五十四 大AI時代
文字数 2,666文字
全員が乗り込み、ナノマが出発する旨を伝えると、例の如く、ナノマが変身している戦闘機は、あっという間に目的地に到着した。
「乗る前はあんなふうに言いましたけれど、やっぱり、話す間もなく、到着してしまいましたわね。では、降りる前に話をしますわ」
カレルが、そこまで言って一度言葉を切り、顔と体を動かして、皆の顔を見る。
「シズク。何から聞きたい? チュチュにチュチュオネイ。二人も興味があったら、なんでも聞いていいぞ」
一番前の座席に座っていたキッテが、振り向いた。
「チュチュは女王様の聞きたい事が聞ければいいむ」
「チュチュオネイもそれでいいですめ」
「二人とも、本当に、それでいいの?」
「面白そうな話だったら、その時に、また聞くむぅ。今は、あんまり興味がないむぅ」
チュチュが、大きな欠伸を一つする。
「女王様。チュチュは眠くなってるみたいですめ。チュチュオネイはちゃんと話を聞いてますめ」
「チュチュオネイも疲れていたら楽にしていて。二人とも、ダノマが出て来た時に、活躍してくれたもんね。あの時はありがとうね」
シズクは、チュチュの眠そうな顔を見て、自然と顔が綻ぶのを感じた。
「あの時はまいったダノマ。猫ちゃんがあんなに強いとは、知らなかったダノマ」
ダノマが困ったような声で言い、皆の笑いを誘う。
「それじゃあ、大AI時代の事を、なんでもいいから話して」
皆の笑い声がおさまってから、シズクは言った。
「そうだな。あの頃は、俺は、もう、シズクを守る為に生きてたからな。どこか、他人事のように感じてたところもあったかな」
キッテが最初に口を開いた。
「最後の戦争、AI大戦が終わって、百年くらいが経った頃でしたわね。一部では、もう、人類の小型化が、かなり進んでましたわね」
「普通の大きさの、シズクと同じサイズの人間達が生まれると、すぐに、一人に一つのAIが与えられたんだダノマ」
「そのAI達が、人類達と共存してた時代の事を、大AI時代と言ってますの」
「生まれた人に一つって、これから行く国の、機械化人類の人達と、同じようにしていたって事?」
「融合とは違いますわ。何もできない、何も知らない、生まれたてのAIを、生まれたばかりの赤ん坊の親が選んで、自分達の好みの形状の端末内に移して、持ち帰ったのですわ」
「赤ん坊のAIをもらうって事? 生まれたばかりの人とAIを、兄弟とか姉妹みたいにしていたの?」
シズクは、どういう意味があるんだろう? でも、なんだか、凄く楽しそう。と思う。
「そういうパターンもあったが、それだけじゃなかった。人だけじゃなかったんだ。動物型の端末なんかもあってな。ペットのようにしてた者もいた」
「人や動物だけじゃなく、車や建物なんていうのもありましたわ。ありとあらゆる物が、AIの入った端末になりましたわ」
「街中にAIが溢れてたダノマ。そして、その中のどのAIも、皆が皆、独特の個性みたいな物を、獲得して行ったんだダノマ」
「何それ。凄い。そんな時代があったんだ」
シズクは、人と、様々な個性のような物を持ったAI達が、楽しく暮らしている姿を想像して、心を踊らせた。
「先程も言いましたけれど、いい時代であったのか、悪い時代であったのかは、分かりませんわ。人と、AIが、一番仲良く、分け隔てなく、一緒に過ごしてた時代だと思いますわ。けれど、それだけではなかったのですわ」
カレルが言葉を切ると、何かを考えているような顔をする。
「個性のような物を持ったAIは、一つ一つが、唯一無二の物だったからな。当たり前の事だが、個体差が生まれた」
「それが、大問題となって、行ったのですわ」
カレルが、今度は、悲しそうな顔をしながら言った。
「どういう事?」
「個体差の元となってる個性のような物は、複製する事ができなかったんだダノマ。大AI時代の前までは、お金さえあれば、力さえあれば、どんな力やどんな独自性を持つAIでも、誰もが、合法的に、違法的に、コピーなどの手段で、手に入れる事ができてたダノマ。けど、今、話に上がってるAIに関しては、それができなかったんだダノマ。そして、そういう物を、誰かが、誰かの所有してる、唯一無二のAIを欲しがった時、大AI時代は、暗い時代になって行ったんだダノマ」
