四十六 火花

文字数 2,289文字

 カレルが、急に、そうでしたわ。ナノマには、まだ、何も伝えてませんでしたわ。と言ってから、ナノマに、どこに行くのか、なぜ行くのか、などの説明を始める。



「了解ナノマ。協力させてもらうナノマ」



 ナノマが言い、変形を始めると、キッテも乗れるような、シズクが先に乗った物よりも大きな戦闘機に姿を変えた。



「これは、どういう事ですの?」



 カレルがナノマを見つめる。



「ナノマは乗り物にもなれるの。たぶん、これも、凄い速いのだと思う」



 シズクは、皆の顔を見ながら、ちょっと得意になって、言った。



「ナノマシンを、こういうふうに使った事は、なかったですわ」



 カレルが関心しつつ、ナノマに近付き、戦闘機となっている、ナノマの体に触れる。



「シズク。まさか、ナノマを乗り物にして、こき使ってるんじゃないだろうな? シズクの事だからな。心配になる」



 キッテが冗談めかして言う。



「そんな事しない。でも、そんな事言うなら、ナノマの代わりにキッテをこき使っちゃうかも」



「チュチュ達も乗っていいむ?」



 カレルの掌の上にいるチュチュが、身を乗り出すようにして言い、目をきらきらと輝かせる。



「もちろんナノマ。皆が乗れるように、この大きさにしたんだからナノマ」



「キッテ様。さっきは行くと言ったんですけど、皆で行ってしまうと、国の守りの事が心配になりますめ」



「その事なら心配はいりませんわ。留守中は、AI達にしっかりとこの国の事は見張らせますわ」



 カレルが言い、チュチュを、チュチュオネイの乗る、猫ちゃんの背に乗せた。



「それは、助かりますめ。ありがとうございますめ。それなら安心して女王様のお供ができますめ」



 チュチュオネイが嬉しそうに微笑む。



「それでは、皆も行く事に異論がないようですし、ナノマ。早速ですけれど、乗り込みますわよ」



「席順は、ナノマが決めていいナノマ?」



「いいですけれど、座る場所に、何か意味がありますの?」



「それは、ごにょごにょごにょ」



 ナノマの声が、途中から酷く小さくなって、聞こえなくなった。



「聞こえませんわ? もう一度、言って欲しいですわ」



「だから、それは、むにょむにょむにょ」



 ナノマの声が、また、途中から小さくなった。



「ナノマ。今度はちゃんと、聞きましたわよ。こう見えても、わたくしも、機械ですのよ。先ほどは油断してたから聞き逃したのですけれど、予あらかじめ、耳の、いえ、聴覚センサーの感度を上げておけば、小さな声でも聞き取れますわ」



「ナノマは、なんて言ったの?」



 シズクは、なんて言ったのか、私も知りたい。と思い、そう聞いてみた。



「シズクとできるだけ一緒にいたいから、シズクを乗り降りの一番大変な、一番奥に乗せるのだナノマ。とナノマは言ってたのですわ」



「むぶぶぶむぅぅぅ。なんて、なんて、恐ろしい事を考えてるむぅぅぅ。ずるい、あ、違ったむ。許せないむぅぅ。駄目むぅぅ。一番奥にはチュチュが乗ってやるむぅぅ」



 チュチュが言い、むふーんむふーんと鼻息を荒げる。



「さっさと乗るむぅぅぅぅ。お姉ちゃん。ミーケ。ナノマにこのまま飛び乗るむぅ」



 チュチュが、さらに言うと、猫ちゃんが、ミャミャウ〜。と鳴き、素早く動いて、ナノマの戦闘機となっている、体の上に飛び乗った。



「やっ、ちょっ、駄目、くすぐったい、ナノマ」



 ナノマが何やら悩まし気な声を上げ、戦闘機になっている体をくねらせる。  



「おいおい。これは、乗って大丈夫なのか?」



 キッテがナノマに近付き、心配そうな、声音で言った。



「大丈夫ナノマ。今のは、不意を突かれたから、ちょっと驚いただけナノマ。でも、なんか、前とは、何かが、違うナノマ。自我を持つと、色々なところに影響が出るものなのかなナノマ?」



 ナノマが途中から、自分自身に問いかけるようにして言う。



「では、ナノマ。改めて、わたくしはどこに乗ればいいのですの?」



「ちょっと待ってナノマ。まずはシズクからナノマ。シズクはここに座って欲しいナノマ」



 ナノマが言うと、座席の一つが、にょきっと上に向かって伸びた。



「うん。いいよ。じゃあ、私から乗っちゃうね」



「駄目むぅぅぅぅ。チュチュ達がそこをいただくむぅぅぅぅ」



 チュチュが言い、猫ちゃんが、ミャッフゥー。と鳴いて、にょきっと伸びている座席の上に乗った。



「こら。チュチュ。皆に迷惑になるからやめなさいめ」



 チュチュオネイがチュチュを窘たしなめる。



「大丈夫ナノマ。それはデコイ、あっと違ったナノマ。チュチュちゃんは、そこに座ってていいよナノマ。シズク。シズクはこっちに座ってナノマ」



 チュチュ達の乗っている座席が元の位置に戻り、別の座席がまたにょきっと上に向かって伸びた。



「やっぱり、そっちがいいむぅぅ」



 チュチュが言うと、猫ちゃんが、ミャッスー。と鳴いて、新たににょきっと伸びていた、座席の方に飛び移る。



「チュチュ。いい加減にしなさいめ」



「シズク。じゃあ、シズクは、また別の座席に座って欲しいナノマ」



 ナノマが言い、新たな別の座席が、にょきっと伸びる。

「むうぅぅぅぅ。ミーケ。分裂するむぅぅ」



 チュチュが言って、猫ちゃんの背中から座席の上に降りると、猫ちゃんがチュチュオネイを乗せたまま、新たににょきっと伸びた座席の方に移動した。



「チュチュちゃんったらナノマ。もう。わがまま過ぎなんだからナノマ」



「ナノマこそむぅぅ。女王様の事はもう諦めた方がいいと思うむぅぅぅ」



 ナノマとチュチュが、シズクを巡って、ばちばちと火花を散らし始めた。
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