04 乗っ取られていた城
文字数 3,467文字
トライブは、アリスを連れてエクアニア城の門を抜ける。
広い城だが、一歩足を踏み込むだけで、ドタドタと駆け回る音がトライブの耳にも響いてきた。
トライブは、立ち止まって耳を澄ます。
すると、駆け回る音とともに、時折叫び声が聞こえてきた。
王~!王はどこだ~!
王がいなくなったら一大事だ~!
みな、王を探せ~!
設定通り、城に何かしらのピンチが起きているようだ。
トライブは、左右を見ながら、赤い絨毯が敷かれた広間に入った。
そこに、一人の兵士がトライブのところに駆け寄った。
トライブ・ランスロット様、いいところにやって来ました!
王が、王が何者かに誘拐されてしまったのです!
もしかしたら、武装した集団に狙われているのかも知れません!
どうか、その力を貸して下さい!
あ、ありがとうございます!
では、トライブ様は城の巡回に当たって下さい。
犯人は、城に立てこもっているはずです!
トライブたちは兵士と分かれ、広間の右側に位置する家臣たちの居室から探すことにした。
後ろからついてくるアリスを時折振り返りながら、トライブは注意深く城の内部を回った。
数部屋進んだところで、アリスが小走りにトライブの真横までやってきた。
まぁ、そんな感じです。
いいですか、ソードマスター。
犯人だって、人間です。ごはん食べたいときは食べたいんです。
でも、においがきついと、アジトが分かってしまいます。
だから、においがあまりしないごはんを食べているんです。
トライブは、ため息をついてアリスから視線をそらした。
しかし、いくら遊び半分で言ったとしても、アリスの言葉を全面的に否定する根拠もトライブにはなかった。
それに、普段からアリスを見ていてトライブは分かっていた。
アリスが、そう言われても、ただで済まないということを。
案の定、アリスがトライブの一歩前に出て、そのままスタスタと廊下を進み出した。
トライブがそう言ったとき、アリスが足を止め、右手の人差し指を天井に向けた。
アリスの表情は、何かを確信したような様子だ。
そう言うと、アリスは先程よりもさらに早足になって廊下を抜け、薄暗い階段室に入っていく。
トライブもアリスの後を追いかける。
シフォンケーキとアリスが言ったにおいは、階段を上がるにつれて、トライブにもわずかに感じられるようになった。
そして、2階でにおいを辿っていたアリスは、扉に217と書かれた部屋の前に立ち、トライブを手招きした。
アリスの手が部屋のドアノブに触れる。
何かが動く音がする。誰かいるようだ。
数秒だけ待ち、アリスが勢いよくドアを引いた。
部屋の奥では、王冠をかぶった男性が、とても一人では食べきれないような量の料理を残して、机で突っ伏していた。どうやら、これがエクアニア王だ。
王は、トライブたちが入ってきたことに気付き、ゆっくりと顔を上げた。何度か、キョロキョロと周りを見回し、部屋の外から聞こえてくる、王を呼ぶ声でようやく我に返った。
ロ……、ロケ……?
まさか……、ドッキリを仕掛けられた……!
トライブは、アリスを連れて部屋を出た。
城の入口で出会った兵士たちに王の無事を報告し、城に別れを告げた。
兵士たちは安堵の表情を浮かべていたが、トライブの心は晴れなかった。
やがて、兵士たちの姿が見えなくなると、トライブはアリスを細い目で見た。
普段からルームメイトとして接していて、アリスの行動に業を煮やすことは多々あった。その度に、トライブは感情的にならず、アリスを諭してきた。
しかし、この日ばかりは怒りを抑えることができなかった。
そう言うと、アッシュはトライブに背を向けてゆっくりと歩き出した。
トライブは、再び目を細めてアリスを見るが、さすがにこの時ばかりはアリスの表情にも反省の色がにじみ出ていた。
その時、トライブは背後に殺気を感じ、後ろを振り返った。
夢の中で見た尖塔に、人影が立っている。
一人はエクアニア王。もう一人は、赤い毛を輝かせた男剣士だった。
オルティスは、エクアニア王の喉元に刀を当て、一秒の猶予を与えたのみで、そのまま王の喉に刀を突き刺した。
王はかすかな抵抗を見せるが、すぐに力なく尖塔の石の上に崩れ落ちた。
トライブは、アルフェイオスを尖塔に向け、オルティスを睨み付けた。
オルティスも刀をトライブに向けながら、尖塔の上から軽くジャンプして地上に舞い降りる。
勝負の時は満ちた。