七十 月と地球
文字数 2,174文字
声を上げてから、しばらくの間、シズクは母船の穴を見つめていたが、烏ちゃん達が、帰って来る気配がないので、どうしよう。烏ちゃん達、大丈夫なのかな。ちゃんと帰って来るよね? と思うと、月世界人類の方に顔を向けた。
「烏ちゃん達は、無事だよね?」
シズクは、藁にもすがるような思いでそう言う。
「おかしいのだ。まだ、回収されないのだ」
シズクの言葉が、何も聞こえていないかのような様子で、月世界人類が言った。
「何かが、起きているっていう事?」
「船内には防護スーツを着てない者達もいるのだ。いや、大丈夫なのだ。きっと大丈夫なのだ。船内に入る前に、滅菌室なんかがあるのだ。そこでとまるはずなのだ」
自分に言い聞かせるような口調で、月世界人類が言う。
「お願いだから私の話を聞いて。烏ちゃん達は大丈夫だよね?」
シズクは言いながら、月世界人類の片方の手を、両手で握った。
「うわ、なのだ。そんなふうに、いきなりは触るのは、駄目なのだ。……。でも、今なら、まあ、仕方が、ないのだ。烏達は大丈夫なはずなのだ。余程の事がない限りは、怪我をさせるような事はしないのだ」
月世界人類が、びくりと体を震わせてから、シズクの方を見て、言葉を出した。
「余程の事がない限りと言いますが、貴方は、先程、シラクラシズクに手を出しました。烏達にも同じような事が起こるのではないですか?」
ソーサがシズクの傍に来る。
「人類と動物は違うのだ。ましてや、シラクラシズクは旧世界の人類なのだ。少しくらい無茶な事をしても大丈夫な存在なのだ」
月世界人類が、シズクの両手に握られていない方の手を動かして、シズクの両手をそっと解いた。
「それは随分な物言いですね。体は大きくても、彼女はまだ子供です。そういうところに配慮しようとは思わないのですか?」
「思わない、というか、思えないのだ。これ達が、この防護スーツを脱いだら、どう頑張っても、力の強さや体の頑強さでは、シラクラシズクには勝てないのだ。月の弱い重力は、月世界人類の体を物凄く弱体化してしまったのだ」
「シラクラシズクの事が怖い、という事ですか?」
ソーサが、何やら、考えているような顔をして、少しの間を空けてから、そう言った。
「そう、とってもらっても、構わないのだ。シラクラシズクは、その存在が、そのまま、脅威となりえる可能性を持っているのだ。もちろん、防護スーツなどがあるから、キッテ達に比べれば、脅威の度合いはかなり低くなってはいるのだ」
「キッテ達からも、防護スーツに守ってもらえばいいではないですか」
「これ達月世界人類が守られていても、宇宙船や月世界にある機械類が、破壊されては意味がないのだ」
言い終えてから、月世界人類が、唐突に、どうしたのだ? なんなのだ? それは本当、なのだ? と大きな声を上げた。
「どうしたの? 烏ちゃん達に何かあったの?」
「母船が、烏達に占拠されたのだ。これは、これは、とても、大変な、事、なのだ」
月世界人類が、ゆっくりとした動きで、その場に座り込む。
「空で起こってた爆発がやんだにゃ。あいつら、なかなかやるじゃないかにゃ」
ミーケがどこか誇らしそうに言った。
「じゃあ、キッテ達は動けるようになる?」
「終わったのだ。負けたのだ」
月世界人類がそこまで言って、言葉を切ると、空を見上げる。
「そう、なのだ。まだ、まだ、なのだ。月から援軍を呼べばいいのだ。月世界人類は、まだ負けてはいないのだ。こうなったら、全面戦争なのだ。規定を変えるのだ。地球の動物達は思っていたよりも危険だったのだ。少しくらい数を減らした方がいいのだ。そうするのだ」
「ちょっと、何を言っているの? 戦争なんて駄目」
シズクの言葉を聞いた、月世界人類が、立ち上がって、シズクの方を見る。
「シラクラシズク。本当は、こんな事はしたくないのだ。けど、仕方がないのだ」
「シラクラシズク。何やら危険な感じがします。我が時間を稼ぎますので、その間に逃げて下さい」
「そんなの駄目だよ。ソーサさんに何かあったらどうするの?」
「大丈夫です。我の中にあるAIが再起動を開始しました。もう、我は、機械化人類の我に戻りました」
「え? じゃあ、キッテ」
「危ない」
シズクの言葉の途中で月世界人類がシズクに向かって手を伸ばし、それに気が付いたソーサが咄嗟にシズクと月世界人類との間に割って入って、月世界人類の手がシズクに触れる前に、月世界人類の手に飛び付いた。
「邪魔をするななのだ」
月世界人類がソーサの体を掴む。
「どうしてやろうかなのだ。そうなのだ。腕の一つや二つを折っちゃおうなのだ。そうすれば、もう邪魔をする事ができなくなるのだ」
月世界人類がしゃがむと、ソーサを地面に下ろし、ソーサの片方の腕を両手で掴んで、力を入れて折ろうとし始めた。
「やめて。ソーサさんを放して。私を狙っていたんでしょ? 私にやって」
シズクは、ソーサの腕を掴んでいる、月世界人類の片手を、ぎゅっと自身の両手で握った。
「こっちが終わったら、すぐにやってやるのだ」
