二十二 女王、笑われる?
文字数 2,652文字
シズクの腕の中にいる烏が、眠たそうに目を、しょぼしょぼとさせる。
シズクはそんな烏を見て、かわいいな。と思うと、両足にぎゅっと力を込めて、立ち上がった。
「ナノマ。やっぱり、この子をこのままにはできない。何かしてあげたい。……。違う。ちゃんと、仲間の所に戻してあげたい」
「了解ナノマ。シズクがそうしたいなら従うナノマ。何か烏に関する事が分かるかも知れないナノマ。もう一度デーベースに聞いてみるナノマ」
「ナノマ。ありがとう」
シズクは言ってから、顔を上に向けると、烏達の姿を探し始める。
「烏ちゃん達。どうしてこの子を攻撃したの?」
木々の枝々にとまっている、数十羽の烏の姿を見付けたシズクは、大きな声で言った。
烏からの反応は何もなく、シズクは、当たり前だよね。これで返事とかされたら、逆に怖いもん。と思う。
「うぐわぅっ」
顔を上げていたシズクの額に、何かが落下して来て、シズクは思わず、変な声を出してしまった。
「シズク。大丈夫ナノマ。ナノマがちゃんと受け止めたナノマ」
「ありがとう。でも、何が落ちて来たんだろ?」
シズクは、烏を片腕で抱き直すと、空いた方の手で、額に触れるか触れないかの所で、霧状のナノマによって受け止められている、何かに触れる。
「ん? なんだこれ?」
シズクは、何かを触った手を、自身の顔の前に持って来て、その何かを、じっと見つめた。
「シズク。それは、烏の糞ふんナノマ」
「へ?」
なんともいえない感覚と思いと感情とが、シズクの中で渦巻うずまき、シズクは、ただ、反射的に、短くそう言った。
「すぐにナノマが掃除するナノマ」
ナノマが言い、糞を触ったシズクの手の周りに、緑色の雲のような物が出現し始めた。
「ナノマ。いいよ。糞を、受け止めてくれただけでも、ありがたいんだから。そんな事ナノマにさせられない。それより、人の頭に糞を落とすとか。これって、偶然なのかな? そんでもって、それに、触っちゃったし」
シズクは、なんか、凄く、わざとっぽい気がするんだよな。と思いながら、烏に対して高まっていく憤いきどおりを感じつつ、言葉を出した。
「ナノマが先に糞だと伝えてれば、シズクは触らなくてすんだナノマ。だから、掃除をさせて欲しいナノマ」
「ナノマ。それは」
シズクの言葉の途中で、また、糞が落ちて来た。
「またナノマ」
ナノマが糞を受け止めて言う。
「また、だね」
シズクは、どの子がしたんだ? と思い、枝々にとまっている烏を見回した。一羽の烏と目が合うと、その烏が、かかかかかか。と鳴き、隣にいた烏が、かかっ。と鳴いて、ぷりっと、糞をした。
「掃除よりも、今は、糞をした烏達に、仕返しをしてやりたい」
シズクは、糞をした烏と、その隣にいる烏を睨むように見る。
「仕返しナノマ?」
「そう。仕返し。何か、何か、いい仕返しの方法はないかな?」
シズクは言って、近くにあった木の幹に、手に付いている糞を擦り付けてから、仕返しの方法を考え始める。
「ナノマ達が、また、烏達を追い払うというのはどうナノマ?」
「追い払う? うーん。でも、それじゃ、さっきと一緒だもん。怪我とかはさせたくないけど、この、糞を落とされるという、なんともいえない、感覚というか、感じというか、これを、あの子達にも、味わわせてやりたい」
シズクは、言葉の途中から、ふんすー、ふんすー、と鼻息を荒くしつつ、ナノマの方に顔を向けた。
「じゃあ、ナノマ達がくっ付くというのはどうナノマ? その糞と同じような感じになって、烏達にくっ付くナノマ」
「それは、よさそうだけど、人の頭に平気で糞を落とすような子達だから、もっと、こう、がつんとした何かを」
シズクは言い、この子がされた攻撃っていうのと同じ事をするのはどうかな? でも、それだと、怪我とかしちゃうかな? と思う。
「シズク。キッテ先輩に聞いてみるのはどうナノマ?」
「キッテに? それはいいかも」
シズクは言ってから、あ。でも、キッテは今は王国にいるんだから、聞けないじゃん。と思った。
「ちょっと待つナノマ。今、話ができるようにするナノマ」
「キッテと話ができるの?」
「できるナノマ。無線か有線で通信すればいいだけナノマ」
