四十五 気付き
文字数 2,079文字
ナノマが、体の向きを変え、シズク達に背を向けると、何も言わずに歩き始める。
「ナノマ? どこに行くの?」
シズクは、何か嫌な予感がして、すぐに声をかけた。
「こんな事をしてしまって、もう、ナノマは、シズクの傍にはいられないナノマ。シズク。お別れナノマ」
「ナノマ。何を言ってるんだ。どこにも行かなくていい。そんな事は気にするな。誰にでもある事だ」
キッテが立ち上がって言う。
「こんな事、こんな、辛い気持ちになる事が、あるんだったら、自我なんていらなかったナノマ。こんな気持ちを知らないままで、シズクと一緒にいた方が幸せだったナノマ」
ナノマが振り向くと、酷く悲しげな顔で、声を張り上げる。
「ナノマ。それは違うぞ。その気持ちがあるからこそ、ナノマはシズクの事が好きだという気持ちが持ててるんだ。いいか、ナノマ。自我を得るという事は、もう分かってると思うが、いい事ばかりじゃない。だがな。悪い事ばかりでもないんだ。自分の気持が分かるという事は、相手の気持ちも分かるという事に繋がる。それがどういう事か分かるか?」
「分からないナノマ」
ナノマが突き放すように言う。
「相手の気持ちが分かれば、相手の事をよく理解できるようになる。相手の事を、よく知る事ができるようになるんだ。なあ、ナノマ。ナノマはシズクの事を知りたくはないのか? シズクの事を知って、シズクと同じように物を見たり、シズクが楽しいと思う事を、シズクと一緒に、心から楽しんでみたいとは、思わないか?」
キッテの言葉の途中で、ナノマの表情に、戸惑いの色が現れる。
「でも、ナノマは、悪い事をしたナノマ」
ナノマが、顔を俯け、泣きそうな声で言った。
「俺が、こんな事を言ったら、なんというか、とても、申し訳ない気持ちでいっぱいになるんだけどな。俺は、ナノマの今回の事と、とても、比べる事なんてできないほどの、酷い事や悪い事を、たくさんして来た。けど、今、こうやって、シズクや、皆と、笑って過ごしてる。自分のやった事が、許されるなんて、思ってない。後悔とか、自分に対する憤いきどおりとか、自分の事が許せないとか。そんな気持ちも、もちろん、持ってる。だけど、もう、しょうがないんだ。時間は戻らない。やってしまった事は、なかった事にする事はできない。消えてしまいたい。壊れてしまえば楽になるかも知れないと思う事だって、もちろんある」
キッテが言葉を切って、シズクの方を見た。
「だが、だがな。本当に、卑劣で、卑怯だとは、思うが、それでも、俺は、ここにこうして、存在してたいと思ってる。俺が大切だと思う人達のために、生きて行かなければいけないと、思ってる」
キッテが言いながら、顔を動かし、カレルとチュチュとチュチュオネイを見てから、最後に、ナノマの方を見る。
「重たい話が始まってしまって、立ち上がるタイミングを失ってしまってましたわ。キッテ。もうその辺でいいですわ。貴方が自分をいつも責めてる事は知ってますわ。ナノマ。キッテにこれ以上言わせてはかわいそうですわ」
カレルが立ち上がって言った。
「キッテ。いつもそんなふうに思っていたの?」
シズクはキッテの傍に行き、キッテの体に、自身の体を預けるようにして、寄り添った。
「シズク。ありがとうな。だが、大丈夫だ。シズクは、何も心配はしないでいい」
「キッテ様にはたくさんお世話になってますめ。キッテ様は立派な方だと思いますめ」
チュチュオネイがキッテとシズクの傍に来た。
「チュチュはもうナノマのやった事なんてすっかり忘れちゃってるむ。あっ。でも、女王様はチュチュの物むぅ〜」
カレルの掌の上にいるチュチュが言って、唇をむちゅーっとシズクに向けて伸ばす。
「ねえ、ナノマ。どこにも行かないで。ずっとずっと私の傍にいて」
シズクはナノマの傍に行くと、ナノマの手を握ってそう言った。
「むぶむぅ〜。女王様がしれっとチュチュの事を無視したむぅぅぅぅ。ぐぎぎむぅぅぅ。しかも、しかも~、あんな事をしてむぅぅぅ」
「シズク。でも、ナノマは、また、こんな事を、やってしまうかも知れないナノマ」
「どんなに気を付けてても、間違いを犯してしまう事は、誰にでもある。それは、しょうがない事だと、俺は、思う。だから、間違いを起こさないように、努力し続ける事が大切なんだ」
キッテが言って、とても、優しい目をナノマに向けた。
「綺麗にまとまったところで、もう、この話はお終いですわね。ナノマ。皆に悪いと思うのなら、貴方の持つ、その力で、皆のためにできる事をすればいいと、わたくしは思いますわ」
カレルが言い、微笑んでいるような表情をする。
「皆、ありがとうナノマ。ナノマは、皆の傍で、シズクの傍で、頑張って行きたいと、思うナノマ」
ナノマが言うと、どことなく、ぎこちない笑みを顔に浮かべた。
「では、ナノマも戻って来た事ですし、話を戻したいと思いますわ。わたくしは、今すぐにでも、出発したいと思うのですけれども、皆はどう思いますの?」
