29 剣士アッシュがレベルアップして現れた

文字数 2,518文字

トライブは、転送装置から放たれた緑色の光に目をやった。

中から現れたのは、スラッとした体格の青年だった。


その青年が誰であるかを特定するより前に、一瞬だけアッシュが軽く舌打ちするのが、トライブの耳に聞こえた。

また現れたようだな。俺が。

モノクロのほう?

それとも……?

トライブ。それって灰の神?

そうリオンが尋ねる間に、転送装置に映るシルエットが少しずつくっきりとしてきた。緑色の光の奥からは、灰色の手足が覗かせていた。

モノクロのほうね……。

ここで現れるということは、今度こそバトルに決着をつける時かしら。

やがて、モノクロのアッシュの右足が、ゆっくりと転送装置を出た。

剣先を斜め下に向けて、トライブたちに近づいていく。

このエクアニア城に裏切り者がいる。

裏切り者?誰よ。
お前のことだ、リオン。

俺が裏切り者だって?

冗談じゃない!

お前はオメガピースの城までやってきて、シナリオをソフィアから伝えられた。

王になるには、そこの女王を倒さなければならない。そう言われていたはずだ。

それは分かっていたさ。


でも、俺の手で物語を変えることなんて、できっこない。

これはトライブの物語だし、トライブが運命を変えたいと言ってる以上、俺はそれに付いて行くしかないんだ。

リオンの言う通りよ。

シナリオマスターの目論見通りにはさせないわ。

うるさい。

そんな裏切り者は、シナリオから消すまでだ。

モノクロのアッシュの目が、突き刺さるようにリオンに向けられる。モノクロのアリスも、今度はシナリオを邪魔せずに、ストーリーの行方を追っている。


トライブは、思わず息を飲み込んだ。

ま、まさか俺と戦うんじゃないだろうな。

言うまでもない。

ここは、俺とお前の1対1での対決だ。

モノクロのアッシュが剣先をリオンに向けると、リオンもライトニングセイバーを相手に向ける。

王室の中は、もはやバトル開始前夜の様相を呈してきた。

さぁ、受けてみるがよい。

レベルアップした俺の実力をな。

臨むところだ!

そう言い終わるが早いか、リオンの足がモノクロのアッシュに向けて一歩を踏み出し、ライトニングセイバーの高さを徐々に上げながら駆ける。


だが、モノクロのアッシュは動じない。

迫り来るリオンの剣を受けるかのように、剣を真横にして、同じような高さでリオンを待つのだった。

お前の動きは、全てお見通しだ!
おおおおっ!

リオンは、手に持つライトニングセイバーをアッシュの剣目掛けて勢いよく振り下ろす。


だが、それを待っていたかのように、モノクロのアッシュも剣を勢いよく振り上げ、食い止めに入る。

リオンの耳と手ではっきりと感じるような、激しい金切り音。ライトニングセイバーの重心を捕えたアッシュの剣の勢いが、じわじわとリオンの右手に伝わる。

くっ……、押し返される……。

リオンは、相手の剣から逃れようと、ライトニングセイバーを軽く引こうとした。

だが、モノクロのアッシュは攻撃の手を緩めない。軽く反らしたリオンの剣をすぐさま叩きつけ、ライトニングセイバーの剣先を一気に傾けた。


さすがのリオンも、ここは後ろにジャンプし、モノクロのアッシュからわずかの時間逃れることしかできない。

レベルアップした俺の力は、これからが本番だ!

そうはさせない!


……スパークリングフラッシュ!

リオンは、ライトニングセイバーを力強く握りしめ、剣を目映いオーラに包み込む。そして、右足を力強く踏み込み、再びモノクロのアッシュに立ち向かった。

ほぼ同時に、モノクロのアッシュもリオンの真っ正面から接近し、その剣をやや上方に傾けた。


力と力が、肩の上あたりでぶつかろうとしている。その瞬間、両者とも激しいパワーで相手の剣を叩きつけた。

グラビティ・フリーフォール!
とりゃっ!

