六十七 気持ち
文字数 2,681文字
「チュチュオネイとミーケを放して」
「嫌なのだ。このままもらって帰るのだ」
「ちょっと。駄目だって言っているじゃん。チュチュオネイとミーケだって嫌がっている」
「そうなのだ? チュチュオネイ。ミーケ。嫌なのだ?」
チュチュオネイがじっと、シズクを見つめた。
「チュチュオネイの事は連れて行っていいめ。けれど、チュチュオネイ以外の、ミーケも含めて、皆には、何もするなめ」
チュチュオネイが、月世界人類の顔を見上げて、そう言った。
「チュチュオネイ。何を言っているの?」
「お姉ちゃん。そんなの駄目むぅぅ」
チュチュがぴょんぴょんと跳ねながら言う。
「チュチュオネイだけじゃ嫌なのだ。猫ちゃんももらって行きたいのだ。それでいいなら、とりあえず、今日のところは帰るのだ」
「ミーケは駄目だめ」
「それなら、話は終わりなのだ。このまま、帰ればいいだけなのだ」
「いい加減にしなさいよ」
シズクは、ミーケを抱いている月世界人類の手を掴むと、ぐっと力をこめて、握った。
「なんのつもりなのだ? そんな事されても痛くも痒くもないのだ」
シズクは、ぐぐぐぐっと、さらに月世界人類の手を握る手に、力をこめる。
「全然まったく平気なのだ」
「ナノマシンがとめられているから、駄目なんだ」
落胆したシズクの手から力が抜け、シズクは月世界人類の手から、自身の手を放してしまった。
ミーケが何やら鳴き出し、それを聞いたチュチュオネイが、とても悲しい顔をして、しばらくの間、黙ったままでいてから、小さく頷く。
「女王様。チュチュオネイとミーケは、この月世界人類と一緒に行きますめ。ミーケもそれでいいと言ってくれましため」
チュチュオネイが、シズクの方を見て言った。
「な、何それ。駄目だよ。絶対に駄目。絶対に行かせない」
シズクは、己の無力さを嫌というほど感じて、泣きそうになる。
「それなら我も行きましょう。貴方達だけでは心配ですからね」
「チュチュも行くむぅ。皆で行けば怖くないむぅぅぅ」
「皆。そんなの絶対に駄目。ねえ、月世界人類。お願い。お願いだから、連れて行くのは、私だけにして。皆は、皆は、ええっと。えっと。あれだよ。そうだよ。家族がいるんだ。私なら、誰もいない。私がいなくなったって、悲しむ人なんてこの世界にはいない。だから、私を連れて行って。皆は、この世界に、この星に、この地球に、必要とされている人達なんだもん。ここにいさせてあげて」
シズクは声を張り上げた。
「女王様。そんな事言わないで下さいめ。チュチュオネイは、いえ、チュチュも、ミーケも、国の皆も、キッテ様達だって、女王様がそんな事言ったら、悲しくなりますめ」
シズクは、チュチュオネイの言葉を聞いて、自分の言った言葉の意味を考え、もう、私ったら、何をやっているんだろう。何も考えないで、思い付いた事、全部言っちゃった。と思う。
「ごめん。皆の事は大切だし、皆が私の事ちゃんと思ってくれているっていうのは分かっているの。今のは、なんていうか、えっと、ほら、あの、そう。家族。私の親とかって、もういないでしょ? それで、そういう意味で、なんか、そういう人達が、もういないから的な意味っていうか」
「ぶふふむぅぅぅ。女王様。何言ってるか分からないむぅぅ」
チュチュが笑いながら、言ってから、急に、とても、優しい笑みを顔に浮かべた。
「女王様。出会ってから今まで、とってもとっても楽しかったむ。女王様といると、なんだか、とっても安心できたむ。安心し過ぎてついついいつも脱いじゃったむ。ごめんなさいむぅ。ねえ、女王様。チュチュ達がいなくなっても、元気でいて欲しいむ」
「チュチュ?! そんな、なんで、お別れみたいな事言うの?」
「これが一番いいのです。この者達が我らを連れ去れば、対抗策を考える時間ができるはずです。何かしらの対抗策を考えて、そして、助けに来て下さい」
「そうですめ。チュチュオネイ達は女王様が助けに来てくれると信じてますめ。だから、チュチュオネイ達は大丈夫ですめ。心配はいりませんめ」
「ちょっと、皆」
シズクの目から涙が溢れ出し、シズクは言葉を失ってしまう。
「皆もそう言っているのだ。時間もあげるのだ。何かしらの対抗策を考えるといいのだ」
月世界人類が勝ち誇ったように言った。
「対抗策……。あんたがいなくなったら、キッテ達は動けるようになるの?」
