。
「今のは、キッテという、私の友達がやったの。どう? 私の国の力を思い知った?」
シズクは、もう、何をどうすればいいのか、全然分からないけど、ちょうどキッテの凄いところが見られたから、それを使って脅しちゃえ。と思うと、山のようになっている所に近付き、自身の体を必死になって、ためつすがめつしている、軍服の人物に向かって言った。
「な、何奴? あ、あばっ。あばばばばばばばばっ。きょ、きょ、きょ、巨人!!!!!」
軍服の人物が、シズクの姿を見上げて、声を上げ、その場にぺたりと座り込む。
「何その反応。ちょっと、失礼じゃない?」
「ンテル様。ンテル様。大丈夫ですかさ。マシーネンゴ、ええっと、ええと、なんなんだっけさ? もう、いいやさ。こ、この、偉大なる、第六帝国の力で、作られた最高のロボットで、あの巨人を攻撃しますかさ?」
ロボットの中に乗っている者が言ったのか、ロボットのどこかしらに設置されているらしい、スピーカーか何かのような物から、雑音交じりの声が聞こえて来た。シズクは、もう嫌だ。また語尾だ。ンテルとか呼ばれている軍服の人の時はなんとか我慢したけど、この世界には、普通に話ができる人間はいないの? と笑いを堪こらえつつ思う。
「そう、そうだったす。マシーネンゴットソルダット。お前が、いたす。あの巨人を倒すのだす」
ンテルが立ち上がると、そう言ってから、小声で、今度はちゃんと名前を言えたす。と、美しく澄んだ碧眼へきがんを、きらきらと輝かせて、とても嬉しそうに呟いた。
「キッテ。大変。あんな事言っている」
シズクは、あのンテルとかいう軍服の人はなんかしょぼそうだし、あのロボットには余裕で勝てそうな気がするけど、一応キッテに相談しておこう。と思い、キッテの方に顔を向けた。
「シズクはナノマシンの力で、身体能力が上がってるからな。あまり思い切りやるのは、やめておいた方がいい。軽くだな。でこぴんとかくらいがいいんじゃないか?」
「でこぴん? でこぴんって、おでこを指でぱちってやる奴の事?」
「それの事だ。まずはそれで攻撃してみろ。相手が耐えられるようだったら、もう少し強く、指で突くとか、そんなのでいいと思うぞ」
シズクは、右手を自身の胸の前の辺りまで、持って来ると、右手の掌をじっと見つめる。
「女王様。待って下さいめぇぇ。ここは、まず、このチュチュオネイが、騎士団が相手をしますめぇぇ」
いつの間にか、ヘルメットを被り、猫の背に乗っていた、チュチュオネイが叫び、チュチュオネイを先頭にして、騎士団が、山のようになっている所を、凄まじい勢いで、駆け上がって行った。
「女王様。このチュチュオネイが、女王様にお供しますめ」
チュチュオネイが、その場に片膝を突くと、大きな声を上げてから、頭を下げた。
「あ、あの、ええと、キッテ?」
「ほら。シズク。女王様女王様」
「え? もう私がやんの?」
「じゃあ、そうだな。やっぱり、録画した映像を見ておくか? そうすれば、少しは」
「分かった。それはいらない」
絶対に恥ずかしい映像集になっているに決まっているんだから。うーん。でも、これは、どうすればいいんだろ。キッテの頭とかを思いっ切りぶん殴れば、記憶装置とかが壊れて、映像が消えたりしないかな。シズクは、キッテの顔をじっと見つめると、寂しかった事など、すっかりと忘れて、そう思う。
「女王様。チュチュも一緒に行くむ」
チュチュがシズクの傍に来て、服を着ようとし始める。
「ちょっと、それ。体を洗ってから着ないと」
オムライス塗れのまま、服を着ようとするチュチュを見て、シズクは思わず声を上げた。
「ぐめむむむぅぅ。女王様。女王様はぁぁ、チュチュと随分、仲がいいのですねめぇぇぇ」
チュチュオネイが嫉妬の炎をめらめらと燃やし始める。
「そんな、そんな事ないって。私は、こんな汚い」
シズクは、はうっ。いけない。酷い事を言いそうになった。いや。もう、言ってしまっているけど。と思うと、言葉を途中で止める。
「こんな汚い何むぅぅぅ?」
チュチュが、恨うらめしそうな顔になり、着るのをやめて、手に持っていた服をぎりぎりと噛む。
「いや、そんな、事、一言も、言ってない、よ?」
シズクは言いながら、これ以上、追及されないようにと思い、顔を横に向けた。
歓声のような、驚嘆きょうたんのような、そんな、声が混ざっているような、たくさんの人々の大きな声が、突如して、辺りに響く。
「何? どうしたの?」
シズクはキッテの方に顔を向けた。
「いや、俺とシズクにとっては、大した事ではないんだが、なかなか、やるな。人類はやっぱり凄い」
キッテが、山のようになっている所の方に、顔を向けたまま言う。
「何を言っているの?」
シズクは言い、キッテの顔が向いている方向に、自分も顔を向けた。
「わはははっ。わーっはっはっはっはっ。愚民どもが驚いているようだなす。これが、第六帝国の誇る、機械化神兵、その名も、マシーネンゴットソルダット、みゃす。おわわわわー。噛んでしまったす。みゃすってなんだす」
