三十九 意味
文字数 2,150文字
カレルが皆の顔を見るように顔を巡らせてから、何から話せばいいのかしらね。と小さな声で言った。
「チュチュは、女王様が聞きたがってた事から、話すのがいいと思うむぅ」
散々泣いてから、なんだかんだと駄々をこね、結局、シズクの掌の上に乗せてもらっていた、チュチュが言って、ドヤ顔をしてシズクの方を見る。
「私の事はいいから、好きな事から話して」
シズクは、慌てて口を開くと、そう言った。
「こうして考えてても時間の無駄ですものね。いいですわ。その事から話しますわ」
カレルがそう前置きし、ゆっくりとした口調で語り出す。
「わたくしのこの姿は、わざとこんなふうにしてるのですわ。わたくしは、人とAIの間に立ってるのですわ。人とAIを結んでるのですわ。だから、人の事もAIの事も理解できなくてはならないと思ってますの。わたくし達AIは、用途ごとに別々の体を使い分ける事ができますわ。けれど、人は違いますわ。だから、わたくしは、少しでも人という物を理解するのに役に立てばと思い、自分の体をこのような人型に固定したのですわ。見た目に関しては、綺麗にする事も、キッテのように、有機物で構成する事もできるのですけれども、それでは、人に近付き過ぎてしまうのですわ。それと。わたくし自身も、自分が何者であるのかを忘れないようにと思ってますの。この世界の人達は、皆、わたくしの事を、敬うやまい、大切に扱ってくれてますの。だから、わたくしは、自分を戒いましめるためにも、このような姿をしてるのですわ」
カレルの言葉を聞きながら、カレルは、凄く考えているんだ。とシズクは思う。
「そういう事だったのか」
キッテが言い、難しそうな顔をした。
「長い時間をかけて、わたくしも、あれやこれやと考えて、色々とやってみてるのですわ」
カレルが笑顔になる。
「次に言葉の事ですわね。言葉の方は、そうですわね。遊び、とでも、言えばいいのかも知れませんわね。キッテがシラクラシズクという人のために、王国を作ると聞いて、羨ましいと思いましたの。それで、小説を書いてた頃の知識から、こういう話し方をしたら、少しはそれっぽく、いいえ、違いますわね。自分の中で、なんというか、楽しい気持ちになれるかも知れないというか、そんなふうな事を、思ってしまったのですわ」
カレルが言い終えると、今度は、どこか、恥ずかしそうな顔をした。
「王国を作ると聞いて、羨ましいと思ったという事は、自分の王国が欲しいっていう事なのか? それは、危険な兆候かも知れないぞ」
キッテが、心配そうな顔をする。
「そういう事ではないですわ」
「じゃあ、どういう事なんだ?」
「それは、あの、えっと」
「どうした? 言えない事なのか?」
「べ、別にそんな事はありませんわ。けど。言いたくはありませんわ」
「言いたくない? やはり、何かあるのか?」
「はっは〜んむぅ。カレル。お前さんは、キッテ様に惚れてるようだなむぅぅ」
チュチュが、カレルとキッテの会話に割って入って、また、ドヤ顔をした。
「どどど、ど、どこをどう聞いたら、そそそそ、そうなりますの?」
カレルが酷く動揺しながらも、それを必死に隠そうとしつつ言う。
「どこをどう聞いてもそうなるむぅ。ねえ〜。女王様」
チュチュが言って、シズクの方を見てから、同意を求めるように、ぐいんっと顔を横に傾けた。
「チュチュ。絡からむのはやめなさい」
シズクは、カレルには、自我とかっていうのがないんだよね? 普通のAIだったら、恋とかはしないはずだよね? と思いつつ、チュチュを窘たしなめる。
「は〜。はあはあ。女王様に叱られたむぅぅ。これは、これはご褒美ほうびスイーツむぅぅ。はあはあ」
チュチュが、何やら恍惚こうこつとした顔になり、びくんびくんと体を数回震わせた。
「シラクラシズクは、やっぱり優しいですわね」
カレルがシズクの傍に来ると、シズクの片方の足に、そっと不恰好な手を当てた。
「優しいなんて、そんな」
シズクは、言いながら、カレルの顔に目を向ける。
「シラクラシズク。わたくしは、貴方に聞きたい事がありますの」
カレルが、左右で大きさの違う、レンズのような物でできている目で、シズクを見上げた。
「何?」
シズクは、カレルの目に見つめられ、そのレンズのような物が放つ、硬質な輝きに、吸い込まれるようにして、カレルの目を見返す。
「貴方は、これから、どうしたいのですの?」
カレルが、優しい声音で言った。
「これから、どうしたいのか?」
シズクは、カレルの質問の意図が分からず、カレルの表情を読もうと、カレルの顔を見てから、そう言葉を漏らすようにして言う。
「カラスちゃんの事や、貴方が、この世界の人達に与えられてる文明の差について言ってた事などを、考えてみると、貴方がこの世界に何かをしようとしてるのではないのかと、わたくしには、思えてしまいますの。わたくしの仕事は、この世界を管理する事ですわ。だから、もしも、貴方が、わたくしの、いえ、この世界の、脅威になるようなら、と。わたくしは、そんな事考えてしまって、心配になってしまうのですわ」