「それは無理という物なのだ。これらの目的がすべて達成されるまでは、AI達にはこのままでいてもらうのだ」
「私一人で、やれって事?」
「別にやれとは言ってはいないのだ。諦めて、いい事を思い付いたのだ。一緒来てもいいのだ。その方が皆と一緒で楽しいのだ。そうすればいいのだ」
月世界人類が嬉しそうな声を出す。
「皆と一緒に行く?」
シズクは、そうだ。そうすれば、皆と一緒なら、一人じゃないし、安心だ。それに、何かあったら、私が皆を守ってあげられるもん。と思う。
「女王様。ここに残って欲しいですめ。国の事もありますめ、キッテ様達がいない今、国にいる者達が心配ですめ」
「国を守る?」
「シラクラシズク。我らと一緒に来ても、今と状況は変わりません。我らも我らにできる事を探します。我らは諦めてはいないのです。だから、自分にとって、楽な、都合のいい、決断をしないで下さい」
「私にとって、楽な? 都合のいい? 決断?」
月世界人類とチュチュオネイとソーサの言った、すべての言葉がシズクの心に突き刺さっていた。
「もう。私、分かんないよ。どうすればいいの? こんな、急に、こんな事になったって。誰も助けてくれないじゃん」
シズクは、心の中に広がった感情を、吐き出すようにして叫んだ。
「皆を、皆を、放してよ」
シズクは、月世界人類を睨み付けると、月世界人類の手にもう一度掴みかかった。
「またそんな事をしてなのだ。しつっこいのだ。すぐに放すのだ。放さないと、少し、乱暴にしないといけなくなるのだ」
「何が、少し乱暴よ。さっきから、皆が嫌がっているのに、連れて行こうとしているじゃない」
シズクは、月世界人類の手から、チュチュオネイとミーケを助け出そうとして、思い切り、月世界人類の手を引っ張る。
「無駄なのだ。いい加減にするのだ」
月世界人類が、片方の手だけで、ミーケを持つと、空いた方の手で、シズクを突き飛ばした。
シズクは、引っ張っていた力と、月世界人類から与えられた力とを受けて、後ろに向かって転んでしまう。
「女王様」
「なんて事をするむぅぅぅ」
「シラクラシズク。無茶です。力では勝てません」
チュチュオネイとチュチュとソーサが声を上げた。
「嫌なのだ。このままもらって帰るのだ」
「ちょっと。駄目だって言っているじゃん。チュチュオネイとミーケだって嫌がっている」
「そうなのだ? チュチュオネイ。ミーケ。嫌なのだ?」
チュチュオネイがじっと、シズクを見つめた。
「チュチュオネイの事は連れて行っていいめ。けれど、チュチュオネイ以外の、ミーケも含めて、皆には、何もするなめ」
チュチュオネイが、月世界人類の顔を見上げて、そう言った。
「チュチュオネイ。何を言っているの?」
「お姉ちゃん。そんなの駄目むぅぅ」
チュチュがぴょんぴょんと跳ねながら言う。
「チュチュオネイだけじゃ嫌なのだ。猫ちゃんももらって行きたいのだ。それでいいなら、とりあえず、今日のところは帰るのだ」
「ミーケは駄目だめ」
「それなら、話は終わりなのだ。このまま、帰ればいいだけなのだ」
「いい加減にしなさいよ」
シズクは、ミーケを抱いている月世界人類の手を掴むと、ぐっと力をこめて、握った。
「なんのつもりなのだ? そんな事されても痛くも痒くもないのだ」
シズクは、ぐぐぐぐっと、さらに月世界人類の手を握る手に、力をこめる。
「全然まったく平気なのだ」
「ナノマシンがとめられているから、駄目なんだ」
落胆したシズクの手から力が抜け、シズクは月世界人類の手から、自身の手を放してしまった。
ミーケが何やら鳴き出し、それを聞いたチュチュオネイが、とても悲しい顔をして、しばらくの間、黙ったままでいてから、小さく頷く。
「女王様。チュチュオネイとミーケは、この月世界人類と一緒に行きますめ。ミーケもそれでいいと言ってくれましため」
チュチュオネイが、シズクの方を見て言った。
「な、何それ。駄目だよ。絶対に駄目。絶対に行かせない」
シズクは、己の無力さを嫌というほど感じて、泣きそうになる。
「それなら我も行きましょう。貴方達だけでは心配ですからね」
「チュチュも行くむぅ。皆で行けば怖くないむぅぅぅ」
