29 剣士アッシュがレベルアップして現れた
文字数 2,518文字
トライブは、転送装置から放たれた緑色の光に目をやった。
中から現れたのは、スラッとした体格の青年だった。
その青年が誰であるかを特定するより前に、一瞬だけアッシュが軽く舌打ちするのが、トライブの耳に聞こえた。
そうリオンが尋ねる間に、転送装置に映るシルエットが少しずつくっきりとしてきた。緑色の光の奥からは、灰色の手足が覗かせていた。
やがて、モノクロのアッシュの右足が、ゆっくりと転送装置を出た。
剣先を斜め下に向けて、トライブたちに近づいていく。
モノクロのアッシュの目が、突き刺さるようにリオンに向けられる。モノクロのアリスも、今度はシナリオを邪魔せずに、ストーリーの行方を追っている。
トライブは、思わず息を飲み込んだ。
モノクロのアッシュが剣先をリオンに向けると、リオンもライトニングセイバーを相手に向ける。
王室の中は、もはやバトル開始前夜の様相を呈してきた。
そう言い終わるが早いか、リオンの足がモノクロのアッシュに向けて一歩を踏み出し、ライトニングセイバーの高さを徐々に上げながら駆ける。
だが、モノクロのアッシュは動じない。
迫り来るリオンの剣を受けるかのように、剣を真横にして、同じような高さでリオンを待つのだった。
リオンは、手に持つライトニングセイバーをアッシュの剣目掛けて勢いよく振り下ろす。
だが、それを待っていたかのように、モノクロのアッシュも剣を勢いよく振り上げ、食い止めに入る。
リオンの耳と手ではっきりと感じるような、激しい金切り音。ライトニングセイバーの重心を捕えたアッシュの剣の勢いが、じわじわとリオンの右手に伝わる。
リオンは、相手の剣から逃れようと、ライトニングセイバーを軽く引こうとした。
だが、モノクロのアッシュは攻撃の手を緩めない。軽く反らしたリオンの剣をすぐさま叩きつけ、ライトニングセイバーの剣先を一気に傾けた。
さすがのリオンも、ここは後ろにジャンプし、モノクロのアッシュからわずかの時間逃れることしかできない。
リオンは、ライトニングセイバーを力強く握りしめ、剣を目映いオーラに包み込む。そして、右足を力強く踏み込み、再びモノクロのアッシュに立ち向かった。
ほぼ同時に、モノクロのアッシュもリオンの真っ正面から接近し、その剣をやや上方に傾けた。
力と力が、肩の上あたりでぶつかろうとしている。その瞬間、両者とも激しいパワーで相手の剣を叩きつけた。
次の瞬間、リオンの手に感じたのは、激しい痛みだった。
白く輝くライトニングセイバーの破壊力をはるかに上回るような強い一撃が、リオンの体中を駆けていく。
気が付くと、リオンの剣が上から重心をがっしりと押さえつけられ、相手の剣をパワーで突き上げることが難しくなっていた。
そこに、モノクロのアッシュのとどめの一撃が、ライトニングセイバーに振りかざされた。
モノクロのアッシュの一撃が、ライトニングセイバーの剣先を一気に地面にまで叩きつけ、すぐさまリオンの右肩を鋭く叩きつけた。
右肩の激しい痛みに襲われたリオンは、思わず左手で肩を押さえつける。これ以上、剣を持つ力を生み出せない。そこに、モノクロのアッシュのアッシュがリオンの左肩を切り刻んだ。
レベルアップした剣士アッシュが見せつける、圧倒的な力の差。
輝きとパワーを失ったライトニングセイバーが、王室の床に音を立てて落ちた。
剣を失ったリオンは、痛みをこらえるように床へと崩れ落ちた。
両側を切り裂かれたマントのかけらが、彼の背中で力なくなびいた。
そして、モノクロのアッシュの持つ剣の鋭さを、リオンは目の当たりにした。
そう言うと、モノクロのアッシュはリオンの左肩に再び剣を突き刺そうと、手にした剣を勢いよく振り下ろした。
その時、女王の足が本能的に動き出した。
モノクロのアッシュは、リオンから剣を引き、先程リオンの両肩を鋭く刻んだその剣先をトライブに向ける。やや遅れるようにして、トライブもアルフェイオスをアッシュの目にまっすぐに向けた。
その目と、その剣先が、ともに一直線に相手を向けられた。