緑色の雲のような物が、シズクの耳と口の周りに現れると、シズク。どうした? 何かあったのか? という、キッテの声が、耳の周りにある緑色の雲のような物から聞こえて来た。
「あったよ。もう、大変なんだから」
「何があったんだ?」
「烏に糞をされたの。頭の所に落ちて来たんだよ」
「頭に、糞をされた?」
「うん。木の上から烏が糞をして、それが落ちて来て。ナノマが受け止めてくれたから、最悪の事態は避けられたけど、でも、それでも、手で触っちゃったし。ねえ、キッテ。何か仕返しするいい方法はない?」
「ぶぶぶぶふふふーっ。あっ、あーっ。すまない。つい、笑ってしまった」
「あー。キッテ。笑うなんて、信じられない。手に糞が付いたんだよ。しかも、ナノマがいなかったら、頭直撃だよ。というか額だから、もう、顔だよ。それなのに笑うなんて。酷い。酷過ぎる。」
シズクは、大きな声を上げた。
「あ、ああ、いや、シズク。すまん。悪気はないんだ。ただ、なんというか、ええっと、そうだな。あれだ。ふ、ふふ、不意打ち的な? まさか、ふふ、糞を、いや、そんな事があるなんて、思わないからな。意表を突かれたというか、なんというか」
キッテが、必死に笑いをこらえているような様子で、とても、困ったような、申し訳のなさそうな、声音で言う。
「何よ。キッテのバカ。私の気持ちも知らないで。そんな事言ったって、もう許さないんだから」
シズクは、糞を落とされた事や、キッテに笑われた事などで、感じた気持ちのすべてを、キッテにぶつけるようにして言った。
「うふっひゃあああああ!!!」
突然、木の上から、雨のように、何かがぼたぼたぼたっと、大きな音を鳴らしながら、大量に落ちて来て、シズクは、おかしな声を上げてしまう。
「シズク。大丈夫ナノマ。今度もちゃんと全部受け止めたナノマ」
「シズク。どうした?」
「もう~。今度はなんなの~?」
「シズク。今のも烏の糞ナノマ。たくさんの烏が一斉にしたみたいナノマ」
「また糞なのか? ぶぶふふふーっ」
「あいつら~。それにキッテも〜。絶対に~、許さないんだから~」
シズクは、吠えるようにして言った。
シズクはそんな烏を見て、かわいいな。と思うと、両足にぎゅっと力を込めて、立ち上がった。
「ナノマ。やっぱり、この子をこのままにはできない。何かしてあげたい。……。違う。ちゃんと、仲間の所に戻してあげたい」
「了解ナノマ。シズクがそうしたいなら従うナノマ。何か烏に関する事が分かるかも知れないナノマ。もう一度デーベースに聞いてみるナノマ」
「ナノマ。ありがとう」
シズクは言ってから、顔を上に向けると、烏達の姿を探し始める。
「烏ちゃん達。どうしてこの子を攻撃したの?」
木々の枝々にとまっている、数十羽の烏の姿を見付けたシズクは、大きな声で言った。
烏からの反応は何もなく、シズクは、当たり前だよね。これで返事とかされたら、逆に怖いもん。と思う。
「うぐわぅっ」
顔を上げていたシズクの額に、何かが落下して来て、シズクは思わず、変な声を出してしまった。
「シズク。大丈夫ナノマ。ナノマがちゃんと受け止めたナノマ」
「ありがとう。でも、何が落ちて来たんだろ?」
シズクは、烏を片腕で抱き直すと、空いた方の手で、額に触れるか触れないかの所で、霧状のナノマによって受け止められている、何かに触れる。
「ん? なんだこれ?」
シズクは、何かを触った手を、自身の顔の前に持って来て、その何かを、じっと見つめた。
「シズク。それは、烏の糞ふんナノマ」
「へ?」
なんともいえない感覚と思いと感情とが、シズクの中で渦巻うずまき、シズクは、ただ、反射的に、短くそう言った。
「すぐにナノマが掃除するナノマ」
ナノマが言い、糞を触ったシズクの手の周りに、緑色の雲のような物が出現し始めた。
「ナノマ。いいよ。糞を、受け止めてくれただけでも、ありがたいんだから。そんな事ナノマにさせられない。それより、人の頭に糞を落とすとか。これって、偶然なのかな? そんでもって、それに、触っちゃったし」
シズクは、なんか、凄く、わざとっぽい気がするんだよな。と思いながら、烏に対して高まっていく憤いきどおりを感じつつ、言葉を出した。