「母船の中の連中の事は心配じゃないのかにゃ? シズク達に何かあったら烏達が何をするか分からないにゃ」
シズクの傍に来てミーケが言った。
「烏ちゃん達は、無事だよね?」
シズクは、藁にもすがるような思いでそう言う。
「おかしいのだ。まだ、回収されないのだ」
シズクの言葉が、何も聞こえていないかのような様子で、月世界人類が言った。
「何かが、起きているっていう事?」
「船内には防護スーツを着てない者達もいるのだ。いや、大丈夫なのだ。きっと大丈夫なのだ。船内に入る前に、滅菌室なんかがあるのだ。そこでとまるはずなのだ」
自分に言い聞かせるような口調で、月世界人類が言う。
「お願いだから私の話を聞いて。烏ちゃん達は大丈夫だよね?」
シズクは言いながら、月世界人類の片方の手を、両手で握った。
「うわ、なのだ。そんなふうに、いきなりは触るのは、駄目なのだ。……。でも、今なら、まあ、仕方が、ないのだ。烏達は大丈夫なはずなのだ。余程の事がない限りは、怪我をさせるような事はしないのだ」
月世界人類が、びくりと体を震わせてから、シズクの方を見て、言葉を出した。
「余程の事がない限りと言いますが、貴方は、先程、シラクラシズクに手を出しました。烏達にも同じような事が起こるのではないですか?」
ソーサがシズクの傍に来る。
「人類と動物は違うのだ。ましてや、シラクラシズクは旧世界の人類なのだ。少しくらい無茶な事をしても大丈夫な存在なのだ」
月世界人類が、シズクの両手に握られていない方の手を動かして、シズクの両手をそっと解いた。
「それは随分な物言いですね。体は大きくても、彼女はまだ子供です。そういうところに配慮しようとは思わないのですか?」
「思わない、というか、思えないのだ。これ達が、この防護スーツを脱いだら、どう頑張っても、力の強さや体の頑強さでは、シラクラシズクには勝てないのだ。月の弱い重力は、月世界人類の体を物凄く弱体化してしまったのだ」
「シラクラシズクの事が怖い、という事ですか?」
ソーサが、何やら、考えているような顔をして、少しの間を空けてから、そう言った。
「そう、とってもらっても、構わないのだ。シラクラシズクは、その存在が、そのまま、脅威となりえる可能性を持っているのだ。もちろん、防護スーツなどがあるから、キッテ達に比べれば、脅威の度合いはかなり低くなってはいるのだ」
「キッテ達からも、防護スーツに守ってもらえばいいではないですか」
「これ達月世界人類が守られていても、宇宙船や月世界にある機械類が、破壊されては意味がないのだ」
言い終えてから、月世界人類が、唐突に、どうしたのだ? なんなのだ? それは本当、なのだ? と大きな声を上げた。
「どうしたの? 烏ちゃん達に何かあったの?」
「母船が、烏達に占拠されたのだ。これは、これは、とても、大変な、事、なのだ」
月世界人類が、ゆっくりとした動きで、その場に座り込む。
「空で起こってた爆発がやんだにゃ。あいつら、なかなかやるじゃないかにゃ」
ミーケがどこか誇らしそうに言った。
「じゃあ、キッテ達は動けるようになる?」
「終わったのだ。負けたのだ」
月世界人類がそこまで言って、言葉を切ると、空を見上げる。
「そう、なのだ。まだ、まだ、なのだ。月から援軍を呼べばいいのだ。月世界人類は、まだ負けてはいないのだ。こうなったら、全面戦争なのだ。規定を変えるのだ。地球の動物達は思っていたよりも危険だったのだ。少しくらい数を減らした方がいいのだ。そうするのだ」
「ちょっと、何を言っているの? 戦争なんて駄目」
シズクの言葉を聞いた、月世界人類が、立ち上がって、シズクの方を見る。
「シラクラシズク。本当は、こんな事はしたくないのだ。けど、仕方がないのだ」
「シラクラシズク。何やら危険な感じがします。我が時間を稼ぎますので、その間に逃げて下さい」
「そんなの駄目だよ。ソーサさんに何かあったらどうするの?」
「大丈夫です。我の中にあるAIが再起動を開始しました。もう、我は、機械化人類の我に戻りました」
「え? じゃあ、キッテ」
「危ない」
シズクの言葉の途中で月世界人類がシズクに向かって手を伸ばし、それに気が付いたソーサが咄嗟にシズクと月世界人類との間に割って入って、月世界人類の手がシズクに触れる前に、月世界人類の手に飛び付いた。
「邪魔をするななのだ」
月世界人類がソーサの体を掴む。
「どうしてやろうかなのだ。そうなのだ。腕の一つや二つを折っちゃおうなのだ。そうすれば、もう邪魔をする事ができなくなるのだ」
月世界人類がしゃがむと、ソーサを地面に下ろし、ソーサの片方の腕を両手で掴んで、力を入れて折ろうとし始めた。
「やめて。ソーサさんを放して。私を狙っていたんでしょ? 私にやって」
シズクは、ソーサの腕を掴んでいる、月世界人類の片手を、ぎゅっと自身の両手で握った。
「こっちが終わったら、すぐにやってやるのだ」
「母船の中の連中の事は心配じゃないのかにゃ? シズク達に何かあったら烏達が何をするか分からないにゃ」
シズクの傍に来てミーケが言った。