三十六 AI

文字数 2,103文字

 キッテの後について歩いて行くと、小さな家々が立ち並ぶ、国民達の暮らす街を抜けた先にある、国民達が作った山のようになっている所と、街との間にある広場の方から、何やら大きな声が聞こえて来た。



「なんか、喧嘩している?」



「シズクの行動について、AIが言った事に対して、チュチュ達が文句を言い出しててな」



「そんな事をして大丈夫なの?」



「大丈夫だ。AIの方は、チュチュ達に何かをする気はない。管理してると言ったが、害を与えるような事は決してしないんだ」



 シズクは、それならよかった。と言ってから、そういうところは、結構優しいAIなのかも。と思う。



 キッテが、広場の中に入ってお座りをすると、大きな声が止んだ。シズクは、キッテの背後に体を隠し、ちょこんと横から顔だけを出すようにして、広場の様子を伺った。



チュチュとチュチュオネイが、横に並んで立っていて、その後ろに、猫達と騎士団の皆がいるのが見えたが、キッテの体が邪魔をして、チュチュ達の向かい側にいるであろう、AIの姿は見えなかった。シズクは、こっちからなら見えるよね。 と思うと、顔を一度引っ込め、反対側から、また、ちょこんと出す。



「キッテ。やっと戻って来ましたわね。わたくしを待たせるなんて、そんな事が許されるのはキッテだけですわ」



 シズクは、目に映った者の姿と、その者が言った言葉とを聞いて、きょとんとしてしまう。



「何を言ってる。シズクを連れて来てやったんだ。文句を言うな」



 キッテが言って、シズクの前からどくために、体を横にずらそうとする。シズクは、顔を引っ込めると、キッテの動きに合わせるようにして横に動き、キッテの背後から体が出ないようにする。



「キッテ。何をやってますの? それではシラクラシズクの姿が見えませんわ」



「ん? シズク?」



「だって。なんか、どうしていいか、分からないんだもん」



 シズクは言い、チュチュ達の住む家と同じくらい、五十センチくらいの大きさの、人らしき形をしてはいるが、髪の毛を模しているのか、頭部からはたくさんの、長さも色も形も違う配線のような物が垂れ下がっていて、体自体も、何かしらの機械の寄せ集めのような物で作られていて、その体のあちらこちらからは、何かしらの部品のような物が飛び出していて、顔の目や鼻や口らしき部分も、レンズのような物や、メッシュ状の何かで無理やりに作ったというような感じの、とても、不格好で、不細工で、不気味で、見る者によっては、恐怖と嫌悪とを覚えるような姿をしているAIを、キッテの背後から、こそっと、少しだけ顔を出して、じっと見つめた。



「シズク。別に何もしなくていい」



「あ、あの、えっと、えっと、なんで、あんな姿なの?」



 シズクは、キッテだけに聞こえるようにと、小声で言う。



「あれか? どうしてああなったのか、本当のところは、俺にも分からない。昔は、あんな格好は、してはいなかったんだがな。長い時間をかけて、ああなって行ったんだ」



 キッテもシズクに合わせたのか、小さな声で言った。



「そう、なんだ。じゃあ、ええっと、その、あの、話し方は?」



 シズクは、AIから、視線を外さずに言葉を出す。



「あれも、よく分からない。姿と一緒で、昔は、あんなふうじゃなかったんだけどな。いつの頃からか、あんなふうな言葉遣いになってたんだ」



「こんな事言ったら悪いとは思うけど、壊れていたりはしないんだよね?」



「機能的には、問題はない。この世界を管理するためによくやってる」



「何をこそこそ話してますの?」



 AIが言い、シズク達の方に近付いて来る。



「シズクが、その姿を見て、驚いててな」



「ちょっと、キッテ。そんな事言わないでよ」



「驚いてるとはどういう事ですの? わたくしのこの姿に何か問題でもありまして?」



 AIが言いながら、シズクの傍に来て足を止めた。



「ああっと、ええと、違うの。ちょっと驚いたのは本当だけど、なんていうか、その」



 シズクは、途中から何を言えばいいのかが分からなくなって、口を閉ざして、顔を俯ける。



「これは、なんだか、寂しい反応ですわ。今のこの世界にある、どの国の国民達も、貴方みたいな反応はしなくってよ」



 シズクは、顔を上げて、AIの目であろうと思われる、左右で大きさの違う、レンズのような物を見つめた。



「シズクは、お前みたいなのとは違うAI達と、長い間接して来ていたんだ。お前みたいな変わり者を見たら、驚いて当たり前だ」



「変わり者? 変わり者? ……? 確かに、そう言われると、その通りかも知れませんわ。こんな姿をしたAIは他にはいませんものね」



 AIが言って、自身の姿を見るような仕草をする。



「ごめんなさい」



 シズクはそう言って頭を下げた。



「どうして謝りますの?」



「だって、私、その姿を見て、なんていうか、ええっと、なんか、どうして、そんな姿なんだろうって、思って、それで、あの、えっと、あんまりいい事を、考えなかったっていうか」



「あら。まあ。正直ですわね」



 AIの不格好な顔の部品が動き、笑ったような表情になった。
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