五十六 機械化人類
文字数 2,323文字
シズクは何も言わずに顔を横に向けた。頭の中には、今まで聞いていた話と、自分の考えとが、ぐるぐると、渦を巻いていて、シズクはいつの間にか、むすっとした顔になって、一点をじっと見つめていた。
「シズク。機嫌を治すナノマ。シズクがそんな顔をしてると、なんだか寂しくなるナノマ」
「ナノマ」
ナノマの言葉を聞いたシズクは、呟くように言う。
「まあ、あれだ、シズク。もう過ぎてしまった事だし、そもそも、シズクがその時代にいたとしても、何かができたような規模の話じゃない。だから、シズクが気に病むような事じゃない」
ナノマとキッテのお陰で、少し気持ちが落ち着いたシズクは、キッテの方に顔を向ける。シズクと目が合ったキッテが、優しい笑みを、顔に浮かべた。
「うん。そうかも知れない。だけど、なんか、ね。私が怒ってもしょうがないって、今は、思ってもいるんだけど。……。キッテとか、ナノマとか。カレルさんに、ダノマも。もしも、皆がそんな事になったらって、なんか、そんなふうに、心のどこかで、思っちゃっているのかも知れない」
ナノマもキッテも私の事、気にしてくれてる。キッテの言う通り、どうしようもない事なんだから、考えていても、しょうがないっていうのは分かる。だけど、だけど、なんか、やっぱり……。機械化人類の人に会ったら、ちょっと文句言っちゃいそう。今いる人達は全然関係ないのに。と、シズクはキッテに言葉を返してから、そんな事を思った。
「シラクラシズク。心配は無用ですわ。わたくし達は大丈夫ですわ。話はこれくらいにして、そろそろ外に行きたいですわね。ナノマ。お願いしますわ」
カレルが言うと、ナノマが変身している、戦闘機の天蓋が開き始める。
「これはこれは。ようこそいらっしゃいました」
天蓋が完全に開き切ると、不意にそんな言葉が聞こえて来て、皆が一斉に声のした方向に顔を向けた。
「誰もいないむぅ。声だけが聞こえて来たむぅ」
チュチュが、不思議そうに声を上げる。
「光学迷彩を使ってても無駄ですわ。貴方の姿は見えてますわ」
カレルが、誰の姿も見えない場所に、向かって言った。
「皆様が、今日、この時間に、ここに来るのが分かっていましたので、待っておりました。驚かそうと思って消えていたのですが、すぐに見付かってしまうとは」
姿の見えない何者かが言い終えると、誰もいなかったはずの場所に、新世界の人類、小さな人間の姿が、足元の方から、徐々に、上に向かって出現し始める。
頭の先まで見えるようになった人物は、腰まであるくらいの長い黒髪が印象的で、黒色の瞳をしていて、どこか、優しそうな顔をしている、筋骨隆々の女性だった。
「むむぅぅぅ。全裸とは、やるむぅぅぅ」
チュチュが大きな声を上げた。
「そうだよね。やっぱり、服、着ていないよね? よかった。目の錯覚か何かかと思っていた」
シズクは、安堵の息とともに、言葉を出した。
「ふーん。我らは、全国民が常に全裸なのです。ふーん」
女性が言って、何やら腕や胸の辺りの筋肉を、強調するようなポーズをとる。
「え? あの、え?」
シズクは、はい? なんでこの人ポーズをとり始めたの? と思いながら、女性の姿をじっと見つめた。
「我の名前は、ソーサです。この国の代表をしています」
ソーサが、真っ白い歯を、これでもかと、きらりんっと光らせて微笑んだ。
「まっ、眩しいむぅぅ」
チュチュが、やられたというような顔をすると、くるくるっと回ってからぱたりと倒れる。
「お出迎えには、感謝しますわ。それで、どうして、わたくし達が来るのが分かったのですの? 貴方の先程の言い方が気になりますわ。監視などは付いてないはずですわ」
「それが、ついに、未来予知ができるようになりまして。量子コンピューターの開発に成功したのです。ちなみにその量子コンピューターの名前は、ラプラスの悪魔にしました」
ソーサが言い終えると、にやっと悪そうに微笑んだ。
「未来予知ですの? 本当にそんな事ができますの?」
カレルが、疑っているような、表情になる。
「もちろんできます。今、ここにこうしているのが、正に、その証明ですからね」
ソーサが言い、また別のポーズを取った。
「疑ったらきりがないですけれど、確かに、ここで待ってたのには、一応の、説得力はありますわ。それで、その、ラプラスの悪魔を使って何をするつもりですの? 事と次第によっては、わたくし達が介入する事になりますわ」
言い終えたカレルが、ナノマが変身している戦闘機から降りる。
「この世界を変えるのです。この世界の行く末にあるのは、我ら新世界の人類の滅びです。我々は、その考えには反対なのです。我々は元の大きさになど戻らなくていいのです。いずれ、貴方達AIの管理がなくなれば、人類は、また、同じ過ちを犯します。それは、ラプラスの悪魔が予知済みです。もちろん、予知する未来までの時間が長ければ長いほど、未来予知の精度は下がりますが、人類が同じ過ちを犯すという未来に関しては、何度、未来予知をしても同じ結果が得られているのです」
ソーサが言って、ふんがっ。と唸りつつ、両腕を上に向けるようなポーズをとった。
「その時は、また、その時にいる人類が、なんらかの対策をするのではないのですの?」
「もちろんその通りです。けれど、それは無駄な事です。過ちを犯すと分かっているのですからね。分かっているのですから、今からその未来を回避するように行動する方が、正しいとは思いませんか?」