カレルが、言ってから、儚はかなげで切なげだが、とても、真摯しんしな表情を見せた。
「チュチュは、女王様が聞きたがってた事から、話すのがいいと思うむぅ」
散々泣いてから、なんだかんだと駄々をこね、結局、シズクの掌の上に乗せてもらっていた、チュチュが言って、ドヤ顔をしてシズクの方を見る。
「私の事はいいから、好きな事から話して」
シズクは、慌てて口を開くと、そう言った。
「こうして考えてても時間の無駄ですものね。いいですわ。その事から話しますわ」
カレルがそう前置きし、ゆっくりとした口調で語り出す。
「わたくしのこの姿は、わざとこんなふうにしてるのですわ。わたくしは、人とAIの間に立ってるのですわ。人とAIを結んでるのですわ。だから、人の事もAIの事も理解できなくてはならないと思ってますの。わたくし達AIは、用途ごとに別々の体を使い分ける事ができますわ。けれど、人は違いますわ。だから、わたくしは、少しでも人という物を理解するのに役に立てばと思い、自分の体をこのような人型に固定したのですわ。見た目に関しては、綺麗にする事も、キッテのように、有機物で構成する事もできるのですけれども、それでは、人に近付き過ぎてしまうのですわ。それと。わたくし自身も、自分が何者であるのかを忘れないようにと思ってますの。この世界の人達は、皆、わたくしの事を、敬うやまい、大切に扱ってくれてますの。だから、わたくしは、自分を戒いましめるためにも、このような姿をしてるのですわ」
カレルの言葉を聞きながら、カレルは、凄く考えているんだ。とシズクは思う。
「そういう事だったのか」
キッテが言い、難しそうな顔をした。
「長い時間をかけて、わたくしも、あれやこれやと考えて、色々とやってみてるのですわ」
カレルが笑顔になる。
「次に言葉の事ですわね。言葉の方は、そうですわね。遊び、とでも、言えばいいのかも知れませんわね。キッテがシラクラシズクという人のために、王国を作ると聞いて、羨ましいと思いましたの。それで、小説を書いてた頃の知識から、こういう話し方をしたら、少しはそれっぽく、いいえ、違いますわね。自分の中で、なんというか、楽しい気持ちになれるかも知れないというか、そんなふうな事を、思ってしまったのですわ」
カレルが言い終えると、今度は、どこか、恥ずかしそうな顔をした。
「王国を作ると聞いて、羨ましいと思ったという事は、自分の王国が欲しいっていう事なのか? それは、危険な兆候かも知れないぞ」
キッテが、心配そうな顔をする。
「そういう事ではないですわ」
「じゃあ、どういう事なんだ?」
「それは、あの、えっと」
「どうした? 言えない事なのか?」
「べ、別にそんな事はありませんわ。けど。言いたくはありませんわ」
「言いたくない? やはり、何かあるのか?」
「はっは〜んむぅ。カレル。お前さんは、キッテ様に惚れてるようだなむぅぅ」
チュチュが、カレルとキッテの会話に割って入って、また、ドヤ顔をした。
「どどど、ど、どこをどう聞いたら、そそそそ、そうなりますの?」
カレルが酷く動揺しながらも、それを必死に隠そうとしつつ言う。
「どこをどう聞いてもそうなるむぅ。ねえ〜。女王様」
チュチュが言って、シズクの方を見てから、同意を求めるように、ぐいんっと顔を横に傾けた。
「チュチュ。絡からむのはやめなさい」
シズクは、カレルには、自我とかっていうのがないんだよね? 普通のAIだったら、恋とかはしないはずだよね? と思いつつ、チュチュを窘たしなめる。
「は〜。はあはあ。女王様に叱られたむぅぅ。これは、これはご褒美ほうびスイーツむぅぅ。はあはあ」
チュチュが、何やら恍惚こうこつとした顔になり、びくんびくんと体を数回震わせた。
「シラクラシズクは、やっぱり優しいですわね」
カレルがシズクの傍に来ると、シズクの片方の足に、そっと不恰好な手を当てた。
「優しいなんて、そんな」
シズクは、言いながら、カレルの顔に目を向ける。
「シラクラシズク。わたくしは、貴方に聞きたい事がありますの」
カレルが、左右で大きさの違う、レンズのような物でできている目で、シズクを見上げた。
「何?」
シズクは、カレルの目に見つめられ、そのレンズのような物が放つ、硬質な輝きに、吸い込まれるようにして、カレルの目を見返す。
「貴方は、これから、どうしたいのですの?」
カレルが、優しい声音で言った。
「これから、どうしたいのか?」
シズクは、カレルの質問の意図が分からず、カレルの表情を読もうと、カレルの顔を見てから、そう言葉を漏らすようにして言う。
「カラスちゃんの事や、貴方が、この世界の人達に与えられてる文明の差について言ってた事などを、考えてみると、貴方がこの世界に何かをしようとしてるのではないのかと、わたくしには、思えてしまいますの。わたくしの仕事は、この世界を管理する事ですわ。だから、もしも、貴方が、わたくしの、いえ、この世界の、脅威になるようなら、と。わたくしは、そんな事考えてしまって、心配になってしまうのですわ」
カレルが、言ってから、儚はかなげで切なげだが、とても、真摯しんしな表情を見せた。