39 運命を変える力

文字数 2,643文字

ど、どうしたんだよ、急に。

ここは、エクアニア城だろ!

城兵を、ほんのわずかな間で「オメガピース」に乗っ取られたことを知らされたリオンは、懸命に抵抗した。


だが、リオン目掛けて一斉に向けられた槍の先は、収まる気配がない。

それでも、リオンはさらに言葉を重ねる。

俺たちは、このエクアニアをオメガピースの脅威から守るために、いざというときに戦うはずだろ!

そうじゃないのかよ!

元の世界では、友人たちの間柄とは言え、騎士団長の立場だったリオンは、力強く言った。それでも、城の入口を塞ぐ何十人もの兵士は言うことを聞かない。


そして、リオンがさらに口を開こうとしたとき、リオンにとっては見覚えのある一人の女性が、ゆっくりとした足取りで城から姿を見せた。

いい加減にしなさい。

現実に抵抗することしかできない、リオン王子。

モノクロのソフィア……!

どうしてこんなところに現れるんだよ!

それは、物語の最終段階に入ったから。


さぁ、王子。ここで武器を捨てなさい。

そうすれば、あなたはエクアニアの王になり、この物語を最高の形で終わらせることができるわ。

嫌だ!


俺は、そんなエンディングなんか望んでない!

だいいち、トライブはまだ生きてる!

本当?


あの高さから落とされて、死なない方がおかしいじゃない。

もし生きてる姿を見たとしても、叩きつけられたショックで心臓が止まる前だったに過ぎないと思う。

モノクロのソフィアは、自信に満ちた声でリオンに告げた。

リオンの左右に立つ二人のアリスも、何一つ言葉を発することができず、モノクロのソフィアを睨み付けたままのリオンを、じっと見つめている。


数秒の沈黙が訪れ、そしてリオンがそれを破った。

俺は……、たしかに物語に動かされるだけの存在だ。

けれど、物語をずっと支え続けている。

支え続けているからこそ、この物語と戦い続けるトライブが、常にその中心にいるんだ。

いいこと言うわね。


でも、もうこの物語は終わるの。

私の手で描いた通り、トライブが死ぬ形で。

それがリオンの進むべき方向だって、考えればすぐ分かることじゃない。

絶対に従わないからな。


戻ろう。一旦、作戦を考える。

そう言って、リオンは体の向きを素早く変え、首を何度か左右に振って、二人のアリスを手招きしつつ、元来た道を歩き出した。

「オメガピース」に乗っ取られた城兵たちは、追ってこなかった。



そして、城兵たちの声が全く聞こえなくなったあたりまでやって来ると、トランポリンの上で倒れているトライブの姿が目に入った。

最悪の展開だよ、トライブ。
何が……、最悪なのよ……。

この城が、オメガピースに乗っ取られた。

城兵172人が、モノクロのソフィアに従って、オメガピースの出城にしようとしている。

私が負けた後、転送装置を使って一気に乗っ取りに来たわけね。

たぶん、俺たちの知らない間に中に入ったんだろうな。


それと、トライブ。もう一つ、モノクロのソフィアが気になることを言ってた。

さらに悪い知らせ?

トライブにとってはね。


シナリオマスター、既にトライブが死んだと思って、この物語をエンディングにしようとしているらしい。

俺たち以外の登場人物は、もうエクアニアにトライブはいないと思っているのかも知れない。

リオンが、そう言いながら徐々に下を向いていく。

その暗い雰囲気を打ち破るように、トライブは力強く言った。

私は……、まだ死にたくなんかないわよ……。

たとえ、この物語の運命がそうだとしても。

さすが、女王ですね!

いつも以上に言葉が強いです。

ありがとう。


私は、まだ戦えるわ。

その時だった。

トライブの目に、激しく震え上がるリオンの右手が映った。


リオンがその手を、ポケットの中に入れようか入れまいか悩んでいる。

トライブ……。


やっぱり運命を、変えたいんだよな……。

当然じゃない。

物語の終わる条件がこれじゃ、私だって嫌になるわよ。

だよな……。



トライブ。


今まで、ずっと黙ってたんだ……。

いざとなれば、物語の運命を変えることができるかも知れないアイテムを……、俺は持っている。

アイテム……?
ほら……、これだよ。

リオンは、その言葉と同時に、ポケットの中に右手を入れ、トライブに見せようとしていたものを勢いよく取り出した。


白く輝くクリスタルの剣。

運命を変えることのできる、リライト・ブレードの欠片だった。

これ、何……?