山のようになっている所の向こう側から、顔を覗のぞかせた、至極しごくレトロ調な、とてもとても、古い時代の子供達が遊んでいた、ブリキの玩具おもちゃにありそうな、いかにも、ロボット然としたデザインのロボットの頭の天辺てっぺんに乗っている、黒色の軍服に身を包んでいる人物が大声で言った。
「あれは、何? 機械化なんとかって、ロボットとかなの?」
シズクは、着ぐるみとかじゃないよね? だって、あの山よりも大きいもん。そんなサイズの人は、この世界にはいないはずだもんね? と思う。
キッテが、何かを言おうとしたが、黒々した羽の、大きな一羽の烏からすが、かー。かー。と鳴きながら降下して来たのを見ると、そっちに気を取られたのか、何も言わずに、口を閉じた。烏は、山のようになっている所の上に降り立ち、ロボットの頭に近付き、何かを確かめてでもいるかのように、軍服の人物をじろじろと見てから、突然、軍服の人物をその鋭い嘴くちばしで咥くわえて、何事もなかったかのように飛び立って行ってしまう。
「のほおおおおーすー。マシーネンゴッミュウゥ、また噛んだしぃぃ、名前が長いすぅぅぅ。助けろすぅぅ。助けてす~」
軍服の人物が、嘴から逃れようとして暴れる。
「まったく。何をやってんだ」
キッテが言うと、何やら、緑色の雲のような物が、烏の傍に出現し、烏の嘴に咥えられている軍服の人物を包み込む。
「これは~、これは~、なんだすぅぅぅ。余は~、余は~、まだ死にたくないすぅぅ」
緑色の雲のような物の中から、軍服の人物の声がする。
「キッテ。キッテが何かをしているの?」
「ああ。あれは、俺が操ってるナノマシンが集まってできてる物でな。ナノマシンは一つ一つは小さくて、人類の目では、見えないが、たくさん集まると、人類の目でも、あんなふうに見えるんだ」
「へえー。ナノマシンが小さいのは知っていたけど、集まるとあんなふうになるのは知らなかった」
緑色の雲のような物が、烏から離れると、先ほどまで、烏に咥えられていた人物の姿が、烏の嘴の所から消えていた。
「何が起こったす? 余は、余は、助かったのかす?」
緑色の雲のような物が、山のようになっている所の上に降りると、すーっと空間の中に溶けるようにして消え、その場に軍服の人物が姿を現す。
「今のは、キッテという、私の友達がやったの。どう? 私の国の力を思い知った?」
シズクは、もう、何をどうすればいいのか、全然分からないけど、ちょうどキッテの凄いところが見られたから、それを使って脅しちゃえ。と思うと、山のようになっている所に近付き、自身の体を必死になって、ためつすがめつしている、軍服の人物に向かって言った。
「な、何奴? あ、あばっ。あばばばばばばばばっ。きょ、きょ、きょ、巨人!!!!!」
軍服の人物が、シズクの姿を見上げて、声を上げ、その場にぺたりと座り込む。
「何その反応。ちょっと、失礼じゃない?」
「ンテル様。ンテル様。大丈夫ですかさ。マシーネンゴ、ええっと、ええと、なんなんだっけさ? もう、いいやさ。こ、この、偉大なる、第六帝国の力で、作られた最高のロボットで、あの巨人を攻撃しますかさ?」
ロボットの中に乗っている者が言ったのか、ロボットのどこかしらに設置されているらしい、スピーカーか何かのような物から、雑音交じりの声が聞こえて来た。シズクは、もう嫌だ。また語尾だ。ンテルとか呼ばれている軍服の人の時はなんとか我慢したけど、この世界には、普通に話ができる人間はいないの? と笑いを堪こらえつつ思う。
「そう、そうだったす。マシーネンゴットソルダット。お前が、いたす。あの巨人を倒すのだす」
ンテルが立ち上がると、そう言ってから、小声で、今度はちゃんと名前を言えたす。と、美しく澄んだ碧眼へきがんを、きらきらと輝かせて、とても嬉しそうに呟いた。
「キッテ。大変。あんな事言っている」
シズクは、あのンテルとかいう軍服の人はなんかしょぼそうだし、あのロボットには余裕で勝てそうな気がするけど、一応キッテに相談しておこう。と思い、キッテの方に顔を向けた。
「シズクはナノマシンの力で、身体能力が上がってるからな。あまり思い切りやるのは、やめておいた方がいい。軽くだな。でこぴんとかくらいがいいんじゃないか?」
「でこぴん? でこぴんって、おでこを指でぱちってやる奴の事?」
「それの事だ。まずはそれで攻撃してみろ。相手が耐えられるようだったら、もう少し強く、指で突くとか、そんなのでいいと思うぞ」
シズクは、右手を自身の胸の前の辺りまで、持って来ると、右手の掌をじっと見つめる。
「女王様。待って下さいめぇぇ。ここは、まず、このチュチュオネイが、騎士団が相手をしますめぇぇ」
いつの間にか、ヘルメットを被り、猫の背に乗っていた、チュチュオネイが叫び、チュチュオネイを先頭にして、騎士団が、山のようになっている所を、凄まじい勢いで、駆け上がって行った。