04 乗っ取られていた城

文字数 3,467文字

トライブは、アリスを連れてエクアニア城の門を抜ける。

広い城だが、一歩足を踏み込むだけで、ドタドタと駆け回る音がトライブの耳にも響いてきた。

なんか騒がしいわ……。

トライブは、立ち止まって耳を澄ます。

すると、駆け回る音とともに、時折叫び声が聞こえてきた。

王~!王はどこだ~!

王がいなくなったら一大事だ~!

みな、王を探せ~!

設定通り、城に何かしらのピンチが起きているようだ。

トライブは、左右を見ながら、赤い絨毯が敷かれた広間に入った。


そこに、一人の兵士がトライブのところに駆け寄った。

トライブ・ランスロット様、いいところにやって来ました!

王が、王が何者かに誘拐されてしまったのです!

もしかしたら、武装した集団に狙われているのかも知れません!


どうか、その力を貸して下さい!

ギャラは、ごはん何杯分ですか~?

アリス!ここは私が話すところよ!
トライブは、アリスを一歩後ろに下がらせて、改めて兵士と目を合わせた。

故郷のピンチ、私も力を貸します。

剣の女王として、断るわけにはいきません。

あ、ありがとうございます!


では、トライブ様は城の巡回に当たって下さい。

犯人は、城に立てこもっているはずです!

分かったわ。

くまなく探してみる。

トライブたちは兵士と分かれ、広間の右側に位置する家臣たちの居室から探すことにした。

後ろからついてくるアリスを時折振り返りながら、トライブは注意深く城の内部を回った。


数部屋進んだところで、アリスが小走りにトライブの真横までやってきた。

私、何となく目星つけました。

名探偵アリスになれるかもしれません!

まだほとんど進んでいないのに、王のいる場所が分かったの?

まぁ、そんな感じです。


いいですか、ソードマスター。

犯人だって、人間です。ごはん食べたいときは食べたいんです。

でも、においがきついと、アジトが分かってしまいます。

だから、においがあまりしないごはんを食べているんです。

アリス。もしかして、それもドッキリの筋書きじゃないでしょうね。

んーーー?ちょーーーっと違いますよーーー?


一番の理由は、かすかな食べ物のにおいを当てられたら、私が真っ先にその部屋に行けるからです。

つまり、食べたいからよね。


探偵ごっこはやめなさい。今のエクアニア城は、そんな自分勝手な探偵を求めてないわ。

トライブは、ため息をついてアリスから視線をそらした。

しかし、いくら遊び半分で言ったとしても、アリスの言葉を全面的に否定する根拠もトライブにはなかった。


それに、普段からアリスを見ていてトライブは分かっていた。

アリスが、そう言われても、ただで済まないということを。


案の定、アリスがトライブの一歩前に出て、そのままスタスタと廊下を進み出した。

ちょっと、アリス!どこに行くの!

やってみなきゃ始まらないです。

ソードマスター、いつもそう言ってるじゃないですかー!

そう言われちゃ、私も言葉の返しようがないわ。

トライブがそう言ったとき、アリスが足を止め、右手の人差し指を天井に向けた。

アリスの表情は、何かを確信したような様子だ。

ソードマスター、犯人の居場所を特定しました。

2階のこのあたりです!

あのあたり……。


食べ物のにおいがしたの?

はい。シフォンケーキを食べたような、ちょっと大人の香りがします。

さっそく、行ってみましょう!

そう言うと、アリスは先程よりもさらに早足になって廊下を抜け、薄暗い階段室に入っていく。

トライブもアリスの後を追いかける。


シフォンケーキとアリスが言ったにおいは、階段を上がるにつれて、トライブにもわずかに感じられるようになった。

そして、2階でにおいを辿っていたアリスは、扉に217と書かれた部屋の前に立ち、トライブを手招きした。

ソードマスター、ここっぽいです。

一緒に入りましょう。

分かったわ。

中に犯人がいたら、どいて。すぐ戦うから。

はい、分かりました!

アリスの手が部屋のドアノブに触れる。

何かが動く音がする。誰かいるようだ。


数秒だけ待ち、アリスが勢いよくドアを引いた。

シフォンケーキは私のもので~す!

アリス、そんなこと言ってる場合じゃないわ。

王よ。エクアニア王。

部屋の奥では、王冠をかぶった男性が、とても一人では食べきれないような量の料理を残して、机で突っ伏していた。どうやら、これがエクアニア王だ。


王は、トライブたちが入ってきたことに気付き、ゆっくりと顔を上げた。何度か、キョロキョロと周りを見回し、部屋の外から聞こえてくる、王を呼ぶ声でようやく我に返った。

わ、わしはいったい……、何をしていたんじゃ……。
その時、城の状況を説明しようとしていたトライブの前に、アリスが回り込んだ。

はい、王様!

これは「食べ物だけになった空間に閉じ込める」というロケです!

ロ……、ロケ……?

まさか……、ドッキリを仕掛けられた……!

ドッキリ大成功~!

テッテレー♪

アリス……、いい加減にしてちょうだい!

さっき、ドッキリとは違うって言ったばかりなのに!


今の今まで、私はこんなバカらしい物語をやっていたわけ?