リライト・ブレードという、運命を変えられる剣。

俺がオメガピースに転送されたとき、これを渡されたんだ。

これで……、剣……?


どう見ても、真っ二つに割れた剣にしか見えないわ。

問題は、そこなんだよ。

もう半分は、この世界のトライブが持っている。


正確に言うと、ミッションをクリアできたら、リライト・ブレードの残り半分を持つというのかな。

その二つが揃わないと、リライト・ブレードがその力を発揮できないんだ。

つまり、リオンとモノクロの私が持っている、二つの欠片を合わせると運命を変えられるわけね。

そういうこと。


なぁ、トライブ。

この恐ろしい物語、全ての運命を変えて終わりにしてみたい、って思わない?

リオンが、トライブに軽く頭を下げながら言う。


だが、トライブは少しも考えることなく、首を横に振った。

それで物語が終えられるなら、この物語はものすごくつまらない終わり方をするじゃない。


そんなの使わなくても、アッシュ・デストラを倒しさえすれば、この物語は最高の形で終えられると思う。

「灰の神」に負けても、まだそんなこと言ってられるのかよ……。


分かった。

今のところ、その話はなかったことにしよう。

いつも強気のトライブに、そんなことを口にした俺の方が悪かった。

そう言うと、リオンはリライト・ブレードを再びポケットにしまった。

トライブの目の前で輝いていた白い光も、再びポケットの中に閉じ込められる。


だが、リオンの手がポケットから離れた途端、トライブはやや下を向いてリオンに告げた。

私は、リライト・ブレードの力を完全に無視してるわけじゃないわ。

みんなの言う、物語を終わらせる条件が確かなら、最後はリライト・ブレードでそれを変えなきゃいけなくなると思う。


でも、それを使うには、まだ早いと思う。

使ってもいいときが、必ず来るはずよ。

トライブは、そこまで言った瞬間、思わず息を飲み込んだ。

リオンの背後に、この世界でトライブが何度となく見てきた、緑色の光が輝いていたのだ。

もしかして、後ろが転送装置?
そうよ。

そう言うと、トライブはトランポリンの上で体を起こす。

そして、少しずつはっきりと現れてくる転送装置をじっと見つめた。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

トライブ・ランスロット


25歳/17代目ソードマスター

男性の剣豪をも次々と圧倒する女剣士。軍事組織「オメガピース」では、女性初のソードマスター。相手が隙を見せたときに力を爆発させるパワーコントロールと、諦めを許さない熱いハートで強敵に立ち向かう。その強さに、「クィーン・オブ・ソード」と称されるほど。

ソフィア・エリクール


25歳

女剣士。トライブの最大の親友で、最大のライバル。ソードマスターになるため、実力で上回るトライブに常に対抗心を燃やす。富豪の令嬢で、クラシックをはじめとした音楽が好き。

リオン・フォクサー


21歳/9代目ソードマスター

地元ルーファスで自ら率いる自警団「青い旗の騎士団」で活躍し、「オメガピース」でもソードマスターの座をつかみ取る。力でグイグイ押していくパワー型の剣士。ソードマスターの時に謎の失踪を遂げた、とされているようだが……。

アリス・ガーデンス


15歳

「オメガピース」ではトライブのルームメイトで、銃使い兼魔術師。お菓子ばかり食べ、何かとお騒がせなことをやってしまうドジっ娘。

アッシュ・ミッドフィル


23歳/ライフルマスター

冷静な判断力と圧倒的な銃の腕を持つ、絶対の銃使い。自らの誤射で家族と家を失い、モンスターの潜む森で1年間生き抜いた過去を持つ。トライブが送られたパラレルワールドのシナリオを作った張本人。

オルティス・ガルスタ


年齢不詳/20代目ソードマスター

「悪魔の闇」を打ち破った者は願い事を叶えることができる。その言い伝えに身を投じ、世界の支配者になろうとする邪悪なソードマスター。パワーやスピードは歴代ソードマスターの中で最高レベル。

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色