39 運命を変える力
文字数 2,643文字
城兵を、ほんのわずかな間で「オメガピース」に乗っ取られたことを知らされたリオンは、懸命に抵抗した。
だが、リオン目掛けて一斉に向けられた槍の先は、収まる気配がない。
それでも、リオンはさらに言葉を重ねる。
元の世界では、友人たちの間柄とは言え、騎士団長の立場だったリオンは、力強く言った。それでも、城の入口を塞ぐ何十人もの兵士は言うことを聞かない。
そして、リオンがさらに口を開こうとしたとき、リオンにとっては見覚えのある一人の女性が、ゆっくりとした足取りで城から姿を見せた。
モノクロのソフィアは、自信に満ちた声でリオンに告げた。
リオンの左右に立つ二人のアリスも、何一つ言葉を発することができず、モノクロのソフィアを睨み付けたままのリオンを、じっと見つめている。
数秒の沈黙が訪れ、そしてリオンがそれを破った。
そう言って、リオンは体の向きを素早く変え、首を何度か左右に振って、二人のアリスを手招きしつつ、元来た道を歩き出した。
「オメガピース」に乗っ取られた城兵たちは、追ってこなかった。
そして、城兵たちの声が全く聞こえなくなったあたりまでやって来ると、トランポリンの上で倒れているトライブの姿が目に入った。
トライブにとってはね。
シナリオマスター、既にトライブが死んだと思って、この物語をエンディングにしようとしているらしい。
俺たち以外の登場人物は、もうエクアニアにトライブはいないと思っているのかも知れない。
リオンが、そう言いながら徐々に下を向いていく。
その暗い雰囲気を打ち破るように、トライブは力強く言った。
その時だった。
トライブの目に、激しく震え上がるリオンの右手が映った。
リオンがその手を、ポケットの中に入れようか入れまいか悩んでいる。
リオンは、その言葉と同時に、ポケットの中に右手を入れ、トライブに見せようとしていたものを勢いよく取り出した。
白く輝くクリスタルの剣。
運命を変えることのできる、リライト・ブレードの欠片だった。
問題は、そこなんだよ。
もう半分は、この世界のトライブが持っている。
正確に言うと、ミッションをクリアできたら、リライト・ブレードの残り半分を持つというのかな。
その二つが揃わないと、リライト・ブレードがその力を発揮できないんだ。
リオンが、トライブに軽く頭を下げながら言う。
だが、トライブは少しも考えることなく、首を横に振った。
そう言うと、リオンはリライト・ブレードを再びポケットにしまった。
トライブの目の前で輝いていた白い光も、再びポケットの中に閉じ込められる。
だが、リオンの手がポケットから離れた途端、トライブはやや下を向いてリオンに告げた。
私は、リライト・ブレードの力を完全に無視してるわけじゃないわ。
みんなの言う、物語を終わらせる条件が確かなら、最後はリライト・ブレードでそれを変えなきゃいけなくなると思う。
でも、それを使うには、まだ早いと思う。
使ってもいいときが、必ず来るはずよ。
トライブは、そこまで言った瞬間、思わず息を飲み込んだ。
リオンの背後に、この世界でトライブが何度となく見てきた、緑色の光が輝いていたのだ。
そう言うと、トライブはトランポリンの上で体を起こす。
そして、少しずつはっきりと現れてくる転送装置をじっと見つめた。