カレルが、皆の顔を見回しながら言った。
「ナノマ? どこに行くの?」
シズクは、何か嫌な予感がして、すぐに声をかけた。
「こんな事をしてしまって、もう、ナノマは、シズクの傍にはいられないナノマ。シズク。お別れナノマ」
「ナノマ。何を言ってるんだ。どこにも行かなくていい。そんな事は気にするな。誰にでもある事だ」
キッテが立ち上がって言う。
「こんな事、こんな、辛い気持ちになる事が、あるんだったら、自我なんていらなかったナノマ。こんな気持ちを知らないままで、シズクと一緒にいた方が幸せだったナノマ」
ナノマが振り向くと、酷く悲しげな顔で、声を張り上げる。
「ナノマ。それは違うぞ。その気持ちがあるからこそ、ナノマはシズクの事が好きだという気持ちが持ててるんだ。いいか、ナノマ。自我を得るという事は、もう分かってると思うが、いい事ばかりじゃない。だがな。悪い事ばかりでもないんだ。自分の気持が分かるという事は、相手の気持ちも分かるという事に繋がる。それがどういう事か分かるか?」
「分からないナノマ」
ナノマが突き放すように言う。
「相手の気持ちが分かれば、相手の事をよく理解できるようになる。相手の事を、よく知る事ができるようになるんだ。なあ、ナノマ。ナノマはシズクの事を知りたくはないのか? シズクの事を知って、シズクと同じように物を見たり、シズクが楽しいと思う事を、シズクと一緒に、心から楽しんでみたいとは、思わないか?」
キッテの言葉の途中で、ナノマの表情に、戸惑いの色が現れる。
「でも、ナノマは、悪い事をしたナノマ」
ナノマが、顔を俯け、泣きそうな声で言った。
「俺が、こんな事を言ったら、なんというか、とても、申し訳ない気持ちでいっぱいになるんだけどな。俺は、ナノマの今回の事と、とても、比べる事なんてできないほどの、酷い事や悪い事を、たくさんして来た。けど、今、こうやって、シズクや、皆と、笑って過ごしてる。自分のやった事が、許されるなんて、思ってない。後悔とか、自分に対する憤いきどおりとか、自分の事が許せないとか。そんな気持ちも、もちろん、持ってる。だけど、もう、しょうがないんだ。時間は戻らない。やってしまった事は、なかった事にする事はできない。消えてしまいたい。壊れてしまえば楽になるかも知れないと思う事だって、もちろんある」
キッテが言葉を切って、シズクの方を見た。
「だが、だがな。本当に、卑劣で、卑怯だとは、思うが、それでも、俺は、ここにこうして、存在してたいと思ってる。俺が大切だと思う人達のために、生きて行かなければいけないと、思ってる」
キッテが言いながら、顔を動かし、カレルとチュチュとチュチュオネイを見てから、最後に、ナノマの方を見る。
「重たい話が始まってしまって、立ち上がるタイミングを失ってしまってましたわ。キッテ。もうその辺でいいですわ。貴方が自分をいつも責めてる事は知ってますわ。ナノマ。キッテにこれ以上言わせてはかわいそうですわ」
カレルが立ち上がって言った。
「キッテ。いつもそんなふうに思っていたの?」
シズクはキッテの傍に行き、キッテの体に、自身の体を預けるようにして、寄り添った。
「シズク。ありがとうな。だが、大丈夫だ。シズクは、何も心配はしないでいい」
「キッテ様にはたくさんお世話になってますめ。キッテ様は立派な方だと思いますめ」
チュチュオネイがキッテとシズクの傍に来た。
「チュチュはもうナノマのやった事なんてすっかり忘れちゃってるむ。あっ。でも、女王様はチュチュの物むぅ〜」
カレルの掌の上にいるチュチュが言って、唇をむちゅーっとシズクに向けて伸ばす。
「ねえ、ナノマ。どこにも行かないで。ずっとずっと私の傍にいて」
シズクはナノマの傍に行くと、ナノマの手を握ってそう言った。
「むぶむぅ〜。女王様がしれっとチュチュの事を無視したむぅぅぅぅ。ぐぎぎむぅぅぅ。しかも、しかも~、あんな事をしてむぅぅぅ」
「シズク。でも、ナノマは、また、こんな事を、やってしまうかも知れないナノマ」
「どんなに気を付けてても、間違いを犯してしまう事は、誰にでもある。それは、しょうがない事だと、俺は、思う。だから、間違いを起こさないように、努力し続ける事が大切なんだ」
キッテが言って、とても、優しい目をナノマに向けた。
「綺麗にまとまったところで、もう、この話はお終いですわね。ナノマ。皆に悪いと思うのなら、貴方の持つ、その力で、皆のためにできる事をすればいいと、わたくしは思いますわ」
カレルが言い、微笑んでいるような表情をする。
「皆、ありがとうナノマ。ナノマは、皆の傍で、シズクの傍で、頑張って行きたいと、思うナノマ」
ナノマが言うと、どことなく、ぎこちない笑みを顔に浮かべた。
「では、ナノマも戻って来た事ですし、話を戻したいと思いますわ。わたくしは、今すぐにでも、出発したいと思うのですけれども、皆はどう思いますの?」
カレルが、皆の顔を見回しながら言った。