「また戦争とかじゃないよね? だって、さっき、AI大戦が最後の戦争だったって言っていたもん」
シズクは、酷く、不安で、悲しい気持ちになった。
「戦争にはなりませんでしたわ。けれど、醜くて、残酷で、陰惨で、理不尽で、不条理で、救いのない事件が、何度も何度も何度も、起きるようになりましたわ」
「どうして? そんな、ちゃんと、事件が起きないように、できなかったの?」
「色々な法律ができ、警察や軍隊や機械化人類なんかも動いたりしたダノマ。けど、人は、己の欲望を抑える事が、できなかったんだダノマ」
「最後は、複製する事のできない個性のような物を持つAIを、回収する事になりましたわ。どんなAIもすべて」
「回収されたAI達はどうなったの?」
シズクは、嫌な予感を覚える。
「すべて、処分された。結末は、こんなふうな、なんともやるせない話だが、俺はそれほど、悪い時代だったとは思ってない。どちらかと言えば、いい時代だったんじゃないかと、思ってる」
キッテが、言って、何かを懐かしんでいるような顔をした。
「いい時代なんかじゃないじゃん。そんな終わり方」
シズクは、自身の中に湧き上がった、ぶつける場所のない、怒りや悲しみを言葉にする。
「すべては、もう終った事だダノマ。シズクが、怒ったり、思い悩んだりする事はないダノマ」
キッテが座席を降りると、シズクの傍に来る。シズクはキッテの首に抱き付くと、もふもふの体毛に顔を埋めた。
「チュチュ達も、チュチュ達も、いつかは、処分されるむ?」
チュチュの思わぬ言葉に、シズクは顔を上げた。
「そんな事あるはずない」
シズクは大きな声を上げた。
「カレル。あんたなら知ってるんじゃないかダノマ? この今ある世界はどうなるダノマ? 旧世界の人類達は、この世界の果てを、どうなるように設計したんだダノマ?」
ダノマの言葉を聞いたカレルの表情が、何事かを考えているような表情になる。
「どんな計画があったっていいじゃないか。その計画が納得のできない物なら、破棄してしまえばいい。それだけの事だ」
キッテが言って、シズクの頭を、そっと片方の前足で、撫でた。
「乗る前はあんなふうに言いましたけれど、やっぱり、話す間もなく、到着してしまいましたわね。では、降りる前に話をしますわ」
カレルが、そこまで言って一度言葉を切り、顔と体を動かして、皆の顔を見る。
「シズク。何から聞きたい? チュチュにチュチュオネイ。二人も興味があったら、なんでも聞いていいぞ」
一番前の座席に座っていたキッテが、振り向いた。
「チュチュは女王様の聞きたい事が聞ければいいむ」
「チュチュオネイもそれでいいですめ」
「二人とも、本当に、それでいいの?」
「面白そうな話だったら、その時に、また聞くむぅ。今は、あんまり興味がないむぅ」
チュチュが、大きな欠伸を一つする。
「女王様。チュチュは眠くなってるみたいですめ。チュチュオネイはちゃんと話を聞いてますめ」
「チュチュオネイも疲れていたら楽にしていて。二人とも、ダノマが出て来た時に、活躍してくれたもんね。あの時はありがとうね」
シズクは、チュチュの眠そうな顔を見て、自然と顔が綻ぶのを感じた。
「あの時はまいったダノマ。猫ちゃんがあんなに強いとは、知らなかったダノマ」
ダノマが困ったような声で言い、皆の笑いを誘う。
「それじゃあ、大AI時代の事を、なんでもいいから話して」
皆の笑い声がおさまってから、シズクは言った。
「そうだな。あの頃は、俺は、もう、シズクを守る為に生きてたからな。どこか、他人事のように感じてたところもあったかな」
キッテが最初に口を開いた。
「最後の戦争、AI大戦が終わって、百年くらいが経った頃でしたわね。一部では、もう、人類の小型化が、かなり進んでましたわね」
「普通の大きさの、シズクと同じサイズの人間達が生まれると、すぐに、一人に一つのAIが与えられたんだダノマ」
「そのAI達が、人類達と共存してた時代の事を、大AI時代と言ってますの」
「生まれた人に一つって、これから行く国の、機械化人類の人達と、同じようにしていたって事?」