バカらしい、ってなんですかー?
悪の組織と戦うという目的で作られた物語なのに、アリスのドッキリばっかりじゃない。

トライブは、アリスを連れて部屋を出た。

城の入口で出会った兵士たちに王の無事を報告し、城に別れを告げた。

兵士たちは安堵の表情を浮かべていたが、トライブの心は晴れなかった。


やがて、兵士たちの姿が見えなくなると、トライブはアリスを細い目で見た。

アリス。

あなたはいったい、どういうキャラでここにいるのよ!

せっかくの平行世界が台無しじゃない。

すいません……。

私は、ドジとかヘマをいつもしているので、今日もそうしようと思ったんです。

普段からルームメイトとして接していて、アリスの行動に業を煮やすことは多々あった。その度に、トライブは感情的にならず、アリスを諭してきた。


しかし、この日ばかりは怒りを抑えることができなかった。

そんなの、ドジとかヘマとかじゃない。

この物語を、面白い方向に動かそうという、ある意味イタズラでしかないわ。

その時、坂の下にアッシュが立っているのが、トライブの目の前に飛び込んできた。トライブは、やや早足でアッシュに向かった。
アッシュ。ちょっといいかしら。
アリスのことで、相当頭にきているようだな。違うか?

その通り。

乗っ取られたと思っていた城は乗っ取られてなんかいないし、ただアリスが王を部屋に監禁しただけらしいのよ。


本当は、この城と国を守るために、あの尖塔の上に立っている剣士と戦いたかったのに。

トライブ。

パラレルタブレットで再現される物語は、残念だが完璧ではない。

シナリオマスターの俺が作ったシナリオが、登場人物の強い気持ちでねじ曲げられることだってある。

じゃあ、今回の場合、私の強い気持ちってことですか?

そういうことだ。

逆に言えば、登場人物の一人一人の強い気持ちが、どんな完璧な筋書きも変えてしまうということだ。

物語が終わる条件は変えることができないが、それ以外は俺のシナリオが動く。

分かった。

じゃあ、この物語を終えるためのイベントは、アッシュが書いた通りのものが用意されているわけね。

そういうことになる。

そこだけは、シナリオマスターの俺が絶対だからな。

そう言うと、アッシュはトライブに背を向けてゆっくりと歩き出した。

トライブは、再び目を細めてアリスを見るが、さすがにこの時ばかりはアリスの表情にも反省の色がにじみ出ていた。

ごめんなさい……。ちょっとやりすぎました。

アリス。

物語を変えたいって気持ちは分かるけど、せめて本筋を壊さない程度にやってほしいわ。


たぶん、次が最後のバトルだと思うから、もうドッキリはなしね。

その時、トライブは背後に殺気を感じ、後ろを振り返った。

夢の中で見た尖塔に、人影が立っている。

一人はエクアニア王。もう一人は、赤い毛を輝かせた男剣士だった。

エクアニア城は、我がコバルト軍が乗っ取った。

今日から、エクアニアは私が支配する。

愚かな民よ、せいぜい私に従うがよい!

や……、やめろ……!

オルティス!

エクアニアをどうするつもりよ!

王も国も、死あるのみだ。

オルティスは、エクアニア王の喉元に刀を当て、一秒の猶予を与えたのみで、そのまま王の喉に刀を突き刺した。


王はかすかな抵抗を見せるが、すぐに力なく尖塔の石の上に崩れ落ちた。

許さない……!

あなたの野望、私が打ち砕く!

トライブは、アルフェイオスを尖塔に向け、オルティスを睨み付けた。

オルティスも刀をトライブに向けながら、尖塔の上から軽くジャンプして地上に舞い降りる。


勝負の時は満ちた。

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登場人物紹介

トライブ・ランスロット


25歳/17代目ソードマスター

男性の剣豪をも次々と圧倒する女剣士。軍事組織「オメガピース」では、女性初のソードマスター。相手が隙を見せたときに力を爆発させるパワーコントロールと、諦めを許さない熱いハートで強敵に立ち向かう。その強さに、「クィーン・オブ・ソード」と称されるほど。

ソフィア・エリクール


25歳

女剣士。トライブの最大の親友で、最大のライバル。ソードマスターになるため、実力で上回るトライブに常に対抗心を燃やす。富豪の令嬢で、クラシックをはじめとした音楽が好き。

リオン・フォクサー


21歳/9代目ソードマスター

地元ルーファスで自ら率いる自警団「青い旗の騎士団」で活躍し、「オメガピース」でもソードマスターの座をつかみ取る。力でグイグイ押していくパワー型の剣士。ソードマスターの時に謎の失踪を遂げた、とされているようだが……。

アリス・ガーデンス


15歳

「オメガピース」ではトライブのルームメイトで、銃使い兼魔術師。お菓子ばかり食べ、何かとお騒がせなことをやってしまうドジっ娘。

アッシュ・ミッドフィル


23歳/ライフルマスター

冷静な判断力と圧倒的な銃の腕を持つ、絶対の銃使い。自らの誤射で家族と家を失い、モンスターの潜む森で1年間生き抜いた過去を持つ。トライブが送られたパラレルワールドのシナリオを作った張本人。

オルティス・ガルスタ


年齢不詳/20代目ソードマスター

「悪魔の闇」を打ち破った者は願い事を叶えることができる。その言い伝えに身を投じ、世界の支配者になろうとする邪悪なソードマスター。パワーやスピードは歴代ソードマスターの中で最高レベル。

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