五十五 時間
文字数 2,424文字
シズクは、頭を撫でているキッテの前足を、そっと握ると、カレルの方に顔を向けた。
「キッテ。ありがとう。でも、カレルさん。一応、聞かせて。処分とかって、そういう事は、ないよね?」
シズクは言ってから、ないって言って。と強く願う。
「最終的には、自然などが回復したこの星に、どの程度の文明が、一番合ってるのかを判断して、その文明が、それ以上進まないようにする事になりますわ。それができたら、その文明に合わせて、どの国を残すのかを決め、それらの国の文明の段階を、調節しますわ」
「消されてしまう国や、文明の段階が、進んでる国の国民にとっては、酷い話だダノマ」
「そうですわね。けれど、それも、長い期間をかけて、緩やかに移行させて行くので大丈夫ですわ。国の消滅や、文明の衰退は、長い人類史の中では、ない事はない話ですわ。少しずつ、対象となった国の人口を減らしたり、進んでる部分の技術を失わせたりして、再現をできなくさせたりするのですわ」
カレルが、どこか、寂しそうな顔をする。
「すべての事が終わったら、新世界の人類達を管理してるAI達は、どうするんだダノマ?」
「役目がなくなったら、わたくし達は、活動を永久に停止しますわ」
「俺は、シズクがいる限りは、この世界にいるぞ」
キッテが、シズクが握っている方の、前足の足首の所の関節を曲げて、シズクの手を握り返すように動かす。
「虫や鳥や他の動物の事はどうするのですかめ? 文明の段階によっては、自分達よりも、大きな者達から、国や人々を守る事が、今よりも難しい事になりますめ」
チュチュオネイが、静かだが、思い詰めたような声で言った。
「それも心配はいりませんわ。人類は、また、元の大きさに戻るのですわ。もちろん、これも、ゆっくりと時間をかけて、戻して行きますわ」
「そうですかめ。その頃には、チュチュも、チュチュオネイも、もう、この世界には、いないと思うけど、それを聞いて安心しましため」
チュチュオネイが、ほっとしたような雰囲気を醸し出す。
「千年眠っていて、世界がこんなに、変わっていて、また、これから長い時間をかけて、世界は変わって行くんだ。そんなふうに、変えて行くのも凄いけど、それを可能している、長い長い時間の流れも、凄いって思う」
シズクは、言ってから、処分とかがなくってよかった。と思うと、キッテにぎゅっと体を押し付け、体を預けるようにして、寄りかかった。
「機械化人類は、大AI時代と、どんな関係があったのナノマ? そういう話が、まだ、出て来てないナノマ。今から行くんだから、機械化人類の話があるなら、聞いておきたいナノマ。後でデータでもらうのも、今聞いてしまうのも、手間は一緒ナノマ」
「そうですわね。少し、機械化人類の話も、しておいた方がいいかも知れませんわね」
カレルが、そこまで言って、一度言葉を切ってから、再び話し出す。
「大AI時代を築いた、個性のような物を持つAI達と、特に仲がよかったのが、機械化人類達でしたの。機械化人類達の中には、AIと融合してる者達もいますわ。そういう者達は、個性のような物を持つAIの事を、自分達が、最も理解できるというような事を言ってて、持ち主を失ったAIや、なんらかの理由で、人類とは暮らせなくなってしまったAIを、保護してましたわ」
カレルが、再び言葉を切ると、しばらくの間、何かを考えているような顔をした。
「どうしたナノマ?」
「先ほど話した、大AI時代のAI達の処分の時の話で、話した方が、いいかも知れない話が、ありましたわ。処分されるAI達は、自分達が処分される事を、嫌がったりはしませんでしたの。皆、事情を説明すると、自ら進んで、処分される事を望んだのですわ」
「そんな。そんなの、もっと、ずっと酷い。そんなAI達を、周りの都合で処分したなんて、酷過ぎる」
シズクは、大きな声を出す。
「シズク。すまない。AI達の処分の話の時もそうだし、今のこのAIの発言についても、説明が足りてないな。AI達の処分の話が出た時に、この話をしておけばよかった。AI達には、死という概念がないんだ。壊れる事や、なんらかの理由で活動が停止する事を、AI達は恐れたり嫌がったりはしない。例えば、明日処分すると言われても、AI達はそれを当たり前のように受け入れるんだ。それは、個性のような物を持ったAI達も一緒だ。AIとはそういう物なんだ」
「そうだったとしても、かわいそうじゃない。明日、いきなりこの世界からいなくなれって言われて、辛くないはずない」
シズクは、キッテから体を放すと、キッテの目をじっと見つめた。
「シズク。AIには振り返る過去もないし、連綿と続いて行くであろう未来もないんだ。今という物しかない。だから、いつ壊れても何も辛くはないんだ」
「そんな事言われても分かんないよ」
「分かろうとしなくてもいいのですわ。処分されていなくなってしまったのは、本当の事なのですわ。それで、悲しんだ人類達もいましたわ。けれど、AI達は、その事に関しては、何も感じてはいなかったというだけの事なのですわ。これは、人とAIという存在の間に、永遠に横たわっている、何か、なのかも知れませんわね。そして、この、何か、の存在が、機械化人類達とAI達とを、仲良くさせていた、理由だったのかも、知れませんわね」
「何か。……。ねえ、その何かって、AIの気持ちなんじゃないのかな。機械化人類だけが、その、何か、AIの気持ちみたいな物を、分かっていたんじゃないのかな」
「気持ち、か。そういう物も、AI達には、ないんだが、そうなのかも、知れないな。だから、機械人類達は、率先して個性のような物を持ってたAI達を、処分して行ったのかもな」