「融合とは違いますわ。何もできない、何も知らない、生まれたてのAIを、生まれたばかりの赤ん坊の親が選んで、自分達の好みの形状の端末内に移して、持ち帰ったのですわ」
「赤ん坊のAIをもらうって事? 生まれたばかりの人とAIを、兄弟とか姉妹みたいにしていたの?」
シズクは、どういう意味があるんだろう? でも、なんだか、凄く楽しそう。と思う。
「そういうパターンもあったが、それだけじゃなかった。人だけじゃなかったんだ。動物型の端末なんかもあってな。ペットのようにしてた者もいた」
「人や動物だけじゃなく、車や建物なんていうのもありましたわ。ありとあらゆる物が、AIの入った端末になりましたわ」
「街中にAIが溢れてたダノマ。そして、その中のどのAIも、皆が皆、独特の個性みたいな物を、獲得して行ったんだダノマ」
「何それ。凄い。そんな時代があったんだ」
シズクは、人と、様々な個性のような物を持ったAI達が、楽しく暮らしている姿を想像して、心を踊らせた。
「先程も言いましたけれど、いい時代であったのか、悪い時代であったのかは、分かりませんわ。人と、AIが、一番仲良く、分け隔てなく、一緒に過ごしてた時代だと思いますわ。けれど、それだけではなかったのですわ」
カレルが言葉を切ると、何かを考えているような顔をする。
「個性のような物を持ったAIは、一つ一つが、唯一無二の物だったからな。当たり前の事だが、個体差が生まれた」
「それが、大問題となって、行ったのですわ」
カレルが、今度は、悲しそうな顔をしながら言った。
「どういう事?」
「個体差の元となってる個性のような物は、複製する事ができなかったんだダノマ。大AI時代の前までは、お金さえあれば、力さえあれば、どんな力やどんな独自性を持つAIでも、誰もが、合法的に、違法的に、コピーなどの手段で、手に入れる事ができてたダノマ。けど、今、話に上がってるAIに関しては、それができなかったんだダノマ。そして、そういう物を、誰かが、誰かの所有してる、唯一無二のAIを欲しがった時、大AI時代は、暗い時代になって行ったんだダノマ」
「また戦争とかじゃないよね? だって、さっき、AI大戦が最後の戦争だったって言っていたもん」
シズクは、酷く、不安で、悲しい気持ちになった。
「戦争にはなりませんでしたわ。けれど、醜くて、残酷で、陰惨で、理不尽で、不条理で、救いのない事件が、何度も何度も何度も、起きるようになりましたわ」
「どうして? そんな、ちゃんと、事件が起きないように、できなかったの?」
「色々な法律ができ、警察や軍隊や機械化人類なんかも動いたりしたダノマ。けど、人は、己の欲望を抑える事が、できなかったんだダノマ」
「最後は、複製する事のできない個性のような物を持つAIを、回収する事になりましたわ。どんなAIもすべて」
「回収されたAI達はどうなったの?」
シズクは、嫌な予感を覚える。
「すべて、処分された。結末は、こんなふうな、なんともやるせない話だが、俺はそれほど、悪い時代だったとは思ってない。どちらかと言えば、いい時代だったんじゃないかと、思ってる」
キッテが、言って、何かを懐かしんでいるような顔をした。
「いい時代なんかじゃないじゃん。そんな終わり方」
シズクは、自身の中に湧き上がった、ぶつける場所のない、怒りや悲しみを言葉にする。
「すべては、もう終った事だダノマ。シズクが、怒ったり、思い悩んだりする事はないダノマ」
キッテが座席を降りると、シズクの傍に来る。シズクはキッテの首に抱き付くと、もふもふの体毛に顔を埋めた。
「チュチュ達も、チュチュ達も、いつかは、処分されるむ?」
チュチュの思わぬ言葉に、シズクは顔を上げた。
「そんな事あるはずない」
シズクは大きな声を上げた。
「カレル。あんたなら知ってるんじゃないかダノマ? この今ある世界はどうなるダノマ? 旧世界の人類達は、この世界の果てを、どうなるように設計したんだダノマ?」
ダノマの言葉を聞いたカレルの表情が、何事かを考えているような表情になる。
「どんな計画があったっていいじゃないか。その計画が納得のできない物なら、破棄してしまえばいい。それだけの事だ」
キッテが言って、シズクの頭を、そっと片方の前足で、撫でた。