41 物語は暴走を始めた
文字数 2,572文字
トライブとリオンは、音のする方に一斉に顔を向けた。
転送されてからここまでの間、異常なほどランプに照らされていたこの部屋において、もはや二人が身を潜めることは不可能に近い。
その代わり、二人は音のする方に剣を向け、身構えた。
二人の小声の会話に反応したのか、部屋に入ってきた人物は思い出したかのようにトライブたちに向かって歩き出した。
そして、柱を通り過ぎた瞬間、その姿は互いの目に触れることとなった。
トライブの目に、モノクロではないソフィアの姿が飛び込んできた。
ほぼ同時に、リオンの目にもその姿が飛び込んでくる。
二人は構えていた剣を床に向け、じっとソフィアの言葉を待った。
やや強い口調で話すトライブに対し、ソフィアはあくまでも軽く答えようとする姿勢を変えなかった。
トライブは、ソフィアの言葉の意味を少し考えようとしたが、すぐさま口を開いたリオンに遮られる。
それは、あの高さから突き落とされて、死なない人間なんていないと思ってるから。
私はシナリオマスターとして、トライブが生きていることは分かる。けれど、アッシュ・デストラを含めた多くの登場人物が、もうこの物語がエンディングを迎えたと思っている。
シナリオとしては考えてない……。
でも、すごく重要な場面だから、トライブに見せたいの。
モノクロのトライブが、そろそろミッションをクリアしそうな気がする。
そうしたとき、絶対に上がってこないと思っているオルティスがどう動くか。
トライブは、オルティスの名前を聞き、思わず息を飲み込んだ。
たしかに、この物語が終わる条件をアッシュの口から告げられたとき、アッシュがオルティスから聞いたと言っていたような気はするが、その時はまだオルティスが「オメガピース」の中でどういう立場の人物か分からなかった。
だが、ソフィアの一言でオルティスが「灰の神」のすぐ下にいる人物だということが明らかになった。
トライブは、やや納得できないような表情を浮かべながら、ソフィアに言葉を返した。
だがその時、ソフィアが思わず表情を硬くし、やや小さい声でそっとトライブに告げた。
そう。オルティスは本当に恐ろしい存在になりつつある。
今までは私のシナリオ通り動いたけど、暴走を始めたら、もしかしたらこれからのシナリオそのものがひっくり返ってしまう。
というか、最初から実は暴走していたのかも知れない。
ソフィアがそう言った瞬間、トライブは思い出したかのように表情を強ばらせた。
何かピンと来るものを感じたのだ。
そう。その時点で、ものすごく危険な気がするの。
本当は、灰の神なんて必要ない。
オメガピースが世界中を悪の力で支配したところで、アッシュ・デストラに代わり、自分で世界を支配しようとしている。
オルティスは、そういうことをやりかねない。
その言葉を待っていたかのように、トライブの背後に緑色の光が一気に輝き、その光がトライブを包み込んだ。
リオンが思わず窓の外を振り返り、モノクロのトライブのミッションクリアを見たのは、それとほぼ同時だった。