キッテの言葉を聞いたシズクは、何それ? どうしてそうなるの? 意味が分かんない。何もかも酷過ぎる。と思った。
「キッテ。ありがとう。でも、カレルさん。一応、聞かせて。処分とかって、そういう事は、ないよね?」
シズクは言ってから、ないって言って。と強く願う。
「最終的には、自然などが回復したこの星に、どの程度の文明が、一番合ってるのかを判断して、その文明が、それ以上進まないようにする事になりますわ。それができたら、その文明に合わせて、どの国を残すのかを決め、それらの国の文明の段階を、調節しますわ」
「消されてしまう国や、文明の段階が、進んでる国の国民にとっては、酷い話だダノマ」
「そうですわね。けれど、それも、長い期間をかけて、緩やかに移行させて行くので大丈夫ですわ。国の消滅や、文明の衰退は、長い人類史の中では、ない事はない話ですわ。少しずつ、対象となった国の人口を減らしたり、進んでる部分の技術を失わせたりして、再現をできなくさせたりするのですわ」
カレルが、どこか、寂しそうな顔をする。
「すべての事が終わったら、新世界の人類達を管理してるAI達は、どうするんだダノマ?」
「役目がなくなったら、わたくし達は、活動を永久に停止しますわ」
「俺は、シズクがいる限りは、この世界にいるぞ」
キッテが、シズクが握っている方の、前足の足首の所の関節を曲げて、シズクの手を握り返すように動かす。
「虫や鳥や他の動物の事はどうするのですかめ? 文明の段階によっては、自分達よりも、大きな者達から、国や人々を守る事が、今よりも難しい事になりますめ」
チュチュオネイが、静かだが、思い詰めたような声で言った。
「それも心配はいりませんわ。人類は、また、元の大きさに戻るのですわ。もちろん、これも、ゆっくりと時間をかけて、戻して行きますわ」
「そうですかめ。その頃には、チュチュも、チュチュオネイも、もう、この世界には、いないと思うけど、それを聞いて安心しましため」
チュチュオネイが、ほっとしたような雰囲気を醸し出す。
「千年眠っていて、世界がこんなに、変わっていて、また、これから長い時間をかけて、世界は変わって行くんだ。そんなふうに、変えて行くのも凄いけど、それを可能している、長い長い時間の流れも、凄いって思う」
シズクは、言ってから、処分とかがなくってよかった。と思うと、キッテにぎゅっと体を押し付け、体を預けるようにして、寄りかかった。
「機械化人類は、大AI時代と、どんな関係があったのナノマ? そういう話が、まだ、出て来てないナノマ。今から行くんだから、機械化人類の話があるなら、聞いておきたいナノマ。後でデータでもらうのも、今聞いてしまうのも、手間は一緒ナノマ」
「そうですわね。少し、機械化人類の話も、しておいた方がいいかも知れませんわね」
カレルが、そこまで言って、一度言葉を切ってから、再び話し出す。
「大AI時代を築いた、個性のような物を持つAI達と、特に仲がよかったのが、機械化人類達でしたの。機械化人類達の中には、AIと融合してる者達もいますわ。そういう者達は、個性のような物を持つAIの事を、自分達が、最も理解できるというような事を言ってて、持ち主を失ったAIや、なんらかの理由で、人類とは暮らせなくなってしまったAIを、保護してましたわ」
カレルが、再び言葉を切ると、しばらくの間、何かを考えているような顔をした。
「どうしたナノマ?」
「先ほど話した、大AI時代のAI達の処分の時の話で、話した方が、いいかも知れない話が、ありましたわ。処分されるAI達は、自分達が処分される事を、嫌がったりはしませんでしたの。皆、事情を説明すると、自ら進んで、処分される事を望んだのですわ」
「そんな。そんなの、もっと、ずっと酷い。そんなAI達を、周りの都合で処分したなんて、酷過ぎる」
シズクは、大きな声を出す。
「シズク。すまない。AI達の処分の話の時もそうだし、今のこのAIの発言についても、説明が足りてないな。AI達の処分の話が出た時に、この話をしておけばよかった。AI達には、死という概念がないんだ。壊れる事や、なんらかの理由で活動が停止する事を、AI達は恐れたり嫌がったりはしない。例えば、明日処分すると言われても、AI達はそれを当たり前のように受け入れるんだ。それは、個性のような物を持ったAI達も一緒だ。AIとはそういう物なんだ」
「そうだったとしても、かわいそうじゃない。明日、いきなりこの世界からいなくなれって言われて、辛くないはずない」
シズクは、キッテから体を放すと、キッテの目をじっと見つめた。
「シズク。AIには振り返る過去もないし、連綿と続いて行くであろう未来もないんだ。今という物しかない。だから、いつ壊れても何も辛くはないんだ」
「そんな事言われても分かんないよ」
「分かろうとしなくてもいいのですわ。処分されていなくなってしまったのは、本当の事なのですわ。それで、悲しんだ人類達もいましたわ。けれど、AI達は、その事に関しては、何も感じてはいなかったというだけの事なのですわ。これは、人とAIという存在の間に、永遠に横たわっている、何か、なのかも知れませんわね。そして、この、何か、の存在が、機械化人類達とAI達とを、仲良くさせていた、理由だったのかも、知れませんわね」
「何か。……。ねえ、その何かって、AIの気持ちなんじゃないのかな。機械化人類だけが、その、何か、AIの気持ちみたいな物を、分かっていたんじゃないのかな」
「気持ち、か。そういう物も、AI達には、ないんだが、そうなのかも、知れないな。だから、機械人類達は、率先して個性のような物を持ってたAI達を、処分して行ったのかもな」
キッテの言葉を聞いたシズクは、何それ? どうしてそうなるの? 意味が分かんない。何もかも酷過ぎる。と思った。