次の瞬間、リオンの手に感じたのは、激しい痛みだった。

白く輝くライトニングセイバーの破壊力をはるかに上回るような強い一撃が、リオンの体中を駆けていく。

気が付くと、リオンの剣が上から重心をがっしりと押さえつけられ、相手の剣をパワーで突き上げることが難しくなっていた。


そこに、モノクロのアッシュのとどめの一撃が、ライトニングセイバーに振りかざされた。

裏切り者は、こうなるまでだ!
ぐ……っ!

モノクロのアッシュの一撃が、ライトニングセイバーの剣先を一気に地面にまで叩きつけ、すぐさまリオンの右肩を鋭く叩きつけた。

右肩の激しい痛みに襲われたリオンは、思わず左手で肩を押さえつける。これ以上、剣を持つ力を生み出せない。そこに、モノクロのアッシュのアッシュがリオンの左肩を切り刻んだ。


レベルアップした剣士アッシュが見せつける、圧倒的な力の差。

輝きとパワーを失ったライトニングセイバーが、王室の床に音を立てて落ちた。

……っ!

剣を失ったリオンは、痛みをこらえるように床へと崩れ落ちた。

両側を切り裂かれたマントのかけらが、彼の背中で力なくなびいた。

そして、モノクロのアッシュの持つ剣の鋭さを、リオンは目の当たりにした。

勝負はついた。


どうだ、リオン。死にたいか。

死にたく……ないっ!

そうか。


なら、永遠に続く苦しみを受けるがいい。

そう言うと、モノクロのアッシュはリオンの左肩に再び剣を突き刺そうと、手にした剣を勢いよく振り下ろした。


その時、女王の足が本能的に動き出した。

やめなさい!

トライブ……!

お前の出る幕ではない!

リオンは、私が守らなきゃいけないのよ!

エクアニアの女王として……、この勝負の敵を討たなきゃいけないの!

くだらん。

揃いも揃って、シナリオマスターの構想をぶち壊そうとしている。


なら、お前こそ容赦はしない。

お前が負ければ、即この話が終わるようにしてやる。

モノクロのアッシュは、リオンから剣を引き、先程リオンの両肩を鋭く刻んだその剣先をトライブに向ける。やや遅れるようにして、トライブもアルフェイオスをアッシュの目にまっすぐに向けた。


その目と、その剣先が、ともに一直線に相手を向けられた。

ソードマスター……、頑張ってください……。

こんな酷いことをするライフルマスターを……、早く元の彼に戻して欲しいんです。

分かったわ。


アッシュ。勝負ね。

あぁ。
そう言った直後、トライブとモノクロのアッシュの足が、同時に相手に向けて踏み出した。
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登場人物紹介

トライブ・ランスロット


25歳/17代目ソードマスター

男性の剣豪をも次々と圧倒する女剣士。軍事組織「オメガピース」では、女性初のソードマスター。相手が隙を見せたときに力を爆発させるパワーコントロールと、諦めを許さない熱いハートで強敵に立ち向かう。その強さに、「クィーン・オブ・ソード」と称されるほど。

ソフィア・エリクール


25歳

女剣士。トライブの最大の親友で、最大のライバル。ソードマスターになるため、実力で上回るトライブに常に対抗心を燃やす。富豪の令嬢で、クラシックをはじめとした音楽が好き。

リオン・フォクサー


21歳/9代目ソードマスター

地元ルーファスで自ら率いる自警団「青い旗の騎士団」で活躍し、「オメガピース」でもソードマスターの座をつかみ取る。力でグイグイ押していくパワー型の剣士。ソードマスターの時に謎の失踪を遂げた、とされているようだが……。

アリス・ガーデンス


15歳

「オメガピース」ではトライブのルームメイトで、銃使い兼魔術師。お菓子ばかり食べ、何かとお騒がせなことをやってしまうドジっ娘。

アッシュ・ミッドフィル


23歳/ライフルマスター

冷静な判断力と圧倒的な銃の腕を持つ、絶対の銃使い。自らの誤射で家族と家を失い、モンスターの潜む森で1年間生き抜いた過去を持つ。トライブが送られたパラレルワールドのシナリオを作った張本人。

オルティス・ガルスタ


年齢不詳/20代目ソードマスター

「悪魔の闇」を打ち破った者は願い事を叶えることができる。その言い伝えに身を投じ、世界の支配者になろうとする邪悪なソードマスター。パワーやスピードは歴代ソードマスターの中で最高レベル。

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