「ナノマが先に糞だと伝えてれば、シズクは触らなくてすんだナノマ。だから、掃除をさせて欲しいナノマ」
「ナノマ。それは」
シズクの言葉の途中で、また、糞が落ちて来た。
「またナノマ」
ナノマが糞を受け止めて言う。
「また、だね」
シズクは、どの子がしたんだ? と思い、枝々にとまっている烏を見回した。一羽の烏と目が合うと、その烏が、かかかかかか。と鳴き、隣にいた烏が、かかっ。と鳴いて、ぷりっと、糞をした。
「掃除よりも、今は、糞をした烏達に、仕返しをしてやりたい」
シズクは、糞をした烏と、その隣にいる烏を睨むように見る。
「仕返しナノマ?」
「そう。仕返し。何か、何か、いい仕返しの方法はないかな?」
シズクは言って、近くにあった木の幹に、手に付いている糞を擦り付けてから、仕返しの方法を考え始める。
「ナノマ達が、また、烏達を追い払うというのはどうナノマ?」
「追い払う? うーん。でも、それじゃ、さっきと一緒だもん。怪我とかはさせたくないけど、この、糞を落とされるという、なんともいえない、感覚というか、感じというか、これを、あの子達にも、味わわせてやりたい」
シズクは、言葉の途中から、ふんすー、ふんすー、と鼻息を荒くしつつ、ナノマの方に顔を向けた。
「じゃあ、ナノマ達がくっ付くというのはどうナノマ? その糞と同じような感じになって、烏達にくっ付くナノマ」
「それは、よさそうだけど、人の頭に平気で糞を落とすような子達だから、もっと、こう、がつんとした何かを」
シズクは言い、この子がされた攻撃っていうのと同じ事をするのはどうかな? でも、それだと、怪我とかしちゃうかな? と思う。
「シズク。キッテ先輩に聞いてみるのはどうナノマ?」
「キッテに? それはいいかも」
シズクは言ってから、あ。でも、キッテは今は王国にいるんだから、聞けないじゃん。と思った。
「ちょっと待つナノマ。今、話ができるようにするナノマ」
「キッテと話ができるの?」
「できるナノマ。無線か有線で通信すればいいだけナノマ」
緑色の雲のような物が、シズクの耳と口の周りに現れると、シズク。どうした? 何かあったのか? という、キッテの声が、耳の周りにある緑色の雲のような物から聞こえて来た。
「あったよ。もう、大変なんだから」
「何があったんだ?」
「烏に糞をされたの。頭の所に落ちて来たんだよ」
「頭に、糞をされた?」
「うん。木の上から烏が糞をして、それが落ちて来て。ナノマが受け止めてくれたから、最悪の事態は避けられたけど、でも、それでも、手で触っちゃったし。ねえ、キッテ。何か仕返しするいい方法はない?」
「ぶぶぶぶふふふーっ。あっ、あーっ。すまない。つい、笑ってしまった」
「あー。キッテ。笑うなんて、信じられない。手に糞が付いたんだよ。しかも、ナノマがいなかったら、頭直撃だよ。というか額だから、もう、顔だよ。それなのに笑うなんて。酷い。酷過ぎる。」
シズクは、大きな声を上げた。
「あ、ああ、いや、シズク。すまん。悪気はないんだ。ただ、なんというか、ええっと、そうだな。あれだ。ふ、ふふ、不意打ち的な? まさか、ふふ、糞を、いや、そんな事があるなんて、思わないからな。意表を突かれたというか、なんというか」
キッテが、必死に笑いをこらえているような様子で、とても、困ったような、申し訳のなさそうな、声音で言う。
「何よ。キッテのバカ。私の気持ちも知らないで。そんな事言ったって、もう許さないんだから」
シズクは、糞を落とされた事や、キッテに笑われた事などで、感じた気持ちのすべてを、キッテにぶつけるようにして言った。
「うふっひゃあああああ!!!」
突然、木の上から、雨のように、何かがぼたぼたぼたっと、大きな音を鳴らしながら、大量に落ちて来て、シズクは、おかしな声を上げてしまう。
「シズク。大丈夫ナノマ。今度もちゃんと全部受け止めたナノマ」
「シズク。どうした?」
「もう~。今度はなんなの~?」
「シズク。今のも烏の糞ナノマ。たくさんの烏が一斉にしたみたいナノマ」
「また糞なのか? ぶぶふふふーっ」
「あいつら~。それにキッテも〜。絶対に~、許さないんだから~」
シズクは、吠えるようにして言った。