「皆。そんなの絶対に駄目。ねえ、月世界人類。お願い。お願いだから、連れて行くのは、私だけにして。皆は、皆は、ええっと。えっと。あれだよ。そうだよ。家族がいるんだ。私なら、誰もいない。私がいなくなったって、悲しむ人なんてこの世界にはいない。だから、私を連れて行って。皆は、この世界に、この星に、この地球に、必要とされている人達なんだもん。ここにいさせてあげて」
シズクは声を張り上げた。
「女王様。そんな事言わないで下さいめ。チュチュオネイは、いえ、チュチュも、ミーケも、国の皆も、キッテ様達だって、女王様がそんな事言ったら、悲しくなりますめ」
シズクは、チュチュオネイの言葉を聞いて、自分の言った言葉の意味を考え、もう、私ったら、何をやっているんだろう。何も考えないで、思い付いた事、全部言っちゃった。と思う。
「ごめん。皆の事は大切だし、皆が私の事ちゃんと思ってくれているっていうのは分かっているの。今のは、なんていうか、えっと、ほら、あの、そう。家族。私の親とかって、もういないでしょ? それで、そういう意味で、なんか、そういう人達が、もういないから的な意味っていうか」
「ぶふふむぅぅぅ。女王様。何言ってるか分からないむぅぅ」
チュチュが笑いながら、言ってから、急に、とても、優しい笑みを顔に浮かべた。
「女王様。出会ってから今まで、とってもとっても楽しかったむ。女王様といると、なんだか、とっても安心できたむ。安心し過ぎてついついいつも脱いじゃったむ。ごめんなさいむぅ。ねえ、女王様。チュチュ達がいなくなっても、元気でいて欲しいむ」
「チュチュ?! そんな、なんで、お別れみたいな事言うの?」
「これが一番いいのです。この者達が我らを連れ去れば、対抗策を考える時間ができるはずです。何かしらの対抗策を考えて、そして、助けに来て下さい」
「そうですめ。チュチュオネイ達は女王様が助けに来てくれると信じてますめ。だから、チュチュオネイ達は大丈夫ですめ。心配はいりませんめ」
「ちょっと、皆」
シズクの目から涙が溢れ出し、シズクは言葉を失ってしまう。
「皆もそう言っているのだ。時間もあげるのだ。何かしらの対抗策を考えるといいのだ」
月世界人類が勝ち誇ったように言った。
「対抗策……。あんたがいなくなったら、キッテ達は動けるようになるの?」
「それは無理という物なのだ。これらの目的がすべて達成されるまでは、AI達にはこのままでいてもらうのだ」
「私一人で、やれって事?」
「別にやれとは言ってはいないのだ。諦めて、いい事を思い付いたのだ。一緒来てもいいのだ。その方が皆と一緒で楽しいのだ。そうすればいいのだ」
月世界人類が嬉しそうな声を出す。
「皆と一緒に行く?」
シズクは、そうだ。そうすれば、皆と一緒なら、一人じゃないし、安心だ。それに、何かあったら、私が皆を守ってあげられるもん。と思う。
「女王様。ここに残って欲しいですめ。国の事もありますめ、キッテ様達がいない今、国にいる者達が心配ですめ」
「国を守る?」
「シラクラシズク。我らと一緒に来ても、今と状況は変わりません。我らも我らにできる事を探します。我らは諦めてはいないのです。だから、自分にとって、楽な、都合のいい、決断をしないで下さい」
「私にとって、楽な? 都合のいい? 決断?」
月世界人類とチュチュオネイとソーサの言った、すべての言葉がシズクの心に突き刺さっていた。
「もう。私、分かんないよ。どうすればいいの? こんな、急に、こんな事になったって。誰も助けてくれないじゃん」
シズクは、心の中に広がった感情を、吐き出すようにして叫んだ。
「皆を、皆を、放してよ」
シズクは、月世界人類を睨み付けると、月世界人類の手にもう一度掴みかかった。
「またそんな事をしてなのだ。しつっこいのだ。すぐに放すのだ。放さないと、少し、乱暴にしないといけなくなるのだ」
「何が、少し乱暴よ。さっきから、皆が嫌がっているのに、連れて行こうとしているじゃない」
シズクは、月世界人類の手から、チュチュオネイとミーケを助け出そうとして、思い切り、月世界人類の手を引っ張る。
「無駄なのだ。いい加減にするのだ」
月世界人類が、片方の手だけで、ミーケを持つと、空いた方の手で、シズクを突き飛ばした。
シズクは、引っ張っていた力と、月世界人類から与えられた力とを受けて、後ろに向かって転んでしまう。
「女王様」
「なんて事をするむぅぅぅ」
「シラクラシズク。無茶です。力では勝てません」
チュチュオネイとチュチュとソーサが声を上げた。