ソーサが言い、今度は、上半身をちょっと前の方に屈めるような、ポーズをとった。
「シズク。機嫌を治すナノマ。シズクがそんな顔をしてると、なんだか寂しくなるナノマ」
「ナノマ」
ナノマの言葉を聞いたシズクは、呟くように言う。
「まあ、あれだ、シズク。もう過ぎてしまった事だし、そもそも、シズクがその時代にいたとしても、何かができたような規模の話じゃない。だから、シズクが気に病むような事じゃない」
ナノマとキッテのお陰で、少し気持ちが落ち着いたシズクは、キッテの方に顔を向ける。シズクと目が合ったキッテが、優しい笑みを、顔に浮かべた。
「うん。そうかも知れない。だけど、なんか、ね。私が怒ってもしょうがないって、今は、思ってもいるんだけど。……。キッテとか、ナノマとか。カレルさんに、ダノマも。もしも、皆がそんな事になったらって、なんか、そんなふうに、心のどこかで、思っちゃっているのかも知れない」
ナノマもキッテも私の事、気にしてくれてる。キッテの言う通り、どうしようもない事なんだから、考えていても、しょうがないっていうのは分かる。だけど、だけど、なんか、やっぱり……。機械化人類の人に会ったら、ちょっと文句言っちゃいそう。今いる人達は全然関係ないのに。と、シズクはキッテに言葉を返してから、そんな事を思った。
「シラクラシズク。心配は無用ですわ。わたくし達は大丈夫ですわ。話はこれくらいにして、そろそろ外に行きたいですわね。ナノマ。お願いしますわ」
カレルが言うと、ナノマが変身している、戦闘機の天蓋が開き始める。
「これはこれは。ようこそいらっしゃいました」
天蓋が完全に開き切ると、不意にそんな言葉が聞こえて来て、皆が一斉に声のした方向に顔を向けた。
「誰もいないむぅ。声だけが聞こえて来たむぅ」
チュチュが、不思議そうに声を上げる。
「光学迷彩を使ってても無駄ですわ。貴方の姿は見えてますわ」
カレルが、誰の姿も見えない場所に、向かって言った。
「皆様が、今日、この時間に、ここに来るのが分かっていましたので、待っておりました。驚かそうと思って消えていたのですが、すぐに見付かってしまうとは」
姿の見えない何者かが言い終えると、誰もいなかったはずの場所に、新世界の人類、小さな人間の姿が、足元の方から、徐々に、上に向かって出現し始める。
頭の先まで見えるようになった人物は、腰まであるくらいの長い黒髪が印象的で、黒色の瞳をしていて、どこか、優しそうな顔をしている、筋骨隆々の女性だった。
「むむぅぅぅ。全裸とは、やるむぅぅぅ」
チュチュが大きな声を上げた。
「そうだよね。やっぱり、服、着ていないよね? よかった。目の錯覚か何かかと思っていた」
シズクは、安堵の息とともに、言葉を出した。
「ふーん。我らは、全国民が常に全裸なのです。ふーん」
女性が言って、何やら腕や胸の辺りの筋肉を、強調するようなポーズをとる。
「え? あの、え?」
シズクは、はい? なんでこの人ポーズをとり始めたの? と思いながら、女性の姿をじっと見つめた。
「我の名前は、ソーサです。この国の代表をしています」
ソーサが、真っ白い歯を、これでもかと、きらりんっと光らせて微笑んだ。
「まっ、眩しいむぅぅ」
チュチュが、やられたというような顔をすると、くるくるっと回ってからぱたりと倒れる。
「お出迎えには、感謝しますわ。それで、どうして、わたくし達が来るのが分かったのですの? 貴方の先程の言い方が気になりますわ。監視などは付いてないはずですわ」
「それが、ついに、未来予知ができるようになりまして。量子コンピューターの開発に成功したのです。ちなみにその量子コンピューターの名前は、ラプラスの悪魔にしました」
ソーサが言い終えると、にやっと悪そうに微笑んだ。
「未来予知ですの? 本当にそんな事ができますの?」
カレルが、疑っているような、表情になる。
「もちろんできます。今、ここにこうしているのが、正に、その証明ですからね」
ソーサが言い、また別のポーズを取った。
「疑ったらきりがないですけれど、確かに、ここで待ってたのには、一応の、説得力はありますわ。それで、その、ラプラスの悪魔を使って何をするつもりですの? 事と次第によっては、わたくし達が介入する事になりますわ」
言い終えたカレルが、ナノマが変身している戦闘機から降りる。
「この世界を変えるのです。この世界の行く末にあるのは、我ら新世界の人類の滅びです。我々は、その考えには反対なのです。我々は元の大きさになど戻らなくていいのです。いずれ、貴方達AIの管理がなくなれば、人類は、また、同じ過ちを犯します。それは、ラプラスの悪魔が予知済みです。もちろん、予知する未来までの時間が長ければ長いほど、未来予知の精度は下がりますが、人類が同じ過ちを犯すという未来に関しては、何度、未来予知をしても同じ結果が得られているのです」
ソーサが言って、ふんがっ。と唸りつつ、両腕を上に向けるようなポーズをとった。
「その時は、また、その時にいる人類が、なんらかの対策をするのではないのですの?」
「もちろんその通りです。けれど、それは無駄な事です。過ちを犯すと分かっているのですからね。分かっているのですから、今からその未来を回避するように行動する方が、正しいとは思いませんか?」
ソーサが言い、今度は、上半身をちょっと前の方に屈めるような、